ここは竜鳴館館長室。
質素な造りではあるが、館長の椅子の後ろには巨大な竜の絵が堂々と飾られている。
センスの有無はどうでもいいとして、見方によってはヤクザの事務所と間違えそうな雰囲気だ。
その部屋の大きな椅子で頭を悩ませているのが館長の橘平蔵である。
「ううむ、このままではいかんな」
少子化の影響は、ここでもその波が押し寄せていた。
確かにこの学校は人気はあるものの、生徒獲得はこれまで以上に厳しくなる一方。
このままでは来年は赤字経営になるのが目に見えてしまっている。
「何かいい手はないものだろうか…」
すると突然、館長室のドアがノックもなしに勢い良く開けられた。
開けた人間は生徒会執行部の佐藤良美だった。
「館長、大変なんです!すぐ来てください!変な人が暴れているんです!」
「うん?しかし、鉄がいるであろう?わしが出向くまでもあるまい」
「でも、その先輩も手こずっているんです!」
「何?…ふむ、この問題を解消するいい手が浮かんだぞ」


……突然ですが話は数分だけ遡ります。

「これでどうかな〜?」
「うん、いい考え!これで合同文化祭も何とかできるかも!」
今回、私は学校の代表として、竜鳴館の生徒会執行部にやってきたんだ〜。
内容は、私の学校と竜鳴館との合同文化祭だよ〜。
場所はこっちのほうが広いし便利だから、竜鳴館でやることになったんだよ〜。
それにしても、私は生徒会とかなんかに参加していない、ただの学生なのにね〜。
何で代表になっちゃったんだろ〜。不思議〜。
「それじゃ、詳しい事は後日ということで…日程は変更なしということで」
「OK〜。ゲストは知り合いの芸能人に頼んでみるよ〜」
「わお、いい人脈持ってるんですね」
「それじゃ、今日はそういうことで〜」
私は生徒会を出た後、すぐにくーやのところに直行だよ〜。
今日は巴お姉ちゃん、瀬芦理お姉ちゃん、そしてくーやと一緒に来たんだよ〜。
みんな学校の外で待ってるんだけどね〜。
待っててね、くーやぁ。
トゥルルルル…
あれ、巴お姉ちゃんだ。なんだろ?
「なに〜?」
「あ、あの…なんだか校庭が騒がしいんだ。
 さっき瀬芦理姉さんが無断で入って行っちゃったから、もしかして…」
「海お姉ちゃん、悪いけどちょっと様子見に行ってみてよ」
「う〜ん、くーやの頼みだったら断りきれないよ〜」
また瀬芦理お姉ちゃん、何かやったのかな〜?


「待て、この泥棒!」
「待てといわれて待つアホはいないにゃー!」
なんというスピードだ。
少し本気を出しても、なかなか捕らえられるものではない。
まだまだ世界は広いな。このような者がいるとは…
拳法部も助太刀に来たが、ことごとく敗れ去ってしまった。
ただの食い逃げ犯かと思っていたが、これは骨が折れそうだぞ。
「あの鉄先輩に負けてへんで、あの金髪のねーちゃん」
「本当ネ。あんな苦戦する先輩、初めてみたネ」
む、人が集まってきたな。
他の生徒に危害が及ぶとも限らん、ここは一気に勝負にでるとしよう。
校庭の真ん中までやってきた犯人は、ようやくそこで足を止めた。
「あーあ、キミってしつこいねー。もういいや、ちょっと軽くのしてから帰らせてもらうよ」
「ふっ…できるものならやってみるがいい!」
両者の拳が交わろうかという瞬間、巨大な気配が突如現れた。
「待てーい!そこまでだ。この勝負、わしが預かる」
その声は橘館長だった。
「は?誰アンタ?」
「これは館長…どういうことですか。館長らしくもない」
「ふふふ、強き人間は闘いの中で磨かれるというもの。強くなろうという意志に老若男女は関係ない。
 このような凄まじい勝負は止めるどころか、むしろ推奨するところである。
 しかし、今回はこの勝負を竜鳴館の危機的状況を打破するために使ってはみぬか?
 このまま続けても生徒達に迷惑がかかるというものだ」
「と、いいますと?」
「近々、合同文化祭が当校で行われる手筈となっておる。
 そこで、お主らの決戦の場を用意しようではないか。
 学校間の交流、学校の宣伝、生徒達の製作意欲の向上とも相まって、一石四鳥とも言えよう。
 竜鳴館名物『リューメイファイト』!見事受けてみせるか金髪娘よ!」


