キリヤコーポレーションを乗っ取ってから早一年。
側近にレオ。秘書によっぴー。ボディーガードに乙女先輩。トップは私、と揺るぎない顔ぶれで
順調に世界を手に入れるために躍進していた。

そんなある日、よっぴーが私に向かって手を合わせてきた。

「ねえ、エリー。お願いがあるの」

キリヤコーポレーションのビル最上階にある会長室。
私が心を許す人たちしか足を踏み入れる事ができない部屋で、よっぴーが私に対して突然のお願い。
普段、というかほとんど私に対して願い事なんかしたことなかったから、ちょっと新鮮だった。

ちなみにレオは少し離れた所で書類の整理をしている。
遠目から見るレオの横顔は、昔と比べてずいぶんと凛々しい。男らしくなった。カッコよくなったとも言うのかな。
……む。自分で思っておいて、少し悔しくなった。誇らしくもあるけれど。


ボディーガードの乙女先輩はレオを手伝っている。

一応仕事は私の警護なんだから、別にレオの事を手伝わなくてもいいと思うんだけれど、
これは乙女先輩の性分だと割り切る。
……その光景はとても自然で、仲のよい姉弟という感じでほほえましいんだけれど、
ほんの少しだけ心がモヤモヤとする。
私ではああいう雰囲気は出せないだろうな、というか。
レオと乙女さんは一緒にいるのが妙にしっくりくる……というか。

「なに、よっぴー? 私に胸を揉まれたくなった?」
二人から目をそらすようによっぴーの胸を揉む。
もみもみ。相変わらずいい手触り。今日も満点ね。
「やんっ。エリー、そうじゃないよぅ」
一応拒否の姿勢は見せるけど、断り切らないのがよっぴーのよっぴーたるゆえんよね。
しっかりと感じて頬を染めているし。

「え〜、つまんないなぁ。じゃあ何なのよ?」
「拗ねないでよぅ。それは今度でいいから」
……いいんだ? よっぴーから許可を得られるなんてまたちょっと新鮮。
じゃあ、その今度にたっぷりと揉みしだこう。


「……で、お願いって何?」
「う〜ん……それなんだけど……二人きりでいいかな?」
よっぴーがそっと目配せする。
その前にちらりとレオを見たのは気のせい……だろうか。
「いいわ。レオ。乙女先輩。ちょっと行ってくるから」
側近、ボディーガードとして後を付いてこようとするレオと乙女先輩を手で制する。

「外へ出かけてくるわけじゃないんだから、大げさよ。
行ってくると言っても、部屋のすぐ側には居るから」
「うん。ちょっとエリーを借りるからね、対馬君」
よっぴーのその表現に少し頬を染めるレオ。純情というか照れ性というか。
いちいちそんなので反応するのもどうかと思うのよね。……私も同じだけど。

会長室から出てすぐの廊下。
ここなら普段はどんな役員でも来ることはないし、レオたちのいる部屋からも近い。
そして会長室は壁が分厚いので話を聞かれる心配もない。
聞き耳を立てるような事はきまじめな乙女先輩が阻止するだろうし。

……でも、レオと乙女先輩は今部屋に二人きりなのか。
レオの事は信じているし、乙女先輩が血迷う事もないと思っているのだけど、
どうも割り切れないものが残る。
自分の魅力には確信を持っている。レオとの結びつきの強さも。
だけど、100%中1%ほど――0.1%かもしれない――ほんの僅か、心にしこりが残る。
改めて思う。私って寂しがり屋だ。今夜は私がレオを求めよう。


「それで、どうしたの?
いきなり私にお願いだなんて」
この場にはよっぴーと私以外誰もいない。
盗聴にも気をつけているし、ほとんど誰かに話を聞かれる心配はないだろう。
「……うん。あのね……」
よっぴーはもじもじとしながら言いづらそうに口ごもる。
ちょっといぢらしくてそそる姿だった。
「もう……私とよっぴーの仲じゃない。何でも言ってちょうだい」
「本当?」
「もちろんっ」
急にパッと表情が明るくなるよっぴー。すこ〜しだけ嫌な予感がしたけれど、無視する事にした。

