だまされた!
日曜日、待ち合わせの場所に現れたのは西崎だった。
く、鉄先輩は!? 慌てて僕に遊園地のチケットをくれた人の姿を探す。
遠くの自動販売機の陰から鉄先輩と対馬が顔を覗かせていた。うぬ、首謀者は対馬か。
くそ。僕は思わず拳を握り締めた。
「どー、したの。よーへー?」西崎が小首を傾げる。
「い、いやなんでもない」
「へん、なの」
「へ変とはなんだ! それよりどうしてお前がここにいる!?」
「え? だって、よーへーが、遊園地の券、くれたから……」
西崎は当然というように答えた。
なんと! そういう話になっているのか!?
対馬たちに恨みのこもった視線を向けると、申し訳なさそうな鉄先輩と愉快そうな対馬が同時に合掌した。
おのれ対馬め。この僕を罠に陥れるとは中々やるじゃないか。
そもそもあの鉄先輩にたばかられるとは思っていなかったからな。油断していた。
対馬に丸め込まれたのであろう鉄先輩はともかくとして、あのバカにはあとで報復をせねばなるまい。
と決意を固めていると、
「はやく、いこう」
西崎が僕の手を掴んで急かす。わかったわかった。僕は覚悟を決めた。
仕方ない。今日は一日西崎に付き合うとしよう。
難儀だが、こうなった以上やむをえまい。西崎には多少負い目もあるからな。
改札を駅に足を踏み入れながら、再度二人に恨みがましい視線を送っておく。
すると対馬は何を勘違いしたのか親指など立てた。バカかお前は。
鉄先輩は真剣な表情で、鼓舞するように胸元で拳を握っている。
激励するくらいなら対馬の口車になんか乗らないでくださいよ。


それにしても、と電車に揺られながら思う。
西崎と二人で出かけるなど随分と久しぶりのことだな。
昔はたまに遊びに行くこともあったが、竜鳴館に入ってからは殆ど無かった。
まして最近は色々あって、その、何となく話しづらい状態が続いていたし。
西崎は今までの気まずかったことなど全く気にかけていないように、
楽しげにファインダー越しの風景を堪能している。
随分冷たく当たったように思うが、西崎はすでに水に流してくれているのだろうか。。
確かに体育武道祭などを通じて和解するにはしたが、僕のほうは少し引き摺るものがあった。
意味も無く西崎を避けたことに対する自己嫌悪に由来するのだろう。
僕も少しはこいつを見習うべきなのかも知れないな。
西崎に視線を向けたとき、ふと思った。
そういえば私服姿の西崎を見ることもここ最近は無かったな。
よそいきらしい、明るい色使いの服を着た西崎はなかなか新鮮でかわい……いや、僕は何を考えている!?
僕はぶんぶんと頭を振って雑念を振り払った。
「くー?」
僕の行動を不審に思ったのか、西崎が不思議そうに僕を見た。
……う……。
「な、なんでもない」
そういうと僕は西崎から視線を無理矢理外した。
すると視界に入ってきたたのは見紛いようも無い、二人組みの姿だった。
こそこそと身を屈めていたが間違いない。
対馬と鉄先輩は僕の視線に気づくと、慌てて隣の車両を駆け抜け、もう一つ向こうの車両まで逃走していった。
おのれ、まさかずっと尾行して監視し続けるつもりではあるまいな。
だがそこで気づく。別に監視されたところで困ることなど何もないではないか。
僕はただ西崎の付き添いで遊園地に行くだけだ。何しろ一人で行かせるにはあまりにも不安だからな。
あくまでも僕の立場は引率者に過ぎない。しかも相手は西崎。間違いなど起こりるはずも無いのだ。
ふん。二人ともご苦労なことだ。僕はそう自分を納得させた。
「くー?」
西崎が再び僕を見つめている。
「なんでもないと言ったろう。さ、そろそろ到着だ。降りる準備をしろ」
「くー!」西崎は元気に答えた。


