「ふんっ!・・・・はっ!」
一人の男が道場で練習をしていた。
男の名前は村田洋平、どこでもいる普通の高校生だ。
彼は一心不乱に練習をしている、なぜなら彼の先輩に当たる鉄乙女に少しでも近づきたいからだ。
彼女は非常に強くて美しく、成績優秀で正に模範的な学生であった。
洋平はそんな彼女に認めて欲しかった。
「はっ!・・・ふっ!・・・。」
道場の中からは彼の声以外何も聞こえてこない。そんな道場に近づいていく女の姿があった。
「よーへー・・・・どこにいるのかな・・・?」
女の名前は西崎紀子、村田のクラスメイトだ。
写真を撮るのが趣味で広報委員会に所属している。
クラスでも西崎は割と人気があった。しかし極度の口下手で喋るのが苦手ということもあって誰とも付き合ったことはなかった。
村田はそんな彼女によく面倒を見てやっている、彼にしてみれば妹の面倒見る延長線上に他ならなかった。
そんな彼に西崎は恋をしている。
しかし性格が災いして思いを伝えられないでいた。さらに彼女は村田が別の女性に気があるのを知っていた。


だから彼女は自分の面倒を見てくれだけで十分であり、それと同時にもどかしい気持ちでいっぱいだった。
「ここ・・・かな・・・?」
西崎は彼の所属する拳法部の道場の扉を開けた。
「ふっ!ふっ!・・・はっ!」
中では村田が一人熱心に練習をしている、西崎が来た事にも気が付かない位集中していた。
そして練習が一段落ついたときに西崎は話し掛けた。
「よーへー・・・・。」
その声のするほうに村田は顔を向けた。
「なんだ・・・西崎か。」
「よーへー・・・お疲れ様・・・・。」
そういって彼女はタオルを差し出した。
「ああ、すまんな。」
彼は座ってタオルで顔を拭いた。
「よーへー・・・・がんばってるね・・・・。」
「努力しないと強くなれないからな。」
「すごいね・・・・。」
「いや、乙女先輩に比べればまだまだだ。」
彼の口から“乙女”という単語が出たとき西崎は少し顔が曇った。自分の好きな男性から別の女性の名前が出るのはやはりつらかった。
村田はおもむろに立ち上がった。
「よーへー・・・まだ練習する・・・・?」
「いや、もう終わりにするところだ。」


「じゃあ・・・・一緒に・・・帰ろう・・・。」
「ああいいぞ、しかし今日は休日なのに何で学校に来ているんだ?」
「カメラを・・・忘れて・・取りに来てた・・・。」
「ははっ、西崎はそそっかしいなあ。」
「ごめんね・・・・。」
実際のところ西崎はカメラを忘れてはいなかった。
目的は村田に会いに行くことだった。でもそんなことは彼の前では絶対に言えなかった。
村田と西崎は学校を後にした。

「西崎、そろそろ昼だし飯でもたべないか?」
「うん・・・・食べる・・・。」
2人は学校近くの商店街を歩いていた。
「どこに行こうかな・・・。」
辺りを見たがめぼしいところは無かった。
「よーへー・・・・あそこ・・・・。」
西崎が指した方向にはカレー屋があった。
「オアシスか・・・・よしっ、あそこにしよう。」
「うん・・・・。」
2人は揃って店内に入った
「いらっしゃいませ〜〜〜」
店に入るとウェイトレスの蟹沢きぬだが出迎えてくれた。
「・・・ってなんだ、くーと村田かよ。」
彼女は村田と同じ学校に通ってる同級生である。


