「みんな揃ったわね」
生徒会執行部。
今日は竜宮に集まっての会議と姫から通達があり
みんな一応顔を出している。
「ねえ姫、今日の会議ってなに?」
「竜鳴祭での、生徒会の出し物についてよ」
「あれ?美人コンテストがそれなんじゃないの?」
「あれは『竜鳴祭実行委員会』の主催よ。生徒会でも応援はするけど主催ではないの。
 私たちは別に、何かイベントを企画しないと」
文化祭の出し物、か。
「とりあえず、皆フリーに希望を出してみて」
「制限とかは?」
「んー、特にないわね。常識の範囲内であればOKよ」
常識。この生徒会でこれほど意味を持たない言葉もないだろう。
「他はどんな企画が多いんだ?」
「よっぴー?提出された企画リストよろしく」
「ん〜・・・クラス単位の参加は、やっぱり飲食店関係が多いね。
 文化系クラブは、それぞれの一年間の活動を報告するような企画になってるよ」
まあ、そんなところだろう。
執行部は活動と言っても学校生活のまとめ役、みたいなものだから
報告とかしても面白くはなさそうだし
飲食店とかだと、なんかパッとしないなぁ。
何か面白い企画、ないもんかな・・・


「はい」
お、珍しく椰子が積極的に意見を。
「ハイ、なごみん」
「マーベラス蟹沢コンテスト」
「・・・なに、それ?可愛らしいボクのハートをキャッチするコンテストかな?」
「蟹沢の頬を引っ張って、早く泣かせた者が勝ちというスポーツ。
 タイムトライアル形式で、一般参加もOK」
「なんだそりゃあぁっ!?」
姫はちょっと考えていたが
「うーん・・・面白そうだけど、文化祭でスポーツ関連のイベントはちょっとね」
「・・・残念」
「面白くねえよ!っていうか、否定する所ってスポーツだからかよ!」
まずスポ−ツであることを否定しろ、カニ。
「うぬれ〜・・・はいはいはいはいはーい!」
「ハイ、カニっち」
「ココナッツ割り競争!」
・・・内容を聞くまでもないかも。
「血なまぐさいのはダメ」
「うぎっ・・・元はと言えばこの単子葉植物が・・・」
「黙れこの甲殻類」
「お前達、会議の間ぐらい喧嘩は我慢できないのか?」
乙女さんが呆れながら二人を引き離す。
常識と並んで生徒会執行部に縁のない言葉、それは忍耐。
・・・ん?ちょっと閃いた、かも。
考えをまとめて・・・よし。
「はい」
「ハイ、対馬クン」
「我慢比べ大会とかどう?」


「・・・我慢比べ?」
「そう。日頃いかに生徒会執行部の皆が忍耐強く仕事をこなしているか
 その忍耐力をアピールするわけ」
・・・本音を言えば
日頃のさばってる生徒会女子たちに
忍耐の大切さを教えてやろうというわけだ。
「んー、私って我慢とかする必要ないからー」
来た。だが姫のその発言は想定内。
「いや、モチロンそうなんだけど
 いざとなれば姫はこんなに辛抱強い人間なんだ、と
 一般大衆に見せつけることで、さらなる支持を得るわけですよ」
「うーん・・・そんな支持なくても・・・」
「まあ、我が儘な姫には忍耐力などあるわけもないしな。
 仮に参加しても体育会系の私には適うまい?」
「むっ・・・」
乙女さんナイス発言。ていうかこれも想定内だけど。
もう少し、煽っておくか。
「姫にはちょっとツライかな?忍耐力って精神力も必要だからねぇ」
「ちょっと対馬クン!私の精神力が誰かに劣るって言うの!?」
よし、乗ってきた。
姫と乙女さんはこれで参加させられるだろう。
佐藤さんは・・・可哀想だが姫に引っ張られるとして
問題はカニと椰子か・・・
「後はどう?我慢比べ大会」
皆を見回した時だった。
ガラリと生徒会室の扉が開く。
「面白そうな企画をしておるのぅ」


