「あのね、巴お姉ちゃんって月白先生のこと知ってるよね?」
夕飯の席で海お姉ちゃんはともねえにこんな話を持ちかけてきた。
月白先生…俺やともねえは透子さんって呼んでるんだけど、この人はかなりのクセモノ。
あの人のおかげで俺は命の危機に晒されたこともあるほどなのだ。
「う、うん…知ってるけど、透子さんがどうかしたの?」
透子さんの話になると、ともねえは急に警戒するようになる。
そりゃ当然だ。普段が普段なだけに、全く油断することができない。
「実は今度、先生が新しく赴任した高校で文化祭みたいなのがあるんだって。
 よかったら来てみないかって言ってたよ〜」
「あ、なんだ。そういうことか」
「へ?」
「いや、その…な、なんでもないよ」
クロウ絡みのことじゃなくてちょっと安心。それにしても、あの透子さんが誘ってくるとは…
「ま、いいんじゃない?ともねえ。家事でいつも疲れてるだろうし、息抜きってことで」
「う、うん…みんな、いいかな?」
「ふむう、どうせならみんなで行こうではないか。
 うみがお世話になっておったのだ。一言の礼も言いたいしな」
「はいはーい!遊びに行くなら大賛成!」
「そうね。たまには遊びに行くとしようかしら」
「俺も行くよ。姉貴はどうするの?」
「もちろん行くわよ。だって1人で留守番するなんて嫌じゃない」
「ねぇやとねーたんも呼ぼうよ。きっとついてくるよ」
「うん、そうだね」
「それじゃ全員行くんだね〜。月白先生に連絡しておくよ〜」
「そういやお姉ちゃん、場所はどこなの?」
「松笠の『竜鳴館』っていう学校だよ〜」


「はい、それじゃ竜鳴祭での私たちの役割を説明するわね」
生徒会長・霧夜エリカの一言から、今回のミーティングは始まった。
秋の大イベント・竜鳴祭まで日数は残りあとわずか。各クラブやクラス等も追い込みに入っている。
「既に出し物のチェックについては、あとは当日にサボっているところがないか監視するぐらいよ。
 で、期間中は生徒会一同がそれらのチェックにあたるというわけ。
 あとは、いろんなところのヘルプね」
「えー。めんどくせー」
「あのね、カニっち。何もずっとやってろって言ってるわけじゃないでしょ?少し覗く程度でいいんだから」
「はいはい、わかりましたよーだ」
カニのバカタレは早速不満を口に出した。我慢を知らんのか、こいつは。
「さっきも言ったとおり、覗く程度で結構だからね。あ、フカヒレ君。
 念のために言っとくけど、女子更衣室を覗くってのはNGだからね」
「俺の考えが読まれた…!?ニュータイプか!?」
「いや、お前なら容易に想像がつくぞ」
たのむから警察沙汰にはならないでくれよな…
なんかそのうち、本当にお世話になりそうで怖い。
「それと、当日はコスチュームに着替えてもらいまーす」
なんだかとても嬉しそうな姫。こういうときはロクなことが起こらないことは、誰もがわかっている。
「コスチューム?」
「そ。もうよっぴーに用意はしてもらってるの。よっぴー、ちょっと持ってきて」
「はいはい。」
そう言うと、よっぴーは奥の方からごそごそと色んな衣装を持ってきた。
そして、みんなの前に、それぞれの衣装を置いていく。
「ちょっと待ってください。あたしはこんなもの着ませんよ」
「ごめんねー、なごみん。NOという選択肢は無いの。当然、他のみんなもそうだけど」
「おい、姫。何なのだこれは!」
「警備と言う意味も兼ねてなんだけど?」
全員に渡された衣装は、趣味に走ってるものがほとんどだった。
これじゃ目だってしょうがないぜ。で、俺の衣装は…
「…着ぐるみ?」