ただ蟹沢と村田のクラスは事あるごとに勝負をしている。
だから村田は蟹沢のことをあまり好きではない。
「別に構わないだろう。」
「まあな、所で今日はどうした?」
「どうしたもなにも俺達はただ飯を食に来ただけだ。」
「な〜んだデートじゃねーのかよ、つまんねーな。」
「な、なにを、い、言ってるんだ!」
「・・・・・・(顔が真っ赤になっている)。」
「冗談だよ冗談、しっかしおめー、耳まで真っ赤になってやんの。」
「う、うるさい!」
「照れんなよ、よーへーちゃん♪」
「名前で呼ぶな!それに・・・・。」
「それに?」
「彼女に失礼だろ、俺たちは単に飯を食べに来ただけなんだから。」
村田がそういったとき、西崎は顔がまた少し曇った。
「まあそういうことにしてやるよ、とりあえず席を案内してやる。」
「勘違いするなよ!」
「へーへー、こっちがメニューな、ではごゆっくりどうぞ♪」
「・・・・ったく。」
村田は不機嫌そうな顔になった。
西崎はさっき村田が言ったことを考えていた。
(よーへー・・・私のことは単なる友達って思っているのかなあ?)
「・・・今日はシーフードカレーのLにしようかな・・西崎は?」


「えっ?」
「何のメニューにするんだ?」
「あっ・・・えっと・・・。」
「慌てずにゆっくり考えてくれ。」
「うん・・・・。」
しばらくして蟹沢がやってきた。
「ご注文は何になさいますか?」
「シーフードカレーのL。」
「ベジタブルカレーの・・・・S。」
「はい、かしこまりましたぁ!」
蟹沢が厨房に行った時村田はボソッとつぶやいた。
「最初からそんな感じで接客しろよ・・・・。」
しばらくするとカレーが出てきた。2人はカレーを食べ始めた。
「うん、ここのカレーはおいしいな。」
「おいしいね・・・・・・。」
カレーを食べ終わり会計を済まして店をでようとした時、一組の男女が入ってきた。
「おお、村田じゃないか。」
「鉄先輩!・・・・となんだ対馬レオか。」
「なんだとはなんだ。」
「どうでもいいからなんだといったんだ。」
「こいつ・・・。」
対馬レオとは蟹沢きぬのクラスメイトである。当然の如く村田とは仲が悪い。
因みに鉄とは従兄弟に当り一緒に生活をしている。


とはいっても鉄が対馬の家に居候しているようなものだった。
「2人とも言い争いはよせ。」
「はい・・・。」
「でも乙女さん、こいつから突っかかって来たんですよ!」
「漢たる者そのくらいで怒ってどうする。」
「でも・・・。」
「みっとも無いぞレオ、帰ったら練習だ!」
「げっ・・・。」
「やーい乙女さんに怒られてやんの。」
「黙れカニ。」
「馬鹿め・・・。」
「くっ!覚えてろよ・・・・・。」
店頭で軽く口論をした後、村田と西崎は店を出ようとした。そのとき鉄が村田に声をかけた。
「そうだ、村田。」
「なんでしょうか?」
「確か今日は練習休みのはずだが学校に行ってたのか?」
「はい、少し自主トレをしようと思いまして。」
「そうか、がんばってるな。」
「ありがとうございます。」
「私もうかうかしてられんな。」
「いえいえ、鉄先輩には及びません。」
村田が鉄と話している姿は非常にまぶしかった。彼の顔からは尊敬と羨望の笑みがこぼれていた。


そしてその姿を見ると西崎はより一層気分が落ち込んでくるのであった。
「よーへー・・・・・行こ・・・。」
「おっともうこんな時間か、では鉄先輩失礼します。」
「ああ、また明日部活でな。」
その日の帰り道。
「今日は鉄先輩と会うことができて、よい1日となったなあ。」
「くー・・・・・・・。」
「どうした西崎暗い顔をして・・・何処か具合でも悪いのか?」
西崎は慌てて顔を取り繕った。
「そんなこと・・・ない・・・。」
「そうか?」
「うん・・・・へーき・・・・。」
「悩み事や相談事があるなら遠慮なく僕に言ってくれよ、力になるからな!」
「ありがとう・・・・・。」
「そうだ、笑顔が一番だ西崎。」
西崎は少し照れて顔をそむけた。
それにつられて村田も顔をそむけた。
(私の悩み・・・・よーへーには絶対相談できないなあ・・・・。)
2人は揃って帰路についた。


