彼女は常日頃からこう言っていた。
「私はクールにならなければいけない。」
だが俺には分かっていた、人が生まれ持った熱さ、それはそう簡単には変えられないものだ。
そしてこれは、そんな彼女を救うことさえ出来なかった哀れな男の話…。

彼女との初めて会ったのは、わずか1週間ほど前、暑い夏の日だった。
その日は珍しくすることがなく、朝から屋敷の中をブラブラしていた。
角を曲がると、そこには見かけない女がいた。
「…誰だ?新入りか?」
「…………。」
俺の問い掛けにそいつは答えない。
チラリと俺のほうを見ると、興味なさげに別の方向に視線を移した。
「ふん…。」
別に無視されることは慣れている。


俺は気にせずその場を立ち去ることにした。
「…マツシマ。」
「お。」
俺が振り返ると、彼女は先程と変わらず、俺に背を向けていた。
「…そうか、マツシマか。」
「…………。」
今度は何も答えない。
だが俺は、なんとなく彼女と上手くやっていけそうな気がしていた。
次の日、俺が昨日と同じ場所に行くと、また彼女に会った。
「おはよう、マツシマ。」
「…………。」
俺の挨拶に彼女は答えない。
だが、俺は気にせず彼女の隣に腰掛ける。
「…………。」
彼女はチラリとこちらを見やると、迷惑そうな表情で顔を背けた。
俺はそれに苦笑しつつも、話を始めた。


「昨日、俺の相棒と出かけた時な…。」
「……?」
彼女は困惑の表情を浮かべたが、俺は構わず話し続ける。
相棒の話、戦友の話、故郷の話、そして俺自身の話…、俺は思いつく限りの話をした。
彼女は当初、完全に無視を決め込んでいたが、段々とこちらの話に耳を傾けてきてくれた。
日が暮れる頃には、彼女ははっきりと俺を顔を見ながら話を聞いてくれていた。
「…そろそろ日が暮れるな、今日はこれまでだ。じゃあな、マツシマ。」
「…………。」
「また、明日な。」
「…お前は変な奴だな。」
今日、初めて彼女の声を聞いた。


「いきなりだな。」
「ここまで無視されて、よく私に構ってくるな、とな。」
「そうか?まぁそれが俺の生まれ持っての性分だからな。」
「ふふっ、おかしな奴だな。」
「!…そ、そうかな?いや、まぁ、いいか。」
「?」
正直俺は混乱していた。
彼女が一瞬見せた微笑み、俺はその表情にすっかり心を奪われていたのだから。
翌日、彼女は自分のことを話してくれた。
彼女は自らをエリートだと言った。
そしてエリートであるが故に、彼女は戦い続けるとも言った。
その言葉には嫌味や傲慢な感はなく、彼女の純粋な気持ちが伝わってきた。
「だから私は常にクールでなくつはならないんだ。」ただ一つ、この言葉には強い違和感を感じた。


翌日、彼女の様子が少しおかしかった。
話をしていると、突然悲しそうな顔をする。
理由を尋ねても答えない、ただ悲しそうに首を振り、
「大丈夫、私はクールだから。」
と、言い続けた。
俺は彼女の真意が汲み取れず、ひたすらに困った顔をするしかなかった。

翌日、彼女は目に見えておかしくなっていた。部屋の隅で滝のような汗を流しながら震えていた。
「お、おい大丈夫かっ!?」
慌てて駆け寄り、彼女を抱き寄せる。
「熱っ!?」
あまりの熱さに、とっさに身を離す。
「はぁ…、はぁ…、ご、ごめんなさい、私…、身体が…、大丈夫だからっ。」
彼女は苦しそうに、だが精一杯の声で答えた。
「…俺は大丈夫だ。とにかく助けを呼んでくる!絶対に無理はするなっ!!」
「…う、うん。」
その後、彼女は処置を受けた。
だが、彼女の身体は一向に良くならなかった。


俺はどうすることもできず、ほとんど動かなくなった彼女の前で涙を流すことしか出来なかった。
「…泣かないで、私は、もう大丈夫だから、ね?」
「…すまん。」
「…私、前にいったよね?クールになりたいって。でも、全然クールじゃなかったね…?」
「でも、俺は、俺は…っ。」
「ううん…、いいの…。それが私達の運命だから…でもね。」
「…?」
「…あなたとは、もっといっしょに…、いたかった…。」
彼女はそれきり、二度と動く事はなかった。


翌週、久遠寺家食堂にて。
ミューさんのお使いを済ました俺は、ここに来ていた。
「あれベニ?先週買った冷蔵庫は?」
「あ、下男。実はあれ不良品で全然冷えなかったのよ、頭きたから送り返してやったわ!」
「ああ、クーリングオフってやつか。」
「しかも一昨日から放熱するわ、液漏れするわで大変だったのよ!」
「ふーん。」
「マツシマ電気だから安心して買ったのに、とんだ迷惑よ!」
「テレビでもやってたぜ、『マツシマ電気から大切なお知らせです』ってやつ。」
「もうホント、腹立つわね!」
ヤレヤレ、ベニの癇癪に巻き込まれない内に退散するか。
『マツシマ電気から大切なお知らせです…。』
そこには先程話題に出たCMを神妙な顔?で見ているデニーロがいた。
「よう、デニーロ、随分真剣に見てるんだな?」
「…まぁな、なんたってアイツからの『大切なお知らせ』だからな。」
「?」


(作者・名無しさん[2007/09/03])

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