今日は、珍しく朝から雪が降っている。
寒冷前線がこの地方まで下がってきたらしく、
天気予報によると数日は大雪が続くらしい。
そして昼休み、
食堂は外のテラスが使えないせいで混んでいて、
遅れてきた俺たちは席に座る事が出来ずにいた。
「仕方ないから、パン買って教室で食おうぜ。」
フカヒレの提案にうなずく。
ちなみに今日の昼食は俺とフカヒレだけだ。
スバルはこの寒い中、陸上の遠征合宿中。
一週間は帰ってこない。
カニはいつも通り、女友達との食事。
席はしっかり確保したらしく、今は優雅に昼食をとっている。
「俺たちの分の席まで、取ってくれてたらよかったのに。
気が利かないやつだぜ。」
そんなカニをフカヒレはジト目で見ながらつぶやいた。
「仕方ないって、こんなに込んでるとは思わなかったし。
おとなしくパンを買って戻るぞ。」
実際、外の席が使えない事を考慮しても、
驚くぐらい込んでいた。


教室に戻った俺たちは、ようやく食事を始める。
「今日は待ちに待ったエロゲーの発売日だぜ!
あー、幸せだなぁ。生きてる喜びを感じるよ。
俺は今日から愛に生きるんだ!」
フカヒレがパンを胸に抱きしめながら話し出す。
どうでもいいけど、そんなに大声で話すなよ。
周りのやつら引いているぞ。
「今日という日をどれだけまったことか・・・」
いまだに続けているフカヒレを無視して
俺はパンを食べ始めた。
「なんだよ、つれないな。
せっかく喜びを分かち合おうとしてやっているのに。
それが分からないなんて、かわいそうな奴だ。」
おまえの方こそかわいそうだよ。
でも、俺は優しいから言わないでおいてやる。
そこへカニが戻ってきた。
「いやー、食った食った。
こんな寒いときはあったかいうどんにかぎるぜ!」
ちくしょう、自慢しやがって。
「うらやましいだろー?」
「別に。」
顔を背けてつぶやく。
「へ、強がり言っちゃって。
それよりフカヒレ、パン潰れてんぞ。」
既にフカヒレのパンは原型をとどめていなかった。
「なにー!?」
目を見開いて叫びだす。
今まで気が付かなったのか?


昼休みも終わる頃、姫がこちらの方へ近づいてきた。
「対馬ファミリー、マイナス一名。
今日は、大幅に戦力ダウンしてるわねー。」
ずいぶんな挨拶だ。心外だぜ。
「どこがさ?」
俺は姫に反論する。
「大幅にルックス係数が下がってるわよ。」
容赦なく告げられた。
でも、・・・否定できない。
なんかくやしいぞ。
「男は顔じゃない、心さ!」
強がりを言ってみる。
「それはそうと、対馬くん達にお願いがあるの。」
姫はあっさりとスルーする。
別に突込みが欲しかった訳じゃないが、ちょっと寂しい。
「何?」
おそらく生徒会関係の仕事だろうけど、一応聞いてみる。
「この書類を今週中にまとめておいて欲しいの。」
姫は書類の束を手渡してきた。
「何?これ。」
書類の束はかなりの厚さだ。
受け取ると目を通してみる。
「3年生の進路の最終調査表。
誰がどこの大学を受験するか、就職するかをまとめるのよ。
これがアンケート用紙で、こっちのがデータ表ね。」
姫はてきぱきと説明を続けた。


「集計を取ってデータ化しておいて。
やり方はこっちのプリントに記入しておいたから。
あと、去年までのデータもあわせての再編集もね。
それは竜宮に置いてあるから。
このデータは学校のパンフレットにも使われるから責任重大よ。」
う、そういう責任の重い仕事はなんか嫌だな。
プレッシャーを感じてしまう。それに、すごい作業量だ。
「これって今まで生徒会でやってたの?
普通は学校側でやる内容だと思うんだけど。」
疑問に思って尋ねてみる。
それに姫はあっさりとうなずいた。
「そうよ。竜鳴館は生徒の自主性を重んじるって大義名分のもとに、
こういった面倒くさい仕事を生徒会にまわしてくるの。」
ぴっと指を立てて言ってくる。
それは、確かに絵になるんだけど、そう断言されてもなぁ。
「というわけで、お願いね。」
「えー、なんだよそれぇ!」
それにカニが不満の声を上げる。
「理不尽だ!」
フカヒレも後に続く。
「しょうがないでしょう?頼りにしているんだから、
期待にこたえてよね。」
姫がウインクをしてエールを送ってきた。
でも、俺はその手にはのらないからな。
「ま、しょうがねーな。
ボクが有能なのがいけないんだしな。」
「まかせときなって!頼りになるとこ見せてやるぜ!」
でも、二人はあっさり納得する。
さっきは嫌がっていたくせに、バカは単純でいいよな。
「対馬くんもお願いね?」
「うん、まかせといてよ!」
俺もバカの一人だった。


