節分、それは日本でも有名な伝統行事。
この日、朝から柊家は凄まじい緊張感に包まれていた。
いや、正確にはその前の日からである。
全員が必死になって部屋の片付けを行い、特に割れ物や個人の大切な物は厳重に保管される。
そして夕方、翔を除く全員が集まり、夕食を早めに済ませ『豆まき』の準備に取り掛かった。
翔はどうしても仕事の都合で家に帰ることができないらしい。
遅れて柊家に帆波、ぽえむ、いるかの3人が到着。
空也を含め、合計10人が居間に集合した。 机を取り囲んで全員が座り、それぞれが緊張した表情をしている。
今回の参加者を確認した後、代表して雛乃が立ち上がった。
「うむ、今年は10人であるな。 それではこれより毎年恒例『合戦豆まき』を行う!」
声高らかに雛乃が宣誓を行った。

ここで『合戦豆まき』のルールを簡単に説明しなくてはなるまい。
まず2つのチームに分かれ、豆いくつかとヒイラギの葉1枚を持つ。
チームは紅白で区別されるのだ。
そして、お互いのチームが柊家の敷地内でスタート地点を決める。
開始の合図とともに『合戦豆まき』がスタート。
豆をぶつけられた者はその場でリタイアとなる。 これは敵味方問わずだ。
また、豆をぶつける方法は人間から放たれたもののみとするが、これはパチンコなどの道具の使用については認めるものである。
上着に付けられたヒイラギの葉は目印であり、ぶつけられた者はその場で葉を捨てる義務がある。
また、取っ組み合いで葉を相手に取り外されたりしてもリタイアとなる。
どちらかが全滅するまで行われ、負けたほうは一晩、家の外に追い出されるのだ。
これは『敗者こそが鬼、勝者にこそ福来る』という、意味不明な解釈から発生したもの。
鬼は家から追い出さなくてはいけないため、一晩ずっと外に放り出すのである。
因みに、柊家以外の参加者は勝利した場合、柊家に必ず泊まることになっている。
何にせよ、いきなり寒空の中に放り出されるので、どちらも負けるわけにはいかない。
しかも今回、負けたほうは今日中に何らかの不幸が訪れるという、ぽえむの占い鑑定付きなのだ。
これは今夜の寝床+αを賭けた、まさに仁義無き戦いなのである!


「さて、それではくじ引きを行う。 今回は『自由選択』のくじを混ぜておいた。
 これを引いた者は最後にどちらのちーむに入るか選択することができるぞ」
運命を決めるくじ引きが始まった。 俺は最後にくじを引いた。
このくじ引きで勝敗が決まると言っても過言ではない。
特にねぇねぇがチームにいるといないとではかなりの違いだ。
あの運動能力は凄まじいものがある。
「さて、全員引いたな。それぞれ分かれるとしよう」
そして、結果はこうなった。

紅組→要芽姉様、ねぇねぇ、姉貴、ねぇや
白組→雛乃姉さん、ともねぇ、お姉ちゃん、ねーたん
自由選択→俺、いるかちゃん

要芽姉様は明らかに不機嫌そうな顔で俺達に聞いてきた。
「それで、いるかと空也、あなた達はどっちに入るの?」
人数は均等でなくてはならないため、俺達は別々のチームに入ることになった。
しかし、ここで俺は考えた。 勝敗ではなく、その後のことである。
もし負けたとしても犬神家があるので今夜の寝床の心配はないだろう。
ただ、紅組に入ってしまった場合、夜中に襲われることは確実だ。
言ってみればこっちは悪の軍団、身の安全は一切保障できない。
ある意味それもいいんだけど、やはり夜は静かに眠りたいもんだ。
特に、今日みたいに恐ろしいほど疲れるのがわかってる日では…
それに引き換え、白組は非常に良心的なメンバーだ。 聖母マリアが見える。
夜は静かにぐっすりと眠れるだろう。
「俺は白組に…」
「じゃあ私は紅組ですね〜。 お姉様、一緒に頑張りましょう!」
いるかちゃんは紅組に入りたそうだったので、すんなり決まった。
ゴメン、いるかちゃん。
もしそっちが負けたら、その時は何されるかわかったもんじゃないよ…
「さて、それでは配置につけい!
10分後に我が吹く笛の音で開始とする!」


