ぐにににに・・・
「ひふぁふぁふっほほふぅーっ!」
「こ、のっ・・・!」
なごみがカニの頬を引っ張り、カニはゲシゲシとなごみの足を踏みつける。
今日もまた、竜宮ではなごみとカニの微笑ましい交流が繰り広げられていた。
いつも止めに入る姫や乙女さんがいないので、今日はなかなか終わらない。
ちなみに、祈先生とスバルは寝てるし
フカヒレは止めようとしたらなごみに睨まれてトラウマ発動。
今は隅っこでガタガタ震えている。
というわけで、今この状況を止められるのは俺しかいないのだ。
「なごみ、もうその辺でやめとけ」
「あ・・・はい」
なごみは素直に引っ張っていたカニのほっぺたから手を離す。
まあ、俺が言えばなごみはやめるんだけど・・・
バランスを崩したのか、カニはどてっとその場にしりもちをついたが
バネ仕掛けのように飛び上がり、再びなごみに向かっていこうとする。
あわてて後ろから取り押さえる。
「カニもいちいち突っかかんなよ」
「へっ!きょ、今日はこれぐらいで勘弁してやんよ!」
まるで悪役のようなセリフを吐き捨てると
俺の腕を振りほどいてカニは飛び出していってしまった。
やれやれ・・・
「別に仲良くしろ、とは言わないけど、なんでそんなカニと仲が悪いかな」
なごみがちょっと困った顔になる。
「私は無視できますけど、向こうが突っかかってくるんですよ」
それにしても、相変わらず「線の外側」に対してはキツイよなぁ。
こればっかりはすぐには変わりそうもない。
そう思っていた。


ある日
生徒会がらみの書類をなごみに渡し忘れていたことに気づき
俺は授業の合間に1年の教室に向かっていた。1−Bの教室を覗くが・・・
「あれ?いない?」
近くの女生徒を捕まえて聞いてみる。
「ね、生徒会の者なんだけど、椰子なごみはいる?」
「椰子さんなら、集めたプリント届けに職員室に行ってますよ」
ありゃ、入れ違いか。しょうがない、少し待つか・・・
「あのー・・・」
「ん?」
いつの間にか、3人の1年女子に囲まれていた。
「生徒会副会長の、対馬センパイですよね?」
「え・・・ああ、うん。そうだけど?」
何が嬉しいのか女の子たちはキャイキャイと騒ぎ始める。
「いいなぁー。生徒会執行部って素敵な人多いですよねー」
「そ、そう?」
「そうですよー、霧夜センパイは当然ですけど
 鉄センパイや伊達センパイもカッコイイし、佐藤先輩も優しそうで素敵ですし」
「うん、まあ・・・」
なんで「素敵な人」の中に俺は入っていないのか。いいけどさ。
「でも、変なのもいますよねー」
・・・へ?
「何てったっけ、あのキモいセンパイ」
「鮫氷センパイ?なんか頭悪そうだしキモいしー」
「あと蟹沢っていうの?チンチクリンですっごいバカそうな」
ムカ。なんだ、こいつら・・・
思わず怒鳴り声を上げそうになったそのとき。
女の子たちの後ろに、いつの間にかなごみが立っていた。


「ざけんじゃねーよ!」
廊下に響きわたる怒声。
俺ではない。なごみだった。
「お前ら、知りもしねぇでいい加減なこと言ってんじゃねぇよ!
 確かにな、あの二人は頭悪いよ。成績は悪いかもしれない。けどな・・・
 フカヒレセンパイはな、お前らなんかよりずっと思いやりのある人だよ!
 カニだってな・・・カニだって、お前らなんかよりずっと根性があるんだ!
 なによりな、本人のいないところで陰口叩くような腐った真似はしない!
 言いたいことはズバズバ言ってくる、真っ直ぐなヤツなんだ!
 お前らみたいな、腐った連中とは違うんだよ!」
久しぶりに見る、なごみのおっかない顔。
俺に向けられたわけではないのに
その怒りのオーラに背筋が寒くなるほどだった。
1年の、まして女子が真っ向からぶつけられたら
体がすくんでも無理はない。
「ひっ!?」
俺の言いたいことを先に言ってくれたってのもあるけど
なごみが怒りを爆発させたぶん、俺の方は急速に冷めた。
ガタガタと震える女の子の後ろからなごみに声をかける。
「なごみ、もうよせ」
「センパイ!・・・だって、こいつら・・・!」
言ってることは間違ってないが
この調子で怒りをぶつけていたら、クラスで余計浮いてしまうだろう。
「いいから!」
ちょっと強めに言うと、なごみはハッとして身を引いた。


