いつも通りに乙女さんに起こされ、カニを起こし、遅刻ギリギリで登校し、祈先生は
遅刻してそれに対してカニがツッコミを入れ、土永さんから「我輩が原宿の歩行者
天国で竹の子族と化していた時にな…」とツッコミ所が多すぎて逆にツッコメない話
を聞かされ、その後は無難に授業を受け、フカヒレをいじり、佐藤さんのパンツを
拝み、今日もいつもと変わらずに終わるんだろうと思っていた日、授業終了後の
HRに祈先生の「対馬さんは、ホームルームが終わったら生徒指導室まできてくだ
さい」という一言から、俺の悪夢が始まった。


「えっと、俺何かしましたっけ。特にここ最近は平穏に過ごしているつもりですけど」
何より今 は家に鉄の風紀委員もいるし
「ゴチャゴチャうるせぇぞ小僧。祈は教師でお前は生徒。お前は祈の言うことに対
してハイというだけでいいんだ。余計なことは考えるな。例えば、祈が飛べと言った
らお前は『どの高さま で?』と応じろそれが正しい生徒のあり方だ」
「あらあら、土永さんはスパルタですわね」
 スパルタとか言う以前にいろいろ間違ってると思うが…
「まあ、場所が場所だけに警戒なさるのも無理ありませんが別に何かを咎めるということではないので安心してください」
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン
「では一緒に参りましょう。着いてきて下さいな」
 ちょいちょいといった感じで手を招いている祈先生(何か楽しそう)
 悪い予感がしてきたがこの状況では逃げるすべは無いので、腹を決めた。
「はい」
 とだけ答えて祈先生についていく。


一方教室では、
「よし、盗み聞きしに行くぞオメーラ。」
「おうよ」
「オレはパス」
「なんでさスバル」
「特に問題を起こしてナントカって話じゃないみたいだしまた今晩集まってから聞い
ても 遅くは無いだろ。オレは部活行くわ」
「そうだけどさ。何か気になんじゃん」
「そうだぜスバル、他所と比べて行事の多いリュウメイにおいて行事の無い期間の
退屈はこうゆうところで解消しないと欲求不満が溜まって漏れちまうぜ」
「オレはお前らと違って欲求不満をぶつける所があんの。それにレオが困ったことになるってんならそんときは全力で力んなるし、そもそも今行ってもたんなるデバガメだぜ?」
「そうかい、んじゃ俺達だけで行ってくるわ。ってカニのヤツもう先にいってるし、俺も行こうっと」
「やれやれ」


「初めて入ったけど、何か小奇麗と言うかあんまりつかってないさそうというか」
「基本的に生徒の指導は風紀委員が行いますし、限度を超えた方はもれなく島流しですから」
「なるほど」ナットク
「土永さん見張りお願いします」
 見張り?
「わかったぜ祈。おい小僧二人きりだからといって祈に変な真似すんじゃねーぞ。
そんなことをすればお前の体に俺の名を刻むことになる」
「鳥類風情が見損なうな。男としてそんな情けない真似はしない」
「フン、いいやがる。ヒヨッコが」
 オウムが出て行った。
「で何なんですか用事は?」
「まあ取りあえずこれを食べてからお話しましょう」
と言って祈先生が机の上にお菓子を並べる。と言ってもいつもの駄菓子ではなく
少しいびつな形をしたクッキーだった。そのうちのひとつを摘み上げて聞いてみた。
「これってひょっとして手作りですか?」
祈先生は少し頬を赤らめて
「ええ、なんとなく手遊びに作ってみたのですけれど、私だけではとても食べ切れな
くて、かといってクラス全員に振舞える量でもなかったのでそれで…」
そこまで聞いて胸が鼓動を大きくしだした。いやいや、テンションに流されるな!
とはいえ祈先生にそこまで気に入られていると言うのは悪くなかった。
「それで、どうしようか迷って卦を立ててみたところ『対馬、最も善し』と出ましたので
対馬さんにこれを振舞うことになったと言うわけですわ」
ガンッ
思わず机に頭をぶつける。俺のドキドキを返してくれ。占いの結果かよ!
「どうかなさいましたの?」
「いえいえなんでもないです。感激のあまり勢いがついたみたいで」
「はぁ、そうですの」
しかし、考えてみれば占いの結果とはいえ貴重な祈先生の手作りクッキーが食べられると言うのはラッキーじゃないか。ここはきっちり味わって後でフカヒレに自慢してやる。
「じゃあ早速いただきます」
「はい、召し上がれ」


「じー」
「あの、見られてると食べづらいんですけど」
「いえいえ、お気になさらず。そうそう、飲み物を忘れていましたわ」
と言うと胸の谷間から細長い水筒を取り出す祈先生。思わず目がいってしまう。
この胸の谷間は強力だ。
「対馬さん。どこ見てらっしゃいますの?」
「す、すいません」
今回に限ってはスケベ心というよりも感心したというのが強いが、
てゆうかあの胸は○次元ポケットかなにかか?大人の女って不思議
「ハイどうぞ。紅茶ですわ」
そんな俺の内なる葛藤などどこ吹く風で俺に紅茶の入ったコップを渡す祈先生。
「ども、じゃあ遠慮なくいただきます」
相変わらず、先生に注視されていたがともかく俺はクッキーを食べてみた。
うん、ちょっと警戒していたが、ちゃんとおいしい。というかかなりいける。
占いの結果とはいえ、まだそう年の離れてない美人の先生による手作りクッキー、
嬉しくないはずがない。ついついパクパクと勢いよく食べていく。
紅茶も竜宮に有るものほどではないものの十分においしい。
「お味は如何ですか?」
「すごくうまいです。祈先生料理上手なんですね」
「そう、よかったですわ。では、全部食べちゃってくださいな」
「あれ祈先生は食べないんですか?」
「ええ、私はもう食べましたから遠慮なくどうぞ」
そういわれてもう粗方食べていたが残りのクッキーも食べる
「気持ちいい食べっぷりですわね。紅茶もあと少しなので、全部飲んでくださいな」
そういってニコニコしながら水筒を差し出す祈先生。
何でこんなに上機嫌なんだろうと思いつつも紅茶を飲み干す。
ちょうどいい具合に腹が膨れた。食べ終わって
ふと、ここには用事があって呼ばれたのだと思い出す。
「あの、結局ここに呼ばれた用事って何なんですか?」
「もう終わりましたわ」