俺達は台所、相手は2階に陣をとった。
その場所ですぐに作戦会議が行われる。
「我らで2つの班に分けるぞ。 一人での行動は危険だからな」
「異議なし」
「私はくーやと一緒がいいな〜」
話し合いの末、俺とお姉ちゃん、姉さんとともねえとねーたんの班に分かれた。
どちらも不安があるが、とりあえずはこれでいいだろう。
「さて作戦であるが、一方が廊下を渡って進軍、もう一方が外から2階へと忍び込んで奇襲する。
 せろりではあるまいし、向こうは屋根から来るとは思わんだろう」
「ちょうど挟み撃ちの体勢になるわけですね」
「あぅ、大丈夫かなぁ…」
「大丈夫だよ、巴さん」
「くーや、いざという時は、お姉ちゃんが守ってあげるからね〜」

「まったく、何でこんな奴が…」
「アン、そんなに怒らないで。 ところで、どういう作戦にするの?」
「こっちは2階だから、ちょっと移動が不便よね」
「前衛と後衛に分かれましょう。 前衛が帆波と高嶺、後衛は私といるかで。
 瀬芦里は遊撃兵よ。 存分に動き回って、力を出し切りなさい」
「オッケー」
「まあ、こんなところかしら。
 いるか、死んでも私を守りなさい。 いいわね」
「は、はい…」


開始の笛が鳴り響いた。
同時に、お姉ちゃんがあらかじめ家のブレーカーに細工をしていたので、一気に家中が真っ暗になる。
これを利用し、俺達は気づかれないように相手の部屋の真下まで接近していた。
さらに、全身真っ黒の服を着込んで準備完了。
「まずはうまくいったね〜」
「よし、それじゃあ登ろう」
音を立てないように注意して、ゆっくりと2階の窓まで登っていた。
試合中は窓や扉の鍵をかけることは禁止されている(ねぇねぇの部屋は別)ので、侵入そのものは容易い。
途端に、下から声が聞こえてきた。 どうやら雛乃姉さん組が戦闘に入ったのだろう。
あっちが引きつけてくれるおかげで、こっちはかなり動きやすい。
「とりあえずは、予定通りだね〜」
そう言ってゆっくりとドアを開けると、階段手前の廊下で要芽姉様の後姿が見えた。
もうこれは大チャンスだ。 一気に仕掛けて大将(なのかどうかはわからんけど)の首をとってやるぜ!
「要芽姉様、覚悟!」
「何!?後ろだと!?」
俺達はお姉ちゃん開発の新兵器『鬼は外銃』を乱射する。 因みに、弾丸は豆。
この新兵器、実はこっちのチーム全員が装備しているのだ。
ライフルタイプやマシンガンタイプなど、種類も豊富な一品なんだぜ。
反則みたいに見えるが、別にルール違反というわけではない。
お姉ちゃん曰く『何を使おうが勝ち残ればいいんだよ〜』だそうだ。
しかし、さすがは要芽姉様。 バリケード用に立てかけていた机に素早く隠れ、難を逃れた。
「いるか!何とかしなさい!」
「お姉様〜!私はあんな武器、見たことがありません!」
「当たらなければどうということはないでしょう!」
いきなりいるかちゃんが特攻してきた(させられた?)が、俺達の集中砲火の前にあっけなく敗れ去った。
当たり前だ。
「わ、私の出番ってこれだけですか…ガクッ」
よし、これでまずは一人だ。
しかしこのとき、俺達は驚愕の事態に陥る事を、まだ知る由も無かった…

