「うーむ……」

「おいレン、朝っぱらかそんなマジマジと鏡を見て、何をやっとるか」

朝の洗面所。ちょっと早起きをして、鏡に映る自分の顔を見つめていたら
後ろから声をかけられた。

「あ、大佐。ちょうどいいや、聞きたいことがあるんだ」

「私がアフリカでマサイの戦士と一騎うちになった時の話かな?」

「いやそんなんじゃなくてよ。
 本当にヒゲはやしたら強くなれるのか?」

「無論。ヒゲのあるなしで、これほど変わるのかと驚くほどだ。
 昔、私がゲリラ戦を指揮していたとき、不覚にも敵に捕らえられ
 敵の女性指揮官に陵辱されそうになったとき……」

なにそのシチュエーション。
ていうか、このオッサンを陵辱しようと思う女がいるのか……

「まあそういう話は夜にでも聞かせてもらうとして」

「むう。なかなかにスペシャルな話なのだが……
 確かに、朝からする話としては相応しい話題ではなかったな。
 で、なんだ?まさか、私のヒゲを狙っているわけではあるまいな?
 もしそうなら、命のやりとりをする覚悟をしてくることだ」

つ、と大佐が身構える。ヒゲのことになると必死だな。

「狙ってどうすんだよ。
 いや……俺も、ヒゲ生やしてみようかな、と思ってよ」


「なに?そうか、ついにお前もヒゲの良さがわかってきたか!
 見所のあるやつと思っていたが、とうとう目覚めたようだな!」

「いや、別に目覚めたとかじゃねえけどさ。
 ヒゲ生やして強くなれるんなら、生やしてもいいかと思って。
 でも、生やし始めって、ちょっとみっともないだろ?
 その辺、執事としてはどうかなーと思って悩んでるんだ」

「なるほどな。確かに、ヒゲの伸ばし始めはあまり見栄えがよくない。
 かといって、ヒゲが生え揃うまで休むというわけにもいくまい。
 ……よかろう、次の休みの前日にでも、私のところにくるがいい」

「なんかいい手があるの?」

「まかせておけ。伊達に全日本ヒゲの会七浜支部長は務めておらんぞ」

「はぁ」

不安がないでもなかったが、とりあえず大佐に頼むことにして森羅様の部屋に。

「んー?お前が……ヒゲ?」

「ダメですか」

「いや、ダメとは言わんが……
 お前はヒゲがないほうが、その……可愛い」

むう。照れるぜ。

「あんまりムサイのはダメだぞ。大佐みたいな、ダンディーなヤツなら許す」

森羅様の中では、あのヒゲはダンディーなんだな……


そして、明日は休みという夜。

「大佐ー、明日休みだから来たけど、どうするんだ?」

「おお、来たか。
 この秘蔵の毛生え薬を使え」

「毛生え薬?……そんなんですぐにヒゲが生えるの?」

「無論。まあ丸一日はかかるがな。
 今晩寝る前に、生やしたい個所に塗って
 明日はなるべく外気に晒さぬようマスクをしていろ。
 さすれば、明後日の朝には見事に生え揃っているだろう」

「そりゃスゲエ……でも、そんなスゲエ薬、いいのか?」

「何、気にするな。新たなヒゲ仲間のためだ」

なんかイヤな仲間だな。
だが、ありがたくいただいておくか。

「わかった。ありがとな、大佐」

「礼は見事にヒゲが生えてからでいいぞ。
 塗るときは、指先で肌に刷りこむようにしてな」

「……まさか指先にまで毛が生えてきたりしねえだろうな」

「それはない。もともとの毛根がないところにまでは
 さすがに効果がないからな」

「じゃ、せっかくだからさっそく試してくるぜ!」


1日が過ぎた。
薬を塗ったあと、マスクの下で何やらムズムズしていたが
朝になって洗面所で確かめると……
スゲエ、ちゃんとヒゲが生えてやがる!

「どうだ、新しく生まれ変わったようだろう」

「あ、大佐!マジでスゲーよこれ!」

「ほれ、このハサミで形を整えろ。よいか、キチンと手入れをするのだぞ?
 でなければ、真のヒゲとは言えぬからな」

「サンキュ……ちょき、ちょきちょき、と……
 まだ短いけど、このまま薬塗ったほうがいいのかな?」

「お前にヒゲの毛根がもともとあるのなら、その必要はないが……
 定着するまで、2、3日おきに塗るとよかろう。
 その間はよく伸びるはずだから、手入れを怠るなよ」

「わかった、重ね重ねありがと…よっと!」

パシィ!

不意をついて大佐に拳を繰り出してみた。
が、あっさりと手のひらで受け止められる。

「……あれ?」

「バカめ。確かにヒゲを生やせば強くはなれる。
 だが、私のヒゲとお前の即席のヒゲでは年季が違うわ!」

ちぇ、そうそううまくはいかないか。


チリンチリン

おや、森羅様がこんなに朝早くからお呼びとは。
ベニは朝食の準備で忙しいだろうから俺が行かねば。

「お呼びでしょうか、森羅様」

部屋の中では森羅様が下着姿で……
なぜかモジモジして立っていた。

「お、ヒゲ……なかなか似合ってるな。
 それなら、まあ、許す」

「ありがとうございます」

「ところでレン……お前、何をした?」

「は?」

「とぼけるな!……そりゃコンプレックスがなかったとは言わないが
 別にこんなことは頼んでない!」

言うなり森羅様がズバッと下着を下ろす。

「え、ちょ、そんな朝っぱらから……あれ?」

森羅様のソコには
柔らかそうな茂みがツヤツヤと。
まだ生え揃っていない感じではあるが
それがまたそそる……ってそうじゃねえ!

「なんか昨日一日ムズムズするな、と思ってたら……どういうことだ!説明しろ!」


そういえば……おととい、薬を塗った直後に森羅様からお呼びがかかり。
その後イロイロあったわけで。
俺が口の周りに塗った強力毛生え薬が
ウッカリ接触したアノ部分にも移っちゃったわけで。
キスもしたのに生えたのがソコだけなのは、もともとの毛根の差ということか……

「えー……いわば、ご奉仕の副産物かと」

「そんな奉仕はいらん!やっぱりお前、ツルツルなのはイヤだったんだろう!?
 だから私に黙ってこんな……!」

「いやホント、事故みたいなものなんです」

大佐にもらった薬を見せながら事情を説明する。

「なるほど、わざとではなかったのだな……そんな薬があるとは知らなかった」

森羅様も、下の毛の相談までは大佐にしてなかっただろうしなぁ。
ていうか、森羅様いいかげんパンツ上げてくださいよ。

「で、その薬を塗りつづければ……コレ、定着するのか?」

コレ、とか言って股間を指差すのもどうかと思うのですが。

「そのようです」

「ふむ……これでミューにからかわれずにすむのだろうが……
 その、なんだ……レンは、どっちがいい?フサフサと、ツルツルと」

「……ツルツルでお願いします」

そんなところにヒゲが生えて、これ以上お強くなられては俺の身がもちません。


(作者・名無しさん[2007/12/01])

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!