さて、当日…
仕事で動けないバカ親父をほっといて、俺達は目的地『竜鳴館』に到着した。
やはりねぇやとねーたんも一緒に行くことになり、かなりの大所帯となってしまった。
相変わらず要芽姉様とねぇやはソリがあわないようで…
「おおっ。開門にちょっと遅れたけど、すごい人だかりだねぇ」
「入場口でパンフレットを配ってるわね」
「よし、ならば早速入ろうではないか」
雛乃姉さんを先頭に、ゾロゾロと入場する俺達。ともねえは熊に似た妙な着ぐるみをじっと見ていた。
熊野ベアじゃないしな…なんなんだ、アレ?
そこへ要芽姉様にパンフレットを渡した、変な軍服みたいなのを着た係員がこんなことを。
「ようこそお越しくださいました!ゆっくりとお楽しみください!
 何ならその後も僕がエスコートして差し上げますが…」
(ギロリ)
「ひぃっ!すみません、すみません!」
「ふん…」
さすが要芽姉様だぜ。露骨なナンパにも一切動じないで跳ね飛ばした。
「なんかさっきのメガネの男の子さー、クーヤに雰囲気が似てない?」
「そうそう。なんだか姉に叱られ慣れてるっていうか、いじめられ慣れてるっていうか」
「ちょっと待ってくれよ!俺はあんなにヘタレじゃないぞ!」
「そうかなぁ?」
お、俺ってあんなのか?いくらなんでもひどすぎるよ。
どっちかって言うとダンチョーの方が似ている気が…
「さて、このまま固まって行動するのも何かと不便だ。
 ここはひとつ、いくつかのぐるーぷに分かれようと思うのだが」
「はーい!アタシ料理部のところに行ってきまーす!」
「私は月白先生のところに挨拶に行ってくるよ〜」
「我はのらりくらりと回ってゆっくりしていきたいな」
さてと、俺はどこへ行こうかな…


「おいフカヒレ。お前なぁ、無謀なことするんじゃねぇよ」
「だってあんな美人だぞ!確かあの人って、前にテレビで見たことがある。
 『氷の弁護士』の異名を持つ『柊要芽』だよ」
「ふも、ふもっふふもふもっふ」
「『あ、やっぱりそうだったのか』だって?」
「ふもふももふもふ、ふもふもふもふもふもももふもっふ」
「『それだけじゃなくて、女優の犬神保奈美も見た』だとよ。…なぁ、フカヒレ。俺は何でぬいぐるみとしゃべってんだ?」
「俺が知るかよ。つーかコレ、一体どんな構造でできてるんだ?」
そう、今俺はよっぴーから渡されたぬいぐるみを着てパンフレット配りを手伝っている。
子供にはかなり人気があるのだが、どういうわけか俺はこれを着てから『ふもっふ』しかしゃべれなくなってるらしい。
俺自身は普通にしゃべってるつもりなんだけど、周りにはそれが全く通じないようだ。
ま、それが子供に人気な理由でもあるわけで…
さっきはスバルぐらい身長のある女の人が俺のことジロジロ見てたし。
ちなみに、これが聞き取れるのは専用の翻訳機を持っているスバルだけ。
スバルとフカヒレはお揃いの変な軍服だ。フカヒレはヘッドギア付き。
「まったく、何でまたこんなよくわからんものを渡したんだろうな…おっと、祈ちゃんからだ」
「こちら司令室。第08小隊の皆さん、そろそろ交代の人が行きますので、見回りに移ってください」
「交代の人って誰?」
「土永さんですわ」
「…あ、そう。人じゃねぇよな」
スバルは携帯を切って、俺達にこのことを報告した。
「鳥にできるのかよ?」
「さあな」
「ふもふもふもっふ」
「『まぁ無理だろうな』だってさ。お、ちょうど来たみたいだし、行こうぜ。」


