砂漠のど真ん中を、ふたつの影が疾走していた。砂嵐にめげることもなく。片方が口を開く。
「館長、申し訳ありません」
「いやなに、たいしたことではない。しかし、鉄君に勝てるほどの者が、霧夜君を狙っていたとはな。世界は広い、ということか」


 鉄 乙女はキリヤコーポレーション会長・霧夜エリカのボディーガードを粉骨砕身勤めていた。しかし、彼女を家まで護送しようとした際、事件は起きた。
「貴様、何者だ」
「………!」
 影は何も言わず、彼女に向かって跳び、手刀を振った。だが、乙女はそれをいなし間合いを取る。
「貴様を狼藉者と見なす」
 言うが早いか抜刀し、真一文字に影を切る。無論、峰打ちだ。しかし、影は腹に刀を喰らいながらも、脚を乙女の腹に叩き込んだ。紫の稲妻が光る。
「ぐあぁぁぁ」
 跳んだ彼女の体は、コンクリートの壁を貫き、3階から放り出された。そこで意識が途絶える。


「面目ありません。館長に救って頂かなければ、姫の命はなかったでしょう」
 彼女が吹き飛ばされた音に――十何キロも離れているはずなのだが――館長は異変に気付き、即座に駆けつけ狼藉者を撤退させ、エリカを救ったのだった。
「君はまだ若い。これからも、より強くなれるだろう。これは、そのための修行だ」
「ありがとうございます」
「さっき上空から見たが、北に湖がふたつあった。今はアラビア半島だろう。夏休み中に世界一周は、なんとかなりそうだな」
「はい。ですが……」
「ん?」
「やはり、中国から日本へは、東シナ海を渡るのですか?」
「うむ。君は儂の様にひとっ跳び、とはいかんからのう。泳ぐしかあるまい」
「でしたら、その(赤面)」
「む」
「水着を新調したいのですが。大西洋を横断した際に擦り切れてしまったものですから」
「ああ、そうであったな。いや、いかに豪気とはいえ、やはり乙女よのう」
「私は名前の通り乙女です」
「分かっておるよ」
 ツッコミがいないために異次元の会話が続いた。
 そうこうしているうちに、日が暮れた。砂漠の夜は寒い。だが、ふたりは特に気にした様子もなく、胴着姿で焚き木を囲った。


「昼夜徹して、とはいかないものですか」
「鍛えるのが目的で、急ぐ旅ではない。休息も必要だ」
「わかってはいますが」
「む、霧夜君が心配か。彼女は私の友人に守らせている」
「武人が見かけでないのは分かっていますが、あの小柄さでは、なんとも心許ないのですが」
「逆毛が、なんとも空しい抵抗だしのう。しかし、いざとなれば猿の様に巨大化し、あるいは髪を金に染め、無類の強さを発揮するから心配はいらんよ」
「そうですか。………!」
「ほほう、ここまで来よったか」
「感づかれたか」
 オールバックの男が、ぬっと現れた。漆黒の服は見事に闇に同化していたのだ。
「儂一人にすら敗れたというに、ふたりいるところを襲うとはのう。何か急ぎのようだ」
「確かにふたり相手では勝ち目はない。故に」
 男はびっと乙女を指差した。
「武人として一対一の決闘を申し込む」
「ふ、私を不意打ちしておいて、今更『武人として』だと。笑わせる。だが、決闘を申し込まれた以上、受けて立つのが鉄流だ。館長、手出しは無用です」


「わかっておるよ」
「やはり鉄の者だったか。では、尋常に勝負だ」
「容赦はせん」
「望むところだ、烈臭私怨談!」
 紫の稲妻が乙女を襲う。しかし、乙女は余裕を持って避けた。
「甘い」
「ち、動きが上がっている」
「3週間前の私とは違うぞ。ニ指真空把っ」
「バカな。気を掴んで投げ返すとは」
「鉄に不可能なし!」
 間合いを詰める。男は撃墜体勢をとり、右足を蹴り出した。
「宿恨解消の時だ」
 抜刀された地獄蝶々とともに、全身で乙女が突っ込む。
「阿版素虎修B!!!」
「ぐはーーーっ」
 閃光が陽光の様に周囲を照らす。男は100メートルほど吹っ飛んで事切れた。
「うむ、見事」
「館長、私、やりました」
「よくやった。君はまだまだ困難にぶつかるだろう。しかし、君ならばそれは必ず克服できる。頑張りたまえ」
「はいっ」


(作者・名無しさん[2005/09/05])

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