あれは確か高二の夏祭りの夜のことだっけ…?
家の外で天高く打ち上げられる花火を背景に乙女さんと初めて唇を重ねたのは。
お互い初めてのキスだったので、あの時の感触は今でも忘れがたい。
乙女さんも、トロンとした目で「甘い」と言ってくれた。
まさかファーストキスの相手が、子供の頃散々に虐げられたあの乙女さんになろうとは、夢にも思ってなかった。
おそらく乙女さんの方も同じ思いだろう。

それから俺たちは付き合い出した。
ひとつ屋根の下に暮らす従兄弟同士のカップルということで、当初は周囲の目も気になったりはしたが、
別に法律上では何の違反もないし、すぐにそんなことはどうでもよくなった。


そして、俺たちは深い関係を持つようになった。
俺は何度も乙女さんの身体を求めた。
乙女さんも俺の気持ちを素直に受け止めてくれた。
が、乙女さんは俺との直接的な繋がりを感じていたいのか、避妊することは一度もなかった。
結果的に乙女さんは妊娠し、生徒会での風紀委員長という役職の立場上、退学せざるを得なくなった。
俺も責任を取る形で学園を辞めた。

その後、俺と乙女さんは正式に夫婦となりふたりの新婚生活が始まった。
俺は姫からのコネで、霧夜グループの末端の子会社に勤めるようになり、
乙女さんは毎日疲れ果てて帰ってくる俺に少しでも栄養をつけようと思ってか、
苦手な料理に悪戦苦闘している。


月日は流れ、乙女さんのお腹もだいぶ大きくなってきた。
学園から去っても、結婚しても、俺の家は蟹とスバルとフカヒレの溜まり場だ。
俺たち四人の友情は決して崩れたりはしない。
蟹なんかは乙女さんのお腹をさすっては嬉しそうな表情をするし、
スバルも身重の乙女さんを気遣ってか、家事を手伝ってくれる頻度も増えた。
フカヒレは――まぁ、いいか。

そして、いよいよ乙女さんが病院に入る日が来た。
俺と乙女さんの子供か…。
…俺が父親? なんか笑っちゃうな。
でも、きっと溺愛するんだろうな。なんだかんだいって。
「レオ」
ベッドに寄り添う形で見守る俺に向かって乙女さんが言った。
結婚しても未だに彼女は俺のことを名前で呼ぶ。
そして、俺は彼女のことを「乙女さん」と呼んでいる。
傍目からしたら完全に尻に敷かれていると思われるかもしれないけど、今はこの関係のままでいい。
子供が産まれたら、互いの呼び方を考えなきゃな、と乙女さんは言ってるけど、どうなることやら…。
「子供の名前を考えてみたんだ。よかったら聞いてくれないか?」
「ん、いいよ」
そう言うと乙女さんは枕の下に手を潜り込ませ、そこから一冊の小さな手帳を取り出した。
ああ、言い忘れてたけど、産まれて来る子供は男の子だ。


「じゃあいくぞ、乙太郎」
……。
「ん、ダメか? なら、乙吉」
……あ、あのー。
「どうした? なぜ何も言わない」
「乙女さん、ちょっとそれ見せて?」
「て、照れくさいが…いいぞ」
顔を背けながらも俺にサッと手帳を差し出す乙女さん。
そこには俺と彼女の愛の結晶に付ける、名前(?)…らしきものが延々と書き綴られていた。
「乙平? 『おつへい』て読むの、コレ…?」
「おお、なかなか見る目があるな! それは自信作だぞ!」
…いや、名前に自信作という表現はいかがなものかと。


「乙次、乙男、乙彦、乙兵衛…」
乙女さんは読み上げるたびにうんうんと頷いている。
いやいや、こんな名前付けられたら産まれて来る子供が可哀想だ。
絶対いじめられるに決まってる。
ここは心を鬼にしてきちんと聞かないといけない。
「てか、何で全部『乙』の字が入ってるの?」
俺の質問に最初はキョトンとした様子だったが、すぐに意を介した乙女さん。
「私の子供だからな」
……。
………。
…………。
「いや、俺と乙女さんの子供でしょ?」
その間、およそ90秒弱。俺のツッコミのスキルは最下層だな。
やれやれ、俺たちの家庭の未来はいったいどうなるんでしょ…?


(作者・名無しさん[2005/11/21])

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