「は?」
「だから、そのクッキーと紅茶を飲ませることが私の用事ですわ」
「?俺に食べさせる為に焼いたってことですか?」
「それは占いの結果。私の目的は、そのクッキーと紅茶をすべてたいらげせること
ですわ」
なんとも腑に落ちない会話の途中、俺は自分の体の違和感に気づいた。
なんだか体が熱い、それに胸がやたらドキドキする。
「あの、何か変なものでも入れたんですか?」
「いえいえ、いたって普通のクッキーの材料ですわ。
他にはおいしく作ろうと言う情熱と
私がこの間開発した呪術しか込められてませんわ」
「……………なんですと」
「ご心配なく毒ではありませんし、痛みなどもなくすぐに済みますわ」
そうしている間もどんどん動悸が激しくなってくる。
「いっ…た……い…なに…を」
「それは後でのおたのしみ、ですわ」
体中が熱い。確かに痛みなどはないし不快感もないが、
突然言い知れぬ不安感に襲われて大声を上げた。
「うああぁぁぁ!!」
その直後目の前が真っ白になり、薄れ行く意識の中
「レオーーーーー!!!」
カニの声が聞こえた気がした………


その少し前、生徒指導室前
「チッ、あのインコがいやがる」
「どうするよ。土永さんをなんとかしないとどうもできんぜ。」
「んなこたーわかってんよ。さてどう殺ろうか」
「なにぴりぴりしてんの?」
「だってレオ、祈ちゃんと二人きりだぜ?あいつヘタレだからちょっとした拍子に
襲っちまうかもしれねーじゃんか、ボクは幼馴染として身内から犯罪者は
出したくないわけデスよ。しかしどうしようかあのインコ。
フカヒレ三等兵、何か案ない?」
「てめ、言うに事欠いて三等兵かよ!」
「称号の前に『お笑い』を付けないのがボクの慈悲」
「ムカツクカニめ!後で覚えてろよ」
「いいからとっとと案だせよ。なけりゃ、三等兵によるインコへの特攻な」
「てめーはあのクチバシの恐ろしさを知らんからそんなことが言えるんだ。
ん〜どうすっかなー………」
「おっ!いい作戦が浮かんだぜ。これならいける!」
「そう言われて全く期待感がねーのもフカヒレぐらいだな」
「うるせぇ!まぁ見てろって」
「どうした小僧ども、この扉の向こうへは通行禁止だぜ。
それとも我輩と一戦交えるか?」
「いやいや、そんなことはしませんよ?
ここに来たのは乙女さんに言伝を頼まれたですよ。
『二人きりで話したいことがある竜宮の裏でまっている』とさ。
何かそれこそ恋する乙女って表情だったぜこの色男!」
「なんと!いやしかし、我輩はここの見張りを祈から頼まれているし」
「それならオレが代わるからさ祈ちゃんにもいい様に言っておくし。
女をあんまり待たせるもんじゃないぜ」
「むっ、確かにではここは頼んだ」バッサバッサ
「うまくいったぜ」
「やるなおめー。あっ、けど」
「なんだよ。」
「いや、別に」(乙女さんをダシにして嘘ついたのばれたらこいつ乙女さんに殺されるな)


「ん〜イマイチ何も聞こえねーな」
「そこまでは俺も責任はもてない」
「何か集音マイクか盗聴器でも持ってね〜の?」
「おまえは俺を何だと思ってるの?」
「そりゃおめ〜、ただのへんた……」

「うああぁぁぁ!!」

「今のレオの声だよな」
フカヒレがそう言うが早いか既にカニは生徒指導室の扉を開けて中に飛び込んでいた。
「レオーーーーー!!!」
ソファーに座り、苦しそうにしているレオを見つけ駆け寄るカニだったが
「いけません!」
祈がとっさにカニを止める。
「放せ!放せよ!レオッ、レオッ!」
「今、他者の干渉があっては術が安定しなくなってしまいます。
対馬さんを死なせたくはないでしょう?」
言ってる意味は良くわからなかったが、『死』と言う単語を聞いて
取り敢えずの抵抗がとまる。
「安心なさいな。何もしなければ命にかかわるものではありませんし、
もうすぐ術が安定しますから。蟹沢さん、そんな怖い顔でにらまないでくださいな」
「で、祈先生。何したんですかコイツに?」
「対馬さんは私が開発した術の実験台になってもらったのですわ」
「術?」
「ええ、ほら、もう効果が出始めましたわ」
そう言われて、祈をにらんでいたカニも視線をレオに移す。
「なっなんじゃこりゃ〜!!!!」
フカヒレと見事にハモッた。そしてその視線の先には………


「う……ン…」
目を開けると見知らぬ天井が見えた。ドコだここ?
どうやらソファーのようなものに横になってるみたいだけど。
「レオ…」
「カニ?どうしたそんな妙な顔して、またなんか拾い食いでもしたのか?
ていうかフカヒレは何でそんな魂抜けたみたいになってんの?」
そういいつつ目がある人物を捕らえる。祈先生?
 そうだ!俺は先生の実験に…思わずソファーから飛び起きる。
「祈先生!! 俺に何したんですか!」
「百聞は一見に如かず、ですわ」
そういって目の前に鏡が置かれた。俺の顔?確かに俺の顔だけど何か印象が違う、
何というか妙に幼いというか…顔に手を当てる。小さくてやわらかい手、いつもと違う感触。
ソファーから立ち上がってみる

ストン!

ズボンとパンツが抵抗もなく落ちる。あわてて隠そうとしたが既にシャツで隠れていた。
不審に思いながらもそれでもイソイソとズボンをはき直す。
ベルトを限界まで絞ってやっと安定する。
「んーとな、レオ」
俺が立っているのに目線が同じなカニが口を開く。
「オメー縮んでる」
「縮んでると言う表現はアレですけど…簡単に言えばショタッ子になったんですわ。
んー若返りの秘術成功、成功! ですわ」
その言葉を最後まで聞くか聞かないうちに今度は目の前が暗くなった。


「う……ン…」
目を開けると見知らぬ天井が見えた。ドコだここ?
どうやらソファーのようなものに横になってるみたいだ。
「はい、はーい。ループしないでくださいな対馬さん」
パンパンと祈先生が手を叩く。感覚がはっきりしてくる。
だぼだぼのシャツとズボンの感触…
どうやらさっきまでのは夢じゃないみたいだ。念のためほっぺたをつねってみる…痛い。
「夢じゃありませんわ。少なくとも私達以外に2名証人がいますし」
そういって祈先生はカニとフカヒレを指差す。
フカヒレはまだ魂が抜けたみたいになってるけど、カニは何だか嬉しそうな顔だ。
「何かなつかしーな…子供のころを思い出すぜ」
なった当人はそんな気楽なもんじゃないんだが…
取りあえずカニは後回しだ、祈先生に聞いておかなきゃならない事がある。
「俺もちろん元に戻れるんですよね?」
「ええ、それは大丈夫ですわ。ただ…」
「ただ、何ですか!」おもわず勢い込む。
「落ち着いてくださいな。ただ、すぐに戻る事が出来るわけではありませんわ。
細かい説明は省きますけれど、今回の術は
対馬さんの内面にあるエネルギーを使って行ったもので、それが回復するまでは
どうしようもないんですの」
「で、どれぐらいで回復するんですか明日ぐらいには大丈夫なんですよね?」
「一年ですわ」
また目の前が暗くなりかける。
「じょーだんでーすわ〜。大体一週間位です」
ちょっと殺意が沸いた。
「今はホントそういう冗談やめてください」
それでも十分長いが、まだ我慢できる長さだろう。多分…