村田は部活に来ていた。そして一心不乱に練習をしている。
2時間ぐらい練習をすると鉄が終わりの号令をかけた
「みんな今日の練習は終わりだ。」
「はいっ!」
「では整列して・・・・礼!」
「ありがとうございました!!」
練習を終えた部員は道場を出ようとした。村田もロッカールームに着替えに行った。
そこで着替えようとしたとき携帯電話が鳴り出した。
「なんだ?・・・・メールか、えーと・・・。」
差出人は西崎だった。
『よーへー今日部活何時に終る?』
「もう終ったけど着替える時間があるから15分後に来てくれと打つか。」
彼がメールを打とうとした時同期の部員が声をかけてきた。
「村田、鉄部長がおまえのこと呼んでるぞ。」
「えっ?部長が?」
「ああ、すぐに来いだそうだ。なんかやらかしたのか?」
「そんな覚えは無いんだが・・・とりあえず行ってみるか、そうだメールの返信しないと・・・・。」
村田は“30分後に道場に来てくれ”とメールを送ってロッカールームを後にした。
「遅いぞ村田。」
「すいません、次からはもっと早く来ます。」
「まあそれはいい、おまえを呼んだのはな、ひとつ組み手をしようと思ってな。」
「ありがとうございます。」
そして2人は組み手を始めた。組み手そのものは10分間ほど続いた。
練習の後ではあったが真剣にやった。
そして組み手が終ったとき鉄は村田に話しかけた。
「腕を上げたようだな村田。」
「恐れ入ります。」
「これなら心配ないな。」
「といいますと?」


「いやな、おまえが西崎と付き合って腕が落ちているという噂を聞いてな。」
その瞬間村田は顔が真っ赤になった。
「だ、誰がそんな事を!」
「本当かどうか組み手をして試してみたんだ。」
「そんなことは絶対にありません!」
「私も今日やってみてそんなことはないと確信したよ。」
「そんなデタラメ一体誰が流したんだ・・・。」
「ああ、レオが教えてくれたんだ。」
「えっ?対馬のやつですか?」
「そうだ、しかし腕が落ちてはいないな、帰ったら訂正しておいてやろう。」
「あのやろう・・・・。」
村田はむっとした顔になった、そして続けてこう叫んだ
「鉄先輩この際言っておきますが西崎とは何の関係もありません!」
「そうなのか?」
「俺になついていますけどむしろこっちは迷惑しているんです!」
「本当か?」
「本当です!」
そう言った時村田は鉄の顔の変化に気がついた。
その顔は少し気まずそうな顔になっていた。
「・・・どうかしましたか鉄先輩?」
「いや・・・あれ・・・。」
そう言って鉄は村田の後ろを指した。
その方に村田も顔を向けた。
「えっ・・・・・・・?」
そこには西崎の姿があった。彼女は今にも泣きそうな顔をしている。
「よーへー・・・・・・。」
「西崎・・・なんでここに・・・?」
そのとき彼は自分が送ったメールを思い出した。
(もう少し待ち合わせ時間を遅くするべきだったな・・・。)
「よーへー・・・今の・・・・。」


「誤解だ西崎!今のは先輩に・・・・。」
「さっき言ったこと・・・・本当なの・・・・・?」
「い、いやそんなことはない!本当だ!」
「・・・・・・・よーへー。」
西崎はその場から走り去った。彼女の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
村田はすぐに追いかけようとした、しかし
「まて!」
鉄が彼を呼び止めた。
「なんですか先輩!すぐに西崎を追いかけないと!」
「追いかけてどうする!?」
「それは・・・・・。」
「たしか私には関係ないといった、しかし彼女の前では誤解といったな?」
「はい・・・・。」
「おまえの本当の気持ちはどっちなのだ?」
「それは・・・・・。」
村田は答えられなかった。
「気持ちを固めていない状態で西崎に会っても彼女を傷つけるだけだ。」
「・・・・・・・。」
「今は少し頭を冷やせ、それからでも遅くはない。」
「はい・・・・・。」
村田はその場にうずくまった。
「私はもう帰る、ここの戸締りは頼んだぞ。」
「はい・・・・。」
そう言って鉄は道場を後にした。
村田は正座をし、改めて彼女のことを考え始めた、しかし考えても上手い答えは出てこなかった。
(俺は西崎よりも鉄先輩が好き・・・だけれども・・。)
西崎の顔を見ると心がかき乱されるような感覚になった。
そこで個人に対する気持ちを考えてみることにした。
(鉄先輩には羨望や尊敬の気持ちが浮かんでくる・・・。)