「ほう、それでその勝負を受けたのか、せろりよ」
「だってさー、あの状況じゃしょうがなかったもん」
「まったく、またくだらないことをしでかしたわね」
夕飯の席でねぇねぇは挑戦を受けることをみんなに話した。
「どーせヒマだったし、丁度いいかなって」
「お姉ちゃんもよくOK出したね」
「私もね、これだっていう出し物がほしかったところなんだ〜。
 あっちの生徒会長なんて、目を輝かせてやる気満々だったよ〜」
ねぇねぇはもはや見世物か…
「なるほどのう。せろりよ、戦に出るからには、柊家の名を汚す事は許さんぞ」
「もちろんだよ。アタシ、一度本気でケンカできる相手がほしかったんだよねー」
バイオレンスな家だよ、ホント…
しかし、ちょっと見てみたいかもな。ねぇねぇが本気で戦うところ。
「じゃ、セコンドはクーヤでお願いね。あ、あとモエとうみゃも」
「うん、任せといてよ」

「乙女さん、本当に大丈夫?」
「ふん、まさかレオは私が負けるとでも思っているのか?」
しかし、俺の目から見てもあの金髪女は乙女さんと互角と見えたけどな。
「確かに奴は強かった。なかなかあれほどの強さの人間はいるまい」
「本気出していたわけじゃないんでしょ?」
「もちろんだ。いきなり全力で戦うわけにもいかないからな。
 どうであれ、雌雄を決しなければ気が済まん。当日で思いしらせてくれる」
「はは…」
「よし、それでは当日に向けて特訓だ。レオも付き合え」
「やっぱりな…」
「それと、当日は姫とレオにセコンドをやってもらうからな」
「仕方ないなぁ」


そして、合同文化祭の日がやってきた。
全部で4日間の日程で行われ、最終日で例のメインイベントが行われるわけだ。
当日はケーブルテレビがやってきて生中継、そこでのレポーターなども生徒で行われることとなった。
そのおかげもあってか、生徒達の活気はこれまで以上のものとなっている。
生徒会もヘルプで終始駆け回っていた。
椰子は料理部に行ったし、カニも宣伝活動に大忙し。
何もしないで寝ているのは祈先生ぐらいなものだ。
「うんうん、合同文化祭はバッチリね!」
メインイベントを一番推し進めたのは当然のように姫。
当たり前と言えばそうだが、姫がこんな企画をポイするはずがない。
初日からの大盛況は最終日まで続いていた。
「霧夜さん、こんにちわ〜」
「あら、これはどうも」
「メインイベント、楽しみだね〜」
「ええ、ホント。でも、乙女先輩には勝てないと思いますけど」
「そうかな〜?私は、お姉ちゃんが勝つと思うけどな〜」
「あら、そうかしら」
「そうだよ〜」
「ふふふふふ…」
「えへへ〜」
な、なんか怖い…


「雛乃姉さん、着きましたわ」
「うむ、大儀である。飴をやろう」
ここが今日、せろりが戦に出るという竜鳴館であるか…なかなか大層な造りであるな。
なんでも学校公認の異種格闘技大会と聞いておるが。
普段は体育武道祭の時に別の名前で行っておるらしいのう。
「あれですね、雛乃姉さん」
「そのようであるな」
大きく『リューメイファイト試合会場』という幕が出ておる。なにかと派手なことであるな。
我はこのような雰囲気、嫌いではないぞ。
「会場は大変混雑しております!皆さん順に並んでご入場してください!」
それにしてもすごい数の人が見に来るのだな。
「さぁさぁ世紀の対決が幕を開けるよ!
 竜鳴館一の達人・鉄乙女が勝つか、それとも天性の運動神経を持つ野生児・柊瀬芦理が勝つか!?
 どちらが勝つかを予想してがっぽり儲けようぜー!
 今のところ掛け率は4:6で鉄乙女だー!」
学校内であるのに『ととかるちょ』なるものまでやっておるのか。
少々不謹慎な気もするがのう。
「私の占いでは…どちらが勝つかなど、わかりません。
 この勝敗は神すらも予想ができないということです。皆さんの心次第…ということですわ」
「まぁ、我輩たちに頼らず、自分のその貧弱な脳ミソを振り絞れってことだ。
 わかったか、ジャリ坊ども」
「と、土永さんが言っていますわ」
なんと、占いもやっておるとはな。
それにしてもあの鳥、なかなか流暢な日本語をしゃべる鳥だな。
「それでは行きましょうか。席は高嶺がとっているはずです」
「うむ、行くとしよう」


ボンボンボン!

