「なごみ。オーダーとってきたぞ」
俺達は二人でレストランを経営している。
勿論、なごみが料理を作って俺がオーナー兼ウェイターだ。
・・・って自営のなんだからわざわざオーナーって言う必要は無いか。
バイトを雇えない事もないんだが、なごみがみんな追い出しちまうからな・・・
でも、この方がなごみとの距離が近いからいい。
「わかった。もうすぐさっきのオーダーが出来上がるから、ちょっと待ってて」
「ああ。わかった」
二人で一緒の夢を掴もうとした日から十年近く経つ。
あれから何度となく挫けそうになったが、お互い助け合ってやってきた。
途中、姫からキリヤコーポレーション傘下の高級レストランに来ないかと、お誘いがあったが、
見事に蹴り飛ばしてやった。
高校時代の級友だったからとか、姫の気まぐれとかではなく、なごみの味を理解しての誘いだった。
だけど、そんな事で俺達は夢を叶えたくはなかった。
「ところで、なごみ。週末の件なんだが・・・」
「はい?・・・どうかした?」
「いや、その・・・一人で大丈夫か?料理沢山作んなきゃいけねえし・・」
「なんだ、そんな事? くすっ。大丈夫、任せて」
「結婚式に用意する料理もできるの?」
「母さんの結婚式があったじゃない。あの日の事は忘れませんよ」
「あ〜そうだったなあ。なごみ、こっそり料理場覗いてたっけ」
「えへへっ。 ほんとあの時の母さんは幸せそうだったからなあ。
天王寺も思ったほど、全然悪くない奴だったし」
「そうっだったよなぁ。なんだかんだで俺達の面倒を見てもらったこともあったしな。
・・・んじゃ、話戻るけど、そうゆうことで頼めるんだな?」
「はい。任せて下さい。
少し大変かも知れないけど、伊達先輩はレオの親友ですからね。頑張ります」
スバルも夢を実現させたみたいだ。
よくテレビにも写ってる程の陸上選手だし、日本人でメダルを手にしたのだから。
それなら、結婚式なんてもっと豪華な所で挙げられるのに、
<どうせ式なんか挙げたって、お互い親族は誰も来ねえだろうから、
ここでひっそり昔のみんなとぱーっとやりてーんだ>
だとさ。 ・・・全く、あいつらしいぜ。
でもさ、それよりも意外なのが・・・
「・・・でも、カニには何も思い当たる節がないんだけど・・・」
「おいおい、そんな事言うなって。あいつらの結婚式なんだから」
・・・この事実だよな。
カニの事が好きだったなんてな・・・
でも、あいつ等ならきっと上手くやっていけるさ。
よく考えれば、本当にお似合いのカップルだ。
「ふふっ。冗談ですよっ
はい。料理出来たから、お願いねっ」
「おう!」
・・・・・
「そういえばさ、この曲また新しいの流してるのか?」
今日も店内のBGMとして流れているフォークソング。
「はい。私フォークソング好きだから・・・レオは嫌い?」
「いんや。こいつの曲だけは好きだね。
今まであんま興味なかったけど、なごみに進められて聴き始めたらすげえ気に入ったよ」
「えへっ。よかった。フカヒレ先輩の曲は本当に良い曲ですから」
「だよな・・・ったく、フカヒレめ…デビューしたなら教えろっつーの」
ここにも夢を掴んだものが一人。
今日もフカヒレの曲が店に流れる。
「ま、いいか。日曜になれば久々にみんなに会えるんだから。
スバルとカニ、フカヒレに乙女さんに。姫にも佐藤さんにも!」
「そうですね。よし、久々にカニを泣かせますよ。私の料理で!」
(作者・◆eU1qN.ie8.氏[2005/09/03])