「しかし、信じられんな」

「いきなり何だよ?」

いつものように夢お嬢様のお帰りを校門の前で待つ俺に
小十郎がため息とともに話しかけてきた。

「お前と夢さんのことだよ。
 執事とその主で恋人になってしまうとはな。
 ……よく森羅様からお許しが出たな」

「まあ、使用人といっても
 久遠寺家はわりと寛容だからな。
 キチンと執事の仕事をしているのであれば
 ご家族と……その、そういう関係になっても許されている」

「そうか……」

またため息をつく。

「お前はどうなんだ、小十郎?」

「ん?俺がどうかしたか?」

「お前と、揚羽さんだよ。
 このままずーっと執事でいる気か?好きなんだろ?」

以前の小十郎は、ここで真っ赤になりながら必死に否定してきた。
だが、今日はうつむいたまましばらく黙りこみ
そして、ポツリとつぶやいた。

「ああ……好きだ……」


「ずいぶんアッサリ認めたな」

「だが、勘違いするなよ?
 揚羽様は俺などとは身分が違う。
 いずれ然るべきお方との良縁があるだろう。
 俺はただただお傍でお支えするのみ、だ」

「いいのか、それで?好きという気持ちを隠しつづけて
 ずっとただ傍にいるだけでいいのか?」

「仕方がないだろう!揚羽様は……俺からすれば雲の上にいるお方だ。
 俺などが……どうこうできるお方では……」

「ほう。我は雲の上の住人か」

「その通り……って……あ、揚羽様!?」

あー。いつのまにか授業終わってたのか。
すぐ傍に揚羽さんが来てるのも気づかずに話しこんじまった。
こりゃまたブッ飛ばされるな小十郎……
ていうかどこから聞かれてたんだ?
場合によっては俺がフォローして……

「……フン。まあいい。戻るぞ小十郎」

「申し訳ありま……え?」

「戻るぞ、と言ったのだ。さっさとついてまいれ」

キョトンとしている俺と小十郎を残し
揚羽さんは振り向きもせずにスタスタと歩いていく。
あわてて小十郎がその後をついていく。いつも通りの風景だった。


翌日。

「あれ?」

いつも揚羽さんを待機している場所に小十郎がいない。
何か用でも言いつけられたのだろうか。
が、終業のベルがなっても小十郎は戻らない。
やがて校門に揚羽さんが出てきた。

「ん、上杉か。夢はまだ陸上部のミーティングがあると言っていたから……」

「いえ、それは存じておりますが……あの、小十郎は?」

「……アレには、暇を出した」

「え」

「平たく言えば、クビにした」

マズイ。やっぱり昨日の話を聞かれてたんだろうか。
でもそんな……クビにするほど怒るようなことか?
とにかく俺にも責任の一端がある。
ここはちゃんと理由を聞いて……

「納得できないという顔だな、上杉」

「それは……小十郎は拳まで交えた俺の友。
 よろしければ理由をお聞かせください」

「これはな……小十郎も納得してのことなのだ」

「ええ?」


小十郎がクビを納得?
あの揚羽さんへの忠誠心の塊が?

「いや、余計わからないんですが」

「昨日のお前達の話が、つい耳に入ってしまってな。
 正直、小十郎が我にそのような思いを抱いていると知って……驚いた。
 驚いたが、嬉しくもあったのだ」

ますますわからん。好きだって言われて嬉しくて……クビ?

「だがな、その後がいかん。
 我が雲の上の人だと、手の届かない存在だとはなから諦めている。
 それが……その不甲斐なさが情けない!悔しいのだ!」

ああ。つまり……最初から小十郎には脈があったんだな。
それなのに早々に諦めちまってたわけだ。そりゃ相手は怒るか。

「我が雲の上にいるなら、なぜ自分もそこまで上がってこない!
 我はまだまだ高みを目指すのだ!
 下から見上げているだけでついてこられるものか!
 なぜ……なぜ共に高みを目指そうとしないのだ!」

ハンカチを出す。が、差し出した手はそっと押し戻された。

「たわけ!……泣いてなどおらぬわ!」

「失礼いたしました」

「あやつは今ごろ、我の元を離れ、己を必死に磨いているはずだ。
 『雲の上で、我はお前を待つ』と……そう、約束したからな。
 いずれ己を高め、我の前にあらわれよう。それまでは……泣きなど……しない!」


揚羽さんはそのまま一人で帰っていった。
涙を拭かず、胸を張り。立ち止まらず、振りかえらず。
その姿は決して弱くは見えない。
むしろ気高く、鮮やかで、強ささえ感じられた。

「レンくん」

揚羽さんの後ろ姿を見送っていたら後ろから声をかけられた。

「お疲れ様でした、夢お嬢様」

振り向いてみた夢お嬢様の表情が少し曇っている。

「揚羽ちゃんのこと、励ましてあげてね。
 今日一日、ずっと元気がなかったんだよ」

「そうですか……でも、あの人はきっと大丈夫ですよ。
 きっとすぐ、元の揚羽さんに戻ります」

そういう揚羽さんだから好きになったんだよな、小十郎。
それに、俺なんかが勝手に支えちゃお前に申し訳ない。

「そっか……そうだね!じゃ、私たちも帰ろう!」

「はい」

家路をたどりながら小十郎のことを思いだす。
今どこで何してるのかわからんが
胸の中でお前のこと応援してるぜ。
だから……早く戻ってこいよ。


「ただいまー」「ただいま戻りましたー」「お帰りなさいませ夢お嬢様!」

「……は?」「……ほえ?小十郎……くん?」

玄関先で大声で俺たちを迎えたのは、いなくなったはずの小十郎その人だった。

「はい!本日より、この久遠寺家で男を磨かせていただきたく!
 先ほどよりこうして玄関でお願いを!」

「おいレン、これお前の悪戯か何かか?
 先刻から玄関先に座りこまれて正直困ってるんだが」

「げ、森羅様!?いやこれはただ小十郎が勝手に……!」

「頼む、お前からも森羅様にお願いしてくれ!」

「いやだって、なんで男を磨くのにここなんだよ!?
 お前のキャラなら山ごもりして修行とかだろ!?」

「ここにはあの大佐もおられるし
 夢さんのハートを見事に射とめた、お前という手本もいるじゃないか」

「ふむ……あと一人ぐらい雇ってもかまわんか……
 コイツは私の専属にして……ククク、面白そうだ」

森羅様からネジのゆるんだオーラが。そっと小十郎に耳うちする。

(おい小十郎、悪いことは言わんからウチはやめとけ)

「ん〜?おいレン、余計なことを言うと、コイツ雇う代わりにお前クビだぞ?(ギロリ)」

「ヒッ!?も、申し訳ありません森羅様ァ!」


(作者・名無しさん[2007/09/26])

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