「お茶の間のみなさーん!
 本日はここ、竜鳴館より『リューメイファイト』の模様を実況生中継でお送りします☆
 お付き合いさせていただくのは今を駆ける女優・犬神保奈美とっ!」
「竜鳴館一可愛いと評判の蟹沢きぬでお送りしまーす!チャンネルはそのままだぞオメーラ!」
「知り合いとかにもこのチャンネルにあわせるように今すぐ電話よ☆」
「いやー、それにしても見てよこの人の山!まさかこれほど集まるなんて思いもしなかったぜ!」
「ホントねー。みんなそれだけこの試合に期待してるってことね☆」
「ボクも楽しみだよ!あ、そうそう。まだ席は余裕があるから、近い人は今すぐ来ーい!」
「今ならワタシのサイン色紙をあげちゃうわよっ☆
 それじゃカニちゃん、ルールの説明をお願いねっ。ワタシ、よく覚えてないの☆」
「おっしゃー、任せとけ!今回は超絶バトルが予想されるだけあって、いつもとは全く違うルールだぞ!
 体育武道祭でいつも見に来てる人は要注意だ!よーく聞いとけよ!
 1ラウンド5分、インターバルは1分だ!ラウンド数の制限は一切ねぇ!
 服装は全裸じゃなけりゃ問題ねーぞ!」
「アン、そんな格好だったらただのストリップよ☆」
「手にはオープンフィンガーグローブをつけること!足は靴なんて履いたらアウトだ!
 ただし、サポーターをつけるのは文句ねーぞ!そして当たり前だけど、武器は使っちゃならねー!」
「でも、身近にあるものを使うのはいいのよね?」
「そーだ!弱っちくても、ずる賢けりゃ十分勝てるぜ!カウントは10カウントまで、場外は20カウントまでだ!
 あと、組技になったときはロープエスケープもありだからな!」
「プロレスみたいなルールも混じってるわね☆」
「まー似たようなもんだ!当たり前だけど『まいった』とか言って負けを認めても負けだからな!
 それじゃ、選手控え室のほうを覗いてみるとするぜ!まずは鉄陣営の控え室だ!
 向こうにいるスバル、さっさと覗いてみたれやー!」


「もうちょっと言葉使いちゃんとしろよな、子蟹ちゃん。これテレビで流れてるんだぞ?」
『ウ、ウルセー!さっさとしろ!』
「仕方ねぇな…よし、それじゃいくぜ。ここが鉄陣営の控え室です。
 中からはほとんど声は聞こえないものの、時折気合を入れるかのような掛け声が聞こえてきます。
 それじゃちょっと中へ入ってみるとしますか…失礼します」
「おお、伊達か…ってちょっと待て、なんでカメラがいるんだ!?」
「そりゃテレビですから。では試合に出る鉄乙女さん、意気込みを一つ」
「よ、よし。今回は突然試合が組まれることになったが、私も武術家の一人。
 いつどんな場所であろうと、全力を持って戦うつもりだ。
 今日は負けん。勝つのは私だ」
「おお、スゲェ気迫だ…それじゃセコンドにつく霧夜エリカ生徒会長、何か一つ」
「乙女先輩、期待しているから頑張ってね」
「ああ、任せろ」
「以上、鉄陣営の様子でした」

「やる気満々だっぜ」
「闘志がみなぎってるわねっ☆」
「ボクの個人的な予想としては、乙女さんが勝つと思うんだけどなー」
「ワタシは瀬芦理ちゃんだと思うなー。それじゃ、そっちの控え室を覗いてみましょうか!」
「おっしゃぁ!柊陣営の控え室にはフカヒレがいるぜ!
 とっとと突入しやがれバカヤロー!」


