六月の上旬、夏のような日差しがさして、快晴だった。
天気も最近はじめじめしていて、中休みの晴れといった感じだ。
「今日は洗濯日和だな。…よいしょ!」
大き目のかごに山盛りの洗濯物。洗剤の残り香が思考をクリアにしてゆく。
普段なら早く済ませるところだけど、今日はその必要がないような気がした。
洗濯物を手にとって、物干し竿にかけていく。それだけでも額に汗がにじんできた。
麦茶が飲みたいな……
グラスの中で氷が溶ける様子を思い浮かべながら、淡々と進めていく。
もはや寝巻きと化しているあの下着をつまむ。
風邪引かないのかな……
素朴な疑問だった。
ほかの洗濯物に紛れて、申し訳なさそうにしているものもがあった。
これって意味あるのかな……
実物より大きい気がする。
「ヒント:ハンカチ」
海の言ってたあれって本当なんだろうな…まさか、そんなことあるわけないか。


「ほんと、今日は暑いですわね」
フッ!汗を拭くアタシの姿を見て世の男はイチコロね!
「あら、柊さん。そのハンカチずいぶん分厚くありませんの?」
「いえいえ!そんあことありませんわ。これはこの夏の新作で……」
まったくこんだけ枚数あると、しまうのも一苦労だわ!!

う……海のって結構大きいんだな。
「私のは言っとくけど天然だよ〜・З・」
あう……今なんか、声が聞こえたけど…気のせいかな?
なんとなくみんなのブラを並べてみた。個性という言葉を認識した。

「モエ〜。ひるごはん〜!」
「あっ、ごめん。いま用意するから」
中庭から見えないとなると屋根裏か。
とおもったらすぐ目の前にいた。なんで?
「なんだ、まだ終わってないのか〜」
明らかに落胆している。
「うん」
「手伝うよ」
「えっ! いいよ。すぐおわるから」
瀬芦里姉さんがひょいっと洗濯物をつまむ。あいかわらず人の話を聞かない人だ。


前に手伝ってもらったとき、お父さんの洗濯物を見て、
「これ洗わなくていいんじゃないの」
そういって花壇のほうに洗濯物を投げてしまった。……案の定Yシャツがどろどろだった。
「ごめんね、別にモエが憎いわけじゃないから。ただあいつのものを見るとね」
そういってすぐに姿を消してしまった。しばらくそのまま立ち尽くした。
そのことを姉さんは覚えているのか。忘れて欲しいとは思うけど。

「モエ〜。これここでいい?」
「あ……」
返事をする前にかけている。それから姉さんは洗濯物をまじまじとみている。
「ねえ、あれって空也のだよね」
「うん」
端っこのTシャツを指差す。
「えらいね〜、モエは! まだ先なのに!」
「この時期干さないと、においがつくから」

二人で縁側に腰掛けた。
「最近、元気ないね、モエ」
「えっ! そんなことないよ!」
「悩み事なら何でも聞くよ! お姉ちゃんに言ってごらん!」
姉さんが胸を張る。いつ見ても頼もしい。
「たいしたことじゃないから……」
「モエにとってたいしたことじゃなくても、私にはたいしたことだよ!」
「姉さん!」


姉さんが懐からジュースを取り出した。
「当てていい?」
一本を私にくれた。
「〔こくこく〕」
「空也!」
「あう……」
そういって、私にでこピンをくらわした。
「いたっ……」
「そうか〜。クーヤか〜。この前はいったん帰ってきてとんぼ返りだったもんね。
それでこの娘はもんもんとしてたわけか〜」
姉さん、表現がいちいち妖しい。
「でも七月に帰ってくるらしいじゃん!」
「誰から聞いた?」
「要芽ねえ」
姉さんは不機嫌になった。
「結局あいつは要芽ねえしか、ほんとのこと話さないんだよ」
「それは違うと思う」
「まっ、 どうでもいいけどさ!」
姉さんはそういって居間に行ってしまった。
みんな仲良くして欲しいのに。
一瞬、空也なら何とかしてくれると思ったが、情けない姉だなっと思ってやめた。
その間ジュースはしっかり汗をかいていた。