「そうだぜ祈ちゃん。レオはこう見えてもヘタレでナイーブなんだから。
まぁあれだ元に戻んなくてもボクが幼馴染として責任持って飼ってやるから安心しなよ」
「微妙にヤバイ事をサラッと言うな」
「ま、それはいちおー冗談にしとくとして、どうするよレオ。
そんだけ縮んじまったら服とかどうすんだ?そのまんまじゃきついだろ」
たしかに取りあえずの問題はそれか…さすがに昔の俺の服なんかないだろうし、
一週間で戻れるなら買うのはもったいないし、今の服を詰めるのもめんどくさいな……
などと考えているとカニが
「レオちょっと立ってみ」
「なんだよ?」
「いいから、ホレ」
取りあえずソファーから立ち上がる。身長が同じぐらいになったのでカニとの距離が近い。
思わず動揺する。相手はカニ、カニなんだ!しずまれ心臓!テンションに流されるな!
と、カニが俺の肩や腰を触りだした。思わず身をよじる。
「おとなしくしろっての!ま、大体わかったからいいけどさ」
「身長はボクの方がちょっと高いくらいでほとんど同じだし…大丈夫そうだな…」
「何の話だ?」
「ボクの服をレオに貸してあげる話」
「WHY?」
「発音が悪いですわ対馬さん」
「何でそういう話になるんだ?」
「そりゃ今のままじゃ不便だろ?…ボクはレオだったらいやじゃないし、
男の子が着てもおかしくない服も持ってっから心配すんな。甘えとけ!ショタッ漢(こ)」
「それはそれは壮絶な呼称だな」
ま、カニの服ならセンスはいいはずだし、親切な時は親切だから変な事も考えてないだろ。
出費が抑えられるならその方がいいし、ここはカニに頼るか。
「んじゃ、頼む」
「おうさ」
「無視されましたわ〜」
部屋の隅で祈先生がすねていた。


その後祈先生は、館長には許可を貰っており戒厳令がしかれるから
学外にこの事がもれる事はないので心配しないでいいということと、
私服での通学許可をもらっておくとだけ言って去っていった。
まぁ学外にもれるもれないで困るのは祈先生だと思うが…
 その後、竜宮には寄らず帰宅した。帰宅途中で
フカヒレが乙女さんと土永さんに半殺しにされたぐらいで誰にも会わず帰宅できた。
乙女さんはそれほど驚いてなかった。何か目が輝いてたけど…
 その後夜になるまでカニによるレオファッションショーが開かれ、
なぜかやたら早く帰宅してきた乙女さんも加わり着せ替え人形にされた
夜はスバルの『マジで坊主になっちまったな。ま、何になろうとオレにとってレオはレオ。
ちゃんと戻れるみてーだしこんな経験も面白いんじゃね?
とにかく何かあったらすぐに言え、力になるからよ』
という言葉に友情を再確認したかと思えば、
みんなが帰った後風呂に入る時に乙女さんが
『ちゃんと洗えるか?お姉ちゃんが背中を流してやろう』と背中を流され、
寝る時にも
『いきなりそんな体になって不安だろう?お姉ちゃんが添い寝してやるから安心しろ』
と一緒に寝る事になった。この異常事態で疲れてたのか
乙女さんの添い寝で安心したのかは知らないが、俺はすぐに眠りに落ちた………


「起きろレオ、朝だぞ」
「うーん…あと五分…」
「駄目だ。さっさと起きろ。…とはいえこの姿のレオに蹴りを加えるというのは
さすがにためらいがあるな。……しかたない」
乙女さんが俺の体を揺すりはじめた。かえって眠くなるかも…と思ったのも束の間
すごい勢いでシェイクされ始めた!!気持ち悪ィィィ!!!
「おおぉぉきぃまぁぁすぅぅ…とぉぉめぇてぇ」
「ふん、最初から起きていればいいものを…さすがに今のお前に暴力は振るわんが、
お姉ちゃんは甘やかすだけではないぞ?そもそも私はこうみえて体育会系だからな」
酔った…けどこのままベッドにいると何されるかわからんので頑張って這い出た。
「なんだフラフラして?普段より足元がおぼつかないぞ。…ほら、手を貸してやろう。
っと、なんだか危なっかしいな。体格が小さくなった影響か?…ええい、仕方のない奴だ。今日だけ特別だぞ」
なんだかブツクサ言ってたかと思うと乙女さんは俺をお姫様だっこの状態で運び出した。
抵抗したかったが、まだ酔ってたのでされるがままに洗面所まで連れて行かれた。


「ほら、ちゃんと顔を洗ってシャッキリしろ。
 ……私はもう登校するがちゃんと朝ごはんを食べて、蟹沢も起こしてやるんだぞ。
 面倒くさがって一人で来ようとするなよ。昨日のお前を見るにつけ
 まだその状態になじんでいないみたいだからな。常に誰かといたほうがいい。
 じゃないと危なっかし過ぎるからな。コラ、顔をよく洗ったのはいいがちゃんと拭け。
 髪がまだ濡れている。ああもう、タオルを貸せ……ん、綺麗になった」
「アリガト」なんだか照れくさくなってカタコトになる。
 しかし、乙女さんが優しくて心配性なのはわかってたが、コレほどとは…
 イヤな気はしないが照れくさくて恥ずかしい。
 その後も心配のタネがつきない乙女さんを強引に送り出し、朝ごはんを食べる事にした。
 今の俺がちょうど食べ切れるぐらいのおにぎりの数を見て、
 あらためて乙女さんに感謝する。
 近しい人がちゃんと自分を見てくれているってのは幸せな事だと思った…
「と、もうこんな時間か、カニ起こしにいくか…
 ってお姉さん(カニの母)に事情説明してねーよ。
 まぁ大丈夫か、あの人なら多少の事には動じまい…
 とにかく起こしに行くか」
「お姉さん、おはようございます」
「良かったら嫁にもらってくれない、アレ?」
「ブラジルの主用言語はブラジル語と答えるような娘はちょっと」
「そうよねぇ。私がオトコでも絶対イヤだもん」
「…もう少し驚かれると思いましたけど」
「いやね、昨日出涸らしが誰も聞いちゃいないのにレオちゃんがそうなった事を話してたのさ
 内容が内容だけにとうとう出涸らしが……とか思ったんだけど………
 現物見たら信じるしかないさね」
「ちょっとぐらい話聞いてやってくださいよ」
「やだよめんどくさい。それよりも早く起こしてやって」
 微妙にカニを不憫に思いつつ、カニを起こし、
 こちらも準備をすませたて二十分後カニと合流し学校へ向かった。


