姫がキリヤコーポレーションを制圧してから数年…
最強のボディガードである乙女さんに守られ、敏腕秘書のよっぴーを従えて、そして顧問弁護士には『氷の弁護士』柊要芽もいる。
そんな姫を俺は常に支え続けた。
世界でも陸上選手として有名になったスバルと独占契約を結び、そのスバルはCMにひっぱりだこ。
さらにカニが勤めている大手ゲーム会社を買収し、エンターテイメント方面でもその勢力を拡大させている。
自らの覇道を突き進む姫を、俺はどれほど素晴らしいと思ったことだろう。
しかし、どの世界にも『目の上のタンコブ』はいるものだ。
摩周財閥にすら匹敵する勢力を持ったキリヤコーポレーションだったが、それはあくまで表面上の話。
世界でもわずか人間しか知らない、影の実力者がこの世界には存在しているのだ。
俺達がその存在に気づいたのも、ここ数ヶ月前の話。
先代から姫への忠告があったのだ。
判明しているのは『sea』という名前のみ。
『sea』の名は世界のあらゆるネットワークの奥深くに存在し、事実上、世界を裏から操っているのである。
正体は当然のこと、活動目的や資本金などのあらゆる情報が不明とされる謎の人物。
「私が世界を頂くには、間違いなく最大の障害となるわね」
「姫ならできるだろう。私は期待している。レオも姫を支えてやるんだぞ」
「もちろんだよ」
「でも、本当に『sea』って何者なんだろうね」
柊弁護士も『sea』については何も知らなかった。
しかし、恐るべき強敵であることに間違いはないだろう。
まだ向こうからの接触はないが、潰されるのは相手か、それとも姫か。
この見えざる相手に、姫の闘争心に火がついたことは言うまでもない。
「どちらにしろ、私の敵になるならば容赦はしない。徹底的に叩き潰してやるわ!」


「社長、おはようございます」
「ハロー、みなさん」
いつものように乙女さんと共に出勤し、まずは社員一同に激励のバラを渡していく姫。
俺は姫の後ろにくっつき、常に背中を守る役に徹する。
そのまま一緒に社長室に入ると、しばらくしてよっぴーが慌てふためいた様子で入ってきた。
「よっぴー、ノックぐらいしなさいよ」
「ご、ごめんね。実はこんなメールが届いてたんだけど…」
よっぴーはプリントアウトした紙を姫に手渡した。
そこには要約するとこのように書いてあった。
なんと、あの『sea』が直接姫に会って話がしたいというのだ。
日時はこちらが指定すれば、それにあわせると書いてある。
ただし、場所は向こうが指定するという寸法だ。
文章は日本語で書いてあったが、それだけで『sea』が日本人であると決め付けるのは早計だろう。
なにせこっちは本社が日本にあるんだから。
「まさか『sea』のほうからコンタクトをとってくるとは…」
「これはチャンスね。相手の正体を見極めることができれば、それだけこちらも潰しやすくなるわ」
「直接会うんだよね。大丈夫かなぁ…」
「安心しろ、佐藤。もし姫に危害が及ぶような事態になったら、この私が蹴散らしてくれる」
「頼りにしてるわよ、乙女センパイ」
どうやら姫は接触する気満々のようだ。
少々心配ではあるが…まぁ乙女さんがいるから問題ないだろう。
もちろん、俺もついていくけどね。
「よっぴー、後でいいから『sea』に連絡しといて。会合をすることをね。」
「うん、いいよ」
「それと、この話は今ここにいる4人だけの話よ。他言は無用。いいわね?」


