ともねえの愛車・ラスカル。
真っ黒に染められたモンスターマシンは、今日も元気にその唸り声をあげていた。
かつては黄色のカラーリングの可愛いバイクだったらしいが、ねぇねぇに大幅なチューンナップを施されてしまったらしい。
「いやぁ、相変わらず速いなぁ」
「怖くなかったか、空也?」
「別に。 全然なんてことないよ。 ねぇねぇに比べればね」
今日はともねえと一緒に、遠くの魚市場まで買い物に行っていた。
と言うのも、雛乃姉さんが
「明日は我の誕生日ぞ。 ぷれぜんとをくれとは言わぬが、立派な鯛の尾頭付きが食べたいのう」
とか言うもんだから、ならばと上等な鯛を買いに行ってきたわけだ。
『プレゼントをくれ』と言ってるようなもんだが、そこはスルーしておこう。
そういうツッコミは野暮ってもんだぜ。
市場のおっちゃんから鯛を受け取り、ついでに今日の夕飯のおかずも買って、俺達は家まで戻ってきた。
「後は瀬芦理姉さんに見つからないように隠しておかないとね」
「そう言えばさぁ、ともねえの性格から考えて、バイクに乗るのって意外だよね」
「そ、そうかな」
「うん。 おとなしい性格だから」
「実はね、私がバイクに乗るようになったのは、瀬芦理姉さんの影響なんだ。
 ちょっとしたことがあってね」
「へー。 ま、なんとなくそう思ってたけど。 その時の事、話してよ」
「えっ? でも、そんなに大したことじゃないよ?」
「いいよ、別に。 俺、聞きたいなぁ」
「そ、それじゃ話すよ。 あれは私が高校の時、大事な宿題の忘れ物をしたときだった」


「柊さん、これ…受け取ってください!」
「あぅ、またかぁ…あ、ありがとう」
2月14日のバレンタインデー、私は女の子なのにチョコレートをもらっていた。
それも、朝来てからずっと。
それだけじゃなくて、クラスのどの男の子よりも多くのチョコレートをもらってたんだ。
「モテモテねー、柊さん。そういえば、数学の宿題持ってきた?」
「う、うん」
「あたしに見せてよ。 まだやってなくてさー」
「いいよ」
そして鞄の中をおもむろに探しみたんだけど…
「…あれ?」
「どうしたの?」
「ど、どうしよう…忘れてきたちゃったみたいだ…」
「ええー!? あのハゲ先生、厳しいから許してくれないよ! どうしよう…」
「い、家に連絡してみる。 誰かいると思うから」
チョコレートを渡す順番待ちの女の子を押しのけて、教室を飛び出して公衆電話で電話をかけた。
しばらくして、眠たそうな瀬芦理姉さんが電話にでてくれた。
『ふぁい…柊でふぅ…』
「せ、瀬芦理姉さん!? あの…私宿題を忘れちゃったんだ。 悪いけど持ってきてもらえないかなぁ…」
『にゃにー!? よっしゃ、わかった! 12時ぐらいには持ってくるから、ちょっと待ってて!』
「あぅ…寝起きなのにごめんね……机の上から2番目の引き出しの中にあるから」
『いいっていいって! そんじゃねー!』


そして、私はそのまま授業を受けて、瀬芦理姉さんが来るのを待った。
昼休みのチャイムが鳴ると、どこからか叫び声が鳴り響いてきたんだ。
「ちょっと君、待ちなさい!」
「うるせー! モエの一大事なんだ! そこを退かないとぶっとばすぞー!」
あぅ、あの声は間違いない。 瀬芦理姉さんだ。
ちゃんと守衛さんか誰かに頼めば届けてくれるのに…
「ここかー! 見つけたよ、モエ!」
いきなり教室のドアを開けて、姉さんが叫んだ。
姉さんは見た目がすごく綺麗だから、男の子たちの視線はすぐにそっちに向けられてたよ。
なんだか急にトイレに行く人とかいたし…なんでだろう?
「モエ! ちょっと一緒に家まで来て!」
「え? ど、どうして…」
「どれが宿題かわかんなくなった! だから来ーい!」
「うわぁ!」
ものすごい力で私を脇に抱えると、そのまま先生たちを振り切って学校を出てしまったんだ。
そして、すぐそこに止めてあったバイクに私を乗せて、姉さんもバイクに跨った。
「しっかりつかまってなよ! キャットスライガー、発進!」
「う、う、うわぁぁぁ! こ、怖いよ」
「すぐ着くから! ガマンして!」
まるで漫画のように前輪が跳ね上がって、猛スピードで家まで飛ばしてくれたんだ。
家まで着くのに、10分もかからなかったよ。
「モエ、あった?」
「う、うん」
「そんじゃ、次は学校まで行くぞー!」