「そういや、レオ」
「なんだ?」
「オメー逆境にはとことん弱いくせに今度はけっこう落ち着いてるね」
「さすがにここまでどうしようもないとな。
 コレが女になったとかならもっと慌ててただろうけど…」
「うわ、女レオ…キモチワリィ」
「ま、確かに俺もゾッとしないな。けど…」
お前よりは女っぽくなるだろうな。と続けようとしたところに後ろから声が掛かった。
「おはよー。カニっち…と……そのコ誰?」
ちなみに俺の格好は、カニから借りたスポーツシューズとTシャツにショートパンツ、
鞄はカニと同じく背負うようにした為、より小学生っぽくなっていた。
「オハヨ姫。コイツは姫も知ってるヤツだよ当ててみ?」
にやにやしながら姫に言うカニ。姫の顔がこっちに近づいてくる。
姫が大きくなったわけではないはずなのに以前よりも大きく感じ余計に姫の顔を意識する。
途端に赤くなる顔。思わず姫から目をそむける。
「ん〜。確かにどこかで見たような……ていうか今のリアクション………対馬クン?」
「せーかい!! 祈ちゃんに変な術かけられてこんなんなっちゃったレオでしたー……
 って、姫?」
「ぬかったわ。そんな事が出来るなんて…
 ていうか元のムサイ姿を知ってるだけにギャップがすごいわね……
 くー、持ちかえりてー、持ち帰っていろんな衣装着せてイジリまわしてー」
何かブツブツ言ってる姫に危険なモノを覚えたので軽く挨拶だけして先を急いだ。
………「今日はいろいろ予定あるし…準備に時間も…明日は……イケルか。
ねぇ、対馬クン?明日学校が終わってから私の家に来な……アレ?」
霧夜エリカ遅刻確定


校門でひとしきり乙女さんにいじられた後、カニの予備の上履きを履いて教室に入るとなにやら

フカヒレが必死に説明していた。スバルは…寝てるみたいだ。
「だーかーら、ホントだっての!レオがまだ生えてなさそうな位のガキになったんだって!!」
「フカヒレ、オメ頭は悪いけどそんなすぐバレルウソつくやつだとは思わなかったべ」
「その必死さ加減は認めるケド、鮫永君だから余計に信じられないネ」
「やなぁ、フカヒレやからなぁ」
そんな何気にひどい会話が聞こえてくるが取りあえず自分の机に座りスバルに挨拶をする。
「オッス、スバル。もうそろそろ起きといた方がいいぜ」
「…ん……おおカニ、レオ。オッス…どうだ調子は?」
「まぁ、ボチボチ慣れてきたって所かな?慣れるよりも早く元に戻りたいけど」
「ま、そうだろうな。腰につけてた銘刀が待ち針になっちゃな……」
「う、人がなるべく意識すまいとしてたことを……つかそこまで縮んでないぞ?」
「だからオメーら女の子の前で、んな会話すんじゃねーっての」
…ん、視線が刺さる。気づけば周りはすっかり取り囲まれていた。
まぁ、さすがに説明は要るだろうな…
祈先生が早く来てくれたらその手間も省けるんだけど……
「おい、小僧どもホームルームを始めるぞ、さっさと席につきな」
ここで救世主土永さん登場、祈先生はまた遅刻か?
その後、土永さんから大体の事情が説明された。HRも土永さん主導で行われる。
「最後に…祈はしばらく学校を休む。その間の英語の課題はもらっているから
 しっかりやっておくように。では、我輩は祈のところへ帰る。
 以降、HRは橘平蔵が来る。あばよ、小僧ども…
 と、そうだ対馬レオ、祈からの伝言と渡すものがある。我輩と廊下に出ろ」


「で、祈先生の伝言って?」
土永さんはどこからともなく小ビンを取り出し俺に渡した。…器用な鳥類だ
「そのビンに入っている錠剤を一日一回一錠飲むように、今日の分は今飲んどけ…
 それで大体一週間を目処に元に戻れるという事だ」
「ん、わかりました自分のことなんで欠かさずに飲みます。ところで、
 祈先生はどうしたんですか?」
「人を呪わば穴二つ、という事だ。我輩からはこれ以上は言えん。じゃあな小僧」
いまいちよくわからなかった。が、取りあえずちゃんと戻れそうなのでほっとした。
その後すぐに一時間目の授業が始まった為、
クラスのみんなに囲まれるような状況にはならなかったのだが、授業が終わりいよいよ
質問攻めかという時にHRの時からずっといなかった姫が勢いよく教室に入ってきた。
まっすぐこっちに向かってくる。


「対馬クン!朝はよくも私を無視して先に行ったわね!こんな侮辱を受けたのは初めてだわ!」
「えっ、いやちゃんと挨拶はしたよ…」
「私は聞いてないわ!よって、私を侮辱した対馬クンには罰を与えます」
んな、ムチャな…とか思っている間に姫の手が俺に伸びてくる。思わず目をつむる…
…そのまま抱え上げられ……………次に目を開けたときは姫の膝の上だった。
「えっ、エッ、絵?」
「ふふふ、今の対馬クンにひどい事するわけないじゃない。
 けど、恥ずかしがり屋の対馬クンにとってちょっとした羞恥プレイにはなるかもねー。
 というわけで今回の罰は衆人環視の中でのネコ可愛がりよ。
 んー、なんか日向の匂いがするわー。いい匂いー」
と言って、俺の髪に顔をうずめながら姫が体をまさぐってくる。
ていうか背中に何かやわらかいのが当たってるんですけど…
つか、姫全身やわらけぇ!! あまりの出来事に思考が止まってしまう。
「対馬テメーゆるせねえべ」
「オオオオォォォ(血涙)」(フカ)
「アイヤ、なにやらイケナイ感じのする光景ネ」
「あー、けどウチもちょっとやってみたいかも…」
「オメー何にやけてんのよ?双子山か?その脂肪の塊にやられてんのかこのダボがぁぁぁ」
「レオ、テンションに身を任せるのもまんざらじゃねぇって顔してるぜ?」
「……………」
悲喜交々の感情を一身に浴びる。
が、こっちはそんな事を気にする事が出来る状態じゃなかった。
もう堕ちてしまいそうだったその時に2時間目を知らせるチャイムが鳴った。タスカッタ…