僕はふらふらと覚束ない足取りで歩いていた。
「だい、じょう、ぶ?」西崎が心配そうに僕の顔を覗きこむ。
「……あまり、大丈夫、では、ない、かも」
僕は肩で息をしながらやっとの思いで答える。
散々ジェットコースターに付き合わされて、僕は激しい浮遊感に襲われていた。
絶叫系の乗り物は実は苦手だ。回ったり墜ちたり捻ったり、
なぜあんな無意味この上ない乗り物が存在するのだ。
僕には全く理解不能だ。こんな、徒に寿命を縮めるような遊具が存在している意味が分からない。
つくづく、人とは愚かだと思う。難儀なことだ。
対して西崎はああいったアクロバティックな乗り物が大好きなのだ。際限なく乗りたがる。
乗っている最中も無邪気に笑っていた。今もケロリとしている。
「……ちょっと、休ませてくれないか」
僕は手近のベンチに腰掛けた。
「ん。まってて」
西崎は僕をベンチに残すと、どこかへ走っていった。
程なく戻ってきたその手には紙コップが握られていた。
「はい」
僕そっと差し出されたコップには、オレンジジュースが満たされていた。
「む、すまん」
紙コップを受け取り、ジュースを口に含む。飲み込むと冷たい感触が心地よかった。
全て飲み干してから、ようやく僕は言った。
「少しは楽になった」
「よかった」西崎は嬉しそうに笑った。そして、
「それじゃ、つぎは、あれ♪」
指差したのは自由落下型のアトラクション。
僕は回復した血の気が再び引いていくのを感じた。
西崎、お前意外と容赦ないな。もしかして本当は今までのこと根に持っているのか!?
必死の抵抗もむなしく、僕は西崎に半ば引き摺られるようにして順番待ちの列に着かされた。
まるで処刑台へ連行される罪人のような気分だった。


「ふうー。さて、そろそろ昼か」
絶叫地獄を突破し、ようやく人心地ついたところで時計に目をやると十二時過ぎになっていた。
「よーへー、これ、おひる」
そういって西崎はおずおずと包みを差し出した。
「弁当か?」
こくこくと頷く西崎。
「うむ。ありがたく貰うとしよう」西崎の料理は結構旨いからな。
二人で適当な席に着き、渡された包みを開けて僕は驚愕した。
なんだこのハートマークは!?
瞬間、自分の顔が真っ赤に染まるのを感じた。
手作りらしい立派なおかず。これはいい。だがこのご飯にピンクのデンブで描かれた模様は……。
「おい西崎、これはいくらなんでも食えんぞ! 嫌がらせのつもりか!?」
「くー?」
「だからこのハートマークはなんだといっている! これはやりすぎだろう。僕とお前は単なる幼馴染で、
このようなマークが介在するような関係ではないのだから……」
僕が言い終わるより早く、西崎が別の包みを取り出した。
「まち、がえた。こっちが、よーへーの」
もうひとつの包みを開けると、こちらには卵そぼろで星型が描かれていた。
顔がさらに熱くなった。
これが自意識過剰というやつなのだろうか。むぅ、な、難儀だな。
「くー?」
西崎は不思議そうな顔でこちらを見ている。
「い、いや、なんでもないんだ、わははは」
僕は気恥ずかしくなって、それを誤魔化すために一心不乱に弁当をかき込んだ。
正直、味などほとんど分からなかった。


「くー♪」
西崎が嬉しそうに窓からの景色を撮っている。
流石に高い。観覧車の頂上付近では地上にいる人間がまるでゴミのよ……じゃない、豆粒のようだ。
実のところ、僕はバカではないので高いところが余り好きではない。
そもそも生身では飛べるように設計されていない人間が高所に上って喜ぶというのは
非常に危機意識の薄い行為であると言わざるを得ない。野生を忘れた人間の愚かさか。
む、僕はすることが無い。高所からの景色を堪能するような趣味は僕には無いしな。
沈黙に包まれた密室に時折切られるシャッターの音だけが響く。気まずいな。
そういえば、このような狭い空間に西崎と二人きりか。
どこかで観察している対馬たちが不埒な想像をしてさぞや喜んでいることだろう。
だが僕を甘く見るなよ。貴様の卑劣な姦計に嵌ってやるほどお人よしではない。
どうせ罠を張るなら姫や鉄先輩でもセッティングしてみろ。
相手が西崎では僕の理性は微動だにせんぞ。ふふっ。って……あれ?
ふと、西崎に視線をやったとき、奇妙な感覚に襲われた。
真剣な、それでも楽しそうな表情でシャッターを切る西崎の姿。
鼓動が早くなっている気がする。体温が上昇している気がする。顔に血液が集まっている気がする。
に、西崎では僕の理性はっ・びびび微動だにしない、筈、だと思う……。落ち着け村田洋平!
深呼吸深呼吸、深呼吸っ! このままではいかんな。何か話さねば。