午後の授業が始まるまでは余裕があったから、姉さんもさっきよりはゆっくりとバイクを走らせていた。
その時の風の感触は、今でも忘れらないよ。
とても気持ちが良くて、なんだか自分がふわっと浮かんでしまうような、そんな気分だったんだ。
「あの…瀬芦理姉さん…」
「何ー?」
「バイクの免許って…とるのは難しいのかな…」
「おおっ!?
モエもバイクに興味を持ち出したか」
「う、うん……前から少しは興味があったんだけど、なかなか一歩が踏み出せなくて」
「そーだねー、別に難しくはないよ。ただ、筆記試験がめんどくさいかなー」
「そうなんだ」
「ま、大丈夫だよ。 いざとなりゃカンニングすればいいんだし」
「あぅ、だめだよ…」
そこへ突然、後からミニパトが1台やってきた。
『そこの2人乗りのバイク! 止まりなさい!』
「げっ、やっかいなのに見つかっちゃったなー」
「ど、どうするの?」
「ここで捕まったら授業に間に合わなくなるでしょ! 逃げるに決まってるにゃー!」
『こら、そこのノーヘル2人組! 止まりなさい!』
そう言って、いきなりスピードをあげる姉さん。
ミニパトを振り切るためにあの手この手を使って、なんとか学校まで送ってくれたんだ。
「間に合いそう?」
「うん、大丈夫だよ。 ありがとう、瀬芦理姉さん」
「にゃっはっは。 これぐらいはお茶の子さいさいだよ」
「それじゃ」
私が門をくぐってから、瀬芦理姉さんに手を振った。 姉さんもそれを見ると、バイクに跨ってそのまま行ったんだけど…
突然パトカーが門の前を猛スピードで横切っていったんだ。
『コラ、止まれっつってんだろうが! テメーこの場で逮捕してやる!』
「しつこいなー。 こうなったら、久しぶりに相手してやるぞー!」
その後、姉さんとミニパトがどうなったかはわからないんだ…


「それで、ともねえはバイクの免許を取ったんだ」
「うん。 初めて走らせたとき、とても気分が良かったよ。 あの時は黄色のかわいいラスカルだったのになぁ…」
何だかともねえが遠い目をしていた。
「ともねえのことだから、免許を取ってからラブレターの数とか多くなったんじゃないの?」
「よ、よくわかったな…」
「しかも、女の子からでしょ?」
「ど、どうしてそこまでわかるの…?」
「だって、ともねえだもん。 バイクを手に入れて、かっこよさに磨きがかかったっていうか」
「あぅ…」
突然、玄関から元気のいい声が聞こえてきた。 間違いなくあれはねぇねぇだな。
「たっだいまー!」
「おかえり、瀬芦理姉さん」
「お、モエじゃんか。 ちょうどよかった。 久しぶりにツーリングに行こう!」
「え? でも掃除とかしないと…」
「すぐ行こう。 今すぐ行こう。 でないとここでモエを犯しちゃうぞー?」
「マジで…!?」
「あぅ…わ、わかったよ……行くよ…」
「んっふっふー。 そんじゃクーヤ、後はよろしくねー!」
「う、うん」
嬉しそうなねぇねぇにずるずると引っ張られ、ともねえはその場を後にした。
とりあえず鯛は隠しておいたから問題はないけどね。
「い、いってらっしゃい」
「そんじゃねー!」
「あぅぅ…い、いってきます」


オマケ

「ねぇ、瀬芦理姉さん。 あの時って、その後どうなったの?」
「ああ、あれ?」

「ホントにしつこいなー」
『待ちやがれコラァ!』
「婦警のくせにすごい口の悪さだね。 ちょっとお灸をすえてやるか」
『このあたしも峠の女王と呼ばれた女! そう易々と逃げられると思うな!』
「はいはい、わかったよ。 よっと」
『何!? Uターン!?』
「そりゃー! キャットスライガー・ドライブスピンジャンプ!」
『と、飛び越え…わぁぁぁぁ!』
(キキーッ! ガッシャーン! ボンッ!)
「へへん、どんなもんだい! ミニパト1台、討ち取ったりー!」
『うう…無念……ぐふっ』

「そんなことがあったんだ…」
「いやー、ひなのんと要芽姉にばれないかとヒヤヒヤものだったよ」
「そ、そうだろうね…」
「モエもそんぐらいできないとねー」
「わ、私はいいよ…」
「にゃっ。 この技、教えたげるよ。 名前は『ラスカル・フライングフォアアームズ』に決定!」
「いいって…あぅぅ……」

(でも、クロウと戦う時に役に立つかな…?)


(作者・シンイチ氏[2006/02/28])

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