「じゃあね……あの……その……




 つし……レオ君とエッチさせて欲しいの!」


「( д)゚ ゚」

嫌な予感は的中するものだと思い知った。


「駄目」
とりあえず即答。
「お願い!一回だけでいいから!一生のお願いだから!」
手をすり合わせて懇願するよっぴー。そんな親友の姿を見たら心が動いてしまいそうだけど。
「駄目!絶対駄目!こればっかりはよっぴーでも駄目!」
「何でも言ってちょうだい、って言ったのに……」
う。ダークよっぴーになりかけている。しかも純黒。目つき悪すぎ。
「何でも言って、とは言ったけど、叶えるとは一言も言ってないわ」
こんなこと初めてよっぴーに言うかも。あまり言いたくなかったけど。

「…すから。レオ君と………させてくれないと、…すから……」
あらぬ方向を見ながらつぶやくよっぴー。
今まで見てきた中で一番黒いよっぴーだった。まさにダーク!って所ね。
「あのね。レオは体も心も私のものなの!っていうか、よっぴーまだレオの事諦めてなかったんだ」
「そんなに簡単に忘れられないよ」
今思えば、よっぴーはある意味壮大な振られかたしたのよね…。
その負い目を考えると一回くらい……と考えてしまうんだけれど、
心の根っこの部分で拒否してしまう。

もしもそれが切っ掛けでよっぴーになびいてしまったらどうしよう、と。ありえない話だけど。
…たぶん。

私って寂しがり屋で、独占欲が強いのね。再確認。


「一応聞いておくけど、何で急にそんな事を言い出したの?」
「だって……最近のエリーとレオ君、身近な人たちだけになると二人だけの世界に入っちゃうというか…
…凄くベタベタしだすから、まだレオ君が好きなこっちとしては生殺し状態なんだもん……。
 こっちは”アレ”があるから、もう毎日大変なんだよ?」
”アレ”……性欲過多の事ね。確かにあんまりよっぴーの事を考えずにレオとくっついていた。
無神経……って事になるのかな。でもあまり人に気兼ねするようなものでもないと思うし。う〜ん…
「それについては……ちょっとは悪いと思っているわよ。
でも、それとこれとは話が違うと思わない?」
ちゃっかりと呼び方を”レオ君”で固定しようとしているし……
そこはかとなく黒さを醸し出している。
「そうかな?」
「そうよ!」
よっぴーはさりげなく自分に有利な方向へ持って行こうとするから油断できないわ。

「よっぴーには悪いけど……レオは渡せない。
たとえ一回だけでもね。もちろん、よっぴーは私にとって大事な人よ?レオと同じくらい。だけど……」
「……ううん。もういいよ、エリー。もう、わかったから。ごめんね、変な事言って」
どうやらよっぴーはわかってくれたみたいだった。
(事後承諾とか既成事実とか、いろいろ手段はあるから……)

……ぞくり、と背筋が寒くなった。
「よっぴー、今何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ?」
振り向けばいつも通りのよっぴーだった。……表面上は。 
嫌な予感がしたけれど、私は無視して心の奥に飲み込む事にした。
よっぴーは私の親友だし、信じているから。


それから一週間後。

レオの元気がない。何だか萎れている。一言で言えば、精力がない。
昨夜も何だか今ひとつだったし。気持ちよかったのは確かなんだけど、
前みたいな若々しさがない……というか。って何思ってるのかしら、私。
そして、何だか妙によそよそしいのよねえ……。何だかばつが悪いというか、悲しそうというか。

逆によっぴーは生き生きとしている。肌もつやつやして綺麗だし。
一週間前の陰鬱な顔が嘘みたいだった。
レオとよっぴーの顔を見比べる。
まさかとは思うけど……。うん、まさかね。
レオは私の恋人だし、よっぴーは私の親友。二人とも信じているし。
嫌な予感は飲み込んだ。これで三回目。
嫌な予感は的中してしまうものだと前に学んだはずだったのに。

後悔するのはもう少し先の話だ。どういう後悔かはまだ知るよしもないのだけど。


蛇足

それからまた数日後。
乙女先輩が神妙な顔つきで私に話しかけてきた。
「姫、ちょっと話があるんだが……いいか?」
乙女先輩が、ちらりとレオの事を見る。


……凄く、嫌な予感がした。


終われ


(作者・AKI氏[2005/11/21])

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