次に西崎について考えてみた。
(彼女は・・・・なんだろう、あの悲しそうな顔を見たとき心が落ち着かない。それに嬉しそうな顔を見ると心の奥底が熱くなってくる・・・・。これはいったい・・・。)
村田は一所懸命になって西崎のことを考えた、そして
(こんなにも西崎について考えている俺がいる・・・・。)
そこまで考えてやっと答えが出たような気がした。
そうなると彼はいても立ってもいられなくなった、そしてすぐに学校を後にした。
その頃西崎は一人道を歩いていた。
いつもは足取りも軽く楽しそうに歩く彼女だったが今はその面影もない。
非常につらそうに歩いていた、いやつらかった。
(・・・そうだよね・・・・。)
西崎は今までの村田との行動を考えていた。
(私よーへーの気持ちを全然考えていなかった気がする・・・。)
前を仲良く歩いている男女を見るのがつらかった。
(私がいくらよーへーのこと好きでも、彼が私のほうに振り向いてくれなかったら意味ないもんね・・・・。)
西崎は立ち止まった、その目は涙で一杯だった。
(仕方ないよね・・・・だってよーへーは・・・・鉄先輩のことが・・・・。)
そして涙が溢れ出した。
「仕方・・・ないよね・・・。」
いつの間にかつぶやいていた。
西崎は悲しくてしかたなかった、そして自分自身を恨んだ。
どうしてこんな性格なのか、どうしてあの人みたいに振舞えないのか。
そしてこんな自分に情けない気持ちで一杯になった。
涙はとめどなく溢れて彼女の頬を濡らした。
そしてそんな彼女の気持ちを示すかのごとく雨が降り出した。
「仕方・・・ないね・・・・」
そして西崎はおぼつかない足取りでどこかに歩き始めた。
そんな彼女を見ているひとつの影があった。


村田は雨が降る町中を走っていた。
正確に言えば走りながら人を探していたのである。
「くそっ!・・・・何もこんな時に降らなくてもいいだろう!」
人を探すことはそれだけでも大変なのに雨がそれを余計に難しくさせていた、練習の後ということもあり、かなり疲れていた。
それでも彼は探すのをやめなかった。
あの後謝ろうと彼女に電話かけたが繋がらなかった。電源が切れているようである。
突然村田は不安になった。
「西崎・・・・どこにいるんだ・・・?」
しかしどこを探しても彼女に姿は見あたらなかった。
「一体どこにいるんだ・・・!!」
イラついてして大きな声をあげた。
周りの人が村田を奇異の目でみた。しかし本人はそんなことは気にもとめなかった。
「・・・少し休んで考えてみようか。」
近くにあったベンチに座った。
「しかし・・・どうも落ち着かない・・・。」
しかも冷静になればなるほど気持ちは沈んでいく。
(しかし・・・・西崎に会ってどう接したらいいんだ?)
それが落ち着かない原因だった。
自分の中で答えを見つけたがそれを上手く伝える方法が見つからなかった。
そのとき誰かが横に座った、彼は何気無く横を向いた。
「・・・・伊達!?」
「何やってんの、村田?」
その男は伊達スバルだった。
彼も蟹沢や対馬のクラスメイトであるが村田との仲はさほど悪くはなかった。
「別に・・何でもいいだろう・・・。」
村田はぶっきらぼうに答えた。
「早くその服を乾かさないと風邪引くよ。」
「そうだな・・・・。」
しかし彼は動こうとしなかった。


