竜鳴館の文化祭も、今日が最終日。
締めは恒例のダンスパーティ。
初々しさを残したカップルたちが
おぼつかないステップで踊ってらっしゃいます。

霧夜さんは佐藤さんがパートナーですわね。
ときどきセクハラ行為があるようですが、目をつぶりましょう。
伊達さんとカニさんも、今はいい雰囲気・・・
と思いましたらカニさんはテーブルの果物を食べて回ってるだけですわね。
フカヒレさんは・・・あちこちで玉砕しまくってますね。
その根性を勉強に回していただけるとよいのですが。
鉄さんは例によって見回りでしょうか。
お誘いは数多あるはずですのに、もったいない。
椰子さんもお誘いをことごとくはねつけてるようですね。
断られた男性が皆震え上がっているのが印象的です。

さて、対馬さんは・・・ドリンクとフードの補充係、ですか。
私にかまわず、パートナーを探せばよろしかったのに

「本当に踊りたい人が別にいるのに誘うのは、相手の人に失礼でしょう?」

ごもっとも、ですけれど。
実を言えば、私もお誘いがなかったわけではないのですが
律儀な対馬さんへの、私なりの誠意ということで
私も、こうして壁の花。

曲を重ねるごとに時間はどんどん過ぎていき
華やかな宴もそろそろ終わり。
後かたづけは執行部の皆さんにお任せして
私は一足先に職員室に戻りましょう。


「祈先生、片づけ終わりました」
竜宮の鍵を返しに、対馬さんが職員室に来たのは
日も暮れてだいぶすぎた頃。
「はい、ご苦労様、対馬さん」
「この後、オアシスで執行部の打ち上げがあるんで、祈先生も是非」
「私、今ちょっと財政難なのですが・・・」
「姫によると、なんか生徒会運営費から捻出とか」
「・・・今のは聞かなかったことにしますわ」
「じゃ、行きましょうか」
二人で並んで正門へ向かう途中、対馬さんがパッと私の前に。
「?どうしました?」
「祈先生・・・踊りませんか?今、ここで」

まあ。ちょっとビックリですわ。
「ダンスパーティーは、もう終わってますわよ?」
「俺と先生は、始めてもいないじゃないですか」
「音楽がありませんわ」
「まあ、俺が鼻歌でも歌いますから」
「照明もありませんし」
「月が明るいですよ、ほら」
「ドリンクも食べ物もありませんわよ?」
「それは・・・この後のオアシスまで我慢してください」
「何もありませんわね」
「パートナーだけは、いますよ」
対馬さんが穏やかに笑いながら手を差し伸べてきます。
「・・・そうですわね。それで、十分かもしれません」
「それでは改めて・・・祈先生、一曲お願いできますか?」
私は、彼の手をそっととりました。
「はい、喜んで」


少し肌寒くなってきたグラウンドで
パートナーの鼻歌にあわせて
煌々と輝く月明かりの下
ステップ、ステップ、ターン。
時に身を寄せあい、時には離れ
だけど手は繋いだままで。
「お上手ですのね」
「少し、練習しました」
「テンションに流されてません?」
「少し。たまには、いいじゃないですか」
そう。二人の間に絶対はないのでしたわね。
「私もたまには・・・こういうのも、いいと思いますわ」

***************************

やがて対馬さんも無事卒業。
大学生になっても、時々は私と逢瀬を重ねていましたけれど
会える時間が少なくなれば、自然と疎遠になるのも無理ありません。
この前会ったのはいつだったでしょうか。
1ヶ月前?1ヶ月半でしたかしら?
少し寂しい気はしますけれど
自然の成り行きに任せるのが私たちのルール。
去る者は追わず。
あの夜のかすかな胸のときめきを思い出に
また・・・以前の私に戻るだけ、ですわね・・・


「祈先生・・・また遅刻ですか・・・」
「はう〜・・・見逃してくださいましな鉄さん〜」
「そうはいきません」
「かつての教え子が、同僚になって説教してくるって、結構きますわねー」
「・・・そう思うんなら、遅刻しないでください」
鉄さんは、今年から竜鳴館に教師として戻ってこられたわけですが
以前と変わらず、遅刻などの校則違反をビシビシ取り締まられて
私も始終怒られてしまいます。
「とにかく、教師としてもっと自覚をもってください」
「前向きに検討いたしますわ〜」
「はあ・・・あ、それから・・・」
まだ何か仰りたいようですが、ここは聞こえないふりをさせていただいて
急いで職員室に避難ですわ。


「相変わらず遅刻多いですね、祈先生」
「・・・」
少し思考が停止してしまいました。
それはそうですわ。
目の前に、何の予告もなく対馬さんが立っているのですから。
「・・・何故に対馬さんが職員室に?」
「だから、今日から教育実習ですってば」
「聞いていませんわ」
「言いませんでしたからね」
「・・・教師になるというのも聞いていないのですけれど」
「そうですね・・・このほうが、寄り添うには便利じゃないかなと思って」
「距離をおくにはかえって不便ではないでしょうか」
「そのときは、またそのときで」
「テンションに流されてません?」
「5年かけて、ゆっくり盛り上げてきましたからね。
 盛り上がってますけど、流されてるわけじゃない」
また、距離が縮まるのですね。
以前の距離に。出会った頃の距離に。ひょっとすると、もっと近くに。
でも、それだけ。
それだけ・・・のはずなのに。
なぜ・・・胸の奥が熱いのでしょう。
「ところで・・・まだダンスパーティーでは壁の花ですか?」
「ええ。本当に踊りたい人が別にいるのに、お誘いを受けるのは相手の人に失礼、なのでしょう?」
「そうでしたね・・・じゃあ・・・まだ来年の話になっちゃいますけど・・・」
対馬さんが手を差し伸べてきます。あの夜のように。
「そのときには・・・・一曲踊っていただけますか?」
私はその手をそっととります。あの夜のように。
でも、答えは変えて。
「一曲と言わず・・・ずっと一緒に踊ってくださいましな・・・」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/09/01])

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