〜秋山いるか・再起不能(リタイア)〜


「もう、要芽ちゃんは何をやってるのよ!」
階段を下りてしばらしてから戦闘が始まったのよね。 相手は3人、こっちは2人。
どう考えてもこっちが不利。ああ、乙女の大ピンチ…しかも、向こうは銃みたいなのを使ってるし。
アレって反則じゃ…あ、そっか、いいんだった。
「こうなったらワタシが頑張らないと!」
高嶺ちゃんはお世辞にも戦力になるとは言い難いし、ここは踏ん張りどころね。
「高嶺ちゃん、援護よろしくねっ!」
「え? ちょ、ちょっと!」
ワタシはそう言って飛び出した。
「むむ、あっちだ! 迎撃せよ!」
しかしこれをなんとか回避し、こっちも豆を投げて応戦する。
すると、ぽえむちゃんが私の正面で銃を構えていた。
しまった、誘い込まれた!?
「うっ…ぽ、ぽえむちゃんを攻撃するなんて…ワタシには…」
「くすり。 姉さん…甘いね」
ぽえむちゃんのその表情に、一切の迷いはなかった。
しかし、いきなり銃を突きつけてきたけど、ワタシは弾道を予測してなんとかかわした。
眉間を狙っていたから、回避そのものは簡単だったわ。
「あ…しまっ…」
「ここまで近づけば、銃身の長いそっちのほうが不利ね! ごめん、ぽえむちゃん! 後で欲しい物買ってあげるからね!」
ぽえむちゃんはまさか避けられるとは思ってもいなくて、動揺して動きが鈍くなっていた。
その隙に、一気に目の前まで接近する。
素早く銃を取り上げると、ワタシは片方の手でぽえむちゃんに豆をぶつけた。
「ううぅ…ね、姉さん…がくり」
ボーッとしてたら的にされるので、奪った銃で牽制しつつ高嶺ちゃんのところまで身を引いた。
悲しき姉妹対決、といったところかしらね…
「ぽえむちゃん…」
なんて感傷に浸っている暇はないわっ! このまま一気にカタをつけてあげる!

〜犬神ぽえむ・再起不能(リタイア)〜


「さあ要芽姉様、おとなしく出てきたらどうだ!」
「くっ…まさかこの私が…」
状況は2対1、こちらのほうが圧倒的に有利だ。
「よーし、こうなったらその机を剥ぎ取ってやるぜ」
「うん、そうしよ〜」
そう言って廊下に出た途端、海お姉ちゃんが急な殺気を感じた。
「あっ! くーや、危ない!」
何と後ろから豆が投げつけられてきたのだ!
お姉ちゃんは俺を部屋に突き飛ばしたところで、攻撃をもろに受けてしまった。
「え、えへへ…く、くーや、お姉ちゃんの分も…がくっ」
「お、お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「助かったわ、瀬芦里」
「へっへー。 油断したね、クーヤもうみゃも」
ねぇねぇは天井裏に潜んでいた。 俺達が不用意に出てくるところを待ち構えていたのだ。
「さて空也、覚悟するのはあなたのようね」
「窓から部屋に侵入するなんて、思ってもみなかったよ。 アタシのお株を奪うとはねー」
どうする? 侵入した部屋に逆戻りしたが、まさにここは袋のネズミだ。
しかもこのシチュエーションはおそらく…
「ちょうどいいわ…ねえ瀬芦里、空也を倒す前にいただきましょうか」
「おっ、それいいねー。 先に楽しんじゃおっか。 誰もいないしね」
やっぱりぃぃぃぃ! ヤバイ、ヤバイぞ柊空也!
まさに今の二人は欲情した獣、俺の身の安全は保障されない!
「さあて、それでは…」
「お、俺は今は二人の言いなりにはならない! 必ずお姉ちゃんの敵は取る!」
そう言って俺は、侵入してきた窓から飛び降りた。
あらかじめ、いざという時のためにクッションを下に用意してある。
すぐに追跡されないよう、降りてすぐに身を潜めた。
「うーん、クーヤのやつなかなかやるねぇ…」
「空也よりも、今は高嶺達の応援に行きましょう。 おそらく一人は倒しているはず…」