やっと今日の授業も終わって、時刻は放課後。
俺とカニはさっそく仕事に取り掛かるために
竜宮へと向かっていた。
でも、フカヒレはここには居ない。
「フカヒレは?」
予想は付くが一応聞いてみる。
「帰ったぜ。なんでも、
今日発売のエロゲーが俺を待っているんだと。」
やっぱりか。
「あのやろう、ゲームが発売された日はいつもそれだな。」
あれだけ姫に大見栄張っていたのに。
「ま、フカヒレを当てにするのが間違いなんだ。
その点、ボクは頼りになるよなー。」
それはそれで不安なんだよな。
カニはこのテの作業は苦手だから。
「ま、期待しているよ。」
話し相手ぐらいにはなるだろうと思って頷いておいた。
俺たちは竜宮へ着くと、部屋の鍵をあけて中へと入る。
「おかしいな。暖房が効いてない。」
昨日来たときはついていたんだけどな。
誰かが消したのだろうか?
「いつもはこの時間はついているはずなんだけどな。」
ちなみに竜鳴館は全校舎に冷暖房を完備している。
最新の設備で、時間設定しておくと
自動でオン・オフを切り替わる優れものだ。
だから、この時間ついていないのはおかしい。
「う〜、さ、さみーぜ!レオ、早く暖房つけちくり。」
カニが震えながら言ってくる。
確かに、かなり寒いな。
「ああ、ちょっとまってろ」
そして俺はスイッチへと手を伸ばした。


スイッチを入れる。あれ?オンになってるぞ。
怪訝に思ったが、一旦オフにして入れ直す。
しかし、反応が無い。
もう一度オフにして、再びスイッチを入れた。
やはり反応は無い。
「壊れているのか?」
俺は首を傾げた。
「レオ、なにやってんだよ?早くつけろって!」
カニが急かしてくる。
「どうも、壊れているみたいだ・・・。」
反応の無い空調機を見上げる。
「はあ?なに言ってんだよ。
どきな、今度はボクがやってやるよ。」
カニが俺を押しのけた。
「ほれ、ポチっとな」
自身満々にスイッチを入れるが、やはり反応が無い。
何度もオン・オフを切り替えるが、結果は同じだった。
「えー!なんだよ、まじで壊れてるじゃないか!」
とたんにカニは騒ぎ出す。
しかし、今はそれにかまっている場合ではない。
「緊急事態だ。このままだと凍えてしまう。」
絶望を隠しきれずに、俺はカニへと振り返えった。


しかし、そこにカニの姿はなかった。
慌ててあたりを見回すと、
いつの間にか出入り口の方へと移動している。
なんて行動の早いやつだ。
「こんな寒い中で仕事なんて出来るかー!
というわけで、ボクは帰る!レオ、あとはよろしくな?」
そういい残すと、カニは回れ右をして部屋を出て行った。
やっぱりそうきたか。
「おい、待ちやがれ!逃げるな!」
慌てて追いかける。
すると、カニは素直に立ち止まった。
やけに物分りがいいな。
いつもは最後まで抵抗するくせに。
なんか不気味だ。
「てい!」
油断していた俺はカニに足払いされて盛大にひっくり返る。
顔を地面にぶつけてしまい、あまりの痛さに声もでない。
「ふ、レオ、聞こえていたらてめーのバカ正直さをのろえよな。」
顔をおさえて蹲っている俺に、カニが冷たく告げてきた。


俺は顔を抑えたままカニを見上げた。
カニは冷ややかな笑みをうかべている。
「なに、バカだと?」
バカにバカ呼ばわりされるとは納得がいかない。
「そう、バカさ!」
聞き返した俺に向かって、
カニは自身満々に断言する。
「カ、カニ…、おまえは…」
ようやく痛みも治まり、立ち上がってにらみつけようとする。
が、既にカニは廊下の曲がり角まで辿り着いてしまっていた。
「ふっ、レオは良い幼馴染だったけど、
あっさり信じるのがいけないのさ!」
お前・・・、最初からこうするつもりだったのか?
「・・・カ、カニ・・・。謀ったな!カニ!!」
カニは勝ち誇った笑みを浮かべる。
そして再び走リ去り、廊下の向こうへと消えていった。
「あばよー!」
声だけが聞こえてくる。
「頼りになるんじゃなかったのかー!」
俺の魂の叫びは、結局カニには届かなかった。