「こんなところまでフカヒレって呼ぶんじゃねぇ!まったく…」
『うふ☆お・ね・が・い』
「美人に頼まれちゃあ行くしかねぇ。こちらが柊陣営の控え室です。
 なんだか中からは大きな笑い声がしていますが…中に入ってみましょう。
 失礼しまーす!」
「イッキ、イッキ、イッキ!」
「ぷはーっ!よし、次はモエだー!」
「あうぅ、私は…」
「うわ、酒くせぇ!…ど、どうやらできあがっちゃってるみたいです。
 それでは柊瀬芦理選手、今日の試合の意気込みをどうぞ」
「ん?これカメラ?回ってんの?んっとねー、まぁ怪我しないように頑張るよ」
「そ、そうですか。なんでまた宴会なんか始めちゃってるんですか?」
「んー、景気づけに一杯だけ飲んだら、あれよあれよと…」
「…え、えっとですね、それではセコンドの柊海さん、一言お願いします」
「私がついてるから、瀬芦理お姉ちゃんは負けないよ〜」
「…い、以上、柊陣営の様子でした!」

「アン、ワタシもあっちに行きたーい!」
「そういえば犬神さんってあいつらと知り合いなんだよね?
 いつもあんなカンジなんか?」
「そーねー、常識が通じない家庭だってことは保証するわっ」
「そんなこと保証されてもしょうがねーぜ。おっし、それではゴングまであと少し!
 みなさん首を長くしてお待ちくださーい!」


「大変長らくお待たせしました!
 只今より『リューメイファイト』スペシャルマッチ、鉄乙女VS柊瀬芦理の試合を開始します!
 まずはレフェリーを務める竜鳴館館長・橘平蔵より挨拶を!」
「女だろうが男だろうが、そんなことは関係ない!強き者は、強き者を求める運命にある!
 竜鳴館館長・橘平蔵!」
「ありがとうございましたぁ!
 なお、今回はゲスト兼コメンテーターとして、武術を嗜む御曹司・摩周慶一郎さんをお招きしております!」
「よろしくお願いします。
 柊瀬芦理さんは私の知り合いではありますが、今回は公平に試合を見ていくつもりです」
「ありがとうございました☆それでは、青龍の門より、鉄乙女選手の入場ですっ!」
「お聞きください、この大歓声!白い道着を身に纏い、堂々と歩いての入場!
 セコンド陣と共にリングに近づき…おーっとぉ、その手には名刀・地獄蝶々が握られています!
 リングの前で一礼をし、今リングインです!」
「続きまして、白虎の門より、柊瀬芦理選手の入場です!」
「陽気な音楽と共にやってきました柊選手!セコンドに家族を引き連れての入場だ!
 さっきまで控え室で酒を飲んでたとは思えないほどの清々しい顔!
 粋なはっぴを着てそのままリングイン…おおーっと!」
「柊選手がそのままいきなり向かって行ってランニングエルボー!
 後ろを向いていて不意を突かれた鉄選手ダウーン!でも、すぐにレフェリーに止められたわっ☆」
「いやー、今ので完璧に鉄選手を怒らせちまったぜ。
 観客からはブーイングの嵐だけど、まったく聞いちゃいねーな」

「この馬鹿金髪女!恥を知れ恥を!」
「くー!くー!」

「瀬芦理…まったくとんでもないことをしでかしてくれるわね。…あら、雛乃姉さんは嬉しそうですね」
「ふふふ、甘いぞかなめよ。戦では倒されたほうが負けなのだ。
 卑怯などという言葉は無用の長物。
 うみがせこんどにいるということは、まだまだこの勝負は荒れそうであるぞ」
「ええ、そのようですね」


くっ…ふざけたやつめ!絶対に許さんぞ!
しかし私も見事に不意打ちを受けてしまった…修行が足りないな。
「大丈夫?乙女さん」
「ふん、あれしきの攻撃で怯む私ではないぞ」
「乙女先輩、祈先生からの伝言を伝えるわ。
 『私達の今日の夕飯のために頑張ってくださいまし』って言ってましたよ」
「夕飯…?何のことかわからんが、励まされて悪い気はしないな。
 とにかく、この勝負は負けるわけにはいかん」
「その意気その意気!」
「頑張ってね、乙女さん!」
この私をコケにしたことを後悔させてやる!

あーあ、奇襲作戦は失敗かー。
「残念だったね〜」
「それにしても、アイツかなりできるよ。
 ちゃんと首の急所を狙ったのに、ほんの少しだけ体を動かして致命傷を避けたもん」
たぶん本人は気づいてないだろうけど、ありゃ本能だね。アタシと近いところがあるかも。
「ねぇねぇ、完璧にしとめる気だったね」
「あぅ…怖いことしないで…」
「何言ってんのモエ!要芽姉やひなのんが見てるんだから、ブザマな姿になるのはイヤだしね」
「さすがねぇねぇだな」
「頑張ってね〜」


「両方とも戦闘態勢が整いました!第1ラウンドのゴングを鳴らしましょうかカニちゃん☆」
「おっしゃぁ、任せろや!運命の火蓋は今、切って落とされる!リューメイファイト、レディーゴー!」

カーン!!

