それは三年の4月の朝の件

「どうかしたかレオ? ヘタレた顔して」
朝の教室でレオにフカヒレが声をかけた。
「確実にくることはわかっていたが、まさかこのタイミングくるとは……。その現実を飲み込むだけで精一杯だ」
「期待していたエロゲーが発売日一週間前に発売未定になるような気分だな」
「きぬが身ごもった」
「ほー。それはおめでとうっ!?」
「あっ、バカ」
「カニが妊娠したーーーーーーーーー!?」
大声で宣伝をするフカヒレ。
「「なんですとぉ!?」」
レオときぬはクラスメイトに囲まれてしまう。
「なんやほんまに子供ができたんかー!」
「おうよ。今ボクのおなかの中にはレオとの愛の結晶がいるもんね」
「あいや、まさかのおめでたね」
「俺も子供つくりてぇなぁ……。んで、その行為を愛とか呼びてぇなぁ」
ざわ……ざわ……
「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ先に飛んできた」
今日に限っては土永さんの登場に誰も気付かない。
「まぁまぁ落ち着けヒヨコども。我輩はピーピー鳥みたいに騒ぐやつは嫌いなんだ」
「土永さんそれどころじゃないネ。カニちが妊娠したネ」
「なんと、我輩がおめでたい話を聞かされてしまった」
そんな教室の喧騒をよそに、レオはこれからの展開に覚悟を決めていた。


三日後
「それでは、今日はここまでにしましょうか。あ、それと対馬さんと蟹沢さんはこのまま残ってください。
まぁ、なんの話かはわかっていると思いますが」
祈先生の言葉に教室がざわめいた。カニの妊娠の件であることは皆気づいているようだ。
「先生、カニっちと対馬君はどうなるんですか?」
「それはここでは話せませんわ。この件については館長の預かりとなりましたので。
この後対馬さんと蟹沢さんは私と一緒に館長室へ向かいます。それでは解散にいたしますわ」
祈先生促されてレオときぬが立ち上がる。
「レオ……」
「大丈夫、フカヒレ心配するなって。なんとかなるし、なんとかするから。なっ」
「レオとボクの赤い糸は切っても切れないもんね。平蔵なんてへっちゃらさ」
不安げなフカヒレやクラスメイトに明るく返して二人は教室を後にした。
「……エリー、対馬君どうなるのかな?」
「よくて停学、悪ければ退学ってところじゃない。対馬クンは生徒会副会長だから
いなくなられると困るのよねー。代わり探すのも面倒だし」
「まだ学生なんだから堕ろしちゃえばいいのにね……」
「……じゃ、情報収集と行きますか」


館長室前はC組有志が諜報活動を行っていた。
怪しげな機械でフカヒレが室内を盗聴し、姫が状況をまとめて皆に伝えている。
「ふむふむ、館長としては二人を祝福したい、出産も自由意志にまかせる」
「しかし、規則は規則、通すべき筋は通すべきだと」
姫の言葉に聞き入る一同。
「両名には5月からの一ヶ月の停学を申し渡す、しかし学生の身分で結婚は認められない。
っと言うことは退学はないわけね」
「あれ? えーっと、対馬クンが館長に噛み付いてる。なになに、俺はきぬを幸せにすると、
結婚は譲れないみたいな」
「力不足な己を認めるがいい、意地だけでは成せぬこともある、許しがほしければわしを倒してみろ?」
その瞬間、レオが扉を突破りフカヒレを巻き込んで廊下の壁にめり込んだ。
轟音と衝撃。校舎が揺さぶられた。
唖然とする一同の中、破壊された扉から館長がレオに歩み寄る。
力を失わないレオを見据え言った。
「自分の力では届かないことが存在することを知れ。それが世界よ」
「待ってください」
振り返る館長の視線の先にはよろよろと立ち上がるフカヒレがいた。
「ひいいぃ。……じゃなくて、レオはこいつはスバルと約束したんです。男と男の親友同士の誓いなんです。
二人の結婚を認めてください! お願いします!」
館長の視線にビビリながらもフカヒレは言い切り、頭を下げた。
「……いい友人をもったな対馬。しかし決定は決定だ」
レオがよろめきながらも立ち上がり再び館長に向かっていく。


