「ふぅ…もう終わりのようね」
トモちゃん達が来る前にクロウを葬り、その場を後にした。
なんだか最近退屈だ。
この前、ちょっと可愛い男の子を釣ってみたけど、これがハズレ。
その子が調子に乗って仲間を呼び出したりしたものだから、軽く消してしまった。
…私は何をやっているんだろう。
せっかくこの力を手に入れたというのに、心に残るのは虚しさだけ…
とてつもなく寂しくなる。
残りの指輪を手に入れれば、この虚しさはおさまるのだろうか?
…いや、おそらくそんなことはない。
トモちゃんは羨ましい。
同じ力を持っているのに、彼女は笑っている。
毎日が本当に楽しそう。
羨ましい。
その日常が欲しい。
彼女を殺せば私にも手に入る?
まさか。
「……はぁ」
家に戻り、自分のベッドに仰向けになって寝転んだ。
帰ってきても、私を待つ者など誰もいない。
壁につけてあったカレンダーをちらりと見る。
明日は6月6日。
確か、トモちゃんの誕生日だ。
「……私には関係ないわね」


今日は私の誕生日。
みんなが気を利かせてくれて、今日一日は自由に過ごせる。
「家事の事など忘れて、たまにはぱーっと遊んでくるがいい」
と、雛乃姉さんは言っていたけれど、正直なところどうしていいのかわからなかった。
ぽえむちゃんも忙しそうなので、一緒に遊びに行くわけにもいかない。
だから、今はラスカルに乗ってちょっと辺りを走ってくることにしたんだ。
「…あれ?」
海岸の前を走っていると、一人でぽつんと立っている透子さんを見つけた。
特に何かをしているわけでもなく、じっと海を見ているようだ。
どうしたんだろう、透子さんらしくないな。
私はラスカルから降りて、透子さんに話しかける事にした。
「透子さん」
「あら、トモちゃんじゃない」
いつも通りの顔だったが、どことなく元気がないようだった。
どことなく、悲しい目をしているみたい。
そのまましばらく一緒に海を眺めていたけど、急に透子さんから話し出した。
「ねぇ、トモちゃん…」
「な、何ですか?」
「トモちゃんってね…寂しかった時ってある?」
「え…」
どうしたんだろう、急にそんなことを…
「…ないわよね」
そう言って、透子さんは背中を向けてどこかに行こうとした。
「あぅ…その、ありますよ」
私が言うと、透子さんは立ち止まった。
それからこっちにゆっくりと向き直った。


「昔、小さい時のことなんですけど…
 じゃんけんで負けて蔵に入った時なんです。負けたら中のものをとってくるっていう遊びだったんですけど…
 その時、急に地震が起きて、入り口の戸が壊れて開かなくなっちゃんたんです」
話をするトモちゃんの横まで私はもどった。
「暗いしお化けが出そうで怖くて…一人ぼっちだったし、とても寂しくて…
 私はこのままここで死んじゃうんじゃないかなって思ったんです」
「そう…」
そんなことがあったのね。
でも、特別これだということはないかも。
似たような経験なら、他の人にもありそうだわ。
「でも、すぐに助けてもらえたんでしょう?」
「は、はい」
「それならよかったじゃない。
…いいわね、トモちゃんは」
「…え?」
私は小さな石を拾うと、それを海に向かって放り投げた。
「トモちゃんには大切な家族がいるわ。
…でも、私にはいない。
 これまで沢山の男と寝たけど、私の帰りを待っている人なんていない」
「と、透子さん?」
「同じ力を持っているのに、どうしてなの?
アナタはこんなにも幸せなのに!」
気づくと私は、トモちゃんの体を叩いていた。
全然力など入っていない、弱々しいものだ。
そのうちに涙が出てくるようになってしまった。
「うっ…うぅっ……」
「透子さん…」
するとどうしたことだろう、トモちゃんは私の体を抱きしめてくれた。
正直、この歳にもなって抱きしめられるとは思ってもみなかったが。
「大丈夫ですよ、透子さん。
透子さんにも、いつかきっと大切な人はできますよ」
「トモちゃん…」
「それに、よかった。
透子さんが私に悩みを打ち明けてくれて」
「ど、どうして…」
「だって…私たち……その…と、友達じゃないですか。
仲間じゃないですか」
「!」


まさか、命を狙っている相手にこんなことを言われるなんて。
仲間…私たちが?
「あぅ…や、やっぱり面と向かって言うのは照れくさいな…
 あの、私は口下手だから…えっと、こうとしか言えないです。
ご、ごめんなさい。
 た、確かに透子さんとはいろいろあったけど……それでも、同じ力を持ってる仲間じゃないですか」
何だか、心の中が一気に暖かくなった。
これが彼女の想いの力とでも言うのだろうか。
「…ありがとう、トモちゃん」
「い、いいんですよ」
「フフッ、もし私が男だったら…トモちゃんのこと、絶対に放っておかないわね」
「え…ええっ!?」
急に顔を真っ赤にするトモちゃん、ちょっとかわいいかも。
それじゃ、そろそろ帰ろうかしら。
いつかきっと大切な人はできる、か…
まさかトモちゃんに教えられるとはね。
…私もそろそろいい人、見つけようかしら?
「あ、そうだわ」
「な、何ですか?」

「誕生日おめでとう、トモちゃん」


(作者・シンイチ氏[2006/06/06])

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