「チェッ、もう終わりかぁ。まあ、一気に楽しんでも面白くないわね。
 ここはおとなしく解放してあげる」
その言葉どおり、あっさり地面に下ろされる。ちょっと名残惜しかったが……
結局姫はその後は特に絡んでくる事もなかったのだが、
それよりも困ったのが、時間を追うごとに増えてくるギャラリーだ。
2年だけでなく、1年や3年の姿まである。
「…マジかよ」「わぁ、かっわいい」「半ズボンはあざとくね?」「むしろそれが…」
好き勝手に言われてるな…極力無視してスバルたちと話してはいたが、
どうにも通行の邪魔になってきているみたいだ。
「なんかスゲーことになってきたな。さすがに教室までは入ってこねーけど、
 ボクが蹴散らしてこようか?」
「カニ、お前が行くとややこしくなるからやめとけ。
 かといってレオが直接行っても余計にあおるだけだしな。
 しゃーない、オレが追っ払ってくるわ。これ以上ダチを見せ物にするのは気分ワリィし」
「すまん、スバル」
「いいっていいって、気にすんな、ダチだろ」
そういってスバルが立ち上がろうとしたその時


「お前達こんなところにたむろして何をしている!!ここは往来だ。通行の邪魔だぞ!」
凛とした声が聞こえてきた。この声は…
「乙女さんだ。これだけ騒がしかったら当たり前か。とにかく助かった。
 スバルに嫌な役させずにすんだしな」
「まったくお前ってヤツは…ま、オレはレオのそんなところにほれてるわけだ」
「だから、そういうのヤメレ」
そうしているうちに教室の周りの奴らを解散させると乙女さんは教室に入ってきた。
「ありがとう乙女さん。助かったよ」
「いやなに、お前の事が気がかりになってきてみれば正しく図に当たった、と言うやつだ。
 今後このようなことがないように風紀委員各位にも通達しておく、
 いくら私の可愛い弟を一目みたいといっても周りの邪魔になるのは許されん行為だからな。
 他にも何か困った事があればお姉ちゃんを呼ぶんだぞ。
 どこにいようがすぐさま駆けつけるからな」
俺の頭をなでながらそんな事を言う乙女さん。抵抗もなく上目遣いに「うん」とだけ答える。
「ああもう、本当に可愛いなお前は!!
っともうすぐ授業が始まってしまう…名残惜しいが…」
最後に俺の頬を軽く撫でて本当に名残惜しそうに乙女さんは帰っていった。
その次の休み時間は乙女さん効果もあってか、クラスメイトの質問攻めにはあったものの
特に問題なく過ぎていった。そんなこんなで昼休みの時間を迎える。


「さてと、昼飯だ。レオはどうする?大学食じゃ面倒そうだな」
「とりあえず飯はあるから、人がいなさそうな屋上か竜宮で食べる。
 正直、人の視線に晒され続けるのは疲れる」
「オメー、一人で大丈夫か?」
「大丈夫だって、体も馴染んできたしあんまり友達に迷惑かけるのもイヤだしな」
「ん、俺は別に迷惑じゃなかったよ?お前のおかげで女子の視線浴びてるような気になったし」
「俺は友達に迷惑をかけるのがイヤだって言ったんだぜフカヒレ」
「だからそこは否定すんなっての!…その調子なら大丈夫か、じゃスバル大学食行こうぜ」
「ああ……レオ取りあえずどっちで食うか決まったらメールくれや。
 後で行くかもしれねーし。じゃな、気ぃ付けろよ」
「おう、ありがとう……なんか、ますます俺の兄貴みたいだなスバルは…」
ある程度人の流れが落ち着くのを待ってから俺は屋上に向かった。幸いすんなりと屋上に着く。
少し暑いせいか人もいないようだ。と思ったら先客が一人いた。
「ん…椰子か。オッス」
「?…誰?」
「結構騒ぎになってるはずだけど、椰子のところまでは伝わってないのか?
 ……ああ、そういやお前友達いないしな」
「……潰すぞ…」
「ごめんなさい」
ちょっとビビリつつ事情を説明する。
「特に驚かないんだな…ていうか信じてない?」
「いえ、信じますよ。あたしにそんなふうに話すのセンパイだけですし…
 ただ、センパイがどうなろうと別に関係ないからリアクションとらないだけです」
「ん、そっか。まあとにかく俺もここで飯食うわ」
椰子から少し離れた所に座っておにぎりをパクつく、緊張して腹が空いていたのか
一気に平らげてしまった。椰子はまだ食事中だし、そもそも話しかけても返事ないだろな
とか考えながらボーっとしていると睡魔が襲ってきた。まだ時間があったので、
金網にもたれながら目をつむる……………


対馬レオが眠りに入った少し後、椰子なごみも弁当を食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
「センパイ?…寝てる。くくっ、子供になってもバカ面」
自分の望む静寂の時間を手に入れ満足気ななごみ。見るとはなしにレオをみていると
金網にもたれているものの身体がズレてきて顔から地面に倒れこみそうで危なっかしかった。
どうにも気になって仕方がない。
「チッ…この人は線の外側の人間なのに……世話の焼ける……」
……………

ん、なんか後頭部が熱い…というか硬い感触がする。なんか眩しいし……
目を開けると太陽が目に飛び込んできた。金網にもたれてたはずだが、いつの間にか
屋上の地面に仰向けに横たわっていた。太陽がまぶしいので身体を起こす。
「時間は…もうちょっとで昼休み終わりかちょうどいいぐらい寝たんだな」
「センパイ」
椰子の声が思ったより近くで聞こえたので驚いた。さっきはもっと離れてたはすだけど…
「ああ、椰子いたのか…ひょっとして俺が寝たからいてくれたのか?」
「自惚れもいいところですね。まあ、バランスを崩して地面とキスしそうな
 センパイを横に寝かせはしましたが…」
「そっか、サンキュな。ところでなんで正座してるの?足しびれないか?」
「あたしの勝手です。………っていうか誰のせいだと」
「まあそうだけど、って何かいったか?」
「いいえ、ところでもう昼休み終わりですよ。教室に戻った方がいいんじゃないですか」
「そうだな、椰子も早く戻った方がいいぞ。じゃ、また竜宮でな」
「行ったか………人の頭って重いんだな。足がしびれた」