「くどい!」
大砲のような一撃でレオは再びめり込んだ。
「レオ、無茶すんな。ボクはレオだけで満足だから」
カニが駆け寄る。指一本動かせなくなったが、レオの目は力を失わない。
「対馬よこれが最大限の譲歩なのだ。結婚は認められん。お前の力は未だ未熟なのだ」
何かを考えるようにしていた姫が進言した。
「館長、対馬クンはあきらめないでしょう。認められないと言われれば
自主退学してでも結婚しようとするでしょう。でもそれだと私と生徒会が困ります。
対馬クンには副会長を務めてもらっています。乙女先輩に鍛えられた対馬クンに代わる人材は
早々に見あたらないことは事実です」
「うむ。対馬はよくやっている。だから今回の処分も停学ですんだのだ」
「対馬クンは私が説得します。ですから仕切りなおしということで、後日もう一度対馬クンと
立ち会っていただけないでしょうか。対馬クンもそれでこの場は治めなさい」
館長と姫の視線を受けたレオは頷き、気絶した。
「では、対決の仔細は生徒会でまとめますので」
「うむ、対馬の納得できる形でまとめてやってくれ」


「レオ、ボクのために嬉しいけれど平蔵に勝つのはムリだって。ずーーーっと待ったんだからさ、
ボクはいつまでも待つよ。レオが怪我するとボクまで痛くなる」
「ありがとうな、でもきぬのためなら俺は大丈夫だ」
「……レオ、愛してる。」
レオの腕の中で頬を染めて感激の涙をにじませるカニ。
「おまえ泣いてんのか」
「うー泣いてる、泣いてるもんね。感激の涙だよ! でも実際のところどーすんの?
 このままじゃ2000%勝てないじゃん」
「……限界以上にやってみる。それでも勝機は無いに等しいけど。
俺一人の力じゃどうにもならないからみんなに力を借りようと思う」
「よしわかった! ボクは何をすればいい?」
「きぬは俺を信じていてくれ。それだけでいい。後、体を大切にすること」
「うん。ボク丈夫な赤ちゃん産むからね」
「ばか、気が早いって」


「エリー、どうして対馬君をかばったの?」
レオのいない生徒会で対決の案をまとめているとよっぴーが問いかけてきた。
「対馬クンがいなくなるのは戦力的に困るのと、見ていて面白そうだから。部下の操縦の練習にもなるしね」
「でも対馬君じゃ館長には勝てないでしょ」
「たぶん100%ね」
「勝てない対決の準備をさせられるなんていい迷惑です」
「あっれー? でもなごみん、そんなに嫌そうじゃないのはなんでですか〜」
「……うるさいですよお姫様」
まっ、熱血した対馬クンがどこまでやれるか期待しているなんて言えないけどね。
「カニっち、それで肝心の対馬クンはどこに行ったの?」
「んとね、乙女さんを呼び出して烏賊島へ島篭りに行っちまった。停学明けまで帰ってこないつもりだって」
卒業した乙女先輩を呼び出すとは、その手があったか。
「んで、レオったら結婚式は6月でジューンブライドだって。純白のドレスを着させてやるっていうんだぜ。
くふふふふ、うらやましいだろココナッツ」
「うるさい子持ちゾエア」
「じゃあ対決は停学明けの6月1日にしましょうか」
乙女先輩でも館長には勝てない。 対馬クンと館長、はたしてどんな決戦になるのやら。


まさかエリーが結婚を擁護するとは思わなかったよ。おもしろいからやってるんだろうけど。
結婚はなんて形だけのもの。私は両親でいやというほどそれを知っている。子供だって邪魔なだけ。
二人の間には何もいらないはず。
竜宮の扉を開け、抱えてきた袋を下ろす。にょっきり飛び出たフランスパンからは焼きたてのいい匂いがしている。
対馬君が島篭りに入ってからその分の仕事が多くなっちゃって、生徒会の皆は出払っている。
今日のお昼は竜宮で私一人だ。
「食い物ぉーーーーーーーーーーーー!」
「きゃあ!?」
いきなり襲い掛かってきた甲殻類に、思わず掴んだ鈍器のようなも(フランスパン)を叩きつけた。
「ふが!?」
落下した甲殻類を鈍器のようなもの(フランスパン)で繰り返し殴打してから、今気がついたように言った。
「あれカニっち?」
「いてーぞ、よっぴー! あ〜腹減った。それ分けちくり」
フランスパンの半分を渡してあげる。
「うおーありがてえ。最近腹減ってしょーがねえんだ」
それにしても食べすぎではないのかな? 
よく見ると床にはおにぎりやサンドイッチの包装紙が散らばっていた。
「カニっちはさあ、対馬君について行こうと思わなかったのかな?」
「もぐもぐ……?」
「だから、対馬君と鉄先輩を二人っきりにして不安じゃないのかなって思って」
「ん〜、レオは乙女さんには弱いかんね、浮気はできないっしょ。それにレオは言ったから」
「なんて?」
「ボクに自分を信じてくれって。だからボクはレオのこと全力で信じてるんだ」
「……信じる」
……信じることでこんな幸せだだ漏れカニっちみたいになるのかなぁ。


