「おぉ! 飛んでる、飛んでるぜぇー!」

成田発重慶行きの特別チャーター機。
きぬは俺の隣で子供のようにはしゃいでいた。
無理もない。彼女にとってこれが初めての飛行機だ。かく言う俺もだが。
しかし、一時のテンションに流されない俺はきぬのようにはしゃぐことはせず、
ただただじっと、この鋼鉄の化け物が飛んだ事実のみを受け止めるのみ。
この程度ではしゃぐやつは、ガキもいいとこだ。きぬはかわいいから別だけどな。
ちなみに、フカヒレも飛行機に乗るのは初めてだが、

「あんな鋼鉄が空を飛ぶわけない」

とか言って離陸時間を遅らせてくれたのだ、この馬鹿は。
「オレは荷物じゃねぇ〜!」とかとりあえずうるさかったので、俺は乙女さん直伝の貫手をフカヒレのみぞおちに容赦なく入れて黙らせておいた。
今は自分の指定席で白目を剥いておとなしくしている。

現在、竜鳴館高校2年生は現在日本海の空の上。そう、修学旅行である。
行き先は中国は重慶。通常の国際便では日本から重慶への直行便はないゆえ、いったん北京で乗り換えなければならないのだが、
近場の中国ということで、重慶班はチャーター機で行くことが出来るのだ。
おかげで、乗り換えの時間を短縮でき、4時間ほどで重慶につくことが出来る。
ちなみに、修学旅行はイギリス、重慶、スウェーデン、アパラチアの中から選択できるが、重慶以外は普通の国際便を使っている。
さすがの竜鳴館といえども、ヨーロッパ北米へのチャーター機を用意できるほど富裕ではなかったようだ。
チャーター機を用意できるというだけでそれでも十分すごいと思うが。
他の2年生での生徒会メンバーである姫とよっぴーはともにスウェーデンだ。姫は、アパラチアも捨てがたいとのたまっていたが、
最終的にはセクハラ相手、もとい親友についていくため、よっぴーの希望先であるスウェーデンに行くことに決めたようだ。
結局重慶に行くことになった生徒会メンバーは、俺ときぬとふかひれと、いつも一緒にだべっているメンバーである。・・・一人を除いて。


「どした? レオ?」
「うぉっ!?」

きぬのかわいい顔のドアップが俺の思考を現実に引き戻してくれた。

「そんなにビックリすることないだろ。それにしても、何だ、レオ? 捨てられた仔犬みてぇな寂しい目をしてたぞ?」
「そ、そうか? そんなことないぜ。今からお前と異国の地でイチャイチャできると思うと、いてもたってもいられないぜ」
「・・・無理しなくていいよ。スバルがいないのが寂しいんだろ?」

見透かしてやがる。さすがに幼馴染兼恋人。

「まぁ、ボクも寂しいというか、違和感ありまくりなんだけどね。今までこういうイベントで4人が揃わなかった日なんてなかったし」

スバルは俺たちが付き合うのをきっかけに、陸上の王者由比浜学園へ編入していった。
今の今まで、きぬとの付き合い(含む「夜の付き合い」)に没頭し、意識することはあまりなかったが、
やはりこういう行事に4人揃わないことは、どこか空虚感が否めない。

「どうぼやいても、スバルはいないんだしさ。忘れろ、なんてもちろん言わないけど、そんなうじうじしてたらスバルに申し訳ないじゃん。
スバルはスバルで自分の道を決めたわけだしさ。何も今生の別れじゃないっしょ?」
「心配するな。ただ、きぬが言ったように、違和感を感じただけだから」

寂しくないといえばうそだ。しかし、その寂しさはきぬと一緒にいることで相殺することが出来る。フカヒレがバカをやるたびに埋めることが出来る。
過去を嘆いても仕方ない。今は今を楽しもう。


「それはそうとさ・・・」
「んっ? 何?」

ドアップで顔を近づけたままのきぬがじーっとレオを見つめている

「そんなにあまり顔を近づけたままにしてるとさ、キスしたくなっちまうんだが」
「むしろしちくり♪」

ニコニコしながらきぬがそういった。
何てことを言うんだ。衆人衆目があるというのにそんな大胆な。
TPOを配慮せず、そんな恥ずかしい要求などのめるはずがない。
・・・なんてこと考えるわけがない。俺たちの間にそんな一般常識など通用しない。
俺はきぬのその可憐な唇に自分の唇を押し当てた。
さすがにディープキスまではしない。そこら辺の常識はわきまえている。
・・・なにやら、彼女のいない男子陣の嫉妬めいた感情や殺気が感じられるが、無視。
スバルのいない寂しさは、このキスによってすっかり癒されてしまった。


「中国の『中』は世界の中心の『中』という意味ネ。中国人の私も、ちょっとソレは傲慢すぎる思うけど、それにふさわしい、歴史を持ってるネ」

竜鳴館高校の留学生、中国人の豆花が誇らしげに胸を張った。年頃の娘らしい胸のふくらみも上を向いた。
「中国4000年の歴史とよく言われるけど、決してソレは誇張じゃないネ。殷王朝から数えて4000年。紆余曲折はあたけど、その歴史の積み重ねがあるからこそ、今の中国が存在するネ」

中国・重慶。そこはある意味、急激に経済成長を続ける現在の中国を最も表している場所といっても過言ではない。
古い住民区は取り壊され、新たなビルが立ち並び、不便だった交通網が整備され、中国中南海を除けば、ここ重慶が一番の大都市であることは間違いない。
竜鳴館高校修学旅行2日目。彼らはその発展都市の中で最も広く、もっとも人が集まる人民広場にいた。

「人口13億は文句なく世界一ネ。まぁ、この数字はのちのち、高齢化問題が深刻化する要因を含むけど、
ソレは置いといて、とにかく、中国には人口が多い分、奇人変人偉人、ありとあらゆる人種がいるネ。つまりナニが言いたいカというとネ、
中国人はありとあらゆる人間を見てきていルから、ちょっとしたことでは全然驚かないけど・・・」

そこまで説明して、ちらりと豆花はある方向を見やった。

「その中国人をあそこまでドン引きさせるあの二人ってすごいネ・・・」

あの二人とは無論、竜鳴館が、否、日本が誇るバカップル、対馬レオと蟹沢きぬその人である。
彼らは今、広場の中央ど真ん中で両手を取り合い、真正面から見つめあっている。この異国の地でも彼らは遠慮なく自分たちの世界を作り上げていた。
通りすがる中国人は彼らから発せられる見えないバリアを避けるように通っていった。

「あそこまで行くと、ホンマ尊敬するで。あっ、またキスした」

アサ黒肌の娘、真名があきれたように言った。

「んぬれ、対馬ー! TPOというのを考えねぇべか〜!」
「ぐあぁぁ、むかつくからといって俺にあたるなイガグリー!」

フカヒレの叫びは当然、バカップルにも周囲にも届いてはいなかった。


(作者・名無しさん[2005/09/11-12])

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル