「あれ?・・・佐藤さんは?」
朝の2−C。
いつまでも皆のざわめきが止まらないことで
佐藤さんがいないことに気が付いた。
・・・ありゃ、姫も来てねーな。
二人揃ってどうしたんだ?
「皆さーん、遅くなりました〜」
HRももう終わろうか、という時刻になって
ようやっと祈先生登場。
「祈センセー、よっぴーと姫が来てないよー?」
「先ほど連絡がありました。佐藤さんは入院されましたわ〜」
え、入院?
昨日の様子じゃ、特にどっか悪そうには見えなかったけど・・・
「よぴー、ドコが悪くなタネ?」
「・・・急性盲腸炎だそうですわ」
一瞬、静まり返った後、皆ちょっとホッとしてざわめき出す。
「なんや、盲腸かぁ」
「盲腸ってさぁ、下の毛剃るんだぜぇ」
「うわ、俺剃りてえ!」
なんて、馬鹿なことを言ってるようでも
「皆で見舞いにいくべ」
「けどよ、全員でおしかけるわけにもいかねーんじゃねーの?」
ちゃんと心配はしているあたり、クラスの結束は固い。
まして、普段あれやこれやと
クラスのために働いている佐藤さんのことだからなおさらだ。
「霧夜さんが付き添われているそうです。
 命に別状はないそうですので、その点はご安心を」
入院かぁ。
佐藤さん、一人暮らしらしいから大変だな。
姫が付き添いっていうけど、大丈夫なんだろうか。


4時間目の終わり近くになって、ようやっと姫が教室にやってきた。
昼休みに入っても、誰も外に飛び出さず
わっと集まって姫を質問責めにする。
「なぁなぁ、よっぴー大丈夫なんか?」「どこの病院なん?」
「入院て、どれぐらいなんだべか」「お見舞い、イツからできルネ?」
姫もちょっと面食らっている。
「ちょ、ちょっと!そんないっぺんに聞かれても困るわよ!」
そういうと、ツカツカと黒板に歩み寄る。
「それじゃ、よっぴーの病状について説明するわね。
 私と一緒の時に痛がりだしたんで、すぐに救急車を手配できたから
 それほど症状は重くはないわ」
そのまま黒板にカッカッと書き始める
「入院先は松笠中央病院。病室はC−508号室。
 お見舞いは明日からOKだけど
 一度には5〜6人ぐらいにしたほうがいいわね」
なるほど。メモしておこう。
「お見舞いの順番は、帰りのHRのときにでも決めましょう。
 あと、着替えとか運ぶの、カニっち頼めるかしら?」
「おう、まかしちくり!」
「私もやるけど、外せない用事とかあるときはお願いね。
 さて、後何か聞きたいことは?」
「ねえねえ、姫?」
「なに、フカヒレくん?」
「やっぱりよっぴーも下の毛剃っちゃったのかな?」
「・・・」
静まり返る教室。
ある意味、フカヒレってすごいヤツだと今更ながら思った。


授業が終わって帰りのHR・・・の時間なんだけど
祈先生は例によってなかなか来ない。
そしていつまでも教室のざわめきは止まらない。
フカヒレは退院日トトカルチョを始めてるし
女子は見舞いに行くスケジュールでくっちゃべってる。
佐藤さんがいないと、いかにこのクラスがダメかよくわかるな。
こういう場合、生徒会長である姫が
仕切ってくれればいいんだけど
「それでさー、もう真っ青になっちゃって・・・」
とまあ、こんな具合に
他の女子と一緒になって騒いでいてどうしようもない。
「おーい、姫ー」
「ん?何、対馬くん」
「HR終わらないと帰るに帰れないしさ。
 誰か祈先生呼びに行ったほうがいいんじゃない?」
「んー、そうね。じゃ、言い出しっぺで対馬くん行ってきなさい」
ごく自然に命令形。
まあそう言われるんじゃないかとは予想したさ。
とんだ災難だな、なんて思っていたけれど・・・

本当の災難は、それからだった。


佐藤さんが入院して3日目。
登校途中でMTBに乗った姫に追い抜かれる。
「おはよう、姫」
「・・・・・・おはよ」
姫はぶっきらぼうな挨拶を残して
そのまま走り去ってしまった。
あれ、なんだか機嫌悪い?
「オイオイ、姫は昨日っからスッゲェ機嫌悪ぃんだぜ?
 オメー気づいてなかったんかよ?」
隣でカニが呆れたように言う。
「いや・・・特に感じなかったけど」
「やれやれ、これだから鈍感ボーヤは困るぜ」
「うるせーな。
 しかし、機嫌が悪いのって、やっぱり佐藤さんがいないから?」
「じゃねーの?他に理由とかないっしょ」
仮に俺がスバルやカニがちょっといなくなったとしても
別に不機嫌にはならないと思うんだが。
それだけ、あの二人の絆が深いってことなんだろうか。
まあ、姫は怒らせたくないから気を付けよう。
・・・なんかちょっと情けないな、俺。