「え・・・か、館長!?」
「うむ。久しぶりに、お前達の様子を見に来てみたのだが
 面白そうな話が聞こえてきたのでな。
 我慢比べとはまた、よい企画ではないか。
 近頃の若い者は辛抱ということを知らん。
 ここは一つ、精神鍛錬の大切さを知るためにも、やってみい!」
館長のお墨付きか!こりゃ盛り上がるぜ!
「そんなこと言っても、ただ我慢するだけなんてツマンネーよ」
むう、カニらしい投げやりな意見。
「むろん、見事に忍耐力を示した者には褒美があってもよかろう。
 耐え抜いた者には、儂からドラゴンチケット出そうではないか」
『!』
おお、館長太っ腹!皆の目の色が変わったぜ!
「ま、乙女センパイにこれ以上大きな顔をされるのも困るしね」
「ふ、そのセリフ、そのまま返すぞ。性根を叩き直す絶好の機会だ」
「おいココナッツ、棄権するなら今のうちだぜ?短気なお前がボクに適うわけないからな」
「カニミソごときに負けるほど、柔な精神力じゃない」
「え、えっと・・・忍耐力なら・・・エリーのおかげで自信ある、かな」
「ちょっとよっぴー?」
「教師も参加OKでしょうか〜?」
「かまいませんが・・・先生でもドラゴンチケットって有効なの?」
「うむ。始末書一枚とかが帳消しにできる」
よしよし。館長のドラゴンチケットのおかげもあって
狙い通りに全員参加させられそうだ。


「なあレオ、別に男子も参加してかまわないんだろ?」
む、フカヒレか。ドラゴンチケットに釣られたな。
「できればスバルとフカヒレには運営側に回って欲しい。
 運営に人手がいるから、全員参加されても困るんだ」
「それもそうだな。ドラゴンチケットは惜しいが、レオのために裏方に回るか」
そういうのヤメレってスバル。
「ちぇ・・・ま、あんまり俺も我慢比べとか自信ないしな。じゃ、俺も裏方で」
「悪いな、二人とも」
「話は決まったようだな。では、当日を楽しみにしておるぞ」
館長は満足そうな顔でのしのしと去っていった。
「で、具体的にはどんな内容になるわけ?」
「それは当日までヒミツ。対策とか立てられると不公平になるからね」
「んだよ、ケチくせえねレオ」
「ま、参加しての楽しみってことでヨロシク」

そして翌日。
生徒会執行部男子メンバーだけで作戦会議・・・もとい、企画会議。
「なあ、姫はああ言ったけど、やっぱ我慢強さでいったら
 誰も乙女さんにゃかなわねーんじゃねえか?」
「フカヒレの言うとおりだぜ。体力勝負とかじゃ結果は見えてるぞ、レオ」
「ま、そこで誰かが一人勝ちにならないようにするのが
 企画の腕の見せ所ってわけさ・・・いいか?」
ごにょごにょごにょ・・・
「なるほど!そりゃ面白ぇや」
「やるな、レオ」
フカヒレ、ウハウハ。クールなスバルも思わずニヤリ。
「それじゃ、道具立ての準備にかかろうぜ!
 まずは必要な物のリストアップからだ!」


竜鳴祭。ここ竜鳴館の文化祭である。
文化系クラブにとっては檜舞台だし
運動部でも何かと参加しているところは多い。
もちろんクラス単位での参加も多く
委員会の中にも何かの形で参加しているところがあったりで
早い話が、生徒のほとんどが何らかの形で参加しているイベントなのだ。
外来の一般客も多く、体育武道祭と並ぶ二大イベントとなっている。

3日間の期間中、もっとも盛り上がるのは最終日の
ミス&ミスター竜鳴館コンテスト、なのだが・・・
今年のベストイベントは、生徒会執行部の「我慢比べコンテスト」がいただくぜ!
「レオ、道具のセッティング、終わったぜ」
体育館に設えた特設ステージの裏から
一仕事終えたスバルが出てくる。
「お、ご苦労さん。フカヒレはそろそろ司会の準備よろしくな」
「任せときなって!」
「頼んだぜ。俺は参加者を呼びに行って来る」
さて・・・皆、集まってるかな?
控え室のドアをノックする。
「対馬だけど、入ってもいいかな?」
「どうぞー」「いいわよー」
ガラリと音を立ててドアを開けた。


「ねえ、対馬クン?」
「ん?何、姫」
「どうして・・・水着で参加なわけ?」
そう。参加者には前日に『水着に着替えるように』と言ってある。
「ああ、体操服とかでもいいんだけどね。
 濡れるから水着の方がいいかと思って」
「私は平気だけどね。よっぴーとか、恥ずかしがっちゃってるわよ」
「そ、そりゃそうだよ・・・別にプールとかでもないのに水着見られるなんて・・・」
「ああ、上からTシャツとか着ててもかまわないから。
 それなら平気でしょ?」
「うーん・・・それなら・・・我慢する・・・」
すでに一部は我慢が始まっているようだった。