しかたなく、俺は一人で書類の整理を始める。
あまりの寒さに登下校用のコートを着るが、
じっとしているせいもあってかぜんぜん温まらない。
あまりの寒さに手は悴んでるし、
足なんてさっきから震えている。
「まずいな、このままでは凍死してしまう。」
俺は絶望にくれていた。
そこへ祈先生がやって来た。
「あら〜。なんか寒いですわね〜。
対馬さん、暖房つけてくださいな。」
身震いしている俺に向かって告げてくる。
「さっさとしろよ、坊主。気がきかねえな。」
オウムまで一緒かよ。
「今、壊れているんです。」
俺は正直に言った。
どうする事もできないし。ああ、俺は無力だ。
しかし、そう答えると祈先生はショックを受けたみたいだ。
そしてこちらに向かってくる。
「な、何ですか?」
思わず腰が引けてしまう。
だって、祈先生無表情なんだもん。
「そういえば急用を思い出しましたわ〜。
と、いうわけで、対馬さん。
代わりにこの書類をまとめて置いてくださいな?」
祈先生に、これまた厚いファイルを手渡された。


「なんで?もともと先生の仕事ですよね?」
内容は俺達のクラスの進路調査だった。
「どうせ、もともと眠りに来ただけですし〜。
さすがに職員室では堂々と眠れませんから〜。」
当然のように祈先生が言う。
「最初から人にやらせる気だったんですか!」
突っ込みを入れるが無視された。
なんだか最近スルーされてばかりいる。
「今日中に職員室に提出ですわよ〜。」
そして、無情にもそう言われてしまった。
「勘弁してくださいよ。」
こんな量、一人で今日中に終わらせるなんて無理だ。
それに、俺には姫に言われた仕事もある。
何とかして断りたいんだけど。
「やい、小僧。生徒の分際で教師である祈に口答えするきかー?
我輩がありがたい話を聞かせてやる。
いいか、若い頃は苦労は買ってでもしろといってな、」
そんなもん買いたかねえ!オウムはひっこんでろ!
寒さのせいもあってか、気が起っていた。
しかし、気をそらしてしまったのがいけなかったのだろうか。
「と、いうわけでよろしくたのみましたわよ〜。」
そう言い残して祈先生は部屋を出て行ってしまった。
「祈先生、待ってくださいよ!」
慌てて追いかけるが、既にその姿はない。
いつもはトロいのに、風のような速さだ。
ちくしょう、どいつもこいつも人にばっかり押し付けやがって!
いくら温厚な俺でもいい加減頭にくるぜ!


もうあきらめて、俺は仕事をしている。
本当は場所を変えればいいのだろうけど、
必要な資料はここに置いてあるのでそうもいかない。
流石に全部を抱えて持っていく事は出来ないし。
肩を落として思わずため息を吐く。
「神様、俺、何か悪い事でもしましたか?」
普段信じていない神様にまでもすがってしまう。
それだけ今の俺は追い詰められていた。
すると、部屋の戸が開く音がする。
「なんだ、寒いな。暖房つけていないのか?」
声がした方へと振り向くと、
そこにはすごい大きさの段ボール箱を抱えた乙女さんがいた。
乙女さんは部屋の隅にその箱を置くと、こちらへとやって来る。
「ひょっとして鍛錬か?確かに効果はあるだろうが、
無理はよくないぞ。」
ああ、その優しさが身にしみる。
「いや、暖房が壊れていて・・・。
それより、その段ボール箱何?」
さっきから、それが気になっていた。
「コタツだ。」
胸を張って乙女さんは告げる。
当然のようにいわれても・・・。それに、何でこたつ?
「乙女さん、それどうしたの?」
不思議に思って尋ねてみる。
「ああ、生徒会の備品を買いに商店街へ行ったんだがな、
それを買ったら福引の券をもらったんだ。
せっかくだから引いてきたわけだが、
そうしたら幸運な事にそのコタツが当たったわけだ。
しかし、暖房が壊れていたならちょうどよかったな。」
神は、俺を見捨ていなかった!