〜柊海・再起不能(リタイア)〜


ぽえむがやられてしまい、こちらに残ったのは我とともえのみ。
しかも、今の向こうの話し声からうみまでもがやられてしまった。
くうやは逃げ切ったようだが、こちらに戦力を集中されている以上、どうにもならん。
応戦しながらも、我は今後の策を考えていた。
「うむむ…」
「ひ、雛乃姉さん…」
「雛乃ちゃん、もうあなたたちに勝ち目はないわよ!おとなしく出てきなさい!」
ほなみのやかましい声が響いてくる。
このままでは二人ともやられてしまう。 何とかしなくては…
仕方あるまい、ここは一旦退くしかなさそうだ。
「ともえよ、今から裏口まで行くぞ。 庭に出て身を潜め、期をうかがうのだ」
「わかった」
「…よし、今だ!」
攻撃が一瞬止んだのと同時に、後ろへ一気に後退する。
しかし、追っ手はしぶとかった。
たかねを先頭に、全員がどんどん近づいてくる。 そのとき…
「ともえ、何を!?」
「雛乃姉さんは逃げて。ここは私が食い止めるよ」
ともえが立ち止まり、手にしていた銃を構えた。 我の盾になろうというのか?
「し、しかし…!」
「今のままではここで二人ともやられちゃうよ。 さあ…」
「…すまぬ。 恩に着るぞ、ともえ」
我はすぐに裏口へと向かって行った。 後ろを振り返らずに…
「いくぞ、高嶺!」
「と、巴姉さん!? 一人で何を…」
「うあぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
(ドガガガガガガ…)

〜柊巴、柊高嶺・両者再起不能(リタイア)〜


「どうやら逃げたようね」
「あーあ、もう少しだったのになー」
「ま、仕方ないわよ。 次行きましょ、次!」
「待ちなさい。 残りはこっちは3、あっちが2。 優勢だけど、油断はできないわね」
「で、どうすんの要芽姉?」
「とりあえず役割を決めましょう。 それぞれの担当の地区で索敵を開始、10分後にここへ戻ってくること」
「バラバラで行動して、向こうの注意をひきつけるってわけだね」
「もし交戦になった場合は、すぐ仲間のところに行くこと」
「わかったわっ」
「まぁ、帆波が危険になっても、私は助けはしないけどね」
「要芽ちゃんひっどーい!」
「それよりアタシ、おなかすいたよー。 豆食べていい?」

ザザッ…

「…どうだ、くうや?」
「うーん、だいぶ調子が悪いみたい…あ、切れちゃった」
2階から逃げる時、わからないように要芽姉様の服に投げてくっつけておいたんだ。
お姉ちゃんがもしものときのために持たせておいてくれたものだ。
小型で軽量だから、付けられているのもわからないだろう。
「まあよかろう。 敵の動きは十分わかった」
「これからどうしましょう?」
「うむ、作戦参謀のかなめを叩こう。 あれを倒せば、統率の取れない相手に恐れることなどないわ」
「さすが雛乃姉さん」
「えへん」
「要芽姉様を倒したら、あとは一人ずつ攻撃していくんですね」
「うむ。 できればせろりを早めに倒したいところだがな」
「でも、どうやって要芽姉様を攻撃するんですか?」
「考えがある。 それはな…」