その後授業は滞りなく進み、館長によるHRの時間になった。時間通りに来た館長は俺を見て、
「ふむ、儂もそこそこに起伏のある人生を送っていると自負しておるが、
 これほどに面妖な様を目にしようとは思っておらんかったわ。
 対馬よ。この経験を糧とし、より一層漢気に磨きをかけるがよい」
どう糧にすればいいのだろう、と考えながらも勢いよく「はい!」と返事をしておく。
「うむ!よき返事だ!皆も一層精進するように。以上!!」
かつてない速さで終了したHRに喜びと感謝を込め礼をする。
「ありがとうございました!!!」
「うむ、元気があって 実 に 良 い」
館長も大満足のようだったが、その時2−C全員の頭をよぎったのは、
これからも祈先生の変わりに館長がHRをやってくれないものか、という事だった……


「くしゅんっ」
「風邪か?祈。そんなナリでは、病院にも行けんから気をつけろよ。
 薬ぐらいなら我輩が買ってきてやるが…」
「いえ、どうやらだれかにうわさされているみたいですわね。
 たぶん、わたくしのことをしんぱいしたせいとたちでしょー。
 いつもあいじょーをもってせっしていますから」
と言って、私立竜鳴館教師大江山祈(23)と思われるものが胸を張る。
だが、その学校中の男子(時には女子も)を魅了している巨大な乳房はそこに無く、
見渡すばかりの大平原がそこにあった。というか、対馬レオのそれより幼い姿になっていた。
ぶっちゃけ、ロリッ娘と言うのもはばかられる様な幼女になっていた。
「まあ、どの口がそんな事を言わせるのかは知らんが……
 ともかくお前らしからんミスだったな、呪い返しにあうとは…」
「まったく、いっしょーのふかくですわ。もーこんなじゅつにどとつかいませんわ」
「我輩も衣類の調達までは出来んが、食料の方は何とかする。
 元に戻れるまでおとなしくしてるしかないな」
「そーですわねー。なるよーになりますわー」
自身の事なのに、もう既にどうでもよさそうな祈であった。
……………


「さて、昨日は帰っちまったから今日は竜宮に行かないとな。スバルは部活として…
 カニとフカヒレはどうする?」
「今日はライブの日だからな。悪いけど先帰るわ」
「うー、ボクはレオが心配なんだけど今日はボクがおごる番だから行かなきゃいけないし…」
「大丈夫だって、学校にはスバルも乙女さんもいるし…楽しんでこい」
「そだね。じゃーボクは行くよ。んじゃ、また夜な」
「んじゃオレも部活行くわ。そっちが早く終って先帰るなら連絡だけくれ。
 連絡なしなら部活終わった後にオレも竜宮に行くから」
「了解。部活頑張れよ……さて、俺も竜宮に行くか」
と教室を出たところでフラッシュが焚かれた。
パシャ パシャ
「うを、何だ…って西崎さん」
「こん、にちわ」
「はい、こんにちわ。どうしたの?」
「え…っと」
西崎さんの言ったことを要約すると、昼過ぎに俺がこうなったという情報をキャッチ、
その足で2−Cに向かおうとしたが、よーへーから
『鉄先輩がそういう見物に対して規制を布いたらしい、行くのなら放課後にしておけ』
と言われた為に今ここにいるという事のようだ。
「でも、俺自身もこの状態は奇妙だとは思うけど、被写体としては面白くないでしょ?」
「そんな、こと…ない……かわいい、よ」
「そう?まあ一応の記念として写真できたら一枚ちょうだい」
「わかっ、た」
「じゃあ俺、生徒会に行くからまたね」
「ばい、ばい」


ちょっと遅くなってしまったが竜宮に着く。ドアを開けるとそこには一人しかいなかった。
「チース。って佐藤さんだけ?姫と椰子は?」
「あっ対馬君…椰子さんは知らないけど
 エリーはHRが終わると同時にすごい勢いで帰っちゃったよ。
 明日の為の準備が忙しいとか何とか言ってたけど……
 ろくでもないことを考えてる時のエリーだったから対馬君は気をつけておいたほうが
 いいかもしれないね」
「なんで?休み時間の時でもう姫飽きちゃったんじゃないの?」
「対馬君は周りが騒がしかったから気づいてないのかもしれないけど、エリーあの後も
 対馬君のことすごい目で見てたよ。伊達君と仲良く話してるところを見ては悶えてたし…
 それにエリー明日は予定無いはずだし…そういうのを総合すると…ね」
「そっか、大丈夫だとは思うけど気をつけるよ」
「それにしても対馬君、大変な目にあったね。身体とか大丈夫なの?」
「うん、その辺は大丈夫。あと一週間程度の辛抱だしなんとかなるよ」
「そうなんだ。けど子供のころの対馬君って可愛かったんだねぇ。
 私はエリーみたいな趣味は無いけど、それでも抱きしめたくなるもん」
「じゃあ、佐藤さんも姫みたいにやってみる?……な〜んt……
「いいの!?」
ちょっと佐藤さんをからかってみただけの冗談だったのに、
言い終わる前にすごい勢いで応えられた。いまさら冗談と言える雰囲気じゃない。
「あ、うん。いいけど…」
「じゃあ、ほらほら」
椅子に腰掛けた佐藤さんがぽんぽんと自分の膝の上を叩く。かなり照れたが、
自分で言い出したことなのでおとなしくその上に乗る。
乗った途端にギュッと抱きしめられる。姫とはまた違うやわらかさが俺を襲う。
「意外と柔らかいんだねぇ。ちょっと硬さもあるけどそれ以上に柔らかいよ」
「さすがにこの状態だとね。筋肉やらなにやらも落ちちゃってるから」
「でも私、この感触好きかも…それにエリーも言ってたけど日向の匂いがする……」
いいつつ、俺の髪に顔をうずめる佐藤さん。本当に嬉しそうにそう言うので、
恥ずかしくはあったが満更でもない気分になった。


「なんかこうしてると対馬君のお姉ちゃんになったみたいだね」
「そうだね。良美お姉ちゃん」
「!!!!!」
そう俺が何気ない一言を言った後、佐藤さんの身体が一瞬硬直し、その後震えだした。
「どうしたの佐藤さん?」
「…お姉ちゃん」
「えっ、佐藤さ『お姉ちゃん!』
「お姉ちゃん?」
「そう!レオはいい子だねぇ」
佐藤さんが俺を強く抱きしめほおずりしてくる。あれ、なんかキャラ違くね?
「ただでさえ可愛いのに……そんな事言われたらたまらないよぅ。
 ああ、今ならエリーの気持ちわかる気がする…」