僕は気になっていたことを訊ねてみることにした。
普段ならば絶対に訊けない。自分の下らんプライドが邪魔するから。
この状況が言わせているんだと自分を納得させる。僕はあくまで平静を装い、
「西崎、
「くー?」
「楽しいか?」
「くーくー♪」西崎は屈託無く笑った。
「そうか。……なぁ、訊いてもいいか?」
「なあに?」
「お前、まだ僕のことを怒っているか? 邪険にしたことを気にしていないか?」
西崎は少し俯いて考える仕草をした。そして顔を上げると真剣な表情で言った。
「……たしかに、あのときは、かなしかったし、少しだけおこってた、けど。
……いまは、もう全然おこって、ないよ」
あの口下手な西崎にしては随分しっかりと答えた。これは本当に気にしていないのだろう。
ここで僕が意地を張っても意味が無い。ずっと言いたかったことを言おう。僕は頭を下げた。
「すまなかった。一応謝っておきたかったんだ」
「くー♪」西崎はにっこりと微笑んだ。


それから一通り遊園地を回り、僕もそれなりに楽しい時間を過ごした。西崎は終始笑顔だった。
松笠の駅を降り、公園の方へふたりで歩いていく。これまでよりも随分会話が弾んだ。
ふむ、悔しいがこれは対馬に多少感謝せねばなるまいな。報復のレベルを一段階下げてやるとしよう。
だが、平穏な時間は粗野な声に邪魔された。
「よう、村田じゃねーか」
振り返るとガラの悪い男が立っていた。
「勅使河原……」厭なヤツに会ってしまった。
竜鳴館の宿命のライバル、虎咆館拳法部の二年生エースだ。
全国でも指折りの実力者だが、粗暴な性格で素行もよくないと聞く。
「練習もしないで女とデートか?」勅使河原は下卑た笑いを浮かべて言った。
「そ、そんなのではないぞ」僕は慌てて否定する。してから、しまった、と思った。
そっと西崎の顔を窺うが勅使河原への怯えのほうが優先しているらしく、僕の後ろに隠れるように一歩下がった。
「ふん。どうでもいいけどよ、次の大会ではちょっとは健闘してくれよ。
この辺じゃもう相手になるヤツがいないからな。退屈でしょうがないんだ」
余裕の表情で言う勅使河原。だがこいつはその余裕に見合うだけの実力を持っている。僕はこいつに勝ったことが無い。
「ところで、デートじゃないってんならそこのカノジョ借りて行ってもいいだろ」
言うが早いが勅使河原は西崎の腕を掴んだ。
「くー!!」
「や、やめろ勅使河原!」僕は思わず叫んだ。
「あん? 引っ込んでろよ村田。痛い目に遭いたくねーだろ」
「う」勅使河原の眼力に思わず怯む。