「・・・どうした?何か考え事か?」
「・・・まあな。」
「ふ〜ん・・・。」
伊達はそれっきり喋ろうとしなかった。
「・・・・ここで“何悩んでるんだ?”とか聞かないのか・・・・?」
「野暮なことは聞かない主義でね。」
「そうか・・・・。」
「・・・・・・。」
村田も黙り込んでしまった。
そしてわずかな時間がたったとき、おもむろに話し始めた。
「なあ伊達は女の接し方ってわかるか?」
「・・・・ある程度はな。」
「じゃあ好きだと思っている男に“おまえとは何も関係ない”といわれた女性に対してどう話かけたらいいか?」
「難しい質問だね〜。」
伊達はおどけたようにいった。
「相手が聞く耳を持ってくれれば上手くいくだろうな、しかし・・・・。」
「しかし?」
「一番大事なことは話しかける男の気持ちなんじゃあないかな?」
「なるほど・・・。」
「そういうことだよ村田。」
「いや俺ではなくて・・・。」
「隠すなよ、西崎となにかあったんだろ?」
村田は言葉に詰まった。
「見るからにおまえの気持ちは編もう固まってるみたいだ、だから単純にそれを言葉に出せばいいんだよ。」
「でも上手くできるか・・・。」
「そんなこと考える必要はないさ。へたくそでもいい、素直な気持ちを相手にぶつければどうにでもなる。」
そして続けて言った。


「それに大事なのは相手を思う真っ直ぐな気持ちだ。」
村田ははっとなった。
(伊達の言うとおりだ、俺は何でこんなことに気が付かなかったんだ。)
村田は目の前で霧が晴れたような気持ちになった。
ベンチから立ち上がってこういった。
「ありがとう!恩に着るぞ伊達!」
「気にするな、俺は何もしていないさ。」
その顔は何の迷いもない漢の顔だった。
「そういや西崎は公園の方に行ったみたいだぜ。」
「!、知っているのか!?」
「ああ、雨が降り出した頃見かけたんだ。傘も差さずに何してるんだろって思ってな。」
「すまない!」
村田は走り出した。
「やれやれ、レオといいあいつといい、世話の焼けるこった。」


西崎は一人公園にいた。
彼女は雨にぬれてずぶ濡れだった。しかしそんなことはどうでもよかった。
「よーへー・・・・・・。」
彼女は携帯電話を取り出した。
「あれ・・・・・?」
しかし画面は消えていた、どうやら雨に濡れて故障したようだ。
「いいや・・・・・。」
西崎は近くのベンチに座った。
雨の音がやけに大きく聞こえる。
「私・・・・・なにやってるんだろ・・・・。」
彼女はあの後当てもなくふらふらと街中を歩いていた。そしてこの公園にやってきたのである。
周りにはだれもいない。
西崎は世界に自分だけが取り残されたような気持ちになった。
「帰ろう・・・・・。」
あまり気乗りはしなかったが他に行く所もなかった。
「明日は・・・・休みたい・・・な。」
そして帰ろうと歩き出したとき誰かがやってくる足音がした。
西崎はその方向に顔を向けた。
「・・・・!」
それは村田であった。彼も西崎と同じくずぶ濡れであった。
その顔を見たとき笑顔になった、しかしすぐに顔を元に戻した。
「はあっ・・・・はあっ・・・・。」
「よーへー・・・・。」
「やっと・・・・・見つけた・・・・。」
村田は息を整えた。
「街中を探し回ったぞ西崎。」
「・・・・・・ごめん。」
「おまけに携帯も繋がらないから心配したぞ。」
西崎は村田が自分を探してくれたことに喜びを感じた。