そして放課後。
生徒会室に顔を出すと、いきなり姫に睨みつけられた。
「・・・なんだ、対馬くんか」
「え、ああ・・・まだ姫だけ?」
「・・・見ればわかるでしょ」
うわ、こりゃ確かにスゲエ機嫌悪ぃな。
ここは逆らわず下手に出ておこう。
「それより、昨日頼んだファイル整理は終わったの!?」
「う・・・ま、まだ」
「さっさとする!」
「サー、イェッサー!」
思わず敬礼。
と、ガラリとドアを開けて椰子が入ってきた。
「・・・こんにちは」
「あら〜、なごみ〜ん♪」
え、何その猫なで声!?
「・・・佐藤センパイは、まだ休みですか」
「そうなのよ〜、だからなごみんには期待してるの〜」
なんだろう。姫の目つきがすごくアヤシイ。
「あの・・・お茶いれますから」
「あら、いいのよ、なごみんはそんなことしないで・・・
 対馬くん!お茶!」
「・・・ぅへ〜い」
マジ情けないな、俺・・・


それから、しばらくの間
姫は椰子につきっきりで作業の指示・・・
というか、ただベタベタとしていた。
だが、椰子は困惑しながらもガードが固い。
そして、さすがに身の危険を察したのか
「・・・今日はこれで帰りますっ」
ちょっと姫が席を離れた隙に、大急ぎで帰ってしまった。
「・・・禁断症状ですわね」
「うわ、祈先生いつの間に!?」
「対馬さんが、霧夜さんのセクハラを
 鼻の下を長くして見ていたときからずっとですわ」
う・・・確かに、ちょっとドキドキしながら見てたかも。
「それより、禁断症状ってなんですか」
「霧夜さんは、一定期間セクハラをしないと
 精神的に不安定になるようですわ。
 今までは、佐藤さんがその犠牲になっていたのですが」
なるほど。
佐藤さんは姫のブレーキというだけではなく
精神安定剤の役目も果たしていたのか。
ていうか、不機嫌な理由がセクハラできないからって・・・
「というわけで、私に鉾先が向けられる前に
 退散させていただきますわね〜」
「ちょ、待ってくださいよ!?
 祈先生なら姫の欲求を十分満たせるでしょ!?」
「中途半端にされるのはイヤですし」
おいおい。半端じゃなきゃいいんかい。
「それでは、ご健闘をお祈りいたしますわね〜」
何をどう健闘しろというのか。
しかし、問いかける前に祈先生はとっとと職員室に。
俺も帰っちゃおうかな・・・


「ウィース!・・・あれ、レオだけ?」
くっ・・・よりによってカニか!
一番セクハラのしがいがなさそうなヤツじゃないか!
「?んだよ、人のことジロジロ見て」
・・・いや、これでもいないよりはマシかもしれない。
とか思ってると姫のご帰還。
「たっだいまー♪なーごみーん・・・あらっ?
 ・・・対馬くん・・・なごみんは?」
前半と後半でまるで口調が違うんですが。
「えっと・・・家の用事とかで、帰った」
「なんで止めなかったの!?」
「え、いや、だって・・・家の用事じゃしょうがないでしょ?」
「くっ・・・半端にテンション上がったから
 かえって悶々とするわっ・・・!」
「なんだよ姫、ココナッツなんて根暗野郎
 いなくたって別にいいじゃん」
姫の視線がカニを捕らえた。南無。
「カニっちか・・・
 この際・・・カニっちでも・・・」
「ほえ?な、なんだよ姫この際って・・・
 な、何?目つきがおかし・・・うにゃあぁ!?」
スマン、カニ。
何もできない俺を許してくれ。
心の中で詫びを入れつつ
とりあえず、一部始終を見届ける俺だった。


数分が経過。
「足りない!こんなモノでは全然足りないわ!」
姫から解放されたカニが
よろよろと立ち上がる。
「な・・・なんだよソレ!
 まだ誰にも触れさせていない淑女の胸を
 さんざんぼてくり回しておいて足りないって何がだよ!」
「いや、俺も見ていて足りないだろうな、とは思った」
「だーかーらー、ボクの何が足りないってのさ!
 っていうか、オメー見てたんなら止めやがれー!」
「そんな怖いことできるわけねーだろ!」
俺とカニがやり合うのをよそに
姫はフラフラと部屋の中をうろついている。
「足りない・・・この乾きを止めるには・・・
 思う存分、乳を揉まなくては・・・
 Dカップ・・・いや、せめてCでも・・・」
なんか危ないコト言ってるなぁ。
「カニ・・・お前はAなんか?」
「Bあるわいボケェー!!
 って淑女に何言わせやがるー!!」
勝手に言ったくせに。
しかし、惜しかったのか。
ちょっと意外。