私達はとりあえず、ある程度離れて行動することにした。 瀬芦理は庭を、帆波は2階を、私は1階を。
いきなり攻撃されることの無いよう、移動には細心の注意をはらう。
そして白組のスタート地点である台所まで辿り着いた。
「はっ!?」
いきなりの攻撃がやってきた! それを間一髪のところで回避し、すぐに攻撃態勢をとったが…
「そ、そんな!?」
いない。 空也の姿も、雛乃姉さんの姿も。
殺気は感じられるのに、その姿はどこにも見えない。
暗くて視界があまり効かないのも原因だが、少なくともどこかに隠れているのは確かね。
「どこなの!? 出てきなさい!」
すると、また攻撃がやってきた。 またも見えない攻撃。
ここが危険だと判断して、私は玄関まで移動をした。
「あそこは危険だわ…でも、一体どうやって…今は瀬芦理のところへ!」
考えていると、いきなり扉を開けて空也が現れた!
「今度こそもらったぞ、要芽姉様!」
「空也の分際で!」
何とかこれを回避したが、しかし私は次の瞬間、凍りついてしまった。
手をついたその先にいたゴキブリを見て…
「…!!」
「今だ、雛乃姉さん!」
「うむ!」
天井から突然、姉さんが現れた!
(バババババ!)
「…う、うぅ…まさか…この…私…が……ぐふっ」

「やれやれ、うまくいったね。 これ、作り物なのに」
「それに天井裏を利用するとは思わんかったろうな」
「さて、次はと…」
「!? くうや、危ない!」

〜柊要芽・再起不能(リタイア)〜


「にゃー!」
「うわぁぁ!」
「せ、せろりか…」
「よくも要芽姉をやってくれたねー…この借りは高くつくよ!」
雛乃姉さんが知らせてくれなかったら危なかった…なんてスピードだ。
「飛び掛ってきたってことは…もう豆が残ってないんだな!? どーせ食っちまったんだろ」
「うっ…ク、クーヤもなかなか鋭いね」
「くそ、こうなったら奥の手でいくか…」
「む、それはなんだ?」
「それは…逃げるんだよォォォォォーー!!」
「待てー!!」
何とか居間までは来れたものの、やはりねぇねぇのほうがスピードは上だ。
雛乃姉さんの背中目がけてスピアタックルを仕掛けてきた。
「そりゃぁー!」
「雛乃姉さん!」
それを寸前のところで俺が受け止めた。 凄まじい衝撃が全身を襲う。
「う…ぐっ…」
「くうや!」
「雛乃姉さん、今のうちに早く!」
「う、うむ!」
雛乃姉さんは銃を構えた。 しかし…
「甘い、甘いよクーヤ!」
すっと身を翻し、銃から発射された豆を俺の体でガードした。
ねぇねぇに盾にされ、俺はまさに蜂の巣状態となってしまった。
「そ、そんな…がく」
「し、しまった!」
「それぐらいでこの柊家最強生物、柊瀬芦理がやられると思ったら大間違いだよーん」

〜柊空也・再起不能(リタイア)〜


「んっふっふー。 さあて、ひなのんはアタシをどうするつもりなのかにゃー?」
「ぬぬ…」
「まさか倒すなんて言うんじゃないでしょーねー? いくらなんでも無理だよ、無理」
せろりの獣のような速度は、銃で追うことなんて無理がある。
加えて力も強い。 取っ組み合いなら、確実に負けるであろう。
何か…何か手はあるはずだ!
「ほらほら、おとなしくしなって」
「ふっ…しかしまだ手はあるぞ!」
隠し持っていた煙玉を床に叩きつけ、その隙にくうやの部屋目がけて走った。
「く、くそっ! ゲホゲホ…」
何とか部屋まで到着し、つっかえ棒をして開かないようにしておいた。
もちろん、こんなものがせろりを止めることなどできるはずもない。
どたどたと足音が聞こえ、そして扉の前でぴたりと止んだ。
「やってくれたね、ひなのん。 そんなとこに隠れたって無駄だよー」
「来るがいい、せろり!」
我は扉のすぐ横で待機し、せろりが勢い余って飛び出してくるのを狙った。
「じゃ、遠慮なく…そりゃ!」
「今だ! これでもくらえい!」
扉を蹴破ってきたせろりの顔面に、くうやの部屋にあった香水を吹き付けた。
「ふぎゃー!」
顔を押さえ、もんどりうってしまうせろり。 やはり猫には効果抜群であったな。
「これで逆転だぞ! 覚悟!」
ズバババババッ!
「うぐぐっ…柊瀬芦里、一生の不覚…無念…」
「はぁ、はぁ、…な、何とか勝てたか…後はほなみだけだな」

