すっかり晴れ渡った空。太陽もさんさんと輝いてるから
新しい空気を入れようと雨戸を開けると、
「あぅ・・・・・・やっぱり寒い」
 そんな年末のある日。
 クリスマスも終り、年越しに向けて皆で大掃除をすることになった。
 居間に集まったみんなの前には雛乃姉さんが自分で作ったという
抽選箱を掲げて立っている。
「では皆の者、これから大掃除の担当決めくじ引きを執り行うぞ。
ではまずかなめからだ」
 要芽姉さん、瀬芦里姉さんが抽選箱から紙を引く
「あら、私は台所ね。フフ、空也と巴が普段から掃除してるから楽ね」
「えー!私庭掃除やだよー。もっとコタツの中とか、暖かいところがいいにゃー」
「馬鹿を申すな!ほれ、次はともえだぞ」
 雛乃姉さんが抽選箱を私の前に差し出した。
 抽選箱に手を突っ込み、ごそごそとかき混ぜてから指先に当たった紙を引く。
 引いた紙に書かれていたのは・・・・・・
「ともねえはどこの担当?」
「わっ、私は仏間だって」
「そうか、ともえよ、母上の事、よろしく頼むぞ」
 仏間にはお母さんの遺影が飾ってある。雛乃姉さんはその事を言ってるんだろう。
「うん。任せておいて」
 空也や妹達も引き終えたらしく、再び雛乃姉さんがみんなの前に出てきた。
「それでは各々、担当の場所に散らばるのだ。我はここで監督をするから、
困った事が有ったらいつでも頼るがよいぞ。では、散れ!」
 号令とともに、皆が散らばっていく。私も仏間に行かなきゃな。

 襖を開けると、仏間の中の線香の匂いが私の鼻を衝いた。
 お母さんが亡くなったのが私が小学校の頃。
 当時は私、寂しくて高嶺と二人でこの仏間にいつづけてたことがある。
 だから今でも線香の匂いを嗅ぐと少し寂しい気持ちになる。


「さて、と。お掃除頑張ろう」
 自分自身にえいえいおーと気合を入れてから、まずはお母さんの遺影を
布巾で丁寧に拭く。
 外の廊下では担当の空也が雑巾がけをしている音が聞こえる。
「こうやって見ると、要芽姉さんはお母さんに似てきたな。
お父さんが姉さんにべ、べったりなのも分かる気がする」
 少しだけ要姉さんに甘える自分の姿を想像すると、顔が赤くなるのがわかった。
 遺影を拭いた後、部屋の窓を開けて窓際に遺影を置く。こうしておくと何だか
お母さんが見てくれてるみたいでなんか嬉しい。
 実際、仏間も定期的に掃除しているから、普段とあまり掃除の仕方も・・・・・・
そうだ。押入れの中も掃除しよう。大掃除だしね。
 押入れの中の物を取り出して床に並べ、ハタキをかける。
 パタパタとやってるうちに目に入ったのが
「うわぁ。アルバムだ」
 一度開いて中を見てしまったら掃除が遅れると思いながらも、ついつい開いてしまう。
「あは、懐かしいな。これ」
 写真は空也がウチに来た当事のもので、皆で近くの海に遊びに行った時のだ。
 水着に麦藁帽子をかぶった私と、手を繋いだ空也が写っている。
「あれー?ともねえ何やってるの?」
 声に振り返ると、空也が廊下から仏間に顔だけ覗かしている。
「アルバムが見つかって、つ、ついつい見ちゃってたんだ」
「へぇー。アルバムなんかずいぶん見てないからね。あれ、写ってるの俺?」
 空也が仏間に入って来て私の後ろからアルバムを覗き込む。
「うん、そうだよ。これは空也がウチに来たばかりの頃の写真だよ」
「ふーん、ともねえ、この頃は特別背が大きいわけじゃなかったんだね」
「あぅ・・・・・・当たり前じゃないか」
「く〜や〜!新しい水バケツに汲んできたよ〜」
 廊下から海の声が聞こえる、と思って振り返ると、
今度は海が仏間に顔を覗かせている。


「二人とも、何してるの〜?あっ、アルバムだ〜」
 海も空也の隣からアルバムを覗き始めた。
「今のくーやはかっこいいけど、この頃のくーやはかわいかったよね〜。
お姉ちゃん、どっちのくーやにしたらいいか迷っちゃうよ〜」
「いや、お姉ちゃん、意味わかんないよそれ」
「ちょっと海!アンタ人に掃除押し付けておいて自分は何してんのよ!」
 今度は高嶺がやってきて、アルバムを目に留めると
「あら、懐かしいもの見てるじゃないの。アタシも混ぜなさいよ」
と言って輪に入ってきた。
 そうこうしている内に、姉さん達もいつの間にか仏間にやってきて、
皆でアルバムを囲んで談笑していた。
「ほらっ、これ見て見て!私とモエが学年対抗リレーでお互いアンカーやった時の
写真!アレは結局私の勝ちだったんだよねー、モエ」
「あはは、瀬芦里姉さんには勝てないよ」
「おお、我の写真もあるぞ。これを撮った時は調子が良かったのだろうなぁ。
我は今でも美しいが、小さい頃から花の妖精のようにかわいらしかったのだな」
「ホラこれを御覧なさい。私が習字で県の金賞を取った時の写真よ」
 皆で集まって一つのアルバムを見て思い出話をする。
 何だかこう言うのもたまにはいいなぁ。
 ふと窓際を見ると、お母さんの遺影が薄らと微笑んでいるように見えた。
「これ、イカが沖縄行く前の日に撮った写真じゃない?」
「あー、多分そうだ。海お姉ちゃん、写真の中で俺にべったりだね」
「当たり前だよ〜。だって愛しのくーやと会えなくなる前の日の写真だよ。
私は今でもこの日の悲しみを忘れないよ〜」
 その写真をよく見ると、皆どことなくしょんぼりとした顔で写っている。
 写真の中の私も、空也も、悲しげな顔でこっちを見ている。
「おっ、これ要芽姉の中学校時の写真じゃない?」
「そうね。生徒会の委員長をやっていた時の写真だわ」
「あは、私と犬のマルが写ってるよ。かわいい犬だったね」
「おおっ!タカのピアノの発表会だ。これ小学校の時の写真だっけ?」
「高校よ!悪かったわね。幼く見えて」