「む…何故構えない?」
「アタシの柊流猫神拳に構えはないもんね。
 構えとは単なる防御、アタシの拳は目の前のネズミを喰らいつくすのみ!」
『おーっとぉ!?言ってることは意味不明だが、かなりの自信があるとみたぞー!』
「その余裕を剥ぎ取ってやる!はぁぁぁぁぁ!」
「おぉぉ!?」
『柊選手、凄まじいパンチのラッシュを悉くかわしていきますっ!』
『ありゃーガトリングガンとかいう、拳法部の中村って奴の技だぜ。なんで自分の技でいかねーんだ?』
『いえ、あれは拳法部の皆さんの気持ちに答えたのでしょう』
「あー、ビックリした。そんじゃー次はこっちの番かな?にゃー!」
「な、なんという踏み込みの速さだ!くぅ!」
『スゲー!ありゃ人間のスピードじゃねーよ!』
『これはすごいですね。おっと、柊選手の蹴りが鉄選手の頬をかすめましたよ』
「私に格闘で触れることができるとは…やるな!」
「へっへーん。言っとくけど、まだまだ序の口だよ」
「だが、スピードでは負けていても、パワーはどうかな!?」
『手四つの体勢になったー!力比べかー!?』
『これは鉄選手有利…いや!?』
『急に柊選手が手を外して、すごい勢いで後ろに回ったわっ!』
「そりゃー!」
『ジャーマンスープレックスよっ☆』
「あまい!」
『これを読んでいた鉄選手、体を回転させて華麗に着地だー!』
「ふふふ…楽しい、実に楽しいぞ!」
「そう?そんじゃーそろそろ本気でいくかー!」


その後も、両者譲らぬ激しい戦闘が繰り広げられた。
パワー攻撃を主体とし、真正面からぶつかっていく乙女。
その圧倒的な運動量を最大限に利用する瀬芦理。
しかし、クリーンファイトとはいかなかった。
セコンドの海が乙女の足を場外から引っ張って転倒させるわ、毒霧攻撃をするわ、塩を投げつけて目潰しをさせるわ…
レフェリーの館長に注意されても『私は何もやってないよ〜』との一点張り。
姫も対抗して、場外にエスケープした瀬芦理の背中をパイプイスで殴打する等々…
まるでプロレスのヒール同士の戦いのようだった。
それに呼応してか、会場のボルテージはマックスまで高まったのである。

『いやー、色々ありましたけど、ついに第8ラウンドです!』
『まさかここまで長丁場になるなんて思わなかったわっ』
『それにしても、凄まじい闘いですね。少しでも油断すれば反則攻撃の雨あられ…』
『つーか、ヘイゾーのいる意味がねーよ。反則しても全く聞く気がねー』
『両者とも、もはや限界を通り越しているようですね』
『もう二人の体はボロボロねっ。決着は近そうだわ☆』
『さー、いよいよ第8ラウンドのゴングが鳴らされます!第8ラウンドォ!』

カーン!!

「ぐ…うぅ…もう力は残ってないらしいな…」
「へへ…そ、そっちだって同じじゃんか…」
「ならば、この一撃で…最後にさせてもらう…!」
「望むところだよ…さぁ来い…!」
「はぁぁぁぁ!」
「てやぁぁぁあぁ!」

ドグシャアァ!!


「う…ぐ……はっ…」
「あ…うくっ…う……」

ドサッ

『ダ、ダブルノックアウート!両者の拳が互いの顔面を捉えたぁー!?』
『なんと…』
『リ、リングではカウントが虚しく数えられていますっ!』
「……9……10!両者ノックアウト!従ってこの勝負、引き分け!」

ウオォォォォォオオオォォォ!