体育館にはすでに沢山の来場者が押し掛けていた。
前宣伝がけっこう効果あったみたいだな。ちなみに、ほとんどは男子生徒。
マイクを握ったフカヒレがステージに上がる。
「皆様、大変長らく待たせいたしました・・・
 ただ今より!竜鳴館・生徒会執行部女性メンバーによる!
 ミス・ペイシェント・コンテスト!
 開催いたしまーす!」
ウオオオオオオオオオ!
集まった観客が雄叫びを上げる。
「選手!入場!」
ライトアップされるステージ。流れるビートの利いた音楽。
フカヒレの司会っぷりもヒートアップする。


「武士の心で乙女は耐える!鉄の風紀委員、鉄〜乙女〜!」
「やるからには負けん!」
「精神力なら負けはしない!ご存じ生徒会長、霧夜〜エリカ〜!」
「見せてあげるわ、王者の精神力!」
「積み重ねた苦労が報われる時が来た!苦労人、佐藤〜よっぴ〜!」
「よ、よっぴー言わないでってばぁ!」
「小さな体にでっかいガッツ!暴れん坊、蟹沢〜きぬ〜!」
「テメェ、小さいとか言うんじゃねー!」
「名前で判断すると大間違いだ!孤高の戦士、椰子〜なごみ〜!」
「フッ・・・潰す!」
「何が忍耐か教えて先生!特別参加、大江山〜祈〜!」
「大人の忍耐力、教えてさしあげますわー」

「以上、6名の戦士に!盛大な!拍手と声援を〜!!」
ウオオオオオオ・・・ン!!
「そして!コメンテーターとして!特別ゲスト!
 竜鳴館館長!橘〜!平〜蔵〜!」
「多くは言わん!
 お前ら!ちっとは我慢せーい!」
ウオオオオオオ・・・ン!!

「うーん、盛り上がってるなぁ」
「見ろよレオ、フカヒレのやつ、なんか一世一代の晴れ舞台って感じだぜ」

「・・・そして司会進行は私、鮫氷新一でお送りいたします!」
とたんにブーイング。
どこまでいっても哀れな奴だった。


「それでは!ルール解説をさせていただきます!
 競われる忍耐の種類は6種類!
 見事全種目を耐え抜ければ!
 夢のドラゴンチケットをゲット!
 オールクリアーの選手がいない場合には
 脱落種目の最も少ない選手が勝者となります!
 ただし、同点選手がいる場合は
 残念ながら勝者はなしとなりまーす!
 さあ、栄冠は誰の頭上に輝くのか!
 ミス・ペイシェント・コンテスト・・・ゲーム、スタートォッ!」

さて、ここからが本番だ。
参加者6名、皆さん強気なだけあって
乙女さんや佐藤さん以外も実は結構我慢強いのはわかっている。
しかし・・・今までのつきあいから
各自に弱点があるのも把握済み。
ならばその弱点を突いてやればいい。
ドラゴンチケットに釣られて皆参加しているが
悪いがこっちには勝者を出す気がもともとないのだ。
ちょっとだけ悪役気分の俺だったり。


まず第1種目は冷凍風呂。
氷を浮かべた水を満たした透明なアクリルの水槽に浸かって、山盛りのかき氷を全部食べる。
これは寒がりの佐藤さんを落とすための種目。
「ひ・・・も、もう・・・ダメェ・・・っ!」
ついでに言えば、ウェット状態になってもらうことで観客へのサービスも兼ねる。
濡れたTシャツが水着に張り付いて・・・
ウオオオオオオ・・・ン!!
観客、総立ち。

椰子のために用意したのは握手マラソン。
次から次へと無差別にやってくる観客と、延々と握手を繰り返す。
中には嫌いなタイプもいるだろう。
まして他人に触られるのを極端に嫌う椰子にとってはかなりの苦痛だ。
「っ!・・・わっ・・・私に、触るなあぁっ!」
でも、握手できた観客は濡れた水着の美女との喜んでいた。

そしてバランス耐久。
グラグラ揺れる足場の上で、指定時間内片足で立ち続ける。
運動神経に難のある祈先生のための種目だ。
「あ、あわ、あわわわ・・・や、やってられませんわ〜!」
台が揺れると祈先生の胸もゆらゆらと揺れる。
祈先生が台から落ちたとき、会場はため息に包まれた。


続いて熱辛地獄。
オアシスの店長に頼んで作ってもらった、スペシャル激辛カレーを食べきること。
もちろん、競技直前まで鍋でグツグツに煮込んである。
これは猫舌で辛い物を食べられない姫用の種目だ。
「くっ・・・ひ・・・も、もう・・・ダメ・・・」

