私は台所で麦茶を飲んでいる。二時間も外で作業していたから麦茶がとてもおいしかった。
汗を拭いていると瀬芦里姉さんが入ってきた。
「おはよー。モエ」
「おはよう」
時計はもう11時を回っていた。朝ご飯を食べて昼寝をしていたらしい。
ステンレスの部分に両手をついて大きなあくびをした。
「いま面白い夢みたよ」
「なにが?」
瀬芦里姉さんの言うことはいつもとっさだった。時々振り回されたりもするけど、
ちゃんと周りに気を使ってるのであまり悪い気はしない。でもなんだか悪い予感がした。
「あー。なんかビミョーって顔してる。どうしよっかな。話すのやめようかな」
「そんなことない。そんなことない」
「っていうかモエの夢なんだけどさ」
「え」
予感というのは悪いときって的中するんだ。
「どうする?聞く?」
「う、うん」
「怒らないって約束できる?」
「う〜ん。うん」
私が怒ったところでどうにもならない気がするんだけど。それでも私は首を縦に振った。
「ある日、モエとクーヤが恋仲になるわけ」
「エ、でも」
「なに、まあ例え話だからさ」
私と空也が恋仲なんて。姉弟なのに。考え始めると、なんだか頭の中がだんだん熱くなってきた。
「大丈夫、リアルにそうなったら私が応援して最後に寝取るから」
「あう……応援しなくていいから。あとねとるってなに?」
「ああ、まあいいや。話続けるよ」
「うん」


さっきから空也のイメージが頭から離れなかった。
「それで2人してなんか朝からラブラブなわけよ」
「うん」
「モエがクーヤに女の子の格好とかさせてて、それが結構いたたまれなくてさ」
「うん」
「一緒にお風呂入ったり、一緒の布団で寝たり、家の中でも手をつないでるからなんか
見えない鎖でつながれてる感じだったね」
「うん」
「モエ 私の話聞いてる?」
「うん」
「にゃ」
ビシ!
「いた、いたたた」
いきなりデコピンが飛んできた。久しぶりに食らったけど、さすがに痛かった。右手でおでこを
さすりながら、左手を立ててごめんの合図をした。
「姉さんの話についていくのがやっとだったんだよ」
「あ、そう。じゃ許す」
いつまでも自分勝手な人だった。うぅ、まだ痛い。


「モエはさあ、空也を独り占めしたいと思ったことないの?」
「ないよ。空也は大事な家族だから」
「そうか〜。でもモエはいつもクーヤといっしょだもんね」
「でも、好きとかそんなのはないよ。かわいいとは思うけど」
「私はかわいいからいつでもそばにおいておきたいかな。モエなんか飲み物ない?」
「冷蔵庫にアイスティーあるよ」


姉さんがいきなりラッパ飲みし始めた。
「ちょ、ちょっと姉さん。それはみんなで飲むものだから」
「あ、ごめん。でもあと2杯分しかないからクーヤと飲むね」
この人は多分わざとやってるんじゃないかな。
「モエ、グラス、グラス」
「あ、うん」
「氷二個ずつね」
「うん。あとこれ」
私は流しのざるを指差した。そこにはみずみずしいミントがたっぷり盛られていた。
「おお、これはひなのん公認の柊印のミントだね」
「うん。要芽姉さんが苗をたくさん買ってきたから」
「よく育ったもんだね〜」
「でも、繁殖しすぎて量もとれたからそろそろ畑を小さくしようか思うんだ。ほかの植物の養分を取っちゃうから」
「へ〜。かわいい顔してあくどいことするんだね」
「え」
「なに?」
「いや、なんでもない」
私が困った顔をしていると姉さんがニヤニヤしながらこっちを見ている。胸のあたりに視線を感じたのは気のせいかな。
「じゃあ、居間行くね」
「あ、ちょっと待って」
急いで用意したミルクとガムシロップをお盆の上においた。
「サンキューモエ。寂しくなったら来なよ」
「ありがとう、姉さん」
姉さんは大股で歩いていった。いつでも胸を張る姉さんが頼もしくうらやましく思えた。