数日後『sea』に指定された場所に姫と俺、それに乙女さんが行くことになった。
よっぴーは危険なので連れて行かないことにした。
最悪の場合、姫を亡き者にしようと画策しているかもしれない。
乙女さんがボディガードについてくれているとはいえ、全く油断はできなかった。
指定されたのは都内の高級ホテルの最上階の一室。
『sea』は先に到着していたようで、フロントで確認を済ませた俺達はその部屋へ向かうこととなった。
名前には『近藤花子』と書いてあったが、きっとこれは偽名だろう。
最上階までエレベーターで行き、そのまま廊下を歩くとその部屋のドアの前に黒尽くめの男女が立っていた。
大きなサングラスをしており、表情を窺い知ることは難しい。
不意に、男の方がこちらに話しかけてきた。
「霧夜エリカ様ですね?」
「ええ、そうよ。『sea』は部屋の中かしら?」
「お待ちしておりました。会談の前に少々よろしいでしょうか?」
男が合図を送ると、今度は金髪の女の方が姫に近寄り、ボディチェックをしていく。
そしてさらに、俺と乙女さんにも同じように調べだした。
姫は当然のように不快だったが、相手も慎重であることは言うまでもない。
「失礼しました。それでは中へお入りください。ただし、お連れの方は廊下でお待ちを」
「それはできん。私とこの者は姫の警護を担当している。わけのわからん相手に対し、そのような真似ができるものか」
乙女さんが当然ともいえる反論を口に出す。
こういうのは信用が大事なんだろうが、姫にボディチェックをしている時点でそんなものは詭弁だ。
「…わかりました。しばらくお待ちを」
そう言うと、男は部屋の中に入っていった。おそらくこのことを『sea』に伝えているんだろう。
少しした後、男が部屋から出てきて金髪の女と小声で話し合ったからこちらに向き直った。
「それではそちらの男の方だけどうぞ」
「むう…仕方ないな。レオ、頼んだぞ」
「大丈夫。乙女さんにしごかれてるんだ、ちょっとのことなら問題ないよ」
「頼むわよ、レオ」
俺と姫は男に促され、部屋の中へと入っていった。


部屋の中は真っ暗だった。
男が懐中電灯を足元に照らし、それを頼りに前に進んで、俺達を机の前のソファに座らせた。
「で、問題の『sea』はどこにいるのよ?」
「目の前にいますよ〜」
突然、俺達の前から声がした。どうやら、机の向かい側に座っているのだろう。
すごく間延びした言葉使いに、ちょっと祈先生を思い出す。
今の声で『sea』は女性であるということはわかったが…
「すごくのんびりした声なのね。もっとピシッとしているのかと思ったわ」
「ごめんなさいね〜」
俺達を照らしている光のおかげで『sea』の姿がうっすらと見える程度だ。
顔までは判別できないし、おそらくは本人もサングラスをかけるなどして簡単な変装をしているだろう。
「さて、霧夜さんに話があるっていうのは、この前のゲーム会社の買収についてなんですど…」
「ああ、アレね。エンターテイメントにも進出する絶好の機会だったから、手に入れたまでよ」
「あの買収のおかげで、私がすごく楽しみにしていたゲームが開発中止になっちゃったんだよね〜」
「は?」
「だから、そのゲームの開発を再開してくれないかなーってお願いをしようと思いまして〜」
それってたしかカニが企画していたゲームだよな…
ん?そんなことのために姫を呼んだのか?
ただでさえ多忙なスケジュールの合間を選んできたっていうのに…
「ふざけないで!何よそれ!?そんなことのために私を呼んだの!?」
うわ、メチャクチャ怒ってるぞ…こんなに声を張り上げるのは久しぶりじゃないか?
そりゃ、姫が怒るのも無理はないけど。
「うーん、確かにそう思われてもしかたないけど、私も楽しみにしていたし〜」
「帰りましょ、レオ。ここで話すことは何もないわ」
「わ、わかった」
そう言うと、姫はガバッと席を立った。