「乙女さん、ありがとう!」
こんなにうれしい事は無い。
思わず涙ぐんでしまう。
「頼りになるのは乙女さんだけだよ!」
乙女さんの手をとって、感激を態度で伝えた。
「おいおい、大げさだな。」
乙女さんは苦笑いを浮かべている。
「いや、今は乙女さんが女神に見えるよ!」
比喩なしで本当にそう思う。
そう言ったら、今度は恥ずかしそうに上目使いになった。
「そうか?ちょっと恥ずかしいな。」
ひょっとしてテレているのか?
なんか新鮮な感じがする。
それより、これでようやく温まることができるぞ!
喜びのあまり、思わず小躍りしてしまう。
「喜んでくれたなら、なによりだ。」
乙女さんは満足げに微笑んだ。
結局、祈先生から頼まれた書類は、
乙女さんにも手伝ってもらったおかけで
何とか今日中に終わらせる事が出来た。
そして、その日から俺の受難?は始まったんだ。



※続きを選んでね!
乙女さんの場合カニの場合なごみんの場合姫の場合
フカヒレの場合祈先生の場合よっぴーの場合館長の場合

暖房直ったよ!(エピローグ)




乙女の場合

今日から本格的に姫に頼まれた仕事に取り掛かろう。
顔を叩いて気合をいれていると、乙女さんがやって来た。
3年生はちょうど受験戦争の真っ只中なのだが、
一足先に推薦が決まっている乙女さんは暇なのか、
今でも頻繁に竜宮に顔を出す。
「なんだ、今日はレオ一人か。蟹沢や鮫氷はどうした?
姫に仕事をまかせられているんだろう?」
乙女さんが不思議そうに尋ねてくる。
「カニは寒いからって帰った。フカヒレはズル休み。」
「しょうがない奴らだな。今度会ったらお仕置きしてやる。
それはそうと、一人ではたいへんだろう?
よし、部活が始まるまで私が手伝ってやろう。」
「え、いいの?」
思わず聞き返す。
「ああ、昨年は私がやったからな。」
へぇ、そうだったんだ。ちっとも知らなかった。
「ありがとう、乙女さん。」
「私はレオのお姉ちゃんだからな。弟が困っているのは見過ごせない。」
乙女さんもコタツへと入ってくる。
そして、冷え切った足をくっつけてきた。
「あったかいな、レオ」
微かに頬を染めて言う。しかし、俺はそれどころではない。
「俺は冷たいよ!」
「まあ、いいじゃないか。お姉ちゃんとのスキンシップだ。」


「もっと違うやり方がいい!」
「贅沢言うな。それに、年長者には従うものだ。」
さすが体育会系。
「そんなの理不尽だ!俺は断固として戦うぞ!」
でも、俺は自分の主張をつらぬいてみせる。
それが男らしいってことだぜ!
すると、乙女さんから笑みが消えた。
「ほう、ま、かわいい弟にそう言われるのもなんだしな。
よし、こっちへこい」
腕まくりしながら立ち上がる。何か嫌な予感がするぞ。
「疲れているだろ?お姉ちゃんがマッサージしてやるぞ。
なに、軽いスキンシップだ。」
「え、いいよ。そんなに疲れてないから。」
後ずさりながら断る。
でも、乙女さんはじわじわとにじり寄ってくる。
「遠慮するな。さあ」
そしてついに捕まってしまった。
「ぐうぇぇぇぇぇぇー!」
あまりの痛さに声を出してしまう。
「男ならこのくらい耐えてみせろ。軟弱者め。」
乙女さんは嬉々としてマッサージ?を続ける。
乙女さんって、じつはS?
「何か不穏な事を考えているな?そんな奴はこうしてやる!」
「びえぇえええぇぇぇぇぇぇ!」
再び、俺の絶叫が部屋に響いた。
もう乙女さんに刃向かうのはよそう。
地獄を見ることになる。
ちなみに、その後確かに疲れは消えていた。

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きぬの場合

今日の放課後も、俺は竜宮へとやってきた。
鍵は開いていたが、部屋の中には誰も居ない。
怪訝に思いながらも明かりをつけて中に入り、コタツへと直行した。
「電気がついたままになっているじゃないか。」
節電は大事なんだからな。
でも温まっているなら丁度いい。
俺はコタツに勢いよく足を突っ込んだ。
「ぐえ!」
足に感じた違和感とともに、奇妙な声が聞こえる。
俺はコタツ布団をめくってみた。
「カニ?」
コタツの中で、カニが丸まってプルプル震えている。
「なにしやがる、レオ!モロに鳩尾にきまったぞ!
もし何かあったらどうするつもりなのさ?レオだって困るだろ!」
「わ、悪い。カニがいるのに気が付かなかった。」
すごい剣幕のカニに圧倒され、素直に謝る。
「へっ、それで許してもらおうなんて、あめーんだよ!」
むっとするけど、悪いのは俺だし・・・。
「じゃあ、どうすればいいのさ。」
ここは我慢して聞いてみた。