「や、やるじゃんか…」
「ふふ…まさか…これほどとはな…」

『なんという幕切れか!この大勝負は引き分け、それも互いの死力を出し尽くしての引き分けとなりましたぁ!』
『すごい、すごいわよっ!観客も全員総立ちじゃないのっ!』
『いやはや、私もこれほどの勝負は見たことがありません』
『あっと、両セコンドが選手を抱えて退場するようですね』
『観客からは惜しみのない拍手が贈られています!』
『控え室までインタビューに行きたいところですが、ここで時間となりました☆
 それでは、竜鳴館よりリューメイファイトの模様をお伝えしました☆
 みなさん、ごきげんよう〜!』


試合後、俺たちは互いの健闘を称えあう…はずだったんだけど。
「ちょっと!なんであんな反則ばっかりするのよ!」
「え〜?なんのこと〜(・ε・)」
ま、こんな感じだ。姫もあそこまで反則をされるとは思ってもいなかったらしい。
ちなみに、乙女さんも相手の瀬芦理さんも、病院で一晩安静にしておくように言われた。
俺たちは学校へ戻り、あちらのほうはしばらく様子を見ていくそうだ。
病室が同じになったのだが、割と仲良くなっている。
これが拳で語るってやつなのかな。
「ああ、もう!せっかく乙女さんに賭けてたのに…引き分けだから親の総取りになったじゃないの!」
「あれ?そういえばトトカルチョって誰がやってたっけ?」
「フカヒレ先輩ですよ」
そういえばそうだったな…まさかこいつ!?
「おい、フカヒレ!」
「い、言っとくけどな、元締めは俺じゃないぞ!」
「フカヒレ君、正直に答えなさい。言わないと公衆の面前で裸にひん剥くわよ!?」
こいつを裸にしても、ほとんどの人は喜ばないと思うんだけどな…
「おやめなさい」
「祈先生!?」
「元締めはこの私です。実は、占いで今日の勝負は引き分けと出ておりました。
 私はもしもの時のことを考え、どちらも病院で入院してもいいようにお金を集めていたのです。
 今回はフカヒレさんに、仕事をしてもらったというわけですわ」
「ま、俺も何かしてあげたかったんでな」
「霧夜さんたちには申し訳ありませんが…とにかく、今はあのお二人の治療が先決でしょう。
 治療費は今日貯まったお金から出しますわ。みなさんもよく頑張りましたので、今日は私が夕食を奢ってさしあげます。
 残ったお金を使い、回らないお寿司を皆さんに振舞ってさしあげますわ」
まさか祈先生がこんなことを言うとは、珍しい事もあるもんだぜ。
「…祈先生がそう言うなら…ねぇ?」
「仕方ねぇよな」
合同文化祭も大成功だったし、めでたしめでたしってことかな?
「よーし、乙女さんには悪いけど今日は思いっきり食いまくるぞー!」


「今回は、久しぶりに熱い勝負ができたぞ」
「そっちこそ、メチャクチャ強かったよ。まだまだ世界は広いにゃー」
「ふふっ、部外者の介入がなければもっと楽しめたのだが…残念だ」
翌日になって改めて、向こうの家族全員が俺たちのところまで挨拶にやってきた。
今回のことのお詫びというかなんというか、とにかくそういうことで菓子折りを持ってきてくれた。
「ホント、おっそろしい反則集団よねー」
「え〜、でもそっちだって反則攻撃してたよ〜」
「そっちが先にやってきたからでしょ!」
「まぁまぁ、エリー」
姫だけはずっとご立腹。昨日からずっとこんな調子だった。
佐藤さんの苦労が目に浮かぶよ。
「ほら、仲直りの握手をしようよ、エリー」
「…フン!」
ふくれっ面ではあるものの、ぎゅっと握手をする姫なのであったとさ。
「ふふふ、雨降って地固まる。これもまた青春ですわね」
「うむうむ。それはそうと、今回の治療費を負担してもらい、こちらも感謝しておるぞ」
この小さい子って一番偉そうなんだよな…風格みたいなものがあるぜ。
「それじゃ、私たちは後片付けがありますから」
「ふむ、それではお暇するとするかのう」
「私はこっちで用事があるから、みんな先に帰っててね〜」
アレ?この人って他にすることあったっけ?
…まいっか。

「本当にうまくいきましたわ〜。治療代と食事代を差し引いても、十分手元には残りますから」
「じゃあ、約束通り分け前は半分ずつということで〜」
「それにしても抜け目のない方ですわね」
「いや〜、それほどでも〜」
「まったく、お前ら両方とも、恐ろしい女だぜ〜」
「土永さん、このことを誰かに漏らしたら焼き鳥にしてさしあげますので、そこのところをお忘れなく」
「安心しろ祈〜。我輩はいかなる拷問にも屈服はせんからな〜」


(作者・シンイチ氏[2006/01/31])

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