『sea』についていた男にドアまで連れて行くように姫は命令した。
そしてドア前に着いた時、姫は『sea』に向かってまた怒鳴ったのだ。
「まったく、あの『sea』がこんな変人だったとは思いもしなかったわ!」
言えてるな…それだけのためにここまでするなんてどうかしてるぜ。
「そんな悪口言っちゃいけないな〜、お姫様。ゲーム開発の再開は別にいいけど、変人は撤回してもらいたいよ〜」
「何よ、当たり前のことを言っただけじゃない!」
「私がその気になれば、お姫様を社会的に抹殺してもいいんだよ〜」
「姫に何かする気か?そんなことは俺がさせないぞ!」
姫を守る騎士である俺としては当然のことだ。そんな脅しには屈しないぞ。
「君もすごい忠誠心だね〜、対馬レオ君。その人の恋人なんだっけ?」
「!?な、なぜ俺の名前を…」
「悪いけど、お姫様を取り巻く人たちのことはほとんど把握してるよ〜。
 秘書の佐藤良美さん、外で待ってるボディガードの鉄乙女さん、他にも色々と…」
「な…ちょっと!私のよっぴーに手出ししたら許さないわよ!」
アレ?姫、俺は?
「じゃあ、謝ってよ〜。変人って言ってゴメンナサイって。私はそれだけで十分だから〜」
しかし、ここで怯む姫ではなかった。何より姫は相手にナメられるのが大嫌いだ。
「なんで私が謝らなくちゃいけないの?そっちがその気だったら、こっちもアナタを潰しにかかるわよ。
 それぐらい、そっちも覚悟はできてるんでしょうね?」
「もちろん。でも、絶対無理だと思うな〜」
「その言葉…後悔しないことね」
姫はそう言い残すと、俺を引っ張って部屋から出てしまった。
廊下では乙女さんがきょとんとした顔で俺達を出迎えた。
「どうしたんだ、姫?えらく怒鳴り声が聞こえたが」
「いや、乙女さん。それは本社に帰ってから追々…」
「む、そうか」
最後に姫は外で立っていた金髪のボディガードをギロリとにらみつけた後、その場を後にした。


本社の社長室に戻った俺達は、事の顛末を乙女さんとよっぴーに話した。
「そ、そんなことのためにエリーを呼び出したなんて…」
「まったく、非常識にもほどがあるな」
さすがの二人も、今回のことについては呆れ顔だ。
確かに、今まで妙なヤツラからの陰湿な圧力や接触はあった。
でも、今回は明らかに違う。思いっきり私情での接触だった。
『sea』はもしかして普段からあの程度のことで裏から世界を掌握しているのだろうか?
そう思うと寒気がする。要するに『sea』の気分次第でいつでも世界を作りかえることができるということだ。
「それで、エリーはどうするの?」
「決まってるじゃない。あんな変人、真っ向から勝負してやるわ!
 この私をナメたことを、絶対に後悔させてやるんだから!」
「そして潰した後はその座をそっくりそのまま頂く、ということかな?」
「さっすが乙女センパイね。もちろんよ」
余りにも敵は強大、しかしそれに真っ向から立ち向かうことを決心した姫。
成り行きはかなりアホくさいけど、姫がいずれ世界の全てを手に入れるには最大の障害だ。
ただ単に、初対面が早すぎたというだけのこと。
今はまだ俺達には対抗できるだけの力は持っていないかもしれない。
それでも、例え何年かかろうと『sea』はいつか必ず潰す。
ここにいる一同が、そう心に決めた瞬間だった。
「俺は姫にずっとついていくよ。安心してくれよな」


「あ〜あ、結局無理だったか〜。でも変人は酷いよね。そんなのは貧乳ツインテールで十分だよ〜。
 今日はごめんね、くーや。お姉ちゃんのワガママに付き合ってくれて〜」
「だから最初に無理って言ったじゃないか。」
「だって〜」
「そう言えば、お姉ちゃんが楽しみにしていたゲームって何なの?」
「『怒素恋』っていう美少年相撲ADVだよ〜。せっかく楽しみにしてたのに〜」
「…あ、そう…(ボツになってよかったんじゃないか?)」
「それに、くーやが期待していたゲームも再開してもらおうかなーって思ったのに…」
「そうだったんだ…お姉ちゃん、ありがとう」
「うみゃ、もう済んだの?今日はボディガード役をやってあげたんだから、依頼料は奮発してよね」
「え〜。ちょっとまけてよ〜」
「例え身内でもまけはしない。それが私の『柊探偵事務所』だよ」
「仕方ないな〜。じゃあ、今から帰りに3人でお寿司食べに行こうよ〜」
「おっ、やったー!うみゃのおごりだよね!?」
「普通ならくーやだけおごってあげるけど、今日は仕方ないよね〜」


(作者・シンイチ氏[2005/10/16])

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