「そうだな・・・それじゃあ、け蹴ったお腹をさすっちくり。」
「こうか?」
言われた通りに実行する。
「ひゃ、い、いきなりすんな!一言ことわれよ。」
「なんだよ、注文多いな。」
「うっせー、レディには色々あんだよ。」
「そんなものなのか?」
納得してしばらくさすり続ける。
「どうだ?そろそろ痛みはとれたか?」
「う、うん。それじゃあ、この辺でゆるしてやるよ。」
カニは珍しくしおらしかった。
「でも、さっきの話だけど、何が困るんだ?」
「だから、ナニ・・・」
声が小さくて聞き取れない。
「なんだって?」
もう一度聞き返す。
「あー、もうしつこいな!
そんなんだから女にもてないんだぜ!」
カニの言葉がグサッと心に突き刺さる。
俺はダメージを10受けた。


「人が気にしている事を・・・」
カニはなおも続ける。
「せっかく許してやるつもりだったけど、
もう怒ったもんね。乙女さんに言いつけてやる!
レオに傷物にされた〜って。」
そ、それは勘弁してくれ!
乙女さん、人を信じやすいんだからな!
そんな事言ったら俺が×××な目にあう。
「勘弁してくれよ。な、このとおり。」
カニの前で手を合わせて頭を下げる。
「それじゃあ、おごり一回な。」
「は?カニめ、調子こいて何言いやがる。」
「じゃあ、乙女さんにいいつけてやろ。」
ちくしょう、人の弱みに付け込みやがって。
「わかったよ、おごればいいんだろう?」
「そうそう、人間素直が一番だよ。」
カニは優越感にひたっている。
いつか仕返ししてやるからな!
結局、オアシスでカレーを三杯もおごらされてしまった。
しかも、ドリンク、デザート付。
はあ、明日からこづかい、どうしよう?

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なごみの場合

今日は竜宮に椰子が来ていた。
何でも、乙女さんに呼び出されたらしい。
その乙女さんだが、今は職員室へ行っている。
椰子は大人しく待つつもりなのか、コタツで本を読んでいた。
「椰子、暇ならこの仕事手伝ってくれないか?」
「嫌ですね。何であたしが。」
うん、いつも通りのそっけない返事だ。
「いや、一人だときついし。」
「だからといってなれなれしいですよ、センパイ。」
椰子は視線を本へと戻した。
こいつは・・・。ふん、いいさ。
どうせ駄目もとで言ってみただけだから。
しばし無言の時間が続く。
居心地が悪くて身じろぎをしてしまう。
その時、椰子の足に触れてしまった。
「センパイ、足、くっつけないでくれます?」
こっちを睨み付けてくる。
「なんだよ。別に足が触れたぐらいいいだろ。」
「センパイ、キモイですよ。」
・・・ここは我慢だ。俺は年上だしな。
「そうかよ、悪かったな」
おとなしく足をずらす。
「あ・・・、」
「ん?今度はなんだよ?」
「いえ、別になんでもありません。」
椰子は、再び本を読み始めた。


しばらくすると、足に何かの感触を感じた。
「センパイ?」
椰子が半眼になってこっちを見ている。
「わ、悪い」
どうやら、また足をくっつけてしまったらしい。
俺は慌ててもう一度足をずらした。
そうしてしばらくすると、また足がくっつく感触がする。
本当になんだってんだ?いったい。
もう一度ずらす。
くっつく。 ずらす。 くっつく。 ずらす。
またくっつく。
「・・・椰子?」
俺の足は既にコタツから追い出されてしまっている。
こいつ、何か俺に恨みでもあるのか?
「椰子、足がくっついてるぞ?」
あきらめ気味に声をかける。
またあの嫌な笑みで何か言うつもりなのだろう。
俺はいつものように身構えた。
しかし、予想外な事に椰子ははっとした様子で固まっている。


「どうした?」
俺が尋ねると、椰子は急速に顔を赤くしていった。
「あ、あたしこれで失礼します!」
そして立ち上がり、そのまま走り去ってしまう。
「なんだよ、変なやつだな。」
どうでもいいけど、乙女さんを待っていたんじゃないのか?
そこへ、ちょうど入れ替わりに乙女さんがやって来た。
不思議そうに椰子が走り去った方を見ている。
「さっき椰子が慌てた様子で走っていったが、何かあったのか?」
「さあ?見当も付かないよ。」
本当に心当たりがない。
「そうか。それじゃあ、用事はまた今度にするとしよう。」
でも、乙女さんはそれで納得したようだった。
しかし、なんだって言うんだ、まったく。
俺は椰子の不可解な行動に思いをはせ、
ため息をひとつ吐くと仕事を再開した。