「これは!モエの高校卒業記念で川原でやったバーベキューの写真だ。
なんかモエが川に落ちたよね?この時」
「あぅ、アレは瀬芦里姉さんが突き落としたんだよ」
「そうだっけ?ごめんごめん、アハハハハ!」
 アルバムのページをめくりながら皆で思い出にふけっていると、
空也が、気のせいかもしれないけど、寂しそうに笑ってる。
 どうしたのかな?と思っていると、不意に空也が立ち上がって仏間を出て行った。
 空也があんな表情を見せたのは、写真が空也が柊の家を出ていった後の
時期に撮られたものに移ってからだ。
 もしかすると空也、自分がいなかった時間の事を私達が楽しそうに話してるから、
寂しくなっちゃったのかもしれないな。
 ちょっとだけ心配になって、空也に続いて私も廊下に出る。
「くっ、空也」
 仏間から少し離れたところで空也を呼び止める。
「何?どうしたのともねえ?」
「あの・・・・・・その・・・・・・ごっ、ごめんな」
「えっ?」
「私がアルバムなんかみっ、見始めたから、空也に寂しい思いさ、させちゃって」
「・・・・・・何のこと?」
 空也は私の言っていることがよくわからないという風だ。
「えっ?くっ、空也は、私達が空也が柊家にいない時の思い出を、
たっ、楽しそうに話してるから、寂して居たたまれなくなって仏間を出たのかな?
って思ったんだけど・・・・・・」
 私が言い切ると、空也はフフフと軽く笑って
「なんだ、違うよ。俺はトイレに行こうかと思って仏間を出たんだよ」
「あぅ・・・・・・ごめん。いっ、今のは忘れて」
 勘違いしたと気がついて、耳まで真っ赤になるのが感覚で分かる。
「でも、言われて見れば確かに少し寂しいって感じてたかもしれない。
ありがとうね。ともねえ。心配してくれて。俺、トイレ行ってくるから先に戻っててよ」
「うん」
 トイレに向かう空也を見送って、私は自分の部屋に寄ってから仏間に戻った。


 仏間ではまだ姉さん達や妹達がアルバムを囲んで話していた。
 私が戻ったことに雛乃姉さんが気がついたらしく、
「おお!そういえば我等はまだ大掃除の途中だったな。各々、担当の場所にもどれ!」
「ひっ、雛乃姉さん、ちょっといいかな」
「なんだともえよ?」
「空也も、すぐここに戻ってくるから、そしたら・・・・・・」
 
 少しすると、空也が仏間に戻ってきた。それを待ちかねたかのように瀬芦里姉さんが
「クーヤ遅いよ!ほら早くここに入って!」
「えっ、何が?何でそんな皆並んでるの?」
「写真を撮るに決まってるじゃない。見ればわかるでしょ。ホントグズね」
「何で今写真なんか・・・・・・?」
「わっ、私が言い出したんだ。皆で写真とろうって」
「何でもいいから空也、早くここへいらっしゃいな」
「うん、わかったよ」
 空也もカメラの前に並んだ。並び方は空也出発前日の写真と同じ並び方。
 カメラをセットして、私もならびに入る。
「と、撮るよー。はい、チーズ・・・・・・」
 ・・・

「親父殿、あけましておめでとうございます」
「うむ、雛乃は今年も元気でやれそうだな」
 お正月になって帰ってきたお父さんに、一人ひとり順番に新年の挨拶。
 要芽姉さん、瀬芦里姉さんの番も終わって、次は私だ。
「お父さん、あけましておめでとう」
「うん、めでたいな!巴よ、今年こそいい男捕まえてこないと、そろそろパパ心配だぞ!」
「あは、あはははは」
 思わず苦笑いが出る。
「まぁ、巴はやさしいからな、心配はないがお前のお姉ちゃんや妹達は・・・・・・」
 一瞬、部屋の温度が下がったような気がして、お父さんが慌てて口をつぐんだ。
 去年末に仏間で撮った写真は、あのアルバムの、空也出発前日の写真の隣に入れてある。
 写真の中で、私も空也も、皆笑顔だ。 


(作者・SSD氏[2006/12/31])

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