彼女は呆然とたたずんでいた。
キッチンにごちゃごちゃと食材が乗せられている。
いや、それが食材と判別できるかどうかが際どい。
元食材、と言ったほうが良いかもしれない。
右手に包丁、腰にエプロンをしていることから、
つまりこれは料理の結果である。
今晩の献立はシチュー。そう、シチューなのだ。
だがいざ実際調理してみると、出来上がったモノは
『前衛的なシチュー』である。
いやまて。前衛的とは何だ。自分が知っているシチュー
とは、少なくとも固形物ではない。
包丁を置き、自分の両手をまぢまぢと見る。
どこをどう調理したら倒壊したビルのようなシチューが
出来上がるのか、全くの不明であった。
いや、原因不明などと嘆いている場合では無い。夕食は
彼女が作る。それが彼と交わした約束であった。
彼は「俺も手伝うよ」と言ってくれたが、彼女は頑として
「料理は女が作るものだ」として譲らなかった。
前時代的な台詞ではあったが、彼女は純粋に料理を奮いた
かっただけだった。
時計が6時を回った。まずい、もう少しで帰ってきてしまう。
未だに何一つ料理が出来ていない。
結局いつもこうなのだ。時間ギリギリまで粘っても、最後は
オニギリになってしまう。これでは妻℃ク格ではないか。
玄関から「ただいまー」と声が聞こえた。
彼が帰ってきてしまった。もうこれではどうしようも無い。
料理の残骸くらいは片づけてしまいたかったが、それももう
無理だ。鼓動が早まり、冷や汗がダラダラと流れる。
トテトテと足音がする。こちらへと向かってきているようだ。
乙女は両手をギュッと握り締め、夫を待った。


「〜〜〜っ!!???」
布団を跳ね上げ、思わず身を構える。完全に戦闘態勢である。
周りの気配を探る。後ろに気配を感じ、飛びずさりながら
視界にいれる。
「・・・・・レオ」
視線の先にいたのは対馬レオ―――彼女が愛する男である。
そういえば一緒に寝ていたなと彼女は呟く。
気分がようやく落ち着いてきて、先ほど自分が慌ててしまった
原因を彼女は思い返す。
「・・・・・・こいつが原因か」
寝ているレオの頬をプニュゥと引っ張る。彼女にしては珍しく
八つ当たりである。
「まったく・・・私だって、好きで料理が下手な訳ではないのだぞ」
ため息をつく。そうしたことでどうなるという訳でもないが。
レオの頬を突つくのをやめ、再びベッドへと入る。
すやすやと寝入る愛しい人を見つめ、彼女は思わず微笑む。
「必ず、心から美味いと言わせてやる。覚悟しておくことだな」
そう呟き、彼女は自分の恋人を抱っこして眼をつぶる。
どういう関係になろうとも、乙女は乙女であった。


(作者・9/K0rhtc0氏[2005/10/02])

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