わからないでいいです。と思うのが早いかどんどん佐藤さんの締め付けが強くなってくる。
ある意味至福だが、そろそろキツクなってきたので緩めてもらおうと佐藤さんの手を軽く叩く
「…お姉ちゃん…ちょーっと…キツイかな」
「ハッ、私いったい何を……って対馬君ごめんなさい!」
慌てて手を放す佐藤さん。正気に戻ってなによりだ。
「あの、私…急にお姉ちゃんとか呼ばれて舞い上がっちゃって…」
「いや、気にしてないよ。佐藤さんの膝の上に乗ってるだけおつりが来るぐらいだ」
「本当に対馬君は優しいねぇ。
 私、兄弟いないけど対馬君みたいな弟がいたら溺愛していると思うよ」
「そういってもらえて光栄だけど、実際そんな可愛いもんじゃないって」
「う〜ん、そんな事はないと思うけどな…あっもう時間が……
 私今日エリーの代わりに委員会に出なきゃいけないから行くね。
 終わったらそのまま帰るつもりだから対馬君、鍵頼めるかな?」
「OK。せっかく来たしちょっと仕事してから帰るよ。
 ここのファイルの整理まだだったよね?」
「うん。じゃあね対馬君、また明日」
「また明日。委員会頑張ってね」
しかし、佐藤さんおとなしい娘ってイメージだったけど意外と激しいところもあるんだなー
とか思いつつ作業に勤しむ。ちょうど終わりに差し掛かった頃に乙女さんが来たので
一緒に帰る事にした。その後は特に何事もなく過ぎて一日が終わった。


また騒動が起こったのは次の日の放課後、姫の一言からだった。
「対馬クン。この後私のウチに来なさい。いっとくけど拒否権ないから」
「は?」
「なにマヌケな声出してるの…私が可愛がってあげるからウチに来なさいって言ってるの。
 予定があった中でベースの許可もらったり、道具揃えたりするの大変だったんだから…」
そんなしみじみ言われても…というか道具って何? 猛烈にイヤな予感がする……
いくら姫の誘いとはいえ断った方がよさそうだ。
「今日はちょっと都合が悪いから後日という事で…」
俺がそういうと姫は「はぁ」とため息をついて
「記憶力ないの?繰り返してあげると対馬クンに拒否権はないの。そもそもその身体
 あと5日ほどで元に戻るんでしょう?私はここしばらく今日以外で空き時間が取れないの
 元に戻った対馬クンはからかうならともかく愛でる対象ではない。
 ということで今日来なさい。どうしてイヤだと言うのなら無理やり連れて行くだけよ。
 それはそれで抵抗する対馬クンを追い回すっていう楽しみが出来るだけだけし…
 でも無駄よ。知らなかった? お嬢様からは逃げられない、って」
いかん。姫、マジだ…佐藤さんも目で『今コイツマジでヤバイから逃げて』っていってるし、
けど元の俺でも姫の相手はキツイのに今の状態で何とかできるのか?
「心配すんなレオ、俺たちがいるだろ?」
「いや〜持つべきものは幼馴染だね!」
「俺は気乗りしないけど、姫に可愛がられるお前を想像するとムカツクから
 手を貸してやるよ」
「スバル、カニ……………とフカヒレ…」
「ねぇその間はなに?ねぇ」
「とにかく俺が姫の足止めをする。フカヒレとカニはレオを連れて一緒に逃げろ」
「無視かよオイ!」
「りょーかい!レオいくぜ。フカヒレもブツクサ言ってないで行くよ」
「あっこら置いていくな」………


十数分後、霧夜エリカは伊達スバルに廊下の端まで追い詰められていた。
「さてと…姫、このままじっとしててもらえると助かるんだが……えらく落ち着いてるな?」
「私がこういう状況を想定してなかったと思う?既に私の親衛隊を要所要所に配置済みよ。
 少なくとも今の対馬クンでは突破できないわ。
 そして、頼みの乙女センパイも風紀委員会で最低でも一時間は拘束されている。
 私にとって学校から出さえしなければ対馬クンを捕捉して家に帰るのに一時間はいらない。
 そして、スバル君貴方への手はもう打っている」
パチン! 霧夜エリカが指を鳴らすと一年生の女子が数名現れた。そのまま伊達スバルに
向かって突進してくる。
「おわっ」
袋小路にいた事もあり避けきれずその内の一人に足を捕まえられる。
「よくやったわ。後でご褒美をあげる。じゃあね、スバル君」
「あっ、まて姫。つか、離せって……くそっ、やられた」
……………


「くそっ、あちこちに姫のファンクラブがいやがる。撒いてる最中にカニやフカヒレとも
 逸れたし、さてどうしよう。このままじゃ姫にさらわれる」
途方に暮れていると背後からポンポンと肩を叩かれる。見つかった? 逃げなきゃ!!
「ちょ、ちょっと待って対馬君。私だよ」
「…佐藤さんか。びっくりした……」
「ゴメン。ちょっと意地悪だったね…それにしてもエリー今回は本気だね。
 私にも詳しい事は話さなかったし、それで学校からは出られそう?」
「ちょっと無理っぽい。あいつら俺以外の邪魔はしてないから騒ぎにもなってないし、
 今の俺では捕まらずに通り抜けるのは…」
「じゃあ、時間稼ぎにしかならないけど少しは安全な場所に心当たりあるけど行ってみる?」
「ホントに!そりゃ助かるよ。このままじゃジリ貧だし、時間が掛かれば掛かるほど
 向こうには不利だからね。ああ、まさに佐藤さんは救いの女神だよ」
「もう! おだてても何もでないよ。……けど、そんなにあっさり信じていいの?
 私、エリーの友達だよ?実は嘘をついてて
 対馬君をエリーの所に連れて行くのかもしれないよ」
「佐藤さんはそんな嘘つかないよ。俺はそう信じてるから」
俺がそういうと佐藤さんは
「えへへ、そうきっぱり言われると照れちゃうね」
といいつつそれからはニコニコして嬉しそうだった。
その後佐藤さんの手引きで辿り着いたのは視聴覚教室だった。
「ここならじっとしてさえいれば、音は外に漏れないし扉も頑丈だから破られる事もないよ。
 鍵もちゃんと持ってきたから大丈夫」
「あっ、けど仮に姫が職員室に行ってここの鍵だけなくなってたら怪しまないかな?」
「その点は大丈夫」と言ってジャラジャラと鍵束を取り出す佐藤さん。
「隠れるのに都合のよさそうな未使用教室の鍵は大体持ってきたから
 まず、特定される事はないと思うよ」
佐藤さんさすがだ…俺が考える程度の事は考えてるな。ともあれ頼もしい。
そうして佐藤さんが視聴覚室の鍵を開け、ドアを開けた次の瞬間
「お嬢様当身!」「はうっ」
佐藤さんが崩れ落ちる。ドアの向こうにいたのは……


