コンコン。
 夜、部屋でゲームをしていると、ドアをノックする音がした。
 「乙女さん?」
 「そうだ。レオ、まだ起きてるのか?」
 パジャマ姿の乙女さんが、そう言いながら部屋に入ってきた。
 そして俺がゲームで遊んでいるのを見ると、
 「勉強するために起きているならまだしも、
こんなもので遊ぶために夜更かしとは。
まだまだ鍛えがいがありそうだな。」
 と、ため息をついた。
 「乙女さんはデジタル嫌いだから分からないだろうけど、
このゲームはただ単に遊んで頭をふにゃふにゃにするような
ゲームとはぜんぜん違うんだよ。
 すごく頭を使うゲームで、言うなれば俺は今、頭を鍛えてるっ!」
 俺は画面から目をそらさずに話す。
 「そ、そうなのか?って、話すときは人の目を見て話せと教えただろう!」
 げしっ!
 「うげぇっ!」
 チャンチャンラチャラチャラチャ〜ン。
 ・・・蹴られたせいでゲームオーバーになってしまった。
 せっかく新記録まで後二千点だったのに!
 ・・・よし、悔しいので乙女さんをデジタル酔いさせてやろう。
 俺は蹴られた背中をさすりながら、乙女さんの目を見て言う。
 「このゲームはね、『落ちゲー』の祖って言われてるゲームで、
上から落ちてくるブロックを隙間なく横一列に並べると、
その列が消えて点数がもらえるって言うゲームなんだ。
勿論、点数が高ければ高いほどいい。」
 「・・・なるほどな。で、それのどこが頭を使うゲームなんだ?」
 乙女さんはいぶかしげな顔で俺を見ている。
 「横一列にそろえるって言っても、ジグソーパズルみたいに
詰まったら考える時間がいくらでもある、というわけじゃないんだ。
ブロックは次から次へと落ちてくる。瞬間的情報処理能力を鍛えるゲームだよ。」


 「なるほどな。そうやって遊びながら学ぶのも良いが、
学校の勉強をおろそかにしてはいけないぞ。」
 「分かってるよ。・・・ところでさ、乙女さん。」
 「なっ、なんだ?」
 にやりと笑う俺に、乙女さんがちょっと引き気味だ。
 「俺、乙女さんとこのゲームで対戦したいな。」
 俺が言うと、乙女さんは目を見開いて
 「わ、私がデジタルに弱いのは、知っているだろう!?」
 「あれあれ?俺はさ、いつもは苦手なものにも果敢にチャレンジして、
その苦手を克服しようとしている乙女さんを尊敬しているのに、
まさかそんな台詞が乙女さんから出るなんて・・・。
それを抜きにしても、お姉ちゃんと遊びたい弟心を分かってくれないなんて・・・。」
 「う・・・うむ。分かった。お姉ちゃんが遊んでやるぞ!
だが、お前の説明ではいまいちルールがよく分からなかった。
一度やって見せてくれないか?」
 「いいよ。」
 軽くルールを再度説明しながらやってみせる。
 「なるほどな、よし、分かったぞ!」
 「あれ?これではぜんぜん酔わないんだ?」
 「お前・・・私を馬鹿にしていないか?
テレビを見ているのと同じじゃないか。
 ・・・ここまではな。」
 「それもそうだね。じゃあ、今度はこれをもって。」
 「うっ!」
 俺がコントローラーを乙女さんに渡すと、
乙女さんは聞こえるか聞こえないかぐらいの声で唸った。
 「な、何だこのりもこんは?
アレだけの動作をするのに、こんなにもボタンが必要なのか?」
 「このゲームでは一部使わないボタンもあるけどね。」
 「い、いかん・・・早くも酔い始めてきた。」
 「まぁ、練習あるのみでしょ。」
 それから俺は、基本操作をゆっくり時間をかけて乙女さんに教えた。


 「こっ・・・これで私も一通り・・・覚えたのだな?」
 もうすでに深夜一時を回っている。
 ボタンの操作方法を一通り教え込まれた乙女さんは、
水色のパジャマと同じような色の顔をしている。
 「じゃあ、締めに対戦してみようか。」
 「いや、私は今日はもうやめておこうかと思うのだが・・・。」
 「どうしたの乙女さん!今夜はやけに弱気じゃん!」
 「い、いや・・・もう私のデジタル酔いの限界を超えて久しいんだ・・・。
意識を保つのもやっと・・・ぐらいなんだ。」
 「俺は乙女さんがあきらめる姿なんか見たくない!
乙女さんは俺のヒーローなんだ!そしてお姉ちゃんだ!」
 「・・・そうだったな。対戦しよう!」
 乙女さんの顔に少し血の気が戻ってきた。
 しかし、まだまだ終わらせはしない。
 乙女さんを酔わせてダウンさせてやるんだ。
 一回戦目
 乙女さんはコントローラーと画面を交互に見ながらやっている為、
ブロックの進みが極めて遅い。
 俺余裕で勝利。
 「ダメだ!頭では次どうするというイメージはわくが、
ボタンが多すぎてどれを押して良いか混乱してしまう!」
 二回戦目
 乙女さんに進歩は見られず。
 また余裕で勝利。
 「・・・鍛錬・・・あるのみ・・・」
 乙女さんの口数が少なくなってきた。
 三回戦目
 乙女さん、途中で頭を小刻みに振って、酔いを醒まそうとしている。
 ゲームのほうは進歩なし。
 またまた余裕で勝利。
 「・・・・・・・・・・・・・・・」
 乙女さんの目がうつろだ。


 四回戦目
 乙女さんの画面を見ると、ブロックに全く動きがない。
 そのままの形で落ちてきている。
 ふと乙女さんのほうを見ると、乙女さんは気を失って倒れていた。
 「乙女さん!乙女さん!大丈夫!?」
 乙女さんの肩を揺さぶると、うっすらと目を開けた。
 「ああ、レオ。・・・ごめんな、ダメなお姉ちゃんで。
ついに力尽きてしまった。
私もまだまだ、修行が足りない、な・・・」
 ガクッと乙女さんがまた気を失う。
 ・・・ちょっとやりすぎちゃったかな?
 せめてもの罪滅ぼしに、乙女さんをお姫様抱っこして、
乙女さんの自室の布団の上に寝かせてあげる。
 寝床でも乙女さんは苦しそうに唸っている。
 デジタルの夢でも見ているのだろうか?
 タオルを濡らして絞り、額に乗せてあげる。
 「あっ・・・ううん・・・」
 と小さく呻く乙女さん。
 ・・・そんな声を出されると、フカヒレじゃないけど萌えるじゃないか!
 ・・・気絶してるはずだし、ちょっとだけ、
ちょっとだけ胸触るぐらい、大丈夫だよ、ね?
 ・・・やっぱり俺って、むっつりだよな。
 気絶している人の胸を触ろうなんて。
 フルフルと震える手で乙女さんの胸の上まで手を持っていき、
そこからやさしく手を下に下ろしていく。
 やがて、乙女さんの胸に手が触れた瞬間!
 「レオ!何をしている!」
 カッと目を見開き飛び起きた乙女さんが、自慢の鉄拳で
 バガアァァァァン!
 ・・・
 この日の松笠の夜空を、不思議な流れ星が一つ駆けた。


(作者・SSD氏[2005/10/22])

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