「おい!レオ!起きろ!」
 「何?乙女さん、まだ早くない?」
 十二月に入ってから、起きるのがますます億劫になってきて、
最近ではいつも乙女さんに起こされている。
 それにしてもなんか今日は妙に寒い。
 「ほら、起きないと痛い目にあうぞ!」
 「わ、分かったよ。・・・ってまだこんな時間じゃん。
いつもより一時間も早いよ。」
 「ふふふ、そんなことを言って、
お前もこれを見たらびっくりするぞ。ほら!」
 シャーっと乙女さんがカーテンを開けると
 「うわっ、眩しい。」
 窓の外が雪で一面、白くなっている。
 隣の蟹沢家の屋根も、向かいの家の屋根も、道路も。
 そういえば記録的な寒波が関東を直撃とか言ってたっけ。
 だからって雪降らなくても、と思う。
 落ち着いて考えれば、雪は寒いし、通学にも支障をきたす。
 もう子供じゃないんだから、綺麗だとは思うがそれほど嬉しくない。
 でも、雪ではしゃぐなんて乙女さんが、ちょっとかわいいなと思った。
 「ほら、早く着替えるんだ。」
 「なんで?」
 「この機会を逃す手は無い。
特別トレーニングをしてやると言っているんだ。」
 ・・・はしゃいでたわけじゃないのね。
 ・・・


 「いいかレオ。こう言うロマンチックなシチュエーションのときは、
女の子は特に落ちやすい。
(ギャルゲーで)百戦錬磨の俺が言うんだから間違いないぞ!」
 「うるせー。俺は朝から乙女さんにしごかれて、
もうすでにだるいんだ。
お前の世迷い言を聞く気はないよ。」
 いつもの四人で登校。
 未だに雪はしんしんと降り続いている。
 時折チェーンをつけた車がジャリジャリ音を立てて
通る以外、回りに音はほとんど無い。
 「ケッ、それが親友に言う台詞かよ。」
 「しっかし、これじゃ今日の部活は校内で階段上り降りかな。」
 「陸上部も大変だな。何もこんな日に練習しなくても・・・」
 と言い終わるか終わらないかぐらいに、
後ろから軽い衝撃が頭部を襲ってきた。
 冷たい。
 振り向くと、カニが傘も刺さずにぴょんぴょんはねていた。
 「へっへー!ダッセーレオ!
ま、ボクの投げた剛速球をよけられるわけ無いもんなー!」
 「あのな、後ろからそういう卑怯なマネはめーなの!」
 「ほら、いくら元気だからって傘ぐらい差さないと、
風邪ひくぜ。子蟹ちゃん。」
 「ちぇっ、うるせーな二人とも。
分かったよ。差せばいいんだろ?差せば。」
 ・・・

 授業は何人か先生が雪で遅刻したり来れなかったりした為、
いくつかは自習になった。
 これは思わぬ雪の恵みだった。
 ・・・


 今日は生徒会執行部の集まりは無い筈だったのだが、
放課後になると姫が急に招集をかけた。
 十月の生徒会長選挙では、姫以外に立候補者が現れなかったため、
姫は引き続き生徒会長だ。
 「集まったのはこれだけ、か。」
 「スバルと乙女さんは部活だからね。」
 「そういえば、今日祈先生、HRとか来なかったよな?
今もいねぇし、どうしちゃったんだ?
祈先生を一目見るのが俺の楽しみなのにぃ!」
 「祈なら今日は来ねぇぜ!そこで我輩が飛んできたってわけよ。」
 「祈先生はどうしたんだよ?」
 「いいか、よく聞けひよこが。
世の中にはな、科学では説明の付かない不思議もあるって言うものだ。」
 ・・・寒いから出てこないんだな。
 「ところでエリー、何で今日は皆を呼び出したの?」
 「ウフフフ、決まってるじゃないのよっぴー。
せっかく雪が降ってるんだから、雪合戦しましょうよ。」
 「雪合戦って、姫もけっこう子供pp」
 「(ギロリ)」
 「ひぃぃぃぃ!スミマセン!」
 姫ににらまれ、がたがたと震え始めるフカヒレ。
 「何も私も普通の雪合戦しようって言ってるわけじゃないのよ。
本格的な、スポーツとしての雪合戦よ。」
 「・・・あたし、帰ります。」
 竜宮のドアを開けて出て行こうとする椰子。
 「何だココナッツてめー!ボクに負けるのがそんなに怖いのかぁ?
たいしたことねーなー。」
 そういわれた椰子が無言で姫の前まで戻ってくる。
 「なっ、何?なごみん。」
 「早くチーム分けしましょう。あたしは、あの蟹とは別のチームで。」
 ・・・あいつもけっこう単純なのかもしれない。
 ・・・


 皆でグラウンドに出る途中、フカヒレが佐藤さんに話しかけている。
 「ねーよっぴー。今からここ二人で抜け出してさ、
銀色の世界の中で二人だけの思い出、作りに行こうよ。
(レオめ、世迷い言とか言いやがって、見てろよ〜。
絶対によっぴー今日中に落としてやる〜!)」
 「えっ、でもこれから皆で雪合戦なんでしょ?」
 「ほら、おっかない事はしないからさ。おいでって。
グフフフフフ・・・」
 ぐいぐいと佐藤さんを無理やり引っ張っていくフカヒレ。
 困ったような目で助けを求められたが、
フカヒレ相手なら全く危険はないだろう。
 ・・・