カニの弱点はホラー系。
ヘッドフォンとゴーグルタイプのモニターでホラー映画を見続ける
デジタルお化け屋敷。
途中で濡れたコンニャクを首筋にあてがうおまけつきだ。
「うぎゃぁあぁっ!?な、何コレ何コレ何〜!?」
騒がしいこと、このうえない。
「泣いてない!泣いてないもんね!」
いや、もうボロボロだぞお前。

一番の強敵は乙女さんだった。
怖い物は雷とわかっているんだがそれは流石に用意できない。
そこで、もう一つの弱点、手先が不器用を利用させてもらう。
床に延々とドミノを並べていく単純作業。
「あっ・・・」
ぱたん、ぱたぱたぱたぱた・・・
「くっ・・・もう一度・・・」
ぱたん、ぱたぱたぱた・・・
「うぬぬぬ・・・まだ、まだっ・・・!」
ぱたん、ぱたぱた・・・
おいおい、3枚目とかで倒しちゃってますよ?
ちなみに、観客席と反対側の床にドミノを並べるために
全員、観客席に水着のお尻を突き出している。
「くぅっ・・・む、無念っ!」
観客席は・・・熱気を帯びながらも静まり返っていた。


パパァン!パパパァン!
爆竹が鳴り響き、再びフカヒレがマイクを握る。
「競技・・・終〜了〜!」
ぐったりしている6名の戦士達。南無。
「それでは・・・結果、発表です!」
いや、まあ皆見てたからわかってるけどな。
「オールクリアー選手・・・なし!
 脱落回数は・・・全員、1回で同点!
 よって、ルールにより・・・」
勝者なし、のはずだった。のだが・・・
「おう、ちょっと待て、鮫氷ぁ」
え、館長から物言い?
「竜鳴館の勝負事に、勝者なし、引き分けというのはあり得んわい。
 ここは、決着がつくまで、再度戦うべし!」
ああ、なんか話が俺の目論見から外れていくような・・・
「えー・・・お言葉ですが、すでに種目はやりつくしてしまって・・・」
「それでは、儂が道具なしでも簡単にできる種目を考えてやろう。
 忍耐とは!肉体の痛みや恐怖に耐えるだけではない!
 もっともつらい忍耐、それは恥辱に耐えることである!」
おお、さすが館長、いいこと言うぜ!・・・って、具体的にどんなことさせるんだ?
「嫁入り前の娘には、嬉し恥ずかしとも言えるがのぅ。
 参加者は、この観衆の前で・・・惚れた男の名を叫ぶべし!
 もっとも声高に叫んだものを勝者としよう!」
・・・は?
いや、確かにそりゃ恥ずかしいだろうけども。
まさかこんなところで告白なんかせんだろ、誰も。
だが。
ステージの上、参加メンバーがゆらりと立ち上がる。
・・・ナズェミテルンディスカ?
俺?俺・・・なの?みんな俺?
いや、そういう気もしないではなかったけど・・・まさか、今、ここで?
「待て。待ちなさい。落ち着きなさいキミたち・・・」


「レオーッ!」「レオくーんっ!」「対馬クーン!」「レオーッ!」「対馬センパーイッ!」「対馬さーん!」
意地か自棄かこれ幸いか。
叫びが体育館に木霊する。
すべて、俺の名前で。
ざわめく会場。
「誰だ、対馬って・・・?」「生徒会の、対馬か・・・?」「・・・んだよ、許せんなソイツ」
「どいつだよ、それ」「おい、あそこにいるのが対馬か?」
ひそひそ声はやがて大きくなり
「テメェ、ざけんじゃねっぞゴルァ!」「何一人でいい思いしてやがる!」「許せん!許せんぞぉ!」
罵声、怒号へと変わっていく。
「そうだ、怒れ!皆のアイドルを独り占めする不逞の輩!
 許すまじ、対馬レオ!」
「あ、てめフカヒレ、裏切りやがったな!」
「ええい、黙れ黙れ!皆の衆、天誅!天誅でござる!」
・・・やべえ、皆目が血走ってる・・・!
「おいレオ・・・ここは逃げた方がいいんじゃないか?」
「ス、スバル助けてっ・・・!」
「この人数じゃ無理。ま、いい思いする分、苦しめや」
「んな殺生なーっ!」
襲いくる群衆。掴みかかる手。
必死で逃げる俺の背後で、まだ聞こえてくる恥ずかしい告白。
とりあえず、振り返って叫ぶ。
「ご返事は後ほどーっ!」
そしてその後は一目散に逃げ。
やっぱり俺が耐えるしかないのかよ、このゲーム!
「むう・・・声の大きさ、想いの強さ、優劣つけがたし!
 対馬ぁ!判定は、お前にまかせるとするわ!うわぁっはっはっはっはぁ!」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/09/08])

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