夜深い、縁側に座る女と膝枕される男一人。

「もう夏も終わりね」
降りしきる雨の中姉様が呟いた。右手でうちわを仰ぎながら左で俺の頭をなでている。
「もう何度目かしら」
「いや、まだ一回目ですけど」
「そうね、今年は忙しすぎて楽しかったわ」
頬に微笑を浮かべる。ご満悦のご様子だ。
「春はあけぼの、夏は夜、秋は夕暮れ」
「春はくーや、夏もくーや、秋もくーや、冬もくーや」
ちょっと疎ましい表情で姉様が後ろを振り返る。
「ちょっと、よしなさい。海」
やさしい口調で諭した。お姉ちゃんが隣に座る。
「く〜や〜」
「お姉ちゃ〜ん」
ガシッ
なぜだろう身体が勝手に反応してしまう。思いっきりお尻をつねられているのに。
「まったく、しょうがないわね」
「だって私は生まれたときから空也と二つで一つだし〜」
「そんなこと言ってるんじゃないわ、常識の問題よ」
「あ〜、要芽おねえちゃん、ジェラシズム〜」
姉様の強気に対してお姉ちゃんはまったく引こうともしなかった。
「そんなことないわ。あくまで空也はみんなのものよ」
姉様があくまで平和的に所有権を主張した。いや、俺はものと違うんですけど。
「じゃあ、私の部屋で添い寝してもらっていい?」
「可能ならばどうぞ」
「しぼむ〜」
さすが姉様、お姉ちゃんのアタックにも毅然としている。


しばらくしないうちに姉貴とともねえが居間に集合していた。
「ところで瀬芦里はどうしたの?」
「さっきキャラメルコーンのピーナッツが歯に挟まったとか言って、
台所に来たけど、そういえば見ないな。……心配だな」
「心配なんかする必要ないわよ。巴姉さん。しかも下品な話ね。ドラ猫らしいわ」
「でもさっき高嶺お姉ちゃんのケーキの箱ゴミ箱に捨ててあったよ」
「あんの、ドラ猫! こんど会うときはただじゃおかないわ!」
実はそのケーキは俺とお姉ちゃんでいただきました。おいしかったです。
「あれはこうして、これはああして……」
雑誌を読みながら目が怪しく光っている。ああ、何でこの人は頭の良さをこんな不実な
ことに使うんだよう。脳みそが入る器を間違えたよね。
「なあ、高嶺。明日ぽえむちゃんと買い物行くんだけど、いっしょにいく?」
「いいわ、遠慮しとくわ。二人でどうぞ」
「あう……。そんなこといわずに」
「アタシと行っても面白くないわよ。アタシも忙しいの」
「ご、ごめん。また今度行こうな、高嶺」
「ふん!」
姉貴は面白くなさそうに雑誌のページをめくった。
「ねえ、お姉ちゃん。姉貴がものすごく強がってるよ」
「そうだね〜。これだからツインは」
「そこ 別に髪型関係ないだろ!」
「ふん! ほんと素直じゃないんだから」
お姉ちゃんが姉貴の声をまねした。
「なに! アタシの声で勝手なこと言ってんのよ!」
「やっぱり高嶺。明日一緒に行こう」
ともねえが姉貴の手を握り締めた。


「いーかーなーい。断じて行かないわよ。アタシは」
「ともねえ。姉貴を無理やり連れてった方がいいかも」
「なに入れ知恵してんのよ、イカ! アンタなんか巨大蟻地獄に食われればいいのよ!」
「悪質な荒らしのため焼きそばチェッカーズは本日を持って終了しました」
「なに、さっきからアタシの声で妙に核心突く発言してんのよ、海!」
「不器用な末っ子の愛情表現として寛大に受け取ってほしいなー」
「末っ子関係ないし! しかもどこに愛情があるのよ!どこに!」
「ここーだよ!ここ」
お姉ちゃんはその場で自分の胸をもみ始めた。もちろん姉貴の神経さかなでられた。
「ああ、もうくぇrtふぁsdf! そこのサイズは関係ないだろ!!」
「そこってどこ? 私はサイズじゃなくて場所のことを言ってるんだよー」
姉貴は自分の髪を掻きむしりながら、泥沼にはまっていく。
「アタシの血のにじむような努力もお前は知らんのかい!」
「ごめんねー。別に巴お姉ちゃんと私で取りすぎちゃったよー」
「なんでアンタがそこであやまんのよー! アタシが惨めじゃないのよー!」
ちょっと姉貴はムキになりかけていた。そろそろお姉ちゃんも引くはず。
「だいたいあのぽえむって餓鬼にむかついてんのに! あんなやつっ!」

その発言に、あたりが静まり返った。だれもそこに火種が飛び火することは思っていなかった。
「ちょっと待って、高嶺。高嶺はぽえむちゃんが嫌いなの?」
ともねえは部屋から出張してきたぬいぐるみを抱きしめた。ちょっと涙目だ。
「いや、それはその、」
「もしかして」
「アタシはまだなんもしてないわよ」
姉貴はただ気まずそうに目を落とし、黙ってしまった。珍しく動揺している。
「ぽえむちゃんはいい子だよ」


「アタシは……上に膜の張ったコーンポタージュを飲んでる感じだわ」
「高嶺、それ答えになってないよ」
「アタシも、無理に伝わればラッキーとは思ったけどね」

二人とも一度困ると黙ってしまう人だから、長く沈黙は続いた。
それから二人別々に部屋に戻ってしまった。いつのまにか海おねえちゃんもいない。

「心配しなくても大丈夫よ」
「でも」
「いいの。あれがあの二人のペースだから」
「お隣も迷惑かと」
「二人は、私たちが思ってる以上の固い絆でつながっているわ、ただ口には出さないけど」
姉様は静かな声で懐かしそうな顔をした。思わず俺の胸が震えてしまった。
「このまま仲が悪くならないかな?」
「ありえないわ。しばらくはぎくしゃくするけど必ず今までよりも仲良くなるわ、きっと」
「いままでより」
「そう、もうとっくに二人の気持ちに整理はついてるわ。でも口に出すのが下手なのよ。特に高嶺はね」
「姉貴が?」


姉様はこくりとうなずいて俺を抱き寄せた。かすかに桔梗の花の香りがした。
「高嶺は、昔からよくしゃべる子だったわ。でもいつも本音が言えなくて困ってたわね」
「姉様にも?」
「ええ、悪い言い方だけど私に対して憧れ以外の感情も持ち合わせていたと思うわ。
私もいつも不憫な思いをさせてるんじゃないかと不安だった」
「そういえば姉貴って姉様と同じ学校だっけ?」
「そうよ、くらべられるってことは周りが思っている以上に本人にとってプレッシャーなのよ。
だからいままで何度もつらいことがあったはずだわ」
「なんかそう思うと、姉貴ってたくましいね」
「くすっ、そうね。あなたみたいにとっても素直でがんばりやさんなのよ」
でももうちょっと普段の態度を改めてほしいな。不器用なのにいじめすぎだ。

「糸は一度切れたら、元には戻れないけど、絆は切れても長い時間と気持ちをかければ、今まで以上に強いものになるわ」
「しばらく様子見ってことで」
「ええ、心配ないわ、今までもうまくやってきたし、柊にとって必要な二人なのよ」
「誰か一人欠けたらいやだもんね」
「そう、だから私はあなたを離しはしないわ」
なんか最後は熱烈なラブコールだった。
「結局そこ?」
「だめ?」
二人で腰に腕をかけて軽くキスをした。


(作者・名無しさん[2006/09/30])

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