空也
俺は洗濯物を干して、居間でごろごろしている。暑いとはいってもエアコンのある部屋は最高だった。
「おお、涼しくて最高だね〜」
顔を上げるとねぇねぇがお盆を持って入ってきた。
「はい、ミントティー」
「ありがとう〜ございます」
「お、殊勝な返事だね。飲んでよし」
お盆の上にはミルクとガムシロップがあった。しかし俺はあえて入れなかった。
「ふ、ガムシロップなんて豚がなめるものさ」
「ほ〜 強がってる強がってる」
「大丈夫だって」
ストローで口に含む。いや、何てことない。ねぇねぇがじっと俺のことを見ている。
左手にガムシロップを握っていて身構える。
「だめだ。苦い、苦すぎる!」
「ふふ、さいしょっから無理しなきゃいいのに」
「いけると思ったんだけどな」
ねぇねぇが俺のグラスにミルクとガムシロップをいれてくれる。この人はこういうところはよく気が回る人なのだ。俺が味見するとなかなかいい味になった。
しかし俺の男らしさが10下がった。
「クーヤってさ、男らしさ見た目からしてマイナスだよね〜」
「ひどいよ〜、そんなことないって」
「家事できるし、料理するし、度胸ないし、やさしいけどエロいし」
「ほめてんの?けなしてんの?」
「わかんない」
わかんないって、なんかはぐらかされた感じがする。男らしさの基準って微妙すぎてわかんねぇ。
「男らしさって最高値いくつなの?」
「255」
「げ それじゃ俺お婿にいけないじゃん」
「へーきへーき、 わたしがもらってあげるから」
「まじ?」
「マジ」


ねぇねぇおとこらすぃ」
「にゃ!」
ビシッ
「痛っ」
「女の子にそれ言うな。空気読め」
「ごめん」
そうかこれが男らしさというものか。なぜか自分の中で納得してしまった。
「まあ、要芽姉の前では6.4くらいにはなるんじゃないの」
「なんで」
「しらない」
「俺って姉様の前だとがんばってる?」
「空回りしてるともいうけど」
「やっぱりそうか」
この前花火に誘ったけど断られたしな。やはり不釣合いなのか。
「ここに頼りがいのある姉が一人いるけど、どう?」
「前向きに検討します」
「今ここで締め落とされたいと」
「いえ、めっそうもない」
ねぇねぇが指をぽきぽき鳴らしている。背中から変な汗が出てくる。
「じゃあ、すぐこっちに来なよ。かわいがってあげるから」
「え」
いけるわけないじゃん。ほんとに締め落とされるかもしれんし。
いきなりねぇねぇの腕が襟首、いや首に伸びてきた。そしてねぇねぇの太ももに顔をたたき伏せられた。
「ぶっ」
「どう? 気持ちいいでしょ」


結構筋肉質かと思いきや、やわらかくて心地よかった。
膝枕は普段ねーたんと海お姉ちゃんしかしてもらえないからな。……ていうか俺息してないかもよ。。
「むむしい(苦しい)、むむしいよ、ねーねー」 
「反省した?」
「むん」
「じゃあ、許してあげる」
「ぷは」
ああ、窒息死はねぇやのヒッププレスだけでいいよ。苦しかった。シャバの空気はうまいぜ。
「うわ、なんか今の笑顔えげつない」
「ひどい!」
こんな感じでいつものようにねぇねぇにもてあそばれていた。    



