自分で言うのもなんだが、実家にいた時よりは料理の腕が上がった。
 料理苦手克服のため、何よりレオの為に、私は精一杯やってきたつもりだ。
 だが
 「どうだレオ。おいしいだろう?
今日のは私の自信作だぞ。」
 「・・・うん。乙女さんが何を作ろうとしたのか、
どういう味付けにしたかったのかは、なんとなく想像つくんだけど・・・」
 「けど、なんだ?」
 「おいしいとはいえない・・・かな。」
 ・・・そろそろ本などを読んで覚えるのも頭打ちかと感じ始めた。
 やはり人に教わったほうが実際に見て、体験できる分、覚えやすいと思うのだが。
 「スバルに教えてもらえばいいじゃん。」
とレオは言うが、そもそもいつまでも伊達の面倒になっていては悪い、
と言うのが料理を始めたきっかけだし、
何より年下に教わると言うのが、年上の威厳を保てないような気がして嫌だ。
 何か良い手はないものだろうか・・・。
 「さっきから何ボーっとしてるの?乙女さんらしくない。」
 「レオ。帰ってきたのか。」
 「うん。フカヒレとカニの三人で遊んできた。」
 言いながらレオがテレビをつける。
 「おい、レオ。外から帰ってきたらまずは手洗い、
うがいをしろといつも言っているだろう。」
 「あ、ああ、そうだった。行ってくるね。」
 「全く、だらしの無いやつめ・・・。」
 テレビは神奈川県ローカルの情報番組のようだ。
 県のサークルや行事の紹介をしている。
 ・・・ん?こっ、これは!?
 「レオ!」
 「何?どうしたの乙女さん?」
 「私は俄然やる気が出てきた。がんばるぞぉ!」
 「え?なっ、なにが?」
 ・・・


 「それでは皆さん、今回は私たちのサークルに、
体験入会者が三人もいらっしゃって下さいました。
それでは、自己紹介お願いできますか?」
 横浜市のボランティアで運営されている横浜料理サークル。
 月に二回程度の集まりで材料費以外は無料と言うこのサークルが、
新規メンバー募集のため、体験入会を実施していた。
 少し遠出だが、学業や部活に忙しい私も、
月に二回なら出来ないことも無いと思い、早速応募してみた。
 私のほかにも二人、体験入会者がいるようだ。
 とりあえず、自己紹介は私からのようだな。
 「・・・ごほん。鉄乙女です。
この倶楽部で料理の修行に励み、精進したいと思います。」
 「はい、がんばってくださいね。それではお隣の方。」
 「はい〜。柊家ナンバーシックス!柊海です。
料理はちょっっっっとだけ苦手ですが、ここでがんばろうと思いま〜す。」
 三つ編みの女性はそういうと、隣の大柄な女性をひじで小突いて
 「ほら〜、次は巴お姉ちゃんの番だよ。
ちゃんと録音してあげてるから、しっかり緊張してね〜。」
と言っている。
 姉妹なのだろうか? 
 「あぅ・・・柊・・・と、巴です。
あの・・・その・・・あぅ・・・が、がんばります。」
 ひどく緊張しているようだ。
 顔を真っ赤にしてうつむいている。
 「今日はよろしくお願いしますね。
お三方はそちらのテーブルのほうで班を作ってください。」
 ・・・


 三人でテーブルに着くと、早速料理の説明があった。
 今日はとんかつにチャレンジらしい。
 説明が終わり作業開始になると、途端に部屋が騒がしくなった。
 「改めて、私から自己紹介しましょう。
鉄乙女です。よろしく。竜鳴館と言う私立の高校に通っています。」
 「柊海です。よろしく〜。」
 「柊巴です。あ、あの・・・」
 「何か?」
 「お、・・・乙女ちゃん・・・って呼んでも、いいかな?」
 「えっ・・・いや、かまいませんよ。」
 「あは、ありがとう。お友達、お友達♪」
 「鉄さん、ごめんなさいね〜。巴お姉ちゃん、
友達が少ないからこんなですけど、嫌だったら断っていいんですよ〜。」
 「いや、私も同じ志を持つ仲間がいてうれしい。
お互い、仲良くやりましょう。」
 ・・・
 
