今日もいつものレオの家での夕食会だ。スバルがいなくなり、カニがレオと付き合いだし、あまつさえ結婚までしてしまい、その回数こそ減ったものの、俺達がレオの家で集まるのは変わらなかった。飲むものがジュースから酒には変わったが。
「しかし意外だな。椰子はお前的に超ダウトなんじゃねーかと思ってたんだがな。今だにすげーキツイ性格じゃん、確かにすげーきれいにはなったけどさ。」
「まあそうなんだけどね。落とせばなついてきそうな気がすんだよな。」
「何だ、お前まだココナッツ狙いなのか?やめとけやめとけ、あいつの性格の悪さはこの僕が保障してやんぜ。大体、フカヒレとココナッツが仲良くデートしてる姿なんて想像もできないね。現実見ろよ。」
「くうっ、確かに想像できない自分の妄想力がうらめしい。」
「しかし、何でまた椰子狙いかね。お前、生徒会でなじられてたくらいだろ?椰子とのつながりは?」
「愛だよ、あ〜い!大体ここでもたまに会ってるじゃないか、最近だって。」
「毎回相手にされてないけどね。」
「絶対幸せになってやる〜。」
と、そんなところで今日の集まりはお開き。今日は早めに帰ってゆっくり眠って、明日の仕事が終わってからの路上ライブに備えよう。


実はあの二人には話していないが、スバルが去り、レオとカニが付き合いだしたのを機に、前からしてみたいとは考えていたものの、勇気が足りずにできなかった路上ライブをやり始めていた。
なんでかはしらないけど、昔から、椰子は夜、ずっとそのそばにいたため、当初から俺の演奏を聞いてくれている。今では頻度は減ったが、それでもたまに現れる。実は俺が路上デビューしようと思ったきっかけに、聞いてくれたあいつの感想って一因もあったりする。
ただ、俺は演奏に必死で、話しかけたことはない。演奏が終わった後とか、声をかけてみたいとは思うんだが、夜のあいつは何だか、いつも以上に近寄るなオーラが出ているようで、中々近寄ることすらできない。
そんなこんなで、きれいだからってことだけじゃなく、椰子が気になっている自分がいる。
もちろん、あの顔でセンパイ☆とか、えへっ☆って感じでかわいくしゃべられたら俺は萌え死ぬ!なんてことも考えてはいるが・・・・想像もできん。
寝るか。


「フカヒレさーん、今日はなにやるんですか〜?」
「今日は『お前がナンバー1だ』から始めるよ。」
まだまだだけど、最近では自分でもそれなりにうまくなってきたと思うし、それなりに固定ファンもついてくれて、やりがいがある。恥ずかしいのは変わらないけど。

・・・・

演奏していると、また椰子が橋に寄りかかっているのに気がついた。

・・・・

今日は中々良い演奏ができた。汗が心地よい。
ライブが終わったが、椰子は興味なさそうに相変わらず橋によりかかって空を見ている。何か声をかけるきっかけになるようなもんでもあればな・・・そうだ、あれがあったか。久しぶりに勇気を出すいい機会かもな。


高校を卒業し、マイマザーの花屋を手伝うようになった。再婚話は叩き潰してやったからか、天王寺の奴も最近はほとんど来ない。それでもいまだにあきらめていないようだ。あきらめの悪いやつ。うざい。なんてきもい。しかし、
「それもあるけど。」
夜空を見上げながら考える。料理の道を進んでみたい。その気持ちが花屋をきりもりしている今でも心の中でくすぶっている。
最近は料理の道に進めないのにもかかわらず、料理をがんばっている自分に対する矛盾に苦しむ自分がうざい。
そんな気持ちをはらせぬものかと昔のように外を出歩き、気を紛らわせようといつもの場所に来るが、それでも考えてしまう。一体自分はどうしたいのか。何にもわからない。うざい・・・


「いよっす、椰子」
うわっ、すげー嫌そうな目でこっちみやがった。あいかわらずこえぇ。姉ちゃんのトラウマが一瞬でかけだぜ。
「ちょっといいか?」
「嫌です。」
うっ・・・小気味良いスピードで断られる。うわー、相変わらず話しかけんじゃねーよオーラがすげーぜ。スカウターが爆発しちまいそうなくらい上昇してやがる。
けど、いつもはここで引いてしまうが、今日は少し覚悟を決めている。
「あのさ、俺、いつもそこで路上ライブやってるじゃん?でさ、今度、ライブハウスで演奏することになったんで、初めの方から聞いてくれてる椰子にさ、聞いてみてほしいんだよ。これ、チケット。来れたらでいいからさ、お願い!来てくれないか?」
椰子の手にチケットを押し付ける。
「うざい。消えろ!」
「うわっ、ごめんなさい!」
ひえ〜、やっぱり無理か。というかもう体が逃げ出してる。
残念。椰子に感想聞いてみたいのは本当なんだけどな。


空を眺めていたら、向こうで路上ライブをやっていたフカヒレ先輩が声をかけてきた。何か言っていたが、今は機嫌が悪い。うざい。おっぱらった。
手にはライブのチケットとやらが入っている。さすがにポイ捨てするのは気が引け、とりあえずポケットの中にねじ込んでおいた。
「そろそろ、帰るか・・・」
心の中のもやもやは全然晴れない。


ライブ当日。
路上では結構な場数をこなした俺だが、やっぱ緊張する。ライブハウスの人の入りを見ると正直すげー怖い。
しかしそれでも気合が入るのは確かだ。
「やっぱり、好きだからな。」
今回それなりに自信がつけられたら、次はレオたちも呼んでやろう。びっくりするかな。やべ、でもあいつらに見られると思うと今以上に緊張するぜ。特にカニには何言われるかわかりゃしねえ。
「シャークさーん、出番でーす。」
「あっ、はっ、はい!」
ついに俺の番だ。