〜柊瀬芦里・再起不能(リタイア)〜


さて、ほなみはどこだ? 注意深く家の中を探索したのだが、姿はどこにも見えぬ。
どこかに潜んでいることは確かだが。
我はとりあえず銃の中に残った豆が少なくなってきたので、拾って集めることにした。
「少々情けない姿だが…仕方あるまいて」
拾うために身をかがめたとき、いきなり…
パンッ!
「むぅ!?」
続けざまに豆が放たれたので、すぐに机の下に隠れた。
「な、なんだ…?」
よく目を凝らしてみると、なんと庭の木の上でほなみが銃を構えているではないか!
まるで狙撃手だ。
「そ、そういえばぽえむの銃を奪っていたのであったな…」
ぽえむが持っていた銃は銃身の長い狙撃用だったはず。 離れて戦うにはあまりにも危険であるな。
さらに攻撃が来たので、別の部屋に逃げ出すことにした。
これはまずい。 よりによってほなみが銃を持っているとは…
「ほなみを先に倒しておくべきだったな…うぬ!」
今度は降りてきたのか、足音まで聞こえてきた。
「雛乃ちゃん、いくら逃げたって無駄よー! 今の私は獲物を狙う狩人…逃がしはしないわっ!」
おのれ、どうする!? 我はそれほど射撃が得意ではない。
「柊と犬神の長女対決、ワタシに軍配が上がりそうねっ☆」
このままでは確実にやられてしまう。
圧倒的にほなみが有利だ。 やはり策を講じるしかないか…
「こうなったら…」
我は風呂場へ逃げた。
なんとかほなみの攻撃を振り切ることはできた。
洗面所の扉を閉め、そのまま風呂場まで直行する。
「うまくいくかどうかわからんが…もうこれしかほなみを倒す方法はない!」


「ひ・な・の・ちゃ〜ん☆」
不意打ちをくらわないように気をつけて、ワタシはそーっと洗面所のドアを開けた。
とりあえず何も仕掛けはないみたいねっ。
「アン、ここにはいないのかしら」
ま、もう後は風呂場しか残ってないんだけどね。
風呂場のドアを開けると、いきなり目の前に体重計を発見。
「…ふぅぅぅん。 どうやらワタシを怒らせたいらしいわね…」
まずはそれをどけて、風呂場に入ってみた。
窓には格子がついているため、ここからの脱出はできない。
雛乃ちゃんの姿は見当たらないが、もう見当はついている。
空になっている浴槽の中、ここしか隠れる場所はないわっ。
「さあて、観念しなさい!」
浴槽にかぶせてある板をはずし、一気に銃を中に向けて乱射した! しかし…
「うそ!? いない!? どこなのよ!?」
するといきなり、どういうわけか雛乃ちゃんが銃を背中につきつけてきた!
「ふう、さすがに洗濯機の中はきつかったぞ」
「ここに隠れてたんじゃなくて…洗濯機の中だったの!?」
「完全に見落としていたのう。 体重計でひっかかると思ったわ」
「ひ、雛乃ちゃん? まさか…ワタシを撃ったりしないわよねっ?」
「ふむぅ…残念、であるな」
雛乃ちゃんは背中に零距離射撃を仕掛け、ワタシの背中には無数の豆による激痛が走ったわ…
「キャァァァァ!…ひ、ひどい…ひどいわ……かふっ」
「ふふ…これにて我が軍の勝利だな、ほなみよ。
 ふふふふ…ふはははははは!」

〜犬神帆波・再起不能(リタイア)〜

こうして、今回の『合戦豆まき』は雛乃率いる白組が勝利をおさめたのであった!