そして決戦の日
土曜日であったため、決戦は午後、校庭特設リングにて行われることになった。
特設リングとはいえ、100%平蔵の破壊力を考慮し試合場を隔離しただけの校庭そのものである。
「レオ、おまえはよくやった。あとは館長に全てをぶつけて来い」
「……レオ、信じてんかんな」
セコンド乙女さんの激励を受け、試合場へと進むレオ。
「……レオは強くなった。これも蟹沢がそばにいたおかげか。がんばれ、お姉ちゃんは応援しているぞ」
「そろそろ時間ね」
姫の呟きと同時に、天空から胴着に身を包んだ竜が試合場に地響きをたてて降り立った。
「よい目をしているな対馬、漢だ。うれしく思うぞ。しかし現実とはかくも冷たきものよ。
さあ覚悟はよいか」
「押忍!!」
構える両者。
「この対決の実況は私竜鳴館の薔薇こと霧夜エリカ、解説は最強二年椰子なごみでお送りします」
「なんで私が」
「対馬、蟹沢両名の学生結婚をかけたこの一戦。予想では対馬勝利は絶望的!
運命の一戦用意はいいか、リューメーファイト番外戦レディーファイ!」
カァ〜ン!


「対馬受け手は不利と見たかいきなり仕掛けた。これを余裕で撃墜する橘!」
「あっ先輩が飛ばされた」
「追い討ちを決める橘、空中コンボが炸裂するー!」
「8、9、10ヒット!? 人間業じゃない」
「しかし対馬これを的確にガード、立ち上がったぁ。次は橘が攻める攻める攻める!」
「おおっ先輩すごい」
「怒涛のラッシュをぎりぎりで見極める対馬。まさか館長相手にここまでできるとは誰が想像したぁ!」
「あっカウンター」
「ついに橘にクリーンヒットォ! 追い討ちをかける対馬」
「……あの館長がひざをついた!?」
「橘はゆっくりと立ち上がる、やはりダメージはなさそうだ」
「館長の背中に天の文字がっ!?」
「橘から闘気が噴出すー! 対馬の健闘もここまでかぁ」
「今だレオ、行けーーーーーー!」
「レオーーーーーーーーーーーー!」
乙女さんとカニの叫びに押されるようにして、レオは気をためる館長へ突撃した。
「乙女さん直伝、青嵐脚『霞』!!」
「甘い!! 真・極・殺」
両者の衝突の後、倒れ付したのはレオのほうだった。


「決着ーーーーーーー! やはり勝ったのは竜鳴館館長橘平蔵だぁ」
「先輩大健闘」
「まさか館長に土をつけるとは、未だ私でも成し遂げられない偉業を達成しました対馬。
信じられない」
「ようやった。まさかこれほど強くなるとは、対馬お前の愛の力しかと見せてもらった。
しかし、約束は約束だ。これであきらめてもらう」
乙女さん、カニ、フカヒレ、よっぴー達がレオに駆け寄る。
ぼろぼろになったレオをよっぴーは静かに見つめ、館長の前に進み出た。
「館長、対馬君がここまでやっても認められませんか?」
「これは漢の勝負。対馬はよくやったが、だからこそ認められん」
「でしたら、私はこれを使います」
よっぴーが取り出したのは一枚の紙。
「「それはまさかドラゴンチケット!!」」
観衆もびっくり、それはもはや伝説となった幻の逸品であった。
「これで対馬君とカニっちの結婚を認めてあげてくださいお願いします」
「よっぴー、いいの!?」
「佐藤先輩がまさか」
どよめく観衆のなか、平蔵は豪快に笑い出した。
「それが出た以上は認めぬわけにわいかんな。
よかろう、対馬蟹沢両名の結婚を特例として認めることにする」
むしろすっきりとした様子で平蔵は宣言した。


「対馬君おめでとう。カニっちと幸せにね」
レオのそばに歩み寄り、よっぴーは声をかけた。
「ありがとう。でも佐藤さんいいの?」
「うん、いいの。これは私からの贈り物だよ。それから……私はあなたが好きでした。」
よっぴーはレオにキスをした。深く記憶に残るような、しっかりと舌をからめて……。
「初恋をありがとうね」
呆けるレオにカニが蹴りを見舞う。
「何されてんだダボがぁ! 浮気かっ! いきなり浮気なのか!」
トドメをさされたレオは完全に気絶し、白目で倒れこんだ。
「いかん、だれか救急車を」
「ああん! キスか!? キスがいいんか!? キスだったら何時間でもしたらぁ!!」
「仲間がいれば無茶も押しとおる。参考になる話ね〜。覇道も最後は仲間が必要なのかしらね」
「……センパイ、かっこいいですよ」
姫となごみはその様子を遠くから眺めてそう呟いた。
乙女さんが呼んだ救急車が到着するまで、カニは気絶したレオを嬲りつくしていた。


(作者・名無しさん[2005/10/26])

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