「よっ、夢、上杉。買いだしか?」「うぃーっす、ケイ」「お、うっす。そんなとこ」

夢お嬢様とチャイナタウンに買いだしに出かけたところで
稲村にばったり出くわした。そのままちょっと立ち話。

「……そういやよ。前に、ミィのことヘコませてぇって上杉に相談しただろ?
 あれ、なんかうまい手思いついたか?」

「え、そんなこと話してたの?」

そういえば、夢お嬢様と稲村の仲が一時険悪になった少し前
そんな相談を稲村に持ちかけられたっけ。
その後のゴタゴタですっかり忘れてた。

「ええ、まあ……いちおう、ヘコんだ顔は俺は見たぞ」

「ナニィ!?何だよ、どうやってアイツヘコませたってんだ?」

「お前と夢お嬢様がケンカしてるときヘコんでた」

「あ……アハハハ……あのとき、かぁ……」

「ぐ……ま、まあアレは……なんだ、ノーカンだ。
 ミィをヘコませるためだけに、夢とやりあってなんかいられねーしよ」

顔を見合わせて苦笑いを浮かべる二人。
何がノーカンなのかよくわからんが
夢お嬢様とは仲良くしていてもらいたいので
あえてツッこまないでおく。

「けど、それ以外じゃ特に思いつかんな。
 なにしろ、何しても快感に変えちゃうんだから」


肉体的にも精神的にも、どんなに責めてもそれは彼女にとって快感であり
かといって捨て置けば放置プレイととって身もだえる。
そんなハードルが高い女の子がアナスタシア・ミスティーナ。