 グラウンドに出ると、朝ほどの勢いではないが、
いまだ雪は降っていた。
 「今日はどこの部活にもグラウンド使わせてないから、
まだ雪が平らねー・・・ってよっぴーは?」
 姫がようやく佐藤さんの不在に気が付いた。
 が、フカヒレとともに消えたはずの佐藤さんが、
息を切らせながら校門のほうから走ってきた。
 「ごめん、鮫氷君が具合悪いって先に帰るから、校門まで見送ってきたんだ。」
 「そう、なら開いた穴はあのインコにでも入ってもらいましょうか。」
 「オウムだって言ってんだろが。」
 あれ、フカヒレ具合悪くて抜けたのか?
 確か違うよな・・・。
 「とりあえず、始めましょ。
お互いの陣地に、雪で防弾壁を作って、準備が出来たら開始よ。」
 俺、椰子、佐藤さんのチーム、姫、カニ、土永さんのチーム。


 開始早々、姫のいる辺りから鉄でも入っているのではと思うぐらい
重そうな雪玉が、こちらの防弾壁を崩していく。
 俺のチームの防弾壁は、姫の雪玉に崩れ去っていく。
 間もなく、俺もは姫の雪玉に、
佐藤さんも土永さんが上空から投下する雪玉に
当たってアウトになってしまった。
 椰子は何とか姫の雪玉を転がりながらよけている。
 しかし、椰子が姫の玉をよけて転がった先に
 「ボクの存在を、忘れてもらっては困るなぁーー!」
とカニの投げた球が直撃。
 3−0で姫チームの圧勝だった。
 「へっへーん!ココナッツ、貴様もたいしたことねーなー。
悔しかったら家帰って、部屋の隅でコロコロクリーナーでも転がしてな!」
 言われた椰子が足元の雪をすくってカニに近づくと、
カニの後ろに回り、背中から制服の中に雪を入れた。
 「うあ!つめてぇ!卑怯だぞテメー!」
 「その雪はあたしなりの勝者に対する敬意です。
おめでとうございます。カニ先輩。
・・・あたしはもう帰ります。」
 すたすたと校門へ歩いていく椰子。
 それを見ながら
 「やれやれ、なごみんも帰っちゃうんじゃ、もう面白くないわね。
私たちも帰りましょっか。よっぴー。」
 「うん、私、凍えそうだよ。
それじゃあ、対馬君、カニっち、またね。」
 「またね、佐藤さん。」
 「ちくしょー、ココナッツ、覚えてろよー。くしゅん!」
 ・・・


 アレからスバルがすぐにやってきて、三人で帰ることになった。
 校門を出るときに、脇にあった雪だるまの中から、
帰ったはずのフカヒレの腕が見えてたような気がするが、
アレは何かの間違いだろう。
 このころになると、すでに雪は止んでいた。
 ・・・

 夜は夜とてまた集会。
 今日はカニとスバルと俺だけだ。
 フカヒレは、相当具合が悪いのだろうか。
 くだらない話をしていると、カニがやけにくしゃみを連発する。
 「おいおい、本当に風邪ひいちまったんじゃねぇの?
大丈夫か?だから傘差せっていっただろう。」
 「ちげーよスバル。ココナッツにやられたんだよ。くしゅん。」
 「今日は冷え込むだろうし、早めに寝たほうが・・・」
 ピピピピピピピピ・・・・
 「っと、電話だ・・・ちっ(またバイトか。こんな日に・・・
って、こんな日だからか。)」
 「どうしたんだ?スバル?」
 「わりぃ、オレのダチが呼んでるから、行くわ。」
 「なんだよスバル。ボクの武勇伝聞いていかなくていいのか?」
 「それはまた今度ゆっくり聞かせてくれよ。子蟹ちゃん。」
 スバルはそういうと、窓からバッと消えていった。


 「何だかスバル帰ったら、だるくなっちまったー。」
 「何そんなこと言いながら俺のベットにもぐりこんでるんだよ。」
 「もう寝かしちくり。スバルも言ってたろー。
早く寝ろって。ボクに変なことしたら承知しないからな。」
 「大丈夫だ。お前相手には何もする気は無い。」
 「ZZzzz」
 もう寝てしまっている。
 急に室内が静かになる。
 ・・・俺も寝よう。
 今日は何だか疲れた。
 スバルが消えていった窓のカーテンを閉めようと外をふと見ると、
雪がまだ少し残っていた。
 はしゃぐほどの物でもないと思ってたけど、けっこう楽しかったかも。
 雪の日ぐらいは、テンションに身を任せるのもいいか。
 ・・・

 「おい!レオ!起きろ!」
 「何?乙女さん?」
 「何で蟹沢がお前の隣で寝ているんだ!」
 ・・・しまった。
 「いや、こっ、これは・・・」
 「私もお前が何をしようととやかく言う
筋合いは無いというのはわかっている。
しかし婚前の男女が、・・・そのような行為をするのは、
お姉ちゃんとしてどうかと思うぞ。」
 それだけ手短に言うと、ちょっとだけ顔を赤らめた
乙女さんは部屋を出て行ってしまった。
 乙女さんの誤解を解こうとベットから降りる前に、
寝ているカニのおでこを触ってみた。
 よかった。熱は出てない。
 カーテンを開けると、朝日がさんさんと残雪に降り注いでいた。
 しかし、今日はこれから面倒なことになりそうだな。


(作者・SSD氏[2005/09/17])

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