最近ねぇやは仕事が詰まっているらしく、疲れていた。部屋においてある予定表も黒く塗りつぶされてオフの日がほとんどない状態だった。
どんなに疲れてる?って言葉をかけても、大丈夫、ぜんぜん平気よとしか答えが返って来ない。
だからきっかけがほしくて、相談なら何でも話してもらいたくて、ねぇやを夜の海に連れ出した。

「夜の海ってなんか怖〜い」
ねぇやがしっかり俺に腕にいがみついてくる。まあ、お互い密着を楽しんでるのは置いといて。
「夜だから何も見えないね」
「そうね、もしかしたらそのへんでアベックがいちゃついてるかも」
「あんたは、もう!」
いや、まてよ、それはそれで面白いのでは、今は何にも見えないけどずっと見続ければ段々見えてきて。
神経が視覚に集中する。草むらの中はまだ見えない。しかし変な感じだ、違和感がある。草むらではなく、もっと身近で。
視線を下に落とす。ねぇやの手が円を描くように俺の股間を撫でていた。
「あんたは、なんばしよっとね!!」
「いるかもしれないわよ、こ.こ.ni!」
俺はあわててねぇやの手を振り解いた。ここでそんなことやられたらこっちの理性が持たない。
「もう、誰も見てやしないわよー」
「カメラで撮られたらどうすんだよ」
「私は公認でもいいわよん」
いや、そういう問題じゃないし。それはそれで俺は柊の方でどんな仕打ちをうけるか、たまったもんじゃない。
「ちょっと、まってよぅー。空也ちゃん」
「やだよー。ねぇやが変ないたずらするからー」
「もーしないー」


ぜってい嘘。しかも半分起ってたなんて口が裂けてもいえないし。
「みーみー」
かまってよ光線出してもだめ。こんなとこで馬鹿やってる場合じゃないし、俺はねぇやと距離をとって歩こうとした。
「えい☆」
突然視界がブラックアウトした。顔のところに固い感触がある。血が口の中ににじんでいる。どうやら俺は前のめりに倒れたらしい。
「あら、これしきのことで倒れちゃうなんて情けないわよ、空也ちゃん」
「なにがあったの?」
自分としてもあまりにも理解しがたい状況だった。
「私がさびしいから、おんぶしてもらおうと思って空也ちゃんに飛び乗ったの」
そりゃ無理だよ、ねぇや。だってねぇやはけっこう重いから、いや、発言は控えておく。俺はその場で勢いよく起き上がった。
「きゃ!」
「おんぶなら先に言うでしょ。おんぶじゃなくてボンレスだよ今の!」
「ボンレス?……ボボボボ、ボンレス?、プロレスならまだしもボンレス?、ひっどーい」
「いや! それは、その」
うつぶせの俺の顔のすぐ横にねぇやの二の足があって、頭に浮かんだ単語が出てしまった。しかもすぐ頭上でものすごい殺気を感じる。
俺は一目散に逃げ出した。
「もう、ゆるせない。姉に対する不敬罪よーー! 極刑よー」
「こんなんで不敬罪ならこっちの身が持たないよー」
「まちなさーい!」
「やーだよーだ!」
それから二人は海まで全速力で駆けていった。


「はぁ、はぁ、……」
二人とも久しぶりに走ったので、わき腹とかの激痛でしばらく砂浜にのたうちまわっていた。
「なかなかやるわね、空也ちゃん」
「ねぇやこそ」
もう目の前が海というところまできていて、逃げる場所なんてなかったが、同時に二人も走る気力を失っていた。
「最近のねぇや、素直じゃなさすぎ!」
「なによ、それー!」
「疲れてても、だいじょうぶとか無理してるし」
「無理してなーい」
「そばで見てればわかるんだぞ」
「空也ちゃんがいるから大丈夫よー!」
「それはやせ我慢だー」
「私はふとってなーい!」
「ちがーう!」
俺は起き上がって、ねぇやの方を向いた。
「家族として、あんなに働いてるのに夜中までネットゲームやったり、お菓子食べまくってるのは心配だよ」
「アー、アー、キコエナーィ」
「遅くまで電気つけてて、眠れないし」
「誰が! ネトゲ廃人よー」
「聞こえてんじゃん!」
「じゃあ、 何。私に小学生みたいに早寝早起きを推奨しようってわけ?」
「うん」(あっさり)
「ひっどーい。夜行性の私がそんなことできるわけないでしょー!」
「させる」
「ムーリー」
「最優先事項です」
「えー」