中庭の木々がざわめく。突然強い風が吹いた。
洗濯物が一枚風にひるがえって、縁側の隅にかかった。
それは空也のお気に入りの服だった。
「汚れてないかな……」
不安になりながら、両肩の部分を指でつまんだ。そして時が止まった。

なんだろう、胸が苦しい
鼻がツーんと痛くなってきた
空也の顔が浮かんでは消える

会いたい……こえだけでいいから……
もう一度でいいから……ともねえってよんでほしい……
思い出がどんどん心からこぼれ落ちていく

「会いたいよ……空也……私、空也に会いたいよ……」
気がつけば、くしゃくしゃのなるまで服を抱きしめていた。

「モエのバカ…………」


空也帰還の日
「モエ〜、どこ行くの〜」
姉さんに呼び止められた。
「ちょっと散歩に……」
というかいつもの海辺だけど。
「じゃあ、クーヤ迎えに行ってよ!」
「でも……私が行かなくても」
「野暮!」
「えっ!」
今なんかひどいこといわれた気がする。
姉さんは携帯を取り出した。
「あっ! クーヤ、モエが迎えに行くから! じゃ!」
「ちょっと、 姉さん!」
「大丈夫、うみゃには牽制入れとくから」
いや、そういう問題じゃなくて。ゴーサイン出されても。
「もう、あーんなことや、こーんなことしてる仲なんだしさ!」
「え、え、えええEEEっ〜〜〜〜!」
「見てたよ!」
「ありえないよ、姉さん!」
空也が聞いたらショック死するよ。
「ぶっちゃけ。空也、すきでしょ!」
「うん……でも弟として」
「野暮!」
「あう……」
今度ははっきり言われた。


「犯罪だよ、姉さん……」
「だって、妹と弟にヘンな虫がつかないか心配で……」
「私たちの人権は……」
「これは私の義務だし!要芽ねえから頼まれたし」
絶対違うし、義務でもなんでもないし。
「撮ったよ!」
「はっ!」
姉さんの指の上でテープが回転している。
「返して!」
「にゃ!」
手をはたかれた、しかも髪の毛で。
「お願い、返して!」
「そういう質問は、柊ヒエラルキーにしなさい!」
姉さんが一枚の紙を私の顔めがけて指ではじいた。
「わっぷ!」
その紙をみろということらしい。なんかうちの勢力図っぽい。
雛乃姉さんが一番上で、……
私が瀬芦里姉さんのつぎ……
「って、えええ〜〜」
「DO
YOU
UNDERSTAND?」
「いえす、あい、どぅ〜」
なんか、もう……
「あはは……はは、ははは…………」
「あれ? モエ!……もしかして、壊れた?」
笑いしか出てこない。
何を言っても胸を張るこの姉に白旗を上げるしかなかった。


三分後……
「無事で何よりだ。ト・モエ少尉」
「あう!」
伸びやかに敬礼した。
「姉さん……」
「なに?」
「ありがとう!」
「むっ!……」
不機嫌そうな顔をする。もちろん照れているから。
「まあ、これは餞別だから」
姉さんが私のズボンのポケットにたくさん何かを入れた。
お菓子みたいに小分けしてある。一個取り出してみた。
機動戦士コンドム!!
「?」
「いや、だからゴム」
「〔ふるふる〕」
「そこまでびっくりされても、困るんだけどね」


「いらないよ」
「マジ? モエって意外に……」
「違うよ! そうじゃなくて!」
「だーめ! モエに拒否権はないの!」
「あう……」
「空也にあんま恥かかせないでよ。私の大事な弟でもあるんだから」
「………わかった。空也に渡せばいいんだね!」
「いやまあ、それでもいいんだけどね。………とりあえず!」
背中をバシバシたたかれた。
「いたっ!」
「行って来い! このもんもん娘!」
うちの家族ってちょっとヘンなのかも、でも……自然とほほがゆるんだ。

大丈夫だよ、姉さん。空也は私がしっかり守るから。
堅く決心して家を出た。



fin………………


(作者・名無しさん[2006/06/07])

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