 実際、作り始めると、巴さんが細かいところまで教えてくれる。
 「パン粉も全体に満遍なく付けて。ポンッ、ポンって。」
 「なるほど・・・よし!ハッ!」
 ゴキン!
 トレイがひん曲がって宙に舞い、パン粉があたりに散乱してしまった。
 「またやってしまった・・・。」
 「も、もっとやさしくで大丈夫だと思うよ。」
 「それにしても巴さんは料理がお上手ですね。
なぜ今日はここに?」
 「あぅ・・・それが、海の付き添いで。
海には私も何度か料理教えたけど、わ、私の教え方が下手で、
私じゃ海の為にならないからって・・・。」


 「教え方が下手?そんなことは無いのではないですか?
実際、海さんも手際よくやっているようだし・・・」
 見ると、海さんはパン粉をつけた豚肉に、なにやら振り掛けている。
 秘伝の調味料かなんかだろうか?
 「えっ・・・?あ!う、海!
それは食べ物じゃないから、そんなところに混ぜちゃダメだ!」
 ・・・

 「それでは皆さん、盛り付けも終わったようですね。」
 ようやくにとんかつが完成した。
 油で揚げるところでは、巴さんにすっかり世話になってしまった。
 ちょっとだけ黒くなってしまったものの、
見ただけでとんかつと分かるものが出来上がった。
 よし、これは大きな進歩だぞ!
 しかし、巴さんと海さんのを見ると、
二人ともお手本どおり、あるいはそれ以上においしそうに出来ている。
 ちょっとだけくじけそうだ。
 「「いただきます!」」
 早速自分の作ったとんかつに箸を伸ばす。
 サクッ
 「あっ・・・思ったより・・・」
 「お、乙女ちゃん、どう?自分で作ったの、おいしいかな?」
 「ふむ・・・まずいとは思わないが、売り物だったら私は買わないな。
それにしても、ここまで出来れば今の私にしては上出来です。
これもすべて、巴さんのご指導の賜物。
ありがとうございます。」
 「あは、あんまり力になれなくて、ごめんね。」
 「じゃ〜さ〜、このテーブルの三人で、
お互いのとんかつを食べ比べて、意見交換しようよ〜。」
 「えっ、海!きょ、今日はやめておかないか?」
 「え〜、私はみんなの意見聞きたいし〜、
鉄さんも、私たちの意見聞きたいでしょ?」


 「私としてはお二方の意見も伺いたい。
意見交換のためにも、私は海さんに賛成です。」
 「えっ・・・と、その・・・あの・・・」
 「決定〜!」
 「あぅ・・・」
 「なぜ巴さんはそんなに落ち込んでいるのですか?」
 「自分で作ったやつに、自信がないんじゃないかな〜。
じゃあ、先に私の食べてみて〜。」
 海さんの皿からとんかつが取り分けられる。
 と、ここで巴さんがなにやら肩をつんつんと叩いている。
 「なんですか?」
 「ボソボソ(う、海を悪く言うつもりでは、ないんだけど・・・(略)」
 「なるほど・・・しかし、海さんの作ったとんかつを
このままにしておくのも、もったいない気がする・・・。」
 パクッ
 「あっ!」
 「(・ε・)!」
 ・・・


 「で、今日はうまく行ったの?乙女さん?」
 「まぁ、そうあわてるな。これが今日の成果、だ。」
 家に帰ってから、復習の意味をこめて早速とんかつを
レオのために作ってみた。
 出来上がったとんかつを、レオの前に置く。
 「へー、見た目完璧じゃない。」
 「ふふふ、そうだろう?
もちろん、完璧なのは見た目だけじゃないがな。」
 「じゃあ、早速、いただきますー!」


 パクっととんかつを一切れ口に入れたレオの体が、
びくっと振るえ目を見開いた。
 「そうか、そんなにびっくりするぐらいおいしかったか。
それもそうだろう。
今日一緒だった人のとんかつを私も食べた時、
体中に電光が駆け抜けた気がしたからな。
それほど、あの人の料理はおいしいと言うことだ。
食べ終わった後、しばらく手足のシビレが収まらなかったからな。」
 レオは私の話を聞いているのかいないのか、
体を硬直させたまま、箸を落とした。
 「お前もけっこうオーバーリアクションだな。
で、私はそのとんかつに感動してだな、
改めてつくり方をその人に教えてもらったんだ。
人は感動したときは、体が稲妻に打ち抜かれるような
感覚に陥ると言うが、私もまさか・・・ってレオ?」
 椅子からレオが崩れ落ちる。
 「あまりにもおいしくて、気絶してしまったのか?
ふふ、全く、お前は本当に根性なしだな。」 


(作者・SSD氏[2005/09/15])

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