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エリカの場合

「あら、どうしたのこれ?」
久しぶりに竜宮へとやってきた姫が
不思議そうにコタツを指差して聞いてきた。
「乙女さんが福引で当てたんだって。」
「ふーん、さっすが乙女先輩ね。勝負運が強いわ。」
それは同感。実際、この前もクジを当てていたし。
「でも、暖房が壊れていていたから本当に助かったよ。」
「あ、それはカニッちから聞いているわ。
修理も手配しておいたから、今週中には直しに来るはずよ。」
さすがに姫はそつがない。
俺じゃあどうしたらいいのかわからないもんな。
祈先生には伝えたんだけど、その事について音沙汰ないし。
もしかして忘れてしまってるんじゃないのか?
「やっぱり姫は頼りになるね。」
そんな姫に感心してしまった。
「当然でしょう?」
姫もコタツに座る。
「対馬くん、お茶もってきて。」
そして、これもまた当然といったように言ってきた。
まあ、姫の頼みは断れないし、仕方がない。
俺はコタツから出て、お茶を入れるために流しへと向かった。


お茶を入れ、湯気を立てている湯飲みを姫に手渡す。
「ちょっと、私が猫舌なの知っているでしょう?冷ましてよ。」
仕方がないので冷蔵庫まで氷を取りに行き、湯飲みに入れる。
「なんか手抜きっぽいけど、まあいいわ。」
姫はため息を突くとお茶を飲み始めた。
「まあまあね。でも、お茶だけだと何だか物足りないなあ。」
顎に手を当てて、しばし考え込む。
そして突然目を見開くと、思い出したように言ってきた。
「対馬くん、みかん買ってきて。」
本当に唐突だな。
「何で?」
「せっかくコタツがあるんだから、当然でしょう?」
「だから何でそうなるの?」
「解らないの?それが日本人の心ってものよ。」
そんなものか?思わず首をひねった。
「でも、なんで俺が。」
「生徒会長命令よ。なに?私の言う事が聞けないの?」
理不尽だ。でも、姫は言い出したら聞かないからな。
仕方なく買いに出かける事にした。


外は雪が降っていて、相変わらずひどく寒い。
コタツで温まっていた体もすっかり冷えきってしまった。
俺はみかんを買い終えると、急いで学校に戻る。
帰ってきたときには、姫はコタツにもぐりこんでいた。
こちらに気づいた様子は無い。
「買ってきたよ。」
呼びかけると、コタツの中から這い出してくる。
「ご苦労様。」
姫は袋を受け取ると、すぐにみかんを取り出して、
既に用意されていた籠へと入れ始めた。
時々首をひねって位置を換えながら、山盛りになるまで積んでいく。
そしてようやく納得がいったのか、笑みをうかべて頷いた。
「よし、完璧!」
満足そうにつぶやき、それを眺めながら湯飲みに口をつける。
「くぅ〜!やっぱりコタツにはぬるい緑茶とみかんよねー。」
なんか親父くさいよ。
「普通は熱いお茶じゃないの?」
「何よそれ。私が黒といったら白も黒なの。」
なんて滅茶苦茶な理屈だろう。
でも、それが姫の姫たる所以だ。
俺はひとり納得した。


姫はみかんを籠から取ると、早速むき始める。
そして、一切れつまんでこちらに差し出してきた。
「はい、あーん。」
思わず視線で問い返す。
「これはごほうびよ。」
そんな俺に、姫は告げた。
「光栄に思いなさい。私にこんな事させたの、
男では対馬くんが始めてよ。」
やばい、顔が熱くなってきたぞ。
「対馬くん、顔真っ赤よ?」
姫はにやついている。
でも、せっかくだし食べさせてもらう。
「おいしい?」
黙って頷く。
「そ。男って単純よねー。」
その言葉には反論したくなるが、
どうせ口では勝てないので黙っておいた。
でも、確かにうれしかったのは内緒だ。