壇上に出ると少しパニくったが、前の方にいつも聞いてくれている人たちがいてだいぶ緊張が解けた。
「こんにちは、シャークです。と言っても、普段はもっぱらフカヒレって呼ばれてるんですけどね。ライブハウスで演奏するのは今日が初めてで、緊張してます。」
話しながら会場内を見渡してみる。
!!!
一番後ろの壁に寄りかかるようにして椰子がいた。
来てくれたのか。
こりゃ下手な演奏できないな。
(よしっ、今までやってきた成果、見せてやるぜ!)
気合が入った。
「では、一曲目行きます、『ハンズ・オブ・グローリー』。」


最悪だ・・・
いらいらして、つい母さんにあたってしまった。
仕事の合間に作っていた煮物を失敗しただけなのに。
最近の心のもやもやでむしゃくしゃしていたのが少し出てしまった。
母さんが悪いわけではないのに。
外へ飛び出す。駅前のいつもの場所に歩いてく途中、ポケットに手をつっこむと、くしゃくしゃのチケットが出てきた。日付を見ると今日だ。
「・・・行ってみるか。」
少しは気晴らしになるかもしれない。足をライブハウスの方に向けた。


ライブハウスの中に入り、ドリンクを受け取って、一番後ろの壁に寄りかかる。
今まで演奏していたバンドの番が終わったようで、場内は少し騒がしい。
壇上を見ていると、フカヒレ先輩が出てきた。場内が少し静まる。どうやらちょうど良いタイミングだったようだ。
何やらちょっとしゃべった後、演奏を開始した。
「っ!!」
うまい。驚いた。正直、最近は近くにいても別に聴いていなかった。郵便局で働いているのも知っていたから、ただの趣味なのだろうと思っていたが、これはもう趣味の範囲は超えている。
初めて聞いた、あの、外で演奏しても恥かかないないレベルとは格段にレベルが違った。
「やるじゃん。」
ついつぶやいてしまった。


演奏後、
「ふーーーーっ。」
楽屋で息を一気に吐いた。
緊張したーーーっ。でも、やっぱ良かった。いつもより良い演奏ができた気がする。よしっ、今度はレオたちも呼んでやるか。
「シャークさーん、知り合いって人が、そこに来てるんだけど、通す?すげー美人だよ。」
「もっちろーん!美人ハァハァ。」
「こんばんは。何変な声出してるんですか?」
入ってきたのは椰子だった。
「椰子か。って、来てくれたんだな。サンキュー。」
「チケットありがとうございます。演奏、聞かさせていただきました。」
「そっ、そうか。どっ、どうだったかな?」
「かなり上手くなったじゃないですか。」
「言いたいことは言うタイプな椰子にそう言ってもらえると何か自信が出てくるね。ありがとよ。」


「けど、フカヒレ先輩、これだけ上手いんだったら、プロ目指すのもありだったんじゃないですか?成功するかまではわかりませんが。」
「うっ、まあね。確かにそれも最初は考えたんだけどさ、俺の家の場合さ、姉ちゃんが東京に出て行っちゃったから、俺が残って親の面倒みなきゃなってのがあってさ。」
「で、郵便局に勤めたんですよね?それなのにこれだけ上手くなってるって事はかなり努力したんじゃないですか?」
「そりゃね。大変だったけどさ、親のせいにして逃げたくなかったから。俺は確かに、就職はしたけど、だからといって好きなことまで否定しなくてもいいじゃん。」
一息つく。
「趣味で終わってもいいからさ、やれるだけはやってみようって思ってさ。まあ、仕事と両立させてるわけだからそれなりに辛いけどね。でも、やっぱ好きなことだからさ。」
「ん?」
椰子が驚いた顔でこちらを見た後、うつむいた。
そして、笑い出した。


驚いた。まさか心の中では馬鹿にしていたフカヒレ先輩がこれだけ考えていたなんて。
「ははははっ。そうですね、簡単なことだったんですね。」
「?」
負けてられない。
・・・やってみるか。
そう決心した途端、胸のもやもやが晴れていった。細胞が踊りだす。
あぁ、なんだかんだいってあたしはやっぱり料理をやりたいんだって改めて気づかされた。
別に花屋を手伝いながらでもいい、それでもやれるとこまでやってみよう。その後はその後だ、そこで悩めばいい。
「やれるだけやってみますか。」
「あ、うん?」


いきなり椰子が明るくなった気がした。
「ところで、これからも夜は路上で演奏するんですか?」
「ああ、するよ。まだまだ練習が必要だからさ。」
「それじゃあ、やるとき教えてください。差し入れにお弁当作って持って行くんで、味の批評をしてくれませんか?」
「マジ!もちろんオッケー!女の子の手作りのお弁当キター!」
ってやべ、こんなん椰子に言ったら怒られるか!?
あれ?別に普通の顔だ。
「あくまで味の批評ですからね。そこはちゃんとしてもらいますよ。あと、何か食べられないものとかあったら後で教えてください。」
「あ、うん。すげー楽しみにしてる。」
「はいっ」
笑顔でそういって、椰子が楽屋から出て行った。
やべ、今の顔は反則的にかわいかった。きれいだなとは思ってたけど、あんなかわいい笑顔もできるだなんて、マジでやべーな。しかし椰子の弁当か、本気で楽しみだ。もしや俺の時代到来か!?
「よっしゃ、絶対幸せになってやる!!」
とりあえずはレオに自慢かな。顔のにやけが止まらなかった。


(作者・フカヒレファン氏[2005/10/13])

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