「うむうむ、くうやよ、よくやったぞ。 褒美をやるから、後で我の部屋に来い」
「ありがとうございます。でも、今日の最優秀賞はやっぱり雛乃姉さんじゃ…」
「まあ、それも兼ねてだがな」
激戦を制し、なんとか今晩の寝床を確保した俺達。 もうヘトヘトで、すぐにでも寝たい気分だ。
ちなみに、敗北した要芽姉様達は早速家から追い出されてしまった。
「疲れたから眠くなった…」
「そ、それじゃあぽえむちゃんは私の部屋で一緒に寝よう」
「うん、嬉しい…」
その光景を見てお姉ちゃんがこんなことを言っていた。
「巴お姉ちゃんとぽえむさん、絶対レズだよ〜。 今日は凄いかも〜」
いや、いくらなんでもそれは考えすぎじゃなかろうか…多分。
そして俺は雛乃姉さんのところに行った。 なぜかお姉ちゃんも一緒に。
「空也ですけど」
「おお、入るがよい」
部屋に入った俺が見たのは、驚くような光景だった。
なんと雛乃姉さんが『みらくるひなのん』になっているではないか!
「な、なんだ〜!?」
「ふふ、先祖が我に褒美をくださったのだ。 昨日、夢の中で伝えてくれてな。
 勝ったら一晩だけ体を大きくしてやろう、とな」
「そうなんだって〜。 聞いたときはびっくりしたよ〜」
ツッコミ所は沢山あるが、もう今更なので完璧にスルーしておこう。
急に雛乃姉さんは濡れた瞳でこっちを見つめてきた。 海お姉ちゃんもじっと見つめている。
「さて、それでは褒美だ。 そこに服を脱いで横になるがよいぞ」
「くーや。 はやくぅ〜」
「いや、あの俺は疲れてるんで…(そそくさ)」
「照れなくてもよいぞ。 かわいいやつだな、くうやは」
「ひぃぃぃぃぃ! 搾り取られる〜〜〜!! つーかこのオチ、もう使い古されてるじゃねーかー!」
「何をわけのわからんことを言っておる。 よいではないか、よいではないか」
「仲良く一緒に寝ようね〜」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ…」


オマケ

一方、家を追い出された負け組のほうは…
「…と、とりあえずワタシの家に泊まる?」
「そーだね。 仕方ないにゃ〜」
「…どうやらそれしかないらしいわね…忌々しいけど」
「それじゃ鍵を…あ、あら?」
「どしたの?」
「か、鍵をそっちの家で落としちゃった…」
「え〜!?」
「門は完全に閉まってるし、家中の窓や扉も閉めることになってるし…」
「いるか、仕方ないからアナタの所に行くわよ!」
「そ、それが…私も、財布ごと鍵をそちらに落としちゃったみたいで…」
「何!?」
「ひぃぃぃぃ!すみませ〜ん!」
「よ、よく考えたら…この中で財布を持ってる人は…?」
「…」
「携帯とかは?」
「……」
「そんな〜! どうしましょう! どうしましょう〜!」
「寝るところもない、お金もない、連絡手段もない…」
「そ、そういえば今晩は特別冷え込むって言ってたわね…雪もバンバン降るとか…」
ビュォォォォ…
「………」
「うわ〜〜!! 中に入れて〜!」
「寒い〜! 凍える〜!」
「助けて〜!」

「何だか外がうるさいのう。 む? どうしたのだ、くうや。 まだまだこれからであるぞ…」

…翌朝、空也はげっそりした状態で発見され、雛乃の体は元に戻ったものの、お肌はツヤツヤしていたそうな。
巴は朝のジョギングをしようと外に出た時、道路で凍りついた5人を発見したそうな。


(作者・シンイチ氏[2007/02/03])

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