あーあ、せっかくバイトの経験を生かせるからってここのヘルプに来たってのに…
「なんで腐れココナッツがいるんだよ。とっととハワイにでも帰りな」
「黙れカニミソ。この世界一周バカ」
ボクとココナッツは料理部のヘルプに来ているのだ。
学校一可愛いボクはウェイトレス、人生荒んでいるココナッツは奥で料理していやがる。
そのうち食中毒騒ぎがあったら真っ先にココナッツのせいにしてやるぜ。
それにしてもまた思い切ったことしたな、料理部は。大学食をそのまま使うなんて。
「すいませーん、注文お願いしまーす」
「はいはーい」
素早くお客の前に向かって、いつものようにくるっと回転。ボクのいつものパフォーマンスさ。
お客は姫と同じ金髪ポニーテール、でかいリボンをつけたツインテール、そして最近人気が出てきた女優の『犬神保奈美』だ。
「あ、かわいー!ねぇ、ここってメイドさんが注文受けてるの?」
「いえ、この格好はウチのボスの命令なんですー」
そう、ボクとココナッツの衣装はメイド。ココナッツなんてもう似合わねーのなんの。
やっぱこういう可愛い格好はボクのためにあるようなもんだよね。
「海軍カレー甘口。大盛りね!」
「ワタシはシーフードカレー中辛!」
「アタシはヤキソバ大盛りで」
「かしこまりましたー!」
うぬぬ、カレーが売りだってのに、わざわざヤキソバを注文するなんて…
「おい、ココナッツ。海軍甘口大、シーフード、ヤキソバ大だ。さっさと作りな」
「あたしに命令するな、スベスベマンジュウガニ」
ケッ、まったく先輩に対する態度がなってないねぇ。やはりコイツはいつかスマキにして烏賊島の浜辺に放り出してやるぜ。
「ホント、高嶺ちゃんはヤキソバ好きね」
お?あのお客の声だな。
「そりゃそうですよ。今日のこの味、しっかり覚えて日記にアップしておかなくちゃ」
「そんなにヤキソバばっかり食べてると、いつかツインテールがヤキソバになっちゃうよ」
「そんなわけないでしょ!…それにしても気がかりなのは『デスマスク』とかいう荒らしよ」
ん?ひょっとしてあのバカ管理人のHPか?そーか、そうだったのか…
フフフ、ならちょうどいいぜ。あのアホそうなツインとクソッタレのココナッツを同時に陥れてやる。


俺とともねえ、それに海お姉ちゃんとねーたんは透子さんを探しているわけだが…全然見つからない。
「まいったな、こりゃ。」
「う〜ん、誰かに聞いてみたほうがいいかもしれないね〜」
「あ、あの人はどうだろう?」
ともねえが見た先にはどことなく高貴な雰囲気の女生徒と、おとなしそうな女生徒の二人だった。
腕に腕章をつけているから、多分係員の人だろう。
「すみませ〜ん。ちょっと人を探してるんですけど〜」
お姉ちゃんが尋ねると、おとなしそうなほうが答えてくれた。
「誰を探してるんですか?」
「月白先生なんですけど〜」
その受け答えを見ている瞬間、もう一人の方が急に妖しい目つきになった。
何故かじっとともねえとお姉ちゃんのほうを見ている。いや、顔を見ているってわけじゃないんだけど。
しばらくすると、そっちのほうが口を開いた。
「どうせだったら、館内放送で呼び出してもいいですよ」
「よかったね、海さん」
「うん!」
「でもそのかわり…」
ゆらりとその目をともねえとお姉ちゃんに向けるとニコリと笑い、
「そちら二人の胸を揉ませてくれたら、ですけど」
「な…」
何を言ってるんだ、この人は。まさかアレか?女でありながらおっぱい星人か?
「そうすればすぐにでも…ハァハァ…」
「ちょ、ちょっとエリー!」
「あ、あの…し、失礼しましたー!」
俺達はすぐにその場を離れた。要芽姉様とは違うけど、どこか危ない雰囲気が漂っていたぜ。
「もう、逃げなくてもいいのに!」
「初対面の人にあんなこと言ったら誰でも逃げ出すよ、エリー」
「何言ってるのよ。あれほど見事な乳、揉まなければ負けかな、と思ってる」
「もう…」