「騒がしいな、何事だ?」
ああ、一番来てほしいような来てほしくなかったような
微妙な感じで乙女さん登場。
「乙女サン、姫が暴走セクハラ大魔王になってるんだよぅ!」
「なに?・・・やれやれ、困ったもの・・・むっ!?」
姫の視線がねっとりと乙女さんに絡みつく。
「・・・見ーつーけーたー」
「蟹沢・・・下がっていろ。
 あれはどうやら常日頃の姫ではないようだ」
「えーと・・・乙女さん?」
姫からは目を離さず乙女さんが答える。
「なんだ、レオ?」
「この際ですね、姫の欲求不満を静めてあげる方がいいんじゃないかと。
 んな訳で、大人しく姫に乳揉まれてもらえないかな?」
別に見たいわけではない。決して。
「ば・・・馬鹿を言うな!
 自分が姫にセクハラされる立場だったらと考えてみろ!」
・・・(考え中)
「いや、全然オッケーですよ?」
「む、そうか・・・
 じゃ、セクハラしてくるのが鮫氷だったらどうだ!?」
「考えるまでもねー!フカヒレヌッコロス!」
「だろう!そうだろう!
 私だって姫のセクハラは御免被る!」
「んじゃ誰のセクハラならいいのー?」
カニが無邪気に質問。
「そっ、それは・・・
 こ、こんな状況で言えるかっ!」
乙女さんにセクハラしてもいい人間なんているのか。
ちょっとビックリだった。


「そういや、さっき姫が『Dカップか、せめてC』って
 言ってたよね。乙女サンってどんくらいなん?」
「俺が知るかよ」
「んだよ、同居しててそれぐらい見てねーの?」
「うるせーな、見ただけでカップのサイズなんかわかんねーっての。
 んな気になるんなら姫に聞いてみ?」
「そか。姫ー、乙女さんって見た目カップサイズいくつー?」
「ええい、ゴチャゴチャうるさいぞそこ!」 
ほんの一瞬乙女さんの注意が逸れた。
「隙あり!C!」
目にも留まらぬ早さで姫が乙女さんの背後に回る!
ついでに回答も来た。
「くっ!?・・・無礼なっ!Dだっ!」
否定も来た。ブラしてないのになんでわかるんかな。
前転して回避しようとする乙女さんの背中に
一瞬早く姫の右手が触れる。
「あ、あれブラ外しだ。姫ってアレ得意なんだよね」
すでに観戦者モードのカニが解説。
「そうなのか。だが、残念ながら
 乙女さんはブラじゃなくてサラシ巻いてるんだよな」
「・・・オイ。なんでオメーんなこと知ってんだよ?」
しまった、うっかり墓穴掘った。
「どうやら・・・本気にならねばならないようだな」
構えをとる乙女さん。
「ち〜ち〜揉〜ま〜せ〜ろ〜」
もはやどこかの地方妖怪のようになった姫。
両者は互いに隙を探り合いながら睨み合っていた。


1時間経過。
「なかなか勝負つかないねー」
「まーなー」
すでに観戦者は退屈し始めていた。
「ま、どっちが勝っても俺たちは安泰だろ」
「なんで?」
「乙女さんが勝てば姫は最低でも気絶させられる。
 姫が勝てば姫は欲求不満を解消できる。だから俺たち安全」
「私が勝つ!そしてレオ!貴様はその後で性根を叩き直す!」
うあ、なんか姫応援しないとヤバイかも。
「っていうかさー。姫はそんなにチチモミしたいんなら
 よっぴー見舞いに行って揉んでくりゃいいんじゃね?」
カニの言葉に一瞬、姫の動きが止まる。
それを見逃さず、乙女さんの粛正蹴りが飛ぶ!
が、姫はガードしながらバックステップで蹴りの威力を殺し
そのまま・・・逃走!?
「私、お見舞い行ってくるねー♪」
やれやれ。今までこんな単純な解決方法をなんで誰も思いつかなかったのか。
まあ佐藤さんは可哀想かもしれないが。
「・・・俺らも帰るか」
「蟹沢は帰ってよし。レオはちょっと残れ」
ギク。助けを求める視線を無視してカニは帰ってしまった。
「お前・・・人の胸のサイズで散々な事を言ってくれたな?」
「ナニモイッテマセンヨ?」
「乙女の胸を嘲笑って、ただで済むとは思っていまいな?」
「笑ってない!笑ってないじゃん!
 笑われてると思うのはコンプレックスがあるからで・・・」
「黙れ、この・・・!」
ボグシャーン!!
「ギャー!!」
ちくしょう・・・とんだ災難だ・・・(ガク)
「根性無しめ・・・触りもしないで文句言うな・・・」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/09/11])

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