街路樹の葉も落ちきった十二月。
姉貴が急に「焼き芋が食べたくなったわ。アンタ、買って来なさいよ」と言いだして、
わざわざ駅前の焼き芋屋の屋台まで買いに行くハメになった。
他のお姉ちゃん達の分も買ったので、いま抱えてる紙袋の中には芋が大量に入っている。
寒空の下の帰り道、紙袋と長袖を通して肌に伝わる芋の熱がなんとも心地よい。
家の前まで差し掛かると、ともねえが玄関の前できょろきょろしている。
「どうしたの?ともねえ。何か探してるの?」
「あっ、空也。そっ、それがね、携帯が見つからないんだ」
言いながらも不安そうに辺りを見回すともねえ。
「家の中は?」
「なかったよ。姉さん達や妹達にも聞いたけど、し、知らないって・・・・・・。
要芽姉さんに電話してもらったんだけど、家の中で着信音が聞こえないから、
どこかで落としたのかなって」
「いつ無くしたのに気が付いたの?」
「つ、ついさっき」
「最後に確認したのは?」
「午前中に買い物行く前に……」
「買い物行ったあとは?」
「家でお昼作って、ぽっ、歩笑ちゃんちに遊びにいって、編集の人が来るからっておいとまして、
それから庭のそっ、掃除してて、気が付いたんだ」
「そうだな・・・・・・」
ここで俺は難しそうな顔をして顎に手を当てて推理を始めた。
ポク・・・ポク・・・ポク・・・ポク・・・ポク・・・ポク・・・ポク・・・ポク・・・
チーン!
「何も思い浮かばないや」
「あう・・・・・・」
「ごめんね。俺アホだから」
しょんぼりしているともねえに謝る。
「取りあえず、ねーたんは今仕事してるだろうから後回しにして、
今日行ったところを辿るしかないんじゃない?」
「や、やっぱりそうかな?」
「そうだよ。もう後一時間もしたら日も沈むし、俺も手伝うからさ。
それに家の中でも一度探した所から、ふと見つかるかもしれないし」
「うん、ありがとう」
「あっ、イカ!遅いと思ったらこんなところで何やってるのよ!芋はどうしたのよ!?」
俺の帰宅を待ちきれなかった姉貴が玄関先まで出てきた。
「おっ、姉貴ちょうどいいところに」
さっと姉貴の後ろに回ってツインテールをつかむ。
「何やってんのよアンタ。返答の次第によっちゃ殺すわよ」
「ダウンジング……」
メメタァ!
「あう!空也!」
・・・
「それでは詩子先生、今日は失礼します」
「はい、じゃあ、またよろしくおねがいします」
担当の人が帰って行って、自分の机の上を見る。
昼間、巴さんが忘れていった携帯・・・・・・。
それを横目に見ながら、いつも密かにつけている日記のファイルを開く。
----歩笑日記.txt----------------------------------------------------------------
今日、巴さんが昼間遊びに来てくたけど、編集の人が来るのですぐ帰ってしまった。
巴さんが帰った後、巴さんが携帯を忘れていったのを見つけた。
担当さんが来るまで時間があったからすぐに教えてあげればよかったんだけど、
ついつい着信履歴とかチェックしちゃった。
携帯をこっそりチェックしちゃうなんて、なんか巴さんの彼女になったみたい・・・・・・。
チェックしてる途中要芽さんから電話かかって来てびっくりしたけど、もっとびっくりしたのは
巴さんのアドレス帳に柊家の全員と姉さんと私の番号しか入ってなかった事。
くす・・・・・・でもこれで巴さんが他の人に取られる心配もないよね。
携帯は明日にでも巴さんの所に遊びに行って、こっそり返してこよう。
携帯チェックしたのは、勿論私だけの秘密。
(作者・SSD氏[2006/12/06])