やれやれ、姫の気まぐれにも困ったものだ。大体この衣装は何なのだ?
ハイヒールなんて履いたことが無いし、そもそもこの丈の短いスカートが気にいらん。
さっきから人がジロジロとこっちを見ているしな…正直、恥ずかしいぞ。
「すまぬが、そこの人」
私のことか?そちらを向き直すと、着物を着て白いぬいぐるみを持った少女がいた。
パッと見ただけでは、座敷わらしのようにも見えるが…
「どうかしたのかな?」
「うむ、実は連れの者とはぐれてしまってな。どこか待合所みたいなところはないだろうか?」
「ああ、迷子か。よしよし、今放送で呼んでやるからな。お母さんと一緒か?名前は?」
「…お主、何を勘違いしている?」
突然、私の周りが異様な空気に包まれた。この少女の発している気だとでも言うのか?
なんという堂々とした姿、見た目に惑わされてはいけないというのはこのことか…
「粛清…淘汰…」
ふとその時、こちらに黒髪の女性がやってきた。
その女性が巷で有名な弁護士の『柊要芽』だということはすぐにわかった。
「姉さん、こんなところにいたんですか」
「おお、かなめ。どこにいっておったのだ」
「いえ…手芸部にぺんぎんのぬいぐるみがあったので、ちょっと…」
「相変わらずだのう」
…姉さん?姉さん言ったのか?いや、どうみてもこれは親子ではないのか?いやいや…
「姉さんをどうもありがとうございました、ミニスカポリスのお嬢さん」
話しかけられ、私はふっと我に帰った。そうか、この衣装はミニスカポリスとかいうのか。
まったく、こんなものをどこで手に入れてきたというのだ?
「いえ、私は係りの者として当然のことをしたまで。どうやらそちらの気を悪くしてしまったようですが…」
「まぁ、そのことはよかろう。我は過去の事をずるずると引きずりたくはない。
 しかしお主、我の家臣であれば今頃切腹を命ずるところであったぞ」
「そ、それはすみませんでした」
「姉さん、瀬芦理達もいるだろうし、料理部のところへ行ってみませんか?」
「うむ、そうだな。ちょうど腹もへってきたところだ。」
「それなら道案内は私にお任せください。こちらです」


「別に変な意味はないわよ。勘ぐらないで。ただ単にトモちゃん達に楽しんでもらおうと思っただけなんだから。
 …何、本当かって?私って信用ないわねぇ…」
結局自力で見つけ、透子さんとの挨拶を済ませた俺達はいろんなところを見て回ることにした。
なんだかこういう風景を見ていると、高校も行きゃよかったと思う。
みんな生き生きしてるし、本当に仲が良さそうだ。
「そういえば、そろそろお昼時だね〜」
「そうだな…じゃあ料理部に行ってみる?どうせねぇねぇがいるんだから、まだ食べてると思うよ」
「じゃあぽえむちゃん、行こうか」
「うん」
そういうわけで、俺達は四人で学食の方を目指した。海が一望できる学食なんて、すごくいい所じゃないか。
しかし近づいてみると、状況は一変。なんだかものすごい言い争いが聞こえる。
紛れもない、甲高いあの声は姉貴だ。こりゃ完全にキレてるな。
「ちょっと!何なのよこのヤキソバ!アタシは皿一面にカラシを敷き詰めろなんて言ってないわよ!」
「あたしは自分の料理に誇りを持ってます。そんなことはしません」
「うっさいわね!目がしみるし、口から火がでそうになるし…どうしてくれんのよ!」
「そちらが勝手にやったことじゃないんですか?もしくはそこのバカウェイトレスがやったじゃないんですか?」
「おいおい、ボクがそんなことすると思ってんの?さっさと謝りな、ココナッツ」
「お前は黙ってろ、バカガニ。このチビが」
「んだとコラァ!?」
姉貴とウェイトレスと調理師がバトルを繰り広げていた。
「ど、どうしよう…高嶺、完全に頭に血が上っちゃってるよ…」
「ホントだ〜。ツインテールが膨らんでるよ〜」
「そんな冗談言ってる場合じゃないって!止めないと!」
俺達が止めに入ろうとしたその瞬間、その前を通り過ぎるようにしてずかずかと進む二人が。
片方はどういうわけかミニスカポリスの格好をしているが、もう片方は俺達がよく知る人物。
俺達柊家を束ねる総大将…
「蟹沢!椰子!何をしている!」
「喝!」
俺達全員のお姉さん、雛乃姉さんだ!


