運命のあの日から一週間がたった。
激痛で気絶したレオは気がついた後、自分で救急車を呼びそのまま入院してしまった。
この一週間、レオは乙女さん以外の人には自分が入院していることすら隠してきた。
そして今、レオの病室には乙女さんから連絡を受け、幼馴染一同がそろっていた。
フカ「レオ、一週間も入院していたなんて何で教えてくれないんだよ」
スバ「そうだぜ。皆心配してたんだからな」
レオは申し訳ない顔をして、重々しく切り出した。
レオ「……笑わないで聞いてくれるかな。これが入院していた理由なんだけど、実は俺、息子を潰されたんだ」
カニ「…………ぷっ、あはははっははははははは。むっ、息子が潰れた!? バカじゃねーの」
沈痛な面持ちで告白したレオの台詞に、カニは思わず噴出した。同じく笑い出すフカヒレとスバル。
しかし、レオも乙女さんも表情は暗く笑いもしない。
カニ「あ〜おもしろ。で、ホントは何なんだよ」
乙女「……いや、事実だ蟹沢。レオのむ、むす……コホン、レオの息子は潰されている」
少し赤面する乙女さん。
カニ「いやだな〜もー、乙女さんまでレオの冗談に……」
レオ「いや、本当だ」
カニ「えっマジ……」
フカ「潰れたって……どういう風に」
レオ「玉は完全に潰れて使い物にならなくなった。だから手術で切除した」
スバ「……サオは?」
レオ「海綿体が断裂していて、とりあえず繋いでみたものの、経過によっては完全に使い物にならなくなるらしい」
レオは淡々と語った。
フカ「ばっ、バカな」
レオ「物理的な損傷が完治するかは五分五分らしいけど、玉がないから子供は作れない。精神的にも深い傷を負って、起たなくなっているらしい。
……あの凶器が振り下ろされ、俺の息子にめり込み、肉が潰れちぎれる痛みが男の芯を砕いていく絶望感。寝ようとしても寝れないんだよ、ここ一週間」
レオの拳は小刻みに震えていた。
乙女「すまん……私がいながらこんなことになるなんて」
乙女さんは涙を浮かべて静かに嗚咽している。


レオ「いいんだよ乙女姉さん。こうなったのは自業自得なんだから」
泣いている乙女、うつむくスバル、呆然とするカニ、話の途中で気絶したフカヒレ、誰も言葉を発しない。まさにここは通夜だった。
かつて対馬レオと呼ばれた男の通夜に違いなかった。
カニ「ようはインポってことだろ! ヘタレがヘタってるだけじゃねーか。ボクが何とかしてみせるもんね」
沈黙を破って宣言したカニはその場で服を脱ぎ始めた。
スバ「……おい、いきなり何してんだ」
止めようとするスバルを振り切りカニは下着姿になった。いつもの黄色い縞パンとおそろいのブラがあらわになる。
ベッドに座るレオの体をまたいで、腕を寄せて薄い胸を強調させ、ブラ紐をずらす。
カニ「さぁどーだヘタレ!」
カニが真っ赤になりながら、無いフェロモンを撒き散らしてレオに迫る。
にもかかわらずレオの視線は冷たく、何の反応もない。
カニ「〜〜〜〜〜〜じゃあこれでどーだ!」
ブラを捨て去り、パンツを脱ぎ捨て、カニはレオの前に仁王立ちした。
乙女「やめろ、蟹沢。私も試したが、無理だった」
スバ「えっ、乙女さん脱いだの!?」
カニは真っ赤になった顔を背けて、秘所を隠した両手をどかしてレオに全てをさらけ出す。
レオ「……きぬ、ごめんな」
レオの言葉にカニは赤から青へと顔色を変え、大粒の涙をあふれさせた。
カニ「……ずっと好きだったボクの気持ちはどうなるんだよ。レオの、レオの、レオのバカ野郎ーーーーーーーー!!」
まるで子供が泣くように大声で、涙をポロポロと流しながら、カニは素っ裸のまま病室を飛び出していった。
乙女「待て、蟹沢。服を着ろ」
乙女さんが服を持って追いかける。
部屋に残されたスバルはレオに声をかけようとして、何も言葉が無いことに気がついた。
レオ「……スバル、カニをよろしくな」
スバ「……ああ、わかった。男と男の誓いにかけて」
レオ「……男と、元男だった対馬レオの名前にかけて……だな。対馬レオは今日死んだよ」


三年後
目覚ましに起こされ、寝床から這い出る。いつもの時間、出勤の仕度をする時間だ。
顔を洗い、適当に食事をして鏡の前に座る。化粧をする傍らに置かれているのは一人の学生の写真だ。
対馬レオ、彼の写真はいつも私に懐かしいものを思い起こさせる。
化粧を終え、身支度を整えて家を出る。空を見ると夕焼けが広がっていた。
これから街は昼から夜へと変わり、裏の顔を見せる。
あの日、私の人生は変わった。あの時から思わぬ方向に転がっていった私の人生。
それを後悔していないといえばウソになる。でも、今の生活に満足もしている。
今の私は「対馬レオナ」、あれから性転換をして女として生きることを決めた。
つらいこともあったけれど、夜の生活も慣れてみるとけっこうおもしろい。
今の私は夜の蝶、この街松笠の夜の住人。
裏路のお店が私の職場。
あれからカニとスバルは結婚して幸せにやっているようだ。
私が女になってからはめっきりと疎遠になってしまったけれど。
実はフカヒレは同じ職場で働いている。
あの一件でトラウマを刺激されたフカヒレは、姉ちゃんと同じ女性になることでトラウマの克服を果たしたらしい。
気が付けば私と同じ道を歩んでいる。
今の私とはNo.1を争うよきライバルになっている。
今の私の夢は松笠の夜の星になること。
そう、松笠の夜に一番輝く星になってみせる。必ず。


(作者・名無しさん[2005/11/02])

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