「そうなんだよなぁ……あー、あのドマゾ女のヘコむ顔見てみてー!」

天下の往来で大声でドマゾとか言うな恥ずかしい。

「そもそも、ハードMだってことと夢お嬢様の友達だってこと以外
 俺そんなにあの子のこと知らないし。普段どんな子なのよ?」

「ミィのこと?んー、勉強はできるよ。成績はトップクラス」

「確かに知的な感じだよな」

あれでしょっちゅう悶えていなければなー。

「家はけっこう金持ちらしいぜ」

「へぇ……お嬢様なわけか、あれも」

Mのお嬢様ってのも使用人からしたらやりづらそうだ。

「うん。でも、けっこう家事とかも得意だよ。
 一人で暮らしてるから、慣れたのかもね」

「スタイルもいいし、美人だよな」

「おう、これでハードMじゃなきゃ男が放っておかねーんだろうけどな」

なんだ、いいとこばっかりじゃねえか。
……ハードM以外は。


「って、誉めてもしょうがねえだろ、ヘコませるのが目的だっつーの」

「……誉めても?」

「……」「……」「……」

ちょっと沈黙。しばし三人顔を見合わせ

「それだ!」「それだぜ!」

ほぼ同時に、回答を思いついていた。

「えっとぉ……どうするのかな?」

訂正。思いついたのは俺と稲村だけだった。

「つまりですね……
 イジメて喜ぶなら逆に誉めたり甘やかせばいいんじゃね?ってことです」

「……おおー」

「そういうこと!さっそく確かめてみようぜ!」

「え、でもそれって……ミィはいやがるんじゃないかな」

「まあそう固っ苦しく考えんなよ。いわばドッキリだ、ドッキリ」

「うーん……ミィがいやがりだしたら、すぐやめようね?」

なんだかんだいって、優しいな、夢お嬢様は。

「わーかってるってぇ!それじゃ、ちっと打ち合わせようぜ!時間、いいか?」


そして次の日曜日。
久遠寺家に稲村とミィことアナスタシア・ミスティーナがやってきた。

二人を夢お嬢様の部屋まで案内すると
お茶やお菓子を用意してからまた部屋へ。
今日はナトセさんがお休みでいないので
この辺がもっぱら俺の役割なのも好都合だった。

「レンくんも一緒にお茶しようよー。二人とも、いいよね?」

お茶を運ぶと夢お嬢様から予定通りお誘いが。

「ああ、上杉なら歓迎だぜ」「どうぞ、上杉」

「それでは、失礼して」

ダベリの輪に俺も加わる。そろそろスタートか。

「そういやよ、こないだの英語の抜き打ちテスト。
 あれミィは満点だったよなぁ」

彼女の実情を知らない俺は、主に相槌をうつ係りだ。

「ほお、それはスゴイ」

「別にスゴイことじゃないよ。私は、普通に3ヶ国語使ってたから」

いやそれフツーにスゴイと思うんですが。

「けど、コイツ現国も古文も漢文もチャッカリできるんだぜ?」

「ほうほう。なかなかの才媛じゃないすか」


「ミィはエリートだからねー」

「エリートかぁ。いーい響きだねぇ。よっ、エリート様っ」

「そ、そんなこと……ない」

「男子でもさぁ、密かに憧れてるヤツ、いるんじゃねえの?」

「あ、それそれ!タッキーとかときどき熱い視線送ってない?」

「お、夢も気づいたか!あと、村西なんかもアヤシイぜー?」

「モテモテですな」

「でも、私の趣味を理解してくれそうにないから……」

「いやいや、その魅力があれば
 男のほうが趣味を合わせてくることだってありえる……よ?」

……自分で言って『ありえるか?』とも思うが。
しかし、こういう話題って女の子はノリノリだな。
ミィはと言えば……なんか困ってるっぽい。潮時かな。

「これで国に帰ればお嬢様ってんだから
 俺なんかやってられねーよなー」

「……夢みたいなお嬢様じゃないよ、私。
 使用人だって、婆やとコックがいるぐらいだし」

一般家庭には婆やもコックもいませんよ?

「いやそれじゅうぶんお嬢様だよ。アナスタシアお嬢様」


プツン。

「ん?今何か……おい何か聞こえなかったか稲村?」

「いやぁ、別に?何か聞こえたかミィ?」

むしろ、音はミィのほうから聞こえたように思うが。
目を向ける。いつもと変わらないミィがいる。
ただ……放っているオーラが、違った。

「……ミィ?……気安いわね。アナスタシアお嬢様、でしょう?
 呼び方ぐらい、わきまえなさい」

「……は?何言ってんだおま……痛っ!?」

ミィががスッと手を伸ばし……稲村の頬をつねってる!?

「い、いひぇひぇ!ひ、いひぇっひぇ、ひょ、ひゃなひへ……!」

「それ以上、そのエレガントさのかけらもない口を開くのはおやめなさいな」

口調こそ静かなままだが、口から出る言葉が普段と正反対に。
目線は冷たく。口元には嘲笑。手はギリギリと稲村の頬をつねったまま。

「ちょ、ミィ、どうしちゃったの!?」

「お黙りなさいな、無個性キャラの分際で」

「ひゃう!?」

イカン。何かハードMが裏返って
ハード、というほどではないがSになっていらっしゃる!


そして数時間経過。
ミィ……いや、アナスタシアお嬢様は
俺たち3人の忠誠を受けて満足なされたのか
ヘコみまくりの従者・稲村を従えてお帰りになられた。

「いやー……スゴイ主っぷりだったねー」

「そうですね。何というか、思わず従わずにはいられないような」

「いいなあ、個性的で……夢も、あれぐらいの威厳が出せればなぁ」

あ、夢お嬢様もヘコんだ。計画とはマッタク逆の結果になってるぞ稲村。

「夢お嬢様は、カリスマというよりアイドルですから」

「!……ワンスモア プリーズ」

「アイドルですから」

「……えへへー」

ギュ、と抱きついてくる夢お嬢様。
こうやって、ヘコんだと思うと何気ない一言で元気になってくれる。
その元気な笑顔が見たくて、ついつい支えちゃうのが
夢お嬢様の魅力なんだろうなぁ。

「でも、やっぱりカリスマも欲しいなぁ。
 私も、ミィみたいに何かキッカケに裏返ったらカリスマが出るのかな?」

「いや、元々ないものは裏返しても出てこないですよ?」

「はふん」


(作者・名無しさん[2007/06/09])

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