「事情はよくわかった。蟹沢、今回は全面的にお前が悪い」
「ええ〜!なんでさ〜!?」
「料理部部員が見ていたと証言している。さぁ、これでもまだシラをきるつもりか?」
「うう〜…」
「さっさと謝りなさいよ!まったく、なんてことしてくれるのかしら!」
「ああ!?テメェがあんなクソみてぇなHP作ってっからわりーんだよ、このダボが!また荒らしてやるぜ!」
「あ、あんただったのね!?『デスマスク』って!ちょーどいいわ!ここで潰してやる!」
「上等だぜ、ボクの奥義であの世に送ってやらぁ!」
「高嶺!」「蟹沢!」
「はいっ!」「う…」
やれやれ、なんとか収まったな。流石は雛乃姉さんだ。それにあのミニスカポリスも、結構な威厳の持ち主だぜ。
この二人が来なかったら、今頃本当に殴りあいに発展してたかもしらないぞ。
「すまなかったな、椰子。あとで蟹沢にはお仕置きをしておいてやる」
「再起不能になるようにお願いします」
しかしすげぇな。まさか姉貴に匹敵する…いや、それ以上の強気な女の子がいるなんて。
そしてそれを制する女の子がいるなんて。それにあの椰子とか言われていた娘、全然動じてなかったし…
そこへ突然、着ぐるみと男一人がやってきた。入り口で要芽姉様をナンパしようとしてたやつだ。
「乙女さーん!大変だー!」
「ふもふもっふ!ふももふもふふもも!」
「…?何を言ってるんだ、お前」
「レオ、いい加減それとれよな!スバルじゃなきゃわからないんだから!」
「ふもっふ」
着ぐるみは頭を取り外すと、中の人が慌てたように話し始めた。
「また出たんだよ、下着泥棒!今、スバルと村田が追っかけてる!」
「何!?また出たのか…懲りないやつだ。よし、行くぞ!レオ、ついてこい!」
そこへ雛乃姉さんが歩み寄った。こういう捕り物って、雛乃姉さんは俄然やる気が出るんだよなぁ。
「それなら我らも手を貸そう。そのような女の敵、黙って見過ごしては我が柊家の恥というもの」
「いいのですか?危険をともなうかも…」
「この程度、柊家では危険にもならんわ。我らの力、存分に使うが良い!」


「よし、追い込め伊達!」
「よっしゃぁ!逃がさねぇぞ、この変体野郎!」
「ワァーオ、毎度毎度ご苦労なヤツラだぜ!」
俺達はスバルと村田を見つけ、即座に加勢する。
「待て、今度は最早ただでは済まさんぞ!」
「乙女さん!」
「行くぞ、伊達!」
乙女さんとスバルが変態男の前に並んで走りこむ。そして…
「くらいやがれ!俺と乙女さんのツインシュート!」
「はぁぁぁぁぁぁ!」
凄まじい爆音と共に、変態男は10メートル以上吹き飛ばされた。こりゃもう病院行き確実だな。
しかし、一緒に来ていたあの柊弁護士が、瞬時に相手の表情を読み取ったようだ。
「待ちなさい。気絶しているのにこの勝ち誇ってる顔…どうやらダミーじゃないかしら?」
そう言ってると、スバルに祈先生から連絡が来た。
「土永さんが反対側から逃げる男を目撃しましたわ。敵はバイクで逃走の模様。
 すぐに向かってくださいまし。あと抜刀許可がおりましたと、鉄さんに伝えてくださいな」
スバルはこのことを俺達に話すと、乙女さんは心底悔しそうにした。
「何っ!?くそ、してやられた…いくら抜刀許可がおりたところで、これでは…」
だが、氷の弁護士はとても冷静だった。
「安心していいわ。こっちには足があるから」
そういうと、携帯で連絡を取り始めた。
「海?瀬芦理と巴に伝えてくれないかしら。敵はバイクを持ってるわ。私たちも行くわよ」
一通りの連絡を終えると、柊弁護士は乙女さんに向き直る。
「こっちにバイクを一つよこしたから、それに乗って行きなさい」
「ありがとうございます!レオ、伊達、村田!まだ他にいないか、学校内を捜索しろ!」
「鉄先輩、お気をつけて!」