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フカヒレの場合

今日も相変わらず俺一人だ。
みんな寒いからって早々と家に帰っているのだろう。
そこへ、携帯にフカヒレからのTELがかかってきた。
『レオ、た、大変だ!』
「久しぶりだな、フカヒレ。最近学校に来ないし、
電話かけても連絡取れなかったし、今まで何やってたんだ?」
どうせエロゲーだろうけど。
「おまえ学校休みすぎだぜ、祈先生怒ってたぞ。」
『そんなことより聞いてくれ!』
フカヒレが追い詰められた様子で言ってくる。
いったいどうしたんだ?
俺は姿勢を正してフカヒレの言葉を待つ。
『ゲームはクリアしたんだけど、
は、ハーレムルートが無かったんだー!』
電話の向こうでフカヒレの絶叫が響いた。
断言しよう。こいつは馬鹿だ。
『ちきしょう、だまされたぜ!
前作、前々作はハーレムルートあったのに〜!
信じていた俺がばかだったのか?裏切られた気分だ・・・。
ああ、俺の心はすっかり冷え切ってしまった。
寒い、寒いぜ!レオもこの気持ち、わかってくれるだろう?』
「別に。こっちは暖かいからわからん。」
あきれてコタツに潜り込む。
『何、ま、まさか、レオ。おまえ、俺が居ない間に〜!』
フカヒレが何か言っているが無視だ。
『う、裏切り者〜!』
何を勘違いしたのか、再び叫びだす。
「バカ言っていないで、明日はちゃんと学校に来いよ。」
冷たく告げると、俺は容赦なく電話を切った。

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祈の場合

俺は今、パニックに陥っていた。
確か、放課後になって祈先生が来たところまではよかったんだ。
でも、今は・・・。
祈先生!む、胸がコタツに載っています!
健全な青少年には刺激が強すぎる。
フカヒレだったら既に鼻血を出しているだろう。
まちがいない!
その視線に気づいたのか、祈先生は妖艶な笑みを送ってくる。
「スケベですわね、対馬さん。」
やめて!そんな目で俺を見ないでくれ!
慌てた様子の俺に、祈先生は心底楽しそうだ。
「そんなスケベなやつは、我輩がこうしてやる!てい、ていっ!」
「いたた、痛い、痛い!」
ちくしょー、鳥類の分際で!
祈先生のほうを向くと、
さらに胸の形が変わるくらいまで押し付けていた。
「フフフ・・・」
今、ニヤリと笑わなかったか?
もしかして、か、確信犯? 男の純情を弄ばれた?
「どちくしょー!」
俺は男泣きに泣きながら部屋を飛び出した。
「これだから、童貞君イジメはやめられませんわ〜」
「祈、教師が生徒をいじめてどうする?」
「イジメははありません。」

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良美の場合

今日は姫が会議に行っている間、
佐藤さんに英語の宿題を教えてもらえる事になった。
正直、ひとりでは解らない所だらけなのですごく助かる。
「それじゃあ対馬君、始めようか。」
佐藤さんは俺の隣に腰を下ろした。
狭いのでどうしても密着してしまうが、
佐藤さんは別に嫌がってはいないようだ。
でも佐藤さん、む、胸があたっているよ。
「どこが解らないの?」
佐藤さんが近づいてくる。
「ここだよ。」
「えっ、どこ?」
なおも近づいてくる。
「こ、ここ・・・。」
さらに胸が押し当たる。
いけない、気になって集中できない。
平常心、平常心。よし、落ち着いぞ。
俺はなんとか宿題を続けた。


佐藤さんに手伝ってもらったおかけで、
宿題は快調に進んでいく。
そしていると、ふと佐藤さんが口を開いた。
「こうして二人でコタツに入っていると、
何だかエッチな気分になってくるよね。」
俺は自分の耳を疑った。
あの純情な佐藤さんの口からこんな言葉が出るなんて・・・。
「やだ、私ったら。」
佐藤さんは自分が何を言ったのか気が付いたのか、
頬を赤く染めていく。
その仕草は、同い年とは思えないくらい色っぽい。
やばい。色々とやばい。
「どうしたの、対馬くん?」
「な、何でもない。」
「? 変なの。」
笑ってごまかした。ふー、危なかった。
でも、何とか乗り切ったぞ!


そこへ、ようやく会議が終わったのか、姫が戻ってきた。
「よっっぴー、やっと終わったわ。」
「ごくろうさま、エリー。」
佐藤さんがねぎらいの言葉を掛ける。
「あー、疲れた。何か甘いものが食べたいわね。
そうだ、今日も寒いからお汁粉でも飲みに行かない?」
「あ、それいいねえ。」
いつのまにか、そういう事になったらしい。
「よーし、決定!対馬くんも一緒にどう?」
俺にも聞いてくる。
「せっかくだけど、また今度にするよ。」
「あっそう。それじゃ、行くわよ、よっぴー」
「う、うん。それじゃ対馬くん、またね。」
佐藤さんは残念そうだった。
「ばいばい」
俺は手を振って二人を見送る。
正直一緒に行きたかったけれど、出来ない理由があった。
「俺はこの宿題をやり遂げないといけないんだ。」
そう自分に言い聞かせる。
・・・ごめんなさい、
正直に言うとアレが起っていました。