「くーくー!」
「いいから、こんなヤツ放っておいて俺と来いよ」勅使河原は西崎の腕を強引に引っ張る。
「くぅー!」西崎の顔が不安と苦痛に歪んだ。
「なんだお前ちゃんと喋れないのかよ」
「やめろ」言いかけた途端、顔面に痛みが。鼻血だ。殴られたと気づくまでに時間が掛かる。拳が、見えなかった。
「くー、よー、へー!」
「この女、知恵遅れか?」からかうような勅使河原の声。
ぷつ。
「くー!」
「くーばっかりじゃなくて何か言えよ」
「くーっ!」西崎が助けを求めている。
ぷつ。あれ、さっきからなんだこの音。……ああ、僕の中から聞こえる。
これがうわさに聞く堪忍袋の緒が切れる、という現象か。
「くー……」
「まあいいや。とにかく来いよ!」
ぷちぷち。
おい、西崎を侮辱するな。それ以上言ったら……。
「おいこら、抵抗すんなショーガイシャ!」
ぶちんっ!
「……ころすぞ」
「あ? 村田、今お前何か言った?」勅使河原がこちらを睨む。今度は怯まない。
「殺す、と言ったんだ勅使河原!」
やれやれ。こんなところでよりにもよってこんなヤツ相手にキレるなんて。難儀だな。僕らしくも無い。
だが、ここは譲れない。許せない。……対馬。今ならお前が僕に挑んできた気持ちが、少しわかる。


対馬の気持ちの次は、サンドバッグの気持ちがよく分かった。
もう十分近く殴られ続けている。一方的に。時折僕のパンチやキックもヒットするが焼け石に水だ。
「どうしたよ村田! オレを殺すんだろ!? 早くやって見せろ!」
勅使河原は容赦なく打撃を浴びせる。はっきり言って顔の感覚が無くなってきている。
意識が朦朧として、立っているのが不思議なくらいだ。
僕の脳裏には以前鉄先輩が言っていた言葉が鮮明に思い出された。
『いかに強い力を持っていても自分の為にだけ使っていては本当の力ではない。
他の誰かの為、誰かを守るために使ってこそ初めて力は力たりうるのだ』
「くぅー! よーへー!!」西崎の叫び。
僕は渾身の力をこめて拳を振りぬいた。そう。自分のためではない、西崎を守るための拳。
そのストレートは勅使河原は顔面に当たった。
しかし、僕のその一撃はヤツを多少怯ませただけに過ぎなかった。
次の瞬間、僕は顎に凄まじい衝撃を受けていた。アッパーだと分かった時にはすでに僕は地面に横たわっていた。
「ふん、手間掛けさせやがって」
勅使河原は西崎に歩み寄っていく。西崎は後ずさる。
やめろ西崎に手を出すな。僕は声にならない声を振り絞ったが誰の耳にも届かない。
「よー、へー!」
勅使河原の手が西崎の腕を捉えた。
と思ったとき、雄叫びとともに何かが飛んできた。「村田ぁーっ!!!!!!」
「対馬!」
飛んできた対馬は勅使河原に飛び蹴りをくれると、西崎を引き剥がした。
「つしま、くん!」勅使河原から逃れた西崎は対馬に駆け寄る。
「俺より村田のところに」
西崎は頷くと僕の傍にしゃがみ込んだ。
「誰だ、てめぇ」コイツはあの蹴りでも大したダメージは受けていない。
「誰でもいいだろ」対馬が勅使河原と対峙する。「派手にやられたな、村田」
「う、るさい、大体今まで何してた。ずっと僕たちを監視してたんだろ?」
「最初はそのつもりだったけどな。途中で飽きたんで乙女さんと水族館行って、随分前にこっちに帰ってきてた」
「それ、ただのデートじゃないか!」
「結果的にはな。でもまあ一応気になったんで出てきてみればこの状況だ。
久々にテンションに流されてでしゃばったけど、ちょーと早まったかも知れんな」
そのとおりだ。対馬では、勅使河原には勝てん。


