久遠寺三姉妹のティータイム。

「大佐、その後レンの様子はどうだ?」

「はい、よくやっていると思います」

「……まだ毎晩、大佐に勝負を挑んでいるようだが」

「はい。メキメキと腕を上げてまいりました。
 執事としても、私の教えをどんどん吸収しております」

「そうね。私の専属としても、特に不満はないわ」

「だがなぁ……もうちょっと面白いヤツだと思ってたんだが」

「今は私を目標に頑張っているので、あまり余裕がないのでしょう。
 勝負を挑んできた後などは、なかなか乙なことなど言いますぞ?」

「ふーん。なんだか、レンくんずいぶん可愛がられてるなあ。
 今は階級だったら少佐ぐらいカナ?」

「いやいや、とてもそこまでは。
 せいぜい少尉といったところです」

「くす……それでも士官にするあたり、かなり見こんでいるわね」

「はい。鍛えがいのあるヤツです。
 何といいましょうか、よき後継者を得たように思います」

「ほほう。今のセリフ、レンが聞いたらどんな顔をするかな」

「これは失言でした。どうか今の言葉はこの場限りということで」


「なんだか、レンくんと大佐を見てると
 上司と部下っていうより親子みたいだよねー」

「夢お嬢様はご冗談がうまい」

「そうか?私もそんな風に感じていたが」

「森羅お嬢様まで。どうも今日は余計なことをしゃべりすぎましたかな」

「いえ、口にこそしないけれど、レンは大佐に父親を重ねているわ。
 自分の、理想の父親像をね」

「そうだな。実父の暴力に耐え兼ねて家を飛び出てきた、ということだが
 そう言いながらレンは父親の愛に飢えているのだろう」

「そうね……父親を慕っていたからこそ、その暴力がつらかった。
 それがいたたまれなくなって家を出た、というところなのでしょう。
 そして、厳しくも自分を導いてくれる大佐に出会った。
 レンの心の隙間に、大佐はスッポリはまってしまったのよ」

「大佐はどうなの?やっぱり、レンくんを息子みたいに思ってる?」

「はて。妻も子もない私に
 アレを息子と思うような気持ちがあるとも思えません。
 レンがどう思っているかはわかりませんが
 私には父親としての面はないでしょう」

「だが、大佐は私達の親がわりでもあるだろう。
 少なくとも、私たちはそう思っているぞ」

「ありがたいお言葉……
 さて、お茶のおかわりでもお持ちしましょう」


「よっしゃ、今夜も頼むぜ大佐!」

夜。一通りの仕事を終え、いつものように大佐に挑む。
が、大佐は腕を組んだまま構えようとしない。
なんだ、新しい戦法か?

「なあレン。今日はちょっと話をしたいんだがな」

「話なら稽古のあといつもしてるじゃないか」

「今夜はちょっと長くなりそうなんでな」

まあ大佐の話はいつだって長いが
それでも俺には勉強になることが多い。

「わかった。じゃあ今日の訓練は酒のほうってことで」

「うむ。とっておきを出してやろう」

部屋に戻り、大佐とさしつさされつで杯を傾けあうこと数杯。
不意に大佐が杯を持つ手を止めた。

「レンよ。お前、この家を出てみんか?」

「……は?」

「ここに来て、お前もなかなか成長した」

「ああ、大佐のおかげだよ。だからもっと俺を鍛えて……!」

「まあ聞け。確かに成長しているが、まだまだ経験が足りない。
 ここらで、見聞を広めてみるのもいいのではないか?」


「見……聞……?」

「そうだ。ずっと私の傍で修行をしても成長はしていくだろう。
 だが、己でいろいろ体験することも重要なのだ。
 まあいきなり私のように世界中を旅する、というのも何だが
 せめて日本各地を回ってみるぐらいはしてみてもいいだろう」

なるほど。
考えてみれば、俺は故郷以外はこの七浜ぐらいしか知らない。

「武者修行、か……」

「まあそんなところだな。どうだ、行く気はあるか?」

行ってはみたい。みたいが……

「けど、まだここで働き始めて日が浅いのに、そんな身勝手は……」

「それは、私からお嬢様がたに口添えしてやろう」

「鳩ねえを残していくのも……」

「それも、修行と思え。いい加減、姉から一度離れてみろ」

「……わかった。よろしく頼むよ」

「うむ、後のことはまかせておけ。
 まずは……お前、父親とケリをつけてこい。
 今のお前なら、できるはずだ」

「!……ああ。わかってる。
 そこから、スタートだよな」


そして、旅立ちの朝。

「アンタ、いると便利だからさっさと戻ってきなさい」

「レンくん……体に気をつけてね……」

「うう……レン兄ぃ、さびしいです……」

「拾われた恩を感じているなら、かならず戻ってくるんだぞ」

「私の専属はとかないわよ。だから、早く戻っていらっしゃい」

「私も、レンくんみたいに修行の旅に出てみようかなぁ」

「うううぅぅx〜……レンちゃんが……レンちゃんが……」

「鳩ねえ……かならず帰ってくるから……
 だから、待っててくれ。一回り大きくなって戻ってくる」

名残惜しいが、そろそろ時間だ。
皆に向けた背中を、それまで黙っていた大佐が、ドン、と叩いた。

「レン。どこに出しても恥ずかしくない程度には、私が鍛えた。
 後は、お前次第だ。気がすむまで、世間を見てこい。
 そして……かならず、帰ってくるのだぞ」

ふり返らずに。涙を見せずに。力強く、俺は答える。

「ああ……わかってる。
 じゃ、行ってくるよ……父さん」

「!……うむ……行くがいい、息子よ……」


(作者・名無しさん[2007/06/02])

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