「ふぅ」

居間の清掃を終え、続いて玄関先に向かおうとしたとき。

「お、レン、ここにいたか。
 ミューの付き添いで病院にいるかと思っていたが」

やってきた森羅様に呼びとめられた。

「今日は時間がかかるということなので
 いったん戻っております。
 診察の終わる頃、またお迎えにあがります」

「そうか。経過はどうなのだ?
 ミューは順調としか言わないんだが」

「ええ、実際順調らしいですよ。
 先生のお話では、あと一月も通えば完治されるとのことです」

「そうか……いや、今度のミューのことでは世話をかけたな。
 姉として、あらためて礼を言うぞ」

「いえ、従者が主を気遣うのは当然のことです」

「恋人でもあるしな」

「ゴホン!……それに、俺はたいして役に立っていません。
 ミューさんを説得したのは、デニーロです」

「ん。生意気なところもあったが、妙に憎めないやつだったな」

アイツのことを話すとき、過去形になってしまうのがちょっと悲しかった。


「で、だ。お前に感謝はしているが
 同時にちょっと不満にも思っている」

「……は?」

「私は『週末にでも報告しろ』と
 そう命じたが……途中でなぜ相談に来ない」

急速に周囲の温度が下がっていく。

「夢には相談したんだよなぁ?」

「うぐ」

確かに、俺だけではミューさんの症状が見当もつかなかったので
夢お嬢様に協力はしていただいたが。

「デニーロにも相談したのだろう?
 私だけ仲間はずれにされていたわけだなぁ」

相談しなかったことでへそを曲げていらっしゃる。。
顔は怒ってはいない。むしろ薄笑いを浮かべているが
それがかえって怖かったりする。

とりあえず、弁明しなければ。

「じょ、状況を判断して、ハッキリするまでは
 ご報告しないほうがよいのではないかと……」

「ふーん。それで私に『だけ』は黙っていた、と」

だめだ、とりつくしまがない。


「まあ、結果的にはお前の判断は正しかったのだろう。
 だから、それでお前を罰することはしない」

むしろ罰を与えられるほうが気が楽だが、とにかくここは謝ろう。

「申し訳ありませんでしたぁっ!」

「何を謝る?お前のしたことは正しいと言っただろう。
 ただ気に食わないだけだ……ぬぬぬ、血管切れそうなことしやがって!」

最後ベニ公のモノマネしているあたり
からかわれているだけのような気もするが。

「……どうすれば、お許しいただけますでしょうか」

「よしよし、そういう風に素直に出れば、私も鬼ではないからな。
 実は……こういうものを用意してみた」

そう言って森羅様があるモノを取りだした。

「これをだな、ごにょごにょ……」

「……それは、いくらなんでも」

「イヤならいいんだぞ?ただし、その場合……
 そうだな、ベニと二人がかりでお前を犯すか」

「やらせていただきます」

一瞬、ソレいいなと思ってしまったのはヒミツだ。
スイマセン、ミューさん。心の中であらかじめ詫びておく。
……専属、クビにならないといいなぁ。


「な、なんなのコレはー!?」

朝。いきなり響くミューさんの悲鳴。

「レン!レーン!すぐ来なさーい!!」

いつもならすぐに駈けつけるところなのだが
今朝はちょっと気が重い。
やっちゃったからなぁ、アレ。

が、専属としては無視するわけにもいかず
腹をくくってミューさんの部屋へ。

「お呼びですか」

「呼んだわよ!何よコレ!やったのレンでしょ!」

プルプルと怒りに震えるMy Master。
いつもの起きぬけのように上半身はハダカ。
で、下半身が半ズボンだったりする。
ていうか、自分がはかせられると怒るのか、やっぱり。

「さすがミューさん、よくわかりましたね」

「こんなの添い寝してたアナタしかできないでしょ!」

「えー……お腹を冷やされてはイケナイと思いまして」

いちおう、考えておいた言い訳を言ってみるテスト。

「そんなワケあるかー!
 しかも何よコレ……ぬ、脱げない、し!」


実は森羅様特注のこの半ズボン
前のボタンにカギがかけられるようになっているのである。

「ほほう。とうとう自分で半ズボンをはくようになったか」

「ね、姉さん!?……読めたわ、これは姉さんの差し金ね!」

「いやあ、半ズボンでも可愛いなぁミューは……
 いや、普段にもまして可愛い。
 なるほど、これが半ズボンの魅力というものか……」

「いやその魅力の感じ方は間違っているわ姉さん!
 って、そんなことは今はいいのよ!
 とにかくボタンを……く、外れ、な、い、っ!」

「いや、カギ外さないと脱げないぞソレ。ほら、これがカギだ」

「YO KO SE!」

「いいじゃないか、好きなんだろう半ズボン?」

「可愛い男の子がはいてこそ価値があるの!
 だいたい、脱げなかったらトイレとかどうするのよ!」

「あ、それはですね。ファスナーがお尻のほうまで開くようになってるので
 脱がなくても大丈夫みたいです。イロイロと」

「何そのエロスな構造!ていうか何でそこまでわかるのよ!?……試した?」

「え、いや、あの……何もしませんでしたよ!?」

「何で赤くなるのよ」


「フン……いいわ、脱げないなら切っちゃうから」

ミューさんがてててっとデスクに走りより、引き出しからハサミを取りだした。
が、ハサミをじっと見つめ、次に自分のはいている半ズボンを見つめ……

「……できない!できないわ、愛する半ズボンを切り裂くなんて!」

「フフフ、やはりな。できまい、できまいよミュー!
 そこまで見とおしての我が計画、どうだ、恐れ入ったか!」

勝ち誇ったように仁王立ちする森羅様。恐れ入ったというかオソロシイ。

「くっ……!どういうことなのレン!主である私への反逆!
 事と次第によってはムチ打ち程度では済まさないわよ!?」

「まあまあミューよ。これも元はといえばお前が原因なのだ。
 だが主に逆らった従者に罰を与えたいというお前の気持ちはよーくわかる。
 そこでだ……これで思う存分罰を与えるがいい!」

「ナニィ!?」「そ、それはー!?」

「じゃん♪半ズボン♪」

ミューさんのと同じデザイン。ちょっと大きめ。
……俺用?俺用ですか?カギつき?カギつきですカ?

「……ベニ公に頼まれていた買い物に行ってきますっ」

「あ、コラ待ちなさーい!逃げるな半ズボーン!」

逃げる俺。追うミューさん。笑う森羅様。
久遠寺家は、今日も平和です……


(作者・名無しさん[2007/06/23])

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