「どうした、伊達ー!もうへばったかー!」
くっ・・・さすがに・・・シャレんならねえ。
さすが陸上の王者って言われるだけあるぜ。
練習のレベルが竜鳴とはダンチだ。けど・・・
「コーチ・・・東南って、どっちっすか?」
「あ?えーと・・・こうで、こうだから・・・あっちか?」
「うっす!」
見つめる。
もう日はすっかり暮れて、星の瞬き始めた空のかなたを。
残してきたものを。置いてきたものを。
そのたびに、心が奮い立つ。
うし。
「コーチ!もう一本、頼んます!」
「よし!その意気だ、伊達!」
そう。
もう一度この手に、掴むまで。
立ち止まらない。振り返らない。
前を。
前だけを見て、俺は走る。
走り続ける。
それが、俺の選んだ道だから。


あれから、7年か・・・
はええもんだ。
「どうした、伊達。柄にもなく緊張してるのか?」
「いや・・・やっとここまで来れたな、ってね。感慨に耽ってるわけです」
「まあな。正直、由比浜からずっとお前を見てきたが・・・
 ここまで来るとは、思ってなかったよ」
「運も良かったっすけどね・・・ところで・・・えーと」
「・・・日本なら、あっちの方角だ。いや・・・松笠は、と言ったほうがいいのか?」
「あ、気づいてたんすか」
「キツイときとか、大事なレースの前になると、お前決まって方角聞くからな。
 そりゃいい加減気づくさ。しょうがないからコンパス買ったよ」
「うっす!」
コーチに一礼して、その指さした先を見つめる。
思い出す。
俺が、俺自身に立てた誓いを。
あいつと。あいつらと。同じくらいの何かを。
掴めるところまで、俺は来た。
後1レースに、俺の全てを・・・賭ける。


パァン!
スタートの号砲が、静まり返った体に響く。
途端に騒ぎ出す、俺の血潮。
血が、アドレナリンが、駆けめぐる!
走れ!
だけど・・・
チッキショウ、やっぱみんな速ぇぜ!
世界一決めるレースだから当たり前だけどな!
くそっ、じりじりと差が開く!
・・・ここまで、か?
脳裏にちらつく。
カニが。レオが。フカヒレが。
くそ。
残してきたもんのほうが、やっぱりよかったってのか。
今までキツイとき松笠のほう見てきたのは、ただの未練だったのか。
俺・・・間違ってたのか?
胸の奥で何かが囁く。
決勝に残れただけでも御の字じゃないか。
これだって十分なはずだ。
そう・・・十分・・・じゃねえ!


まだだ!まだ全部出し切ってねえ!
全部出し切らないで手にはいるようなもんが
あいつと、あいつらと釣り合うわけねえ!
また脳裏にちらつく。
フカヒレ!レオ!・・・・・・きぬ!
わかったぜ、チクショウ!
振り返ってねえ!
俺はいつだって、振り返ってねえ!
俺が見てるのは、振り返ったとこにいるあいつらじゃねえ!
前だ!
あいつらは、前にいるんだ!
俺が見てるのは・・・前にいるあいつらだ!
走れ!前に!もっと前に!
「お・・・おおおおおおおぉっ!!」
心臓、もっと気張れ!足、壊れるまで動け!
前に、前に、もっと前に!
あいつらが待ってる、あの場所まで!
あの・・・誓いの場所へ!
走ってくれ、俺の体!
届けてくれ、俺の願い!
俺の・・・ゴールまで!


結果は3位。銅メダル。
世の中、そんなに甘くないってか。
だけど
満足だ。全て出し切ったから。
全てを賭けて、手に入れたから。
だから、胸を張っていける。
ん、インタビュー?
は、呼びかけたいやつなんか・・・あいつらしかいねえ。
やっと会える、あいつらしか。
「見てるか。有名人だろ、オレ。選ばなくて損したな、こんないい男」
インタビュアーが妙な顔してるが、知ったこっちゃねえ。
「・・・では、日本に帰ったらまずどうされますか?」
「故郷に帰ります。まさしく錦を飾るってやつでね」
そうだ。あの場所が、オレの故郷だから。
帰り着きたかった場所だから。
「聞こえてんのか、レオ、きぬ、フカヒレ。ちゃんと宴会の用意しておけよ!」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/09/04])

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