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竜鳴館館長 橘平蔵の場合

今日も仕事をやっていると、珍しい事に館長がやってきた。
「仕事がんばっているな。結構結構。その調子ではげめよ。」
そのまま視線を下に下げる。
「お、こたつではないか。日本らしくて実にいいぞ。
よし、ちょっと待っていろ。いいものを用意してやる。」
それだけを告げると、館長はそのまま部屋を出て行った。
疑問に思うが、すぐに仕事を再会する。
そうして暫く時間が過ぎて、ようやく仕事が一段落ついた。
外を見ると既に日が暮れている。
「今日はもう帰ろうかな。」
けれど、さっき館長に待ってろって言われているし、
黙って帰えるのもなんか怖い。
仕方なく、もう少しだけ待つことにする。
しかし、なかなか館長は戻ってこない。
「いい加減待ちくたびれたから、もう帰ろう。」
なかなか来ないのでもういいやと立ち上がったとき、
ようやく館長が戻ってきた。


館長は両手に大量のビニール袋を抱えている。
「なんです、それ。」
「ふ、まあ見ているがいい。」
荷物を抱えたまま、備え付けのキッチンへと向かった。
なにやらごそごそと始めたが、なんだろう?
やがて、きびきび動いていた館長がカセットコンロを持ってくる。
ん、カセットコンロ?続けて土鍋を持もってくる。
「なんです、これ?」
「見て解らんか?鍋だ。」
館長は自身ありげにフタを空けた。
そこには魚介類をふんだんに使った味噌仕立ての鍋が、
ぐつぐつと美味しそうな音をたてている。
「頑張っている事への褒美だ。遠慮なく食べるがいい。」
館長もコタツに座ると、お椀へ中身を豪快に盛る。
「さ、食え」
俺はあっけにとられてそれを受け取った。
館長は自分の分もつぐと、早速食べ始める。
「ん、我ながらうまくできた。」
その言葉を聞き、俺も食べ始めた。
おそらく、相当高級な具材なのだろう。すごく美味しい。
でも、むさいおっさんと二人で食べているせいなのか、
味のわりには感動が薄かった。

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暖房直ったよ!

今日は、姫が手配してくれていた電気屋さんが来てくれた。
これでようやく暖房が使用できるようになり、
竜宮の環境も大幅に改善された事になる。
そして、俺の仕事もここ数日の努力の甲斐もあり、
ようやく終わろうとしていた。
最後の書類をまとめ終え、チェックを済ませて完了だ。
「やっと終わったー!」
背筋をのばして思いっきり伸びをする。
やりとげた!という充実感と共に一気に疲れが押し寄せてきた。
思えば、ここ数日は何かと苦難の連続だった気がする。
でも、何とか耐えきったぞ!
そして、俺はあることに気が付いた。
暖房が直った事で、コタツはその役目を終えてしまったのだ。
いつまでも此処に置いて行くわけにもいかないだろう。
「仕方ないよな・・・。」
寂しい気持ちを押し隠し、俺はコタツを片付け始めた。


その日の夕方、俺は暖房のきいた部屋でテーブルに座っていた。
今は何もやる気がしない。この空虚な気持ちはなんだろう?
一人自問自答を繰り返す。
そこにスバルがやって来た。ようやく合宿が終わったのだろう。
「よ、帰ってきたぜ。オレがいなくて寂しかったか?」
「スバルか・・・」
久しぶりだというのに、反応の薄い俺が気になったのか、
スバルがこちらを覗き込んでくる。
「どうした、レオ。いつもの元気が無いようだが。」
心配そうに聞いてきた。
「大丈夫か?」
「スバルが居ない間、色々あって疲れた・・・。」
部屋の隅に片付けられているこたつを横目で眺める。
スバルもそちらへと視線を向けた。
「ん、何だこれ?」
「ああ、コタツ。」
俺はそっけなく答える。
「なんでコタツがここに?」
「乙女さんが、福引で当てたんだ。」
「ふーん、そうか。」
スバルはすぐに興味をなくしたようだ。
俺は改めてコタツに視線を向ける。
共に過ごした日々が脳裏をよぎっていく。
もう使う事も無いだろうけど、ずいぶんお世話になった。
『短い間だったけど、アリガトな。』
俺は心の中で感謝の言葉を送った。

―END―


おまけ スバルの場合

後日談。
「乙女さん。このコタツ、もらっていってもいいかな?」
「ん?ああ、いいぞ。」


(作者・FxOZs8ds0氏[2005/10/16])

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