ねぇやはいじけて人差し指でつんつんし始めた。でも俺はこれ以上この人の夜更かしに付き合うことはできない。
そうすればこの人の生活自体が壊れていくかもしれないから。
「私だって、やらなきゃいけないことぐらいわかってるわよ、でも、家族としての空也ちゃんじゃやなのー」
なに?ってことは今ここでムード作れと。かなり無理ディスヨ、ソリェアァラ!
とりあえずぎこちない腕で、後ろからねぇやのことを強く抱きしめた。
二人黙ってしまった。下からの暖かい砂の温度をすごく感じた。やさしい潮騒の音も鳴っている。
失敗だったかな。正直思った。でも今は何も見えない暗闇の中で抱きしめるしかなかった。
「私ね、空也ちゃんがいなくて沖縄でずっとさびしかったのよ」
「うん」
「他人に空也ちゃんどうしたのって言われるたびについていけばよかったって思ったわ」
「うん」
「それから空也ちゃんには柊のお家があって幸せなのかなって思おうとしたの。でもそんな青写真を描くたびに胸が辛くて張り裂けそうになったわ。
ぽえむちゃんも同じだった見たい。やっぱ私たち姉妹ね。正直沖縄とここは近いようでものすごく遠かったわ。地球儀だとあんなだったのに。
でも私は空也ちゃんに会いたいってずっと思ってた。会ってまた暮らしたいって願ってたわ。私たちは誰がなんと言おうと家族だから」
「うん」
「一緒の家に住んでるだけじゃ、家族じゃないのよ。家族だから必ずしも仲がいいってわけでもないし」
「大丈夫、仲のよさならどこの血のつながった家族にも負けないよ」
「そうよ。私は空也ちゃんのことが大好きよ」
「俺だってねぇやのことが大好きだよ」
「でも夜早く寝ろとか言われるの、やー」
「それはそれ、これはこれ」
「朝早く起きろといわれるのもやー」
「じゃあ、朝魚の骨抜いてあげないよ」
「じゃあ、毎晩もっと愛してくれる?」
「いいよ」


なんか俺、今ものすごい約束しなかったか?ねぇやの前に俺が干からびて死んだりするかも。
「そういえば、なんかこの体勢姉としては結構不満なのよね」
「でも、まだこうしていようよ」
「そうね、たまにはこんなのも悪くはないわね」
しばらく江ノ島の薄いシルエットを眺めていた。
「ねえ、空也ちゃん。さっきは悪かったわ」
「なに?急に」
「だから帰りは疲れたからおんぶして!」
「わかったよ。しょうがないなぁ」
結局最後にやせ我慢をするのは俺のほうだった。体持つかな?

おんぶというのは後半戦がものを言うらしい。前半はうまくいくからといって調子に乗ってはいけない。
後半になるにつれて、
「一キロ一キロ、一歩一歩疲れが体をむしばぶっ!」
「こら! 思ってることが口に出てるわよ。空也ちゃん、男の子でしょ!」
おぶる男にも体重が重い場合拒否する権利があると思うけど。
「やっぱこの体勢なのよね。姉と弟は! ずっと抱きしめててあげるわ!、もう離さないわよ☆」
いきなり恥ずかしい台詞を言われて、不覚にも赤面してしまった。
急いでうつむいて、街灯に照らされたコンクリートのタイルを数えながら家に帰った。


その夜、俺は制服姿のねぇやに夜這いされた。
どうやらねぇやは俺の言ったことをまったくもって理解してなかった。
てか同じベッドに寝てるのに夜這いってなんだよー!!


(作者・ちくわ氏[2006/09/25])

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