「ともねえ、もっと飛ばせないの!?」
「む、無理だよ…空也を乗せてるのに、そんな危ないことは…」
俺とともねえはバイクで逃走する犯人を追っていた。
性能はともねえのバイク『ラスカル』のほうが圧倒的に上だけど、しかし乗り手が優しすぎる。
距離を離されることはないけど、追いつくこともできない。何とか奴の後ろをマークしておくのが精一杯だ。
そんなとき、ついにあの爆走ライダーが現れた。こっちはともねえのように遠慮はしない。
「クーヤ!あいつ!?」
「そうだよ!」
「平和な学園を、ましてやみんなが楽しむはずの竜鳴祭を汚すとは…ただではおかん!」
ねぇねぇの『キャットスライガー』の後ろには、乙女さんと言われていた人が乗っていた。
普通に日本刀を持ってるんだけど、コレどういうこと?
「あとはアタシたちに任せときな!あんなのすぐに追いつけるって!」
「うん、頼んだよ瀬芦理姉さん。あまり無茶はしないで」
その後、ねぇねぇはさらにスピードを上げた。最早俺達の出る幕じゃなさそうだ。
「ウソだろゥ!?なんであんなにスピードがでてんだよゥ!?」
犯人もさらにスピードを上げようとしたけど、もう遅かった。
キャットスライガーの後ろで乙女さんが膝を立て姿勢を正し、居あい抜きのようにその刀を構える。
あのスピードなのに、そんなことができる人がいるなんて…
「限界まで飛ばせ!キャットスライガー!」「万物悉く切り刻め!地獄蝶々!」
「これがアタシたちの!」「乾坤一擲の一撃なり!」
すげぇ、初めてのコンビなのにピッタリ息が合ってる。
「はぁぁぁぁぁ!地獄蝶々・逸騎刀閃!」
すれ違う瞬間、空気をも切り裂くような一閃。
キャットスライガーのスピードと合わさった居合いは、いとも簡単にバイクを一刀両断した。
「見たか!アタシたちに…」「断てぬものなし!」
決め台詞の後に犯人のバイクは大爆発、犯人は思いっきり吹っ飛ばされて気絶していた。
「あぅ、やりすぎじゃないかなぁ…」
「下着ドロの時点で警察沙汰だけど、これはこれで警察沙汰だよね…」
柊家では常識は通用しないが、どうやらここでも通用しないらしい。
俺とともねえは、その様子をポカーンと見ているしかなかった。