「ごめんね、よっぴー。傷はつかないようにしたから…それと対馬クン、ハロー」
「…姫……どうやって」
「窓からよ。あらかじめ放課後に使用されない教室すべての窓を朝開けておいたの
 まあ、その中には授業で使われる教室もあったから開いているかどうかは運だけどね」
「何でここだとわかったの?」
「コレは全くの偶然。自分の直感に従っただけよ。どうにも絶好調みたいね。
 30分…この状態の私に対してよくもったほうよ。褒めてあげる」
ふふふ、と笑う姫。まさに絶体絶命! どうしたら…
「もう質問する事はないかしら?…じゃあ遠慮なく浚っていくわよ」
「待て、それ以上の乱行は許さんぞ」
二人そろって声のした方向へ目を向ける。
「乙女(さん・センパイ)!!」
「そんな風紀委員会のはずじゃ…」
「伊達が知らせてくれたのだ。レオが危ないとな。そしてここにやってきたというわけだ」
「ぬかった!あの時乙女センパイの話なんかするんじゃなかった……………
 いいえまだよ、まだ終わってない! 乙女センパイを倒せば計画は遂行できる」
「無駄だ。確かに姫は強いが私には及ばん」
「やってみなければわからないわ!」
「やれやれ、ならばついて来いここは狭すぎる」
二人とも行ってしまった。まあ二人ともケガをするようなことにはならないだろう。


「う…ン…」
佐藤さんも気がついたようだ。まだへたり込んではいるが大丈夫そうだ。
「私…一体? そうだ! エリーに気絶させられて…ふふふ、エリー…上等なマネを…
 ふふふ…ウフフフフ…」
な、なんだ?佐藤さんが怖い……
「あ、あのー佐藤さん?」
「きゃあ!! つ、対馬君……よかった無事だったんだ…」
「うん、あの後乙女さんが来てくれたから大丈夫だった。今はどこかで姫とやりあってるよ」
「そうなんだ……鉄先輩はすごいね…私は結局対馬君を危険にさらしただけだし…」
「そんなことないよ!佐藤さんがいてくれた事ですごく安心したし、心強かったんだから」
「でも…鉄先輩がいなければ対馬君は今頃エリーに…それに…」
どんどん落ち込んでいく佐藤さん。意外とダウナー系?よし!口で言ってもわからないなら…
俺はまだへたり込んだままでブツブツ言ってる佐藤さんを抱きしめた。
「佐藤さ……お姉ちゃん、そんなに落ち込まないで…
 お姉ちゃんが落ち込んでると俺も悲しいよ」
「つしまくん……やっぱり私には対馬君が………
 ……うん、ありがとう対馬君もう大丈夫!!」
何か小声でつぶやいた後、佐藤さんはいつもの明るい佐藤さんに戻っていた。
「よかった。じゃあ取りあえず鍵閉めて返しに行こうか」
「うん、だけど対馬君はこのまま帰った方がいいよ。何かの間違いで
 エリーがやってくるかも知れないし…」
それもそうだな…
しかしそうなると各所に配置されてる姫のファンが厄介だな。とか考えてると
聞きなれた声が聞こえてきた。


「オメーはぐれてんじゃねぇよ!! ボクだけ逃げ回っても意味ないだろがこのタコスがぁ!」
「まぁまぁ落ち着けってカニ……乙女さん間に合ったみたいだな。
 二人して屋上に上がってったぜ。それと姫が置いた足止めはオレが潰しといたから
 帰るなら今のうちだぜ」
「カニ、スバル。そうかじゃあ今のうちに帰るか。佐藤さんお言葉に甘えちゃうけど…」
「うん、もともと私が持ってきた鍵だし今は早く安全なところに行ったほうがいいよ」
「ありがとう。このお礼は必ずするよ。じゃあまた明日」
「いいってそんなの、友達でしょ。また明日ね」
「さて、帰るか。すまなかったなスバル部活あるのに…」
「気にすんなって、レオの貞操と部活…秤にかけられる問題じゃないだろ?」
「さっきの姫を見てるとあながち冗談に聞こえないな」
「ダベるのは後でも出来るから帰ろーぜ」
「そうだな、帰るか。ってそういえばフカヒレは?」
「逃げる時邪魔だったから、追っかけてきた連中に蹴り込んだけどあとはシラネー」
…とにかく、みんなの助けによって俺は何とか危機を免れた。
その後、俺が元に戻るまでほぼ乙女さんがつきっきりだったので
姫も手を出せないまま何事もなく過ぎていった。
そして俺は祈先生の術をかけられてちょうど一週間目になる日に元の身体に戻った。
ちなみに祈先生も俺が元に戻った日に学校にやってきたが、いきなり遅刻していた。
姫は元に戻った俺には興味がないみたいだが、祈先生になにやら頼み事をしているのを
みかけたので、諦めきってはいないのだろう。先生の方はうんざりした顔してたけど…
その日の帰り道カニと二人で帰る道は、いつもと同じ道なのに妙に新鮮で嬉しかった。


「なにニヤニヤしてんのレオ?端からみてるとおかしなヤツみたいだぞ。
 ま、ボクのような美少女が隣にいるからそうなるのも無理ないけどさ」
「黙れ甲殻類。元の身体に戻れた事が嬉しくてたまらないんだよ。今まで同年代として
 付き合ってた連中に子ども扱いされてみろ結構厳しいもんがあるぞ」
「ふーん……そのわりには女の子にちやほやされて嬉しそうだったけど…
 ていうかオメーはボクを子ども扱いするじゃねーか」
「だって子供だろ?パッと見、中学生じゃねーか」
「テンメー人が気にしてる事を……あぁキレたもうキレたね。勝負だレオ!!
 五年…後五年でボクはナイスバディになってやる!
 もしなれたら、ボクに詫び入れて大人扱いしろ!!」
「俺が勝ったときはなんなんだ?」
「そん時はレオの家来にでも奴隷にでもなってやんよ」
「コラコラ仮にもお前は女の子なんだからそんなこと軽々しく言っちゃ、めーなの」
「バ〜カ!レオ以外にこんな賭けもちかけねーよ。
 さては、ボクに負けるのが怖くてびびってんな?さすがはヘタレの中のヘタレ」
「よ〜しそこまで言うなら乗ってやる。後でほえずらかくなよ?」
そんな風にカニと軽口を叩き合う帰り道。夕日がいつもより眩しいように感じた。


(作者・28氏[2005/09/7-19])

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