なごみと女の子の間に割って入る。
「キミたち、なごみが言ってることは本当だぞ。
 よく知りもしないで、勝手に人を判断しちゃダメだ。
 ある程度つきあってみなければ、人間なんてわからないもんさ。
 それに、陰口をたたくのもよくないな」
「は、はい・・・」
「わかったら、教室に戻りな」
慌てて逃げるように教室に戻っていく3人を横目に
俺はなごみに笑いかける。
「相変わらず、おっかないな」
とたんに怒れる不良少女は恥じらう乙女に。
「センパイ・・・か、からかわないでください」
「いや、ああいう真っ直ぐな怒りは、見ていて気持ちがいい。
 けど、あの子たちもそんなに悪気があったわけでもないだろ。
 勘弁してやりな」
「・・・はい」
「じゃ、俺この資料渡しに来ただけだから」
「あ、はい・・・あの、センパイ?」
ちょっともじもじしながらなごみが上目遣いに俺を見る。
「ん?」
「・・・今のこと・・・黙っててくださいね?」
うーん。カニとかに聞かせてやりたい気もするが・・・
「わかったわかった。じゃ、俺戻るから。また放課後にね」


そして放課後。
「うぃーす」
生徒会室ではなごみは資料の整理中だった。
他には・・・まだ誰も来てないな。
俺が来ると目を輝かせて立ち上がる。
「お茶、入れますね」
「ああ、いいよ、仕事中なんだから」
「もう、終わりましたから」
そう言って立ち上がると、いそいそと台所に。
昼間の怒ってるなごみとは別人のようだな。
と、ガラリと戸を開けて
カニとフカヒレがやってきた。
「チーッス!・・・んだ、レオとココナッツだけかよ」
「あーあー、二人っきりでなーにやってたんだかなー」
「よ、思いやりのあるフカヒレと根性のあるカニじゃないか」
「はあ?」「んだレオ?熱でも出たかオメー?」
ドダダダダ・・・
台所から大慌てでなごみが戻ってきて
そのまま俺をぐいぐいと部屋の隅に引っ張っていく。
(センパイ!黙っててくださいって・・・!)
(いいじゃん。仲良くなるきっかけに・・・)
(カ、カニと仲良くする気なんてないです!)
(ふ〜ん。まあ、いいけど)
身を寄せあってひそひそ話をする俺たちに、呆れたような声がかけられる。
「あーもー、わざわざ人の前でベタベタすんなよなお前らー」
「ったく、チョーシこいてるよなこの単子葉植物は」
「だっ・・・黙れこの甲殻類!」
「いひゃ!ひゃにゃふぇふぉおおー!」
ぐにー
やれやれ・・・いい加減、素直になれないもんかね・・・


帰り道。
「いやー、今日は驚いたなー」
「・・・」
「なごみがカニやフカヒレをあんな風に思ってたとは」
「・・・」
さっきからなごみは黙ったままだが、怒って黙ってるわけではないようだ。
照れてるんだろう、たぶん。
「悪口言われて怒るあたり、あいつらも線の内側に入ったのかな?」
「・・・そこまでは。やっぱり、線の外側ですよ」
まあ、そう簡単じゃないか。
「ただ・・・」
「ただ?」
「線の外側に・・・もう一本、線があるみたいな・・・わかります?」
「ああ・・・わかるよ」
少し照れくさそうに、なごみが頬を染める。
「その二本目の線の内側に・・・少し、入ってます。カニとか、フカヒレセンパイが」
「うん」
今までが、単純すぎたんだ。
線の内側と外側。なごみの人との接し方は二通りしかなかった。
だけど、人との距離の置き方って二通りだけじゃ難しい。
なごみは今、線の数を増やすことで、それに対応しようとしてる。
普通なら、もっと早くに身につけるような人との接し方を
自分から掴もうとしてるんだな。
そうなることのきっかけが俺だったのなら、ちょっと嬉しい。
「俺、なごみの線の内側に入れてよかったよ」
なごみはちら、と俺を見て、ちょっと考えてる。
「センパイは・・・線の内側っていうよりは・・・」
「え、俺入ってないの!?」
顔を赤くして、なごみが小走りに距離を置き、振り向いて微笑む。
「センパイは、もう私の真ん中にいますよっ!」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/08/31])

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