瀬芦里
さっきまであんなにはしゃいでたのに、かわいい寝顔で寝ちゃってさ。
ひざをすこし持ち上げて、クーヤのほほにキスをした。二度、三度……

まったりとしているとモエが部屋にはいってきた。
なぜか私たちを見て、にこにこしながらどこかへ行ってしまった。
モエってどこかわからない。


このまま黙って寝ててくれないかな。そうすればクーヤを独り占めできるのに。
かっこいい要芽姉にあこがれず、やさしいモエと距離を置いて、過保護のうみゃに冷たいクーヤをひそかに望んでいて、私だけを見てくれることを願ってる。
なんかいやな女だね……
「しってる?クーヤ。修行に行く前、帰ってきたとき沖縄の方言で私を呼んでねって言ったのは、
クーヤが沖縄の生活になじんでも私のこと絶対忘れて欲しくなかったからだよ。……私たちが離れていてもずっと一緒だと想ってたんだよ」
私はみんなと違った。私はやっぱり一人だった。でもクーヤも一人だった。
一人と一人が合わさって二人になる。小さいころはすごく簡単なことだと思ってた。
でもまた一人になってようやく気づいた。それはとても難しいことだって。
「私をまた一人にしないで……クーヤ」
私は気がついたら、両手で顔を覆いながら泣いていた。涙があふれて止まらなかった。
何回も嗚咽ししながら、クーヤのゆがんだ寝顔を目に焼き付ける。
「もし……クーヤが要芽姉やモエに振り向いたら私壊れちゃうよ。……そして空也も一緒に壊すとおもう。私……恐い」
グラスの中のミントを口に含み噛み砕く。両手が少し震えていた。
「からい…痛い…ぜんぜんすっきりしないよ……うん……全部私のせい、だ、ね」
最後のほうは涙が出そうになって声にならなかった。

空也
ねぇねぇの独白を黙って聞きながら、腕を目の上に押し当ててこみ上げるものを耐えていた。
確かにいままで孤独感にさいなまれることは何度もあった。でもそんなときはいつも俺の周りにおねえちゃんたちがいた。
寂しいときも、悲しいときも、いつも慰めてもらってた。それは俺にとって怖いくらい幸せなことだった。
もともと捨て子同然だった俺が柊に引き取られてた。それはたんに運がよかっただけなのかも。

「ねぇねぇ……好きだ」
「どうしたの? 急に」
「なんか言いたくなった」
「……うん」
「うれしくないの?」


「そういうことはあまりほかのひとに言わないほうがいいよ」
「だからねぇねぇしか言わないって」
「私それ本気にしちゃうよ」
「一度踏み込んだら戻れないのはわかってる」
「それって、覚悟?」
不安そうな表情を浮かべながら、腰の辺りをぐっとつかんで抱き寄せられた。
「いままでねぇねぇに助けられた分、これから俺が幸せにする」
「やめときな」
「なんで!」
「私は難しいよ。ある程度愛を注いでもらえば満足するけど、ある日突然壊れ始める。男が一番敬遠するような女だよ。
みんなが好きだから、みんなで一緒になろうなんて理屈私には通用しないからね……それが世界で一番好きな人ならなおさらだよ」
ねぇねぇは俺のほほをさすりながらこれ以上距離を縮めようとはしない。
「ずっと俺の隣にいてほしいんだ。ねぇねぇが俺の中で一番だから」
「……」
「ねぇねぇ」
「ありがとう」
両手でほほをつかんで唇を寄せてきた。今までで一番濃厚なキスだった。ほほにつきささる爪がなんとも痛がゆい。
「てかさ、弟にマジで告られるとおもってなかったよ。いつから恋のスナイパーになったのさ」
「わかんない、あんまり考えてしゃべってなかった」
「クーヤらしいね。 これって朝、目が覚めたらなかったことになるとかそういうのないよね」
「ない」


これが夢落ちで終わってたまるかよ。だってほとんどプロポーズだもん。
「じゃ、確かめていい?」
「は?」
ねぇねぇが俺のほっぺたをつかんでおもいっきりひっぱりあげる。
「ギャ〜〜〜ダダダダダアーーー!!……」
「キャハハハハハh……」
意識が半分飛んでいくのがわかった。もう少しで悟りが開けそうになる。
「どうやら夢じゃなさそうだね。よかった」
「こんなに強くやんなくてもいいじゃないか」
「だって今までの流れから行くと私の負けじゃん。姉として当然だね」
勝ち負けはあまり関係ないと思う。ていうか普通は自分のほっぺたつねるでしょ。死ぬかと思った。
「まあ、そのうちいいことあるって、気にしないの。いたいのいたいの飛んでけー」
つねったところに軽くキスをした。ちょっと恥ずかしい気がする。

「ねえ、クーヤ」
「何?」
「おなかすいた」
「今?」
「うん、いま……うれしいことがあるとすぐお腹すくんだ、私」
「わかった。 腕によりをかけるよ」
そういって足早に部屋を出た。
廊下にでると今までこらえていたものが一気にこみ上げてきた。
情けない男でごめんよ。でも絶対幸せにしてやるぜ。


(作者・ちくわ氏[2006/08/19])

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