俺達は協力していくれたお礼として、タダでカレーをごちそうしてもらったのだった。
「竜鳴館館長・橘平蔵である。今回は協力していただき、誠に感謝の極みだ」
「柊家長女・柊雛乃である。我らは当然のことをしたまで。礼には及ばぬ」
犯人を警察に引き渡した俺達は、いかつそうなオッサンからお礼を受けていた。
あんなオッサン、見たことないぞ。熊とか平気で食べてそうだ。
「生徒会長の霧夜エリカです。柊弁護士、今回はありがとうございます。
 できればこれからもずっとお付き合いしたいですね」
「フッ…そうね、これからもよろしく」
そういえば要芽姉様はあのキリヤコーポレーションの顧問弁護士になるんだったな。
それにしてもなんだかあのエリカって人、只者じゃなさそうだぜ。
「私、柊海っていうんだ〜。よろしくね〜」
「佐藤良美です。今回はありがとうございました」
「良美ちゃんか〜。じゃあ、よっぴーだね〜」
「もう、いきなりよっぴーって言わないでよぅ」
おっ、あの娘可愛いなぁ…でも、なんだか俺の野性が危険を察知しているぞ。
「協力してあげたんだから、感謝しなさいよね」
「オメーは何もしてねーだろが、ダボが。えらそーにしてんじゃねーよ」
「な、なんですってぇ!」
…どうして人は争いを続けるんだろう…
「あは、君が作ってくれたカレー、とてもおいしいよ」
「私も…超辛カレー、おいしい」
「…どうも」
口数少ないトリオか?しかし椰子だっけ、性格はともねえとは正反対っぽいな。
「ホンマやホンマや!犬神保奈美や!あ、あの、サインください!」
「オラもほしいべ」
「くー♪」
「はいはい、一列に並んでねっ」
やっぱり結構な知名度なんだな、どんどんねぇやのほうにファンが集まってくるぞ。
それにしても、トラブルもあったけど、これはこれで楽しいかもな。
なんだかんだで、俺とほとんど同じ年齢の人と仲良くなれたし。


みんながそれぞれと話をしている中、俺のところにねぇねぇにも負けない巨乳美女が近づいてきた。
なんとなく雰囲気が透子さんに似ている。まさかこのあと、お礼ということで夜のデートを…うふふのふ。
「じー」
「何か御用でしょうか、美しいお姉様」
「…やっぱり興味が湧いてきませんわー」
そういうと、すぐにどこかへ行ってしまった。なんじゃそりゃ。
すると今度は、なんとなく俺と同じ匂いを持った少年がやってきた。
「どうも、今回はありがとうございました。」
「いやぁ、そんなに歳も変わらないみたいだし、そんな言葉使いしなくてもいいよ。俺、柊空也」
「そう?それじゃあ…俺は対馬レオ」
「よろしく、レオ」
「こちらこそ、空也。君の家、お姉ちゃんが六人もいるんだね」
「そうなんだよ。さらに向かいに二人の姉。都合八人に囲まれてるんだ」
「そっか…実は俺も…」
「おい、レオ」
突然、さっきねぇねぇのバイクに乗って犯人を叩き潰した乙女さんなる人が現れた。
「どうやら挨拶は済ませたらしいな。不埒な輩の成敗を手伝ってくれた恩は忘れてはならないぞ」
「うん。この人があの人たちの弟、柊空也君だよ」
「そうか」
そう言うと、俺のほうを向き直り、
「竜鳴館風紀委員・鉄乙女です。今回は力を貸していただき、誠にありがとうございます」
「いやぁ、俺は特に何も…それに乙女さんって、レオのお姉さんですか?」
「まぁ、姉がわりというやつで。よくわかりましたね。まぁ、あまり根性のない弟ですが」
「はは…」
ああ、彼もお姉さんっ子なのか。俺ほどじゃなさそうだけど、なるほど親近感が湧いてきたわけだ。
乙女さんはレオの服装の乱れをチェックしたあと、きびきびとした動作でその場を後にした。
ただただカッコイイ…それが俺の乙女さんに対する印象だった。


ぼんやりと空が赤くなって、俺達もいよいよ帰ることとなった。
下着ドロというくだらない事件に巻き込まれはしたものの、本当に楽しい一時を過ごすことができた。
盗むぐらいなら、むしろ下着を頭から被るぐらいの勢いを見せてもらいたいもんだぜ。
しかし何と言っても、一番良かったことは新しい友達を沢山見つけることができたことだろう。
乙女さん、蟹沢さん、椰子さん、霧夜さん、佐藤さん…そして、対馬レオ。
いずれはダンチョーやイエヤスとかにも紹介してやりたい。

「今度俺の町にも来いよ。一緒に遊ぼうぜ」
「ああ。絶対行くよ。また会おうな」
俺とレオはお互いがっちりと握手し、俺達は再会を約束したのだった。


(作者・シンイチ氏[2005/10/03])

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