あの雨の日から
良美は変わり始めた。
いや、変わろうとし始めた。
心の底に根付いてしまった闇を打ち払おうとしていた。
闇を打ち払うものは光。
今は、まだ俺だけが
良美にとっての一筋の光明だ。
おずおずと、おびえながら
それでも一歩ずつ、光に向かって歩き始めていた。
俺はただ、そばにいる。
そばにいて、良美を照らし続ける。
だけど
本当は気づいてほしくもあった。
良美を照らす光は、一つだけではないということを。

竜宮。
俺と姫の二人だけの時に切り出した。
良美は学校に来ていない。
怖いのだ。
自分が周囲を騙していたと。皆を裏切ってきたと思いこんで
それが皆に知られた。皆が自分を嫌っている。
それが怖い。怖くてたまらない。だから、もう学校に行けない。
ただ自宅のマンションで俺が訪れるのを待つだけになっていた。
「それ・・・本当によっぴーのためになるのね?」
はっきりとした理由は言わなかったが、姫は黙って話を聞いてくれた。
「それは・・・わからない。
 無駄になるかもしれないし、下手すると逆効果かも」
「頼りないわねぇ」
「それでも、それしか思いつかないんだ。
 頼む、姫!協力してくれ!」
「・・・いいわ。私も対馬クンを信じる。
 私のよっぴーが、信じた人だものね」


「ただいまー」
「あ、レオくん。おかえりー・・・もう、学校終わったの?」
「いや、まだ。良美に会いたくて抜け出してきた」
「あ、いけないんだぁ・・・って、サボってる私が言えることじゃないか」
良美は今はもう、それほどひどい鬱状態ではない。
ただ、学校の話題とか出すと未だにどよ〜んとしてくる。
なので、学校とは関係ないかのように誘いをかける。
「なあ、たまには少し外に出ないか?」
「・・・外?」
「ほら、天気もいいしさ。松笠公園でもブラブラして。
 ずっと閉じこもってちゃ気持ちだって晴れないだろ?」
ちら、と良美が時計を見る。
午後1時。普通ならまだ授業中だ。
今なら、外に出ても学校の連中と会うことはないと踏んだのだろう。
「じゃあ・・・1時間くらい、なら」
「よし、じゃ早速行こうぜ!」


外に出る。今日はひどく暑い。
が、暑さに強い良美は割と平気なようだ。
「いい・・・天気、だね」
空を見上げ、まぶしそうに目を細めながらつぶやく。
「な、外に出ると気分いいだろ?」
「そうだね。ありがと、レオくん」
手を繋いだまま、公園の中をブラブラする。もう、いいだろう。
俺は良美の手を引いて、広場へと向かった。


「・・・っ!」
広場の入り口で、良美が身をすくめた。
松笠公園には所々に草の生い茂る緑地があって
昼時には弁当を広げる人々とかで賑わう。
だけど、今目の前に広がっている緑地には
異様な集団が集まっていた。
俺と同じ、竜鳴館の制服に身を包み
皆一様にしゃがみ込み、這い回っていた。
「レッ・・・レオ・・・くん」
おびえて俺の陰に隠れる良美に、俺はささやく。
「・・・俺が頼んだ。でも、俺のためじゃない。
 皆・・・良美のためにやってる」
皆うつむいているので俺と良美が来たことには気づいていない。
スバルが。フカヒレが。イガグリが。豆花さんが。
意地悪されたカニが。浦賀さんが。
面倒くさがりの祈先生が。
そして何より
俺まで驚いたことに姫が。
気高く、美しく、汚れ仕事なんて決してしそうにない姫が。
汗にまみれ、泥で手を汚し、地べたを這い回っていた。
2−Cの全員が、今、ここにいる。
「エ・・・エリー・・・な、何してるの?
 みんな、あんなになって・・・何してるの?」
そのときだった。
小さなカニの体が勢いよくはね上がる。
「あぁーーったぜーぃっ!」


続いて、広場のあちこちから喜びの声があがる。
「俺も見つけたぞー!」「ウチも!」「ワタシも見つけタネ」
よく見れば
2−Aの村田や西崎さんが。
他人には無関心な椰子が。風紀委員で校則に厳しい乙女さんが。
中には俺が知らない顔までが。
次々に立ち上がり、一様に手を差し上げて歓声をあげていた。
「な・・・何かの・・・行事?」
「いや、違う。みな探してるんだ。良美のために」
「何を・・・何を探してるの?」
ふらふらと
良美が俺の陰から歩み出る。
「私の・・・?私なんかのため・・・?
 こんな・・・こんなイヤな女のために・・・
 何を・・・何を探してるの・・・?」
もう、わかってるはずだ。
だけど、ここは自分で確かめなくちゃいけない。


さく、さくと草を踏みしめて
良美が広場に入っていく。
「あ・・・」
皆がそれに気づき、動きを止める。
そんな中
ようやっと姫が立ち上がった。
「あった!あったわ!やっと見つけたぁ!・・・あ」
もう姫の前に良美は立っていて
立ち上がった姫と向き合う形になっていた。
「エリー・・・?何してる・・・の?
 泥だらけじゃない・・・汗だくだよ・・・?
 そんなの・・・エリー、似合わないよ・・・」
「・・・探してたのよ。はい、これ」
姫が右手を差し出す。
その指につままれているのは、小さな緑。
「いやー、こういうことしたことないから苦労したわー。
 でも・・・見つかって、よかった。
 ね・・・受け取って」
「で・・・でも・・・」
姫が手を差し伸べたのをきっかけに
散らばっていた皆がわっと集まってくる。
「よっぴー、俺のも!」「私のも受け取ってー!」「ウチのも!」
「アタシなんか2つ見つけたもんね!ダブル!ダブル!」
皆が皆。良美に受け取ってもらおうと手を
その手につかんだ物を差し出している。
無数の、四つ葉のクローバーを。


俺もまた、良美の後ろに歩み寄る。
「受け取るんだ」
「レ・・・レオくん・・・」
「受け取るんだ、良美。これが、皆の気持ちだから。
 この暑い日に、汗と泥にまみれて、一銭の得にもならないことを
 ただ、お前のためにしてくれた。お前の幸せを願ってしてくれたんだ。
 人間全てを信じられなくてもいい。
 そんなこと俺だってできないよ。
 だけど、俺を信じることができたんなら
 ここにいる皆の気持ちは信じられるはずだ。
 信じていい・・・いや、信じなくちゃいけない」
「わ・・・わた、わた、し・・・」
ブルブルと震えながら
手を差し出し
そして
溢れる涙を拭こうともせずに
良美は、掴んだ。
幸せの、四つ葉のクローバーを。
誰言うともなく、歓声があがる。
「おかえり、よっぴー!!」


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/08/28])

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