二個目のサンドバッグは無様に吹き飛ばされた。
「どうした、威勢よく飛び込んできた割には大したことねーな!」当然だ。対馬は武術の素人だ。
「つしまくん!」
「あー平気平気」
「本当に大丈夫か!?」
「やっぱダメかも。実はもう立てそうも無い」対馬は鼻と口からドクドクと血を流しながら言った。
「何しにきたんだお前は!」
「まぁ、そういうな。こっちには最後の手段がある」
「最後の手段だと?」
「そう、最強にして最後の大技。出来るならばこれは使いたくなかったがな」
「ほほう。面白いやってみろよ。チャカでも出すのか?」勅使河原が愉快そうに言った。
「ふ、拳銃以上だ。……乙 女 さーーーーーーん!!!!」いきなり対馬は叫んだ。
みんなあっけにとられた。
「なんだそりゃ!」僕は脱力してしまった。だが、次の瞬間僕の目の前に現れたのは!
「ほほう、コイツが敵か、レオ」
エプロン姿の鉄先輩が仁王立ちしていた。
「お前は、鉄!」勅使河原が驚愕している。
「勅使河原だったかな。相変わらずろくなことをせんな」
「……ふん。ちょうどいいぜ。大会で貴様に敗れた井上先輩のカタキを討たせてもらう」
「か、カタキって、殺しちゃったの。乙女さん!?」対馬がガクブルしている。
「バカを言うな。殺すわけ無いだろう」
「負けた腹いせに俺たちに特訓を強要するんだ。いい迷惑だぜ」
「八つ当たりだな。まあ今はそちらの事情は関係ない。
……私の可愛い弟をボコボコにしてくれた報い、受けるがいい!」
鉄先輩が構えを取った。右足を引き、重心を低く、腰に力を溜めるようにする。
「あの構えは!」
「知っているのか、村田!?」
「前に一度だけ見たことがある。あの一撃で暴走ロードローラーを止めていた」
「またムチャな技だな」
「来いや、鉄!」身の程知らずにも勅使河原は受けて立つつもりらしい。すぐに、上には上がいることを知るだろう。
僕たちは技の発動を固唾を呑んで見守った。
だが、鉄先輩の必殺拳は炸裂しなかった。その前に勅使河原が吹っ飛んでいったから。


「だらぁーーーーーッ!!!!」
「おぶぉッ!!」勅使河原は数メートル先まで飛ばされていった。
僕も対馬も鉄先輩も、呆然としている。いきなり表れて勅使河原を蹴り一撃で吹き飛ばしたのは伊達だった。
「スバル!」
「ようレオ。フカヒレから連絡もらってな。お前がピンチだって」
「そ、そうか」
「さて。どこのどなたかは存じ上げませんが、よくもオレのダチをボコってくれたなゴルァ!!」
そのあとは伊達による一方的な人体破壊ショーだった。
ものの数分であの勅使河原が泣きながら許しを請うていた。それでも伊達は容赦せず、死なない程度に攻め続ける。
「もういいだろう伊達。その辺にしておけ。ソイツはもう起き上がれん」
「ちっ。乙女さんがそういうなら。命拾いしたな」ようやく伊達は攻撃をやめた。
血達磨、ボコボコ。辛うじて人のカタチを保っているといった風情の勅使河原は力尽きたように動かなくなった。失神したのだろう。
ちっとも命拾いしていない気もする。
対馬は鉄先輩と伊達に支えられながら立ち上がった。
「あり、がと。つしまくん、だてくん、くろがねせんぱい」
西崎の礼に対馬たちは笑顔で応える。そしてそのまま帰っていった。
皆を見送り終えた西崎がこちらに駆け寄ってくる。
「よーへー!」僕にすがりついてきた。「だい、じょうぶ?」
「あまり、大丈夫ではな……」あれ、なんかつい最近もこんなやりとりをしたような。
「くぅー」西崎は心配そうに僕を見つめている。
「いや、大丈夫だ。大丈夫だとも。それよりお前もケガはないか」
「うん。ありがと、よーへー」
「僕は何もしていないぞ。何もできなかったんだ」
西崎はふるふると首を振る。
「よーへー、わたしを守ってくれた。わたしのためにおこってくれた」
西崎は僕の首に抱きついた。
「洋平、ありがとう」
瞬間、全身を苛んでいた痛みが消えたような気がした。鉄先輩の言葉をもう一度思い出した。
……僕の力を誰かのために使うというならば、西崎、お前を守るために微力を尽くそう。
僕はお前の盾となり矛となれるように。


(作者・名無しさん[2005/10/09])

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