「なんで・・・・きたの・・・・?」
「おまえに言いたいことがあったんだ。」
「何・・・・・?」
内心ドキドキていた。そして不安と喜びが入り混じった言いようのない感情に襲われていた。
「さっきの武道場での事についてだ。」
「!」
「とりあえず聞いてくれ。」
「・・・・・。」
「俺はあの後考えたんだ、自分の気持ちについてな・・・。」
「・・・・それで?」
「そしてわかったんだよ本当の気持ちに。」
「・・・・・うん。」
「俺の気持ちは・・・・。」
「やだ!・・・・聞きたくない!」
村田がそこまで言ったとき西崎は耳をふさいで後ろを向いた。
「西崎・・・。」
「どうせ!・・・・・私より!・・・・・・鉄先輩の方が!・・・。」
彼女はもう泣いていた。
「す、好きなんでしょ!」
西崎にしては珍しく大きな声でそう叫んだ。
村田はそんな彼女を見つめていた、そして・・・・。
「えっ・・・・?」
後ろから彼女を抱きしめた。
「どう・・・・して・・・・?」
そして村田は語り始めた。
「まず鉄先輩について考えたんだ・・・・。」
「うん・・・。」
「鉄先輩には羨望や尊敬の感情こそ浮かべどそれ以上の感情は湧いてこなかったんだ。」
「・・・・。」


「そして西崎のことを考えるとわからなくなったんだ・・・。」
「どう・・・・して?」
「なんだか胸の奥が熱くなってそれ以上わからなくなるんだ。」
「・・・・。」
「そしておまえと一緒にいられなくなると考えると胸が張り裂けるようなとても切ない感情に襲われるんだ。」
西崎は静かに村田の告白を聞いていた、そして不意に体が反転した。
そこには真剣な眼差しで自分を見つめている1人の男がいた。
「だからここではっきり言わして欲しい。西崎、おまえのことが・・・・好きだ。」
「・・・・ぐすっ。」
西崎はさらに泣き出した、そして自分の方から村田に抱きついた。
そして一言こういった。
「ありがとう・・・・。」
「西崎・・・・・!」
「私も・・・よーへーのこと・・・・ずっと好きだった。」
彼の中で泣きじゃくっている姿はまるで子供の様だった。
「すまんな・・・気が付いてやれなくて・・・。」
「でも・・・・思いがかなって・・・・・嬉しい。」
ひとしきり泣いた後西崎は顔を上げた。
その頃にはもう雨もやんでいた、空には綺麗な星が輝いていた。
「よーへー・・・・。」
「西崎・・・・・。」
「だめ・・・名前で呼んで・・・・。」
「・・・・紀子。」
そしてどちらからともなく2人はキスをした。
キスの味はわからなかったが唇は熱くなった。
2人は明日から違う世界がやってくるように感じた。
「帰ろうか・・・・。」
「うん・・・・・。」
そして2人は家に帰り始めた、そのとき流れ星が現れた。
西崎はこのままずっと彼といられますようにと願った。
そしてそれは村田も同じ願いだった・・・・・。


―数年後―
「ふんっ!・・・・はっ!」
1人の男が練習してる。
しかしそれはウォーミングアップのためであった。
男のいる場所は控え室であった。
「よーへー・・・がんばって・・。」
その男―村田は格闘の世界大会に挑んでいた。しかも順調に勝ち上がって次は決勝戦である。
「ああ、ここまで来て負けれるわけにはいかない。」
あの後村田はめきめきと格闘の才能を伸ばしていた。
(ここまでこれたのも紀子のおかげだな・・・・。)
今や国内では敵なしであった。
「紀子待ってくれよ、必ず優勝をこの手につかんやるからな。」
「うん・・・・・・。」
そして控え室を出ようとしたときこういった。
「この戦いが終ったら・・・俺達結婚しないか?」
「えっ・・・・・?」
「どうかな・・・・・?」
「・・・・・・・はい。」
その返事を聞いたとき村田は笑顔になった。
「よーし!紀子のためにもこの試合は絶対に負けれない!」
そういって彼は戦いのリングに足をはこんだ。
この日彼は望んでいた2つの物を手にすることができたのである・・・・。


(作者・区区氏[2005/11/08])

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル