食事の後かたづけやら部屋の掃除と
一通りの作業を終え、ちょっと犬神家リビングで休憩。
ねえやは出かけてしまって、ねーたんは部屋で締め切りに追われている。
帰って柊の家のほうの手伝いでもしようか、と思ったとき
ちょっとフラフラしながらねーたんが部屋から出てきた。
「お疲れ、ねーたん・・・もう書きあがったの?」
「うん・・・なん・・・とか・・・」
ああ、憔悴しちゃってるな。
椅子を引いて座るように促すと
熱く濃い紅茶を入れてあげる。
「はい、どーぞ」
「ん・・・ありがと、クーくん」
ねーたんは少しやつれた顔で、それでも俺に微笑みかける。
「今回は長かったね」
「うん・・・でも、これで少し時間とれるかな・・・」
「じゃ、今日は美味しいもの作るから
 たくさん食べて、ぐっすり寝て、ね」
「うん・・・そしたら、また・・・遊ぼうね、クーくん♪」
そっか。
もう夏だってのに、ずっと部屋に缶詰だったんだもんな。
仕事も一段落ついたんだし、たまには息抜きさせてあげたいな。


「ねーたん、いつぐらいまでヒマなの?」
「ん・・・来週には次の連載の打ち合わせがあるから
 今週末まで、かな」
・・・売れっ子はつらいな。
「じゃ、それまでは俺がねーたんを予約。OK?」
「うんっ♪」
うーん、いい笑顔。
さて、ねーたんのためにいろいろプランを立てないとな。
まずは、今夜の夕食を気張るとするか!
夕食後。
ねーたんとのデートプランのため
部屋に戻っていろいろ情報誌とか漁ってみる。
ん・・・こことか手頃だな。
それほど遠出ってわけじゃないけど、街の雰囲気は結構違うし
確か行ったことないはずだから、気分転換にはなるだろう。
ちょっと電話してみるか。
まだ寝てなきゃいいけど・・・
「あ、もしもし、ねーたん?空也だけど。
 早速なんだけど、明日ちょっと出かけない?
 ・・・うん、そう。松笠までだけど」


翌日は快晴。
平日ということもあって、電車はそう混んではいない。
「クーくんは、松笠って結構来るの?」
「んー・・・たまーに、かな。
 この間もちょっと来たんだけどね。
 遊ぶところは結構あるよ」
ちなみに、松笠ではちょっと前に開国祭とかいうイベントがあって
そのときは柊家一同で遊びに行ったんだけど
ちょうどその時はねーたんは締め切りに追われていて
残念ながら行けなかったのだ。
海浜急行に乗り換えて、あっと言う間に松笠に。
駅ビルをちょっとブラブラしているうちにそろそろお昼。
調べておいたカレーハウスに向かう。
ねーたんは辛いもの好きだからね。
確かカレーの街・松笠の開国祭代表店に選ばれたとかで
味には定評がある・・・らしい。
「いらっしゃいませーっ」
小柄なウェイトレスさんが・・・
なぜかくるくる回りながら注文を取りにきた。
片手あげっぱなしだし。
「ご注文はお決まりですかー?」
「俺、海軍カレー大盛り。ねーたんは?」
「・・・」
ん?なにやら壁に貼られたポスターを見つめているが。
「・・・超辛スペシャルカレー、チャレンジ」
「!超辛スペシャル、入りましたー!」
ああ・・・完食すれば無料ってヤツか。
ねーたんの場合、無料に惹かれたわけじゃないだろうけど。


出てきたカレーは・・・見たところそう差はない。
はくはく・・・
ん、美味い!さすが評判の店だけあるな。
ねーたんも美味そうに食べている・・・が、コレ、超辛なんだよな。
ウェイトレスさんが食い入るようにねーたんを見つめている。
なんか悔しそうなんですけど。
「ねーたん、平気?」
こくこく
「思ったほど辛くないのかな?」
ふるふる
「辛いけど、ただ辛くしたんじゃない。丁寧に作られてて、とても美味しい」
「!」
ウェイトレスさんが嬉しそうな顔に。
「・・・クーくんも、食べる?」
「え・・・でも、チャレンジが無効になっちゃうんじゃない?」
「別に、無料だから食べたかったわけじゃないよ。
 こんなに美味しいなら、無料じゃ申し訳ない」
「!テンチョー、テンチョー!」
なぜかウェイトレスさんが厨房に飛び込んで行く。
と思ったら髭面のコックさんと一緒に出てきた。
「Oh!感激デース!
 このカレーの美味しさ、わかってクレル人なかなかイマセーン!」
そんなに美味しいのか。
「じゃあ、チャレンジはダメになっちゃうけど、一口もらおうかな?」
「うん。はい、アーン」
「アーン」
・・・・・・ぐほぁっ!?
「あ、倒れた」
「フツーの人、こうナリマース」
ぐぐ・・・恐るべし・・・ねーたんの味覚・・・


食事が終わったら、名所の一つ、ドブ坂通りへ。
ちょっとお洒落な店が並んでいる。
その中、一軒のジュエリーショップでは
黒髪ロングのスカジャンを着た女の子が
熱心にウィンドゥを見つめている。
・・・隣にいるのが彼氏かな。
あ。彼氏が指輪を買って、女の子に素っ気なく渡している。
なんだか見てて初々しいな。
「・・・」
む。ねーたんの視線が羨ましそうに二人を見ている。
・・・俺も甲斐性見せるか。
「ねーたん、気に入ったのある?」
「ん。このコウモリの」
そういえばコウモリ好きなんだよな・・・
しかし、このゴツイデザインはねーたんの華奢な手には合わないような。
サイズもわりと大きめだし・・・
「クーくんがすると、きっとカッコイイ」
「え、俺?」
「お姉ちゃんが、買ってあげる」
姉の甲斐性を見せられてしまいました。
「俺もねーたんに買ってあげる。どれがいい?」
「ん・・・このペリドットの、かな」
ねーたんが指さしたのは、小さな黄緑色の宝石が輝くシンプルなやつ。
値段は・・・なんとかなるな。
「じゃあ、ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」
「あ・・・ありがとう、クーくん」
ねーたんがこぼれるような笑顔で笑う。
うん・・・よかった、喜んでくれて。


その後はビリヤード場に。
ねーたんは初めてなので俺が手取り足取り。
といっても、俺もそんなに上手くはないんだけど。
・・・隣の台のメガネくんが羨ましそうに見てるが、無視。
「おい、お前の番だぞ」
「あ〜あ・・・なんで俺は男二人で玉突いてて・・・」
「イヤなら帰るぞ?どうせ夜のバイトまでの暇つぶしなんだから」
「ああ、ウソウソ、捨てないで」
・・・無視。とにかく無視。
「あ・・・変なところに入っちゃった」
「ああ、これは難しいね・・・
 えーと、こう行ってクッションとって・・・」 
むう、これはファウル覚悟で行くしかないかな?
と思っていると、メガネくんの連れの髪の長い兄ちゃんが
「ちょいと俺に突かせてみない、お兄さん」
「ん?いいけど?」
「こういうときは・・・はっ!」
カツン!かけ声とともに、立てたキューから突き出された玉は
ギュギュギュと回転がかかってカーブしながら余計な玉をよけて進んでいく。
ココン!・・・ゴロゴロ・・・ゴトン!
「おお!見事!」
「いやいや、お粗末さま」
「ちぇ、なんだよお前ばっかいいカッコしやがって」
「今の、すごかったね・・・こうかな?」
「ああ、初心者はマッセーは・・・!」
兄ちゃんが止めるまもなく、真似をしてねーたんが突く。
カツン!ギュギュギュギュ!ココン!・・・ゴロゴロ・・・ゴトン、ゴトン!
「うお!?」「げ」「うわ、やるじゃんお姉さん」
「なるほど。覚えた」
・・・ねーたん、飲み込み早すぎ。


そして夕暮れ。
ロマンチックに松笠公園で海を見ながら過ごすひととき。
女学生らしい二人が仲良さそうに歩いている。
一人はねぇねぇみたいな綺麗なブロンド。
ここも基地のある街だから、外人さんかな。
って、なんかブロンドのほうが相手の胸揉んでるような・・・!?
「ふんふん・・・手は、ああいう風に動く、と」
「何を熱心に観察してますか」
「次回作は、女性同士の恋愛がテーマ」
やれやれ・・・仕事熱心というか。
「そんな風に次の仕事のこと考えられるようなら
 ねーたんも、少しは元気回復したのかな?」
「うん。ありがとう、クーくん」
「どういたしまして。
 ま、近場のどうってことない街だけどね」
「うん・・・でもね。
 普通の人たちが、普通の街で、普通に暮らしてる。
 それだけだけど、すごく元気を貰った気がする」
あんまり普通じゃない人もいた気がするけど・・・
そういうものなのかな。
「もちろん、クーくんにも、元気貰った♪
 これでまた、頑張れるよ」
夕日を浴びて赤く染まったねーたんの顔が笑顔で満ちる。
「・・・俺はねーたんのその笑顔だけで元気になれるよ」
「ん・・・帰ろっか。私たちの街に」
「そうだね・・・」
ありがとう、松笠。疲れたときには、また来るよ。
その時まで、今はさようなら・・・


(作者・Seena◆Rion/soCys氏[2005/09/17])

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