「あれ?」
「え?」
「あっと、えっと」
「なんだ、知らない子か」
「こ、こんばんわ」
「こーんばーんわ」
「は、はじめまして?」
「怖がらないでよー。何もしないからさ。ここにこうして、いるだけ」
「は、はぁ」
「んー」
「えっと」
「ん、どうしたの?」
「いえ、珍しいなって思って。普段、こんな時間にここに来るの、わ、私だけっていうか」
「へーそうなんだ。え、何時?」
「12時です、夜の」
「うわヤッバ! ひなのんに怒られるなーこりゃ」
「あ、あはは」
「んで、アンタは何でこんな時間に、こんな場所に?」
「わ、私ですか? 海が好きなんです」
「なーんも見えないのに? 変わってるねー」
「そんなことないですよ。それに、それが、いいんですよ」
「ん、そうなの?」
「あの闇のように、溶けて、消えて、なくなっていくようなのが」
「ふーん」
「あの」
「ん、何?」
「その、膝は」
「ああ」
「その、何て言うのか」
「私ねー」
「?」
「ずっと幸せになりたかったんだ。幸せに、幸せになりたかった。だから弟が帰って来た時、今度は絶対に離さないって、これを逃すと幸せになれないんだって」
「幸せ、ですか」
「でも、断ったから。悲しかったから」
「その、膝にあるのって、やっぱり」
「私ってバカかなー?」
「えぇ?」
「やっぱりバカなんだよね。正直に答えて欲しいな」
「えっと」
「どうなんだろう、ゴメンね」
「その、あの、いいえ」
「いいえ?」
「同じことをしたと思います。私も、でも、思っても、きっと勇気がなくて、私は自分をそうしたんじゃないのかな」
「ふーん」
「だから、凄いと思いますよ」
「そっか、ま、どうでもいいんだけど。もうこれで空也は私のもの。要芽姉のものじゃない。何処にもいかない、ずっとここにいるんだ」
「私は、邪魔ですね」
「え、そうでもないよ」
「邪魔ですよ」
「そうかな」
「邪魔ですから、お幸せに」
「ありがとう、それでさ」
「はい?」
「アンタには、殺してでも奪い取りたいものって、ある?」
(作者・名無しさん[2005/10/18])