アタシが居間でテレビを見ていると、
巴姉さんがニコニコしながら居間に入ってきた。
 「あら、どうしたの巴姉さん?そんな間の抜けた顔をして。」
 「あう?わ、私そんな変な顔してたかな?」
 「冗談よ。で、どうしたの?なんか嬉しそうじゃない。」
 「うん、今日の昼間、これを買って来たんだ。」
 巴姉さんは聞こえるか聞こえないかぐらいの声でジャーンと
言いながら、背中に回していた手を前に差し出した。
 その手には、
 「デジカメ?」
 「うん、前々から欲しいと思ってたんだけど、
私、どんなのが良いのかよく分からなかったから。
 それで、今日、う、海に付き合ってもらって、一緒に選んでもらったんだ。
 そこで高嶺に、お、お願いがあるんだけど…。」
 「そのカメラでアタシを撮りたいの?」
 巴姉さんは答える代わりに、首を縦にコクコクと振った。
 「良いわよ。巴姉さんには普段世話になってるし、
その上姉妹割引もかねて特別価格、一枚三千円!」
 「えっ、お、お金を取るのか?」
 「……いちいち本気にしないでよ。」
 私が適当なポーズを取ると、巴姉さんがカメラを構えた。
 「と、撮るよー!はい…………」
 「……………………………」
 はい、の後が長いわね……。笑顔が崩れそうだわ。
 「………………………………………キューイ!」
 カシャッ!
 ……何で笑顔が崩れた後に撮るのかしら…。もしかして狙ってた?
 「ちょっと巴姉さん!」
 「あう?」
 「『はい』と『キューイ』の間が長いわよ!
 中途半端な笑顔になっちゃったじゃないのよ!」
 「ご、ごめんよ…。まだ操作に慣れてないんだ。」


 「巴お姉ちゃん、買ったカメラで早速
高嶺お姉ちゃんの遺影を撮ってるの〜?」
と、海が続けて居間に入ってきた。
 「遺影って!まだまだアタシは死なないわよ!」
 「そうだね〜、高嶺お姉ちゃんはまだまだ死なないよね〜。
 憎まれっ子、世にはばかるだからね〜。」
 「ぬうぅぅ………。」
 「海、今高嶺の写真撮ろうとしたんだけど、うまくいかなくて
高嶺に怒られちゃったんだ…。」
 「ん〜?これはシャッターを長押しして撮るタイプだよ〜。
 で、私にうまく撮れなかった高嶺お姉ちゃんの写真見せてよ〜。」
 「ダメ!ゼッッッタイダメ!凄く微妙な顔してると思うから見ないで!」
 ・・・

 それから数日、巴姉さんは事あるごとに買ったデジカメで
みんなの事をパシャパシャ撮ってはあうあう喜んでいた。
 数日して夕飯を皆で食べている時に、ふと空也が漏らした。
 「そういえばともねえ、これまでで写真、何枚ぐらい撮ったの?」
 「五十枚、ぐらいかな……?あは、もうそろそろ整理しないとな。」
 「五十枚だと!?今のでじかめはそんなに撮れる物なのか!?」
 「モエが土いじり以外であんなに夢中になった趣味って、久しぶりだよね。」
 「写真の整理、後で私のパソコンでやり方教えてあげるよ〜。」
 「海、その時ついででいいのだけれど、
私とぺんぎんの2ショット写真を印刷してくれないかしら?」
 「巴姉さん、要芽姉様とペンギンを撮りにわざわざ八景島まで行ったの?」
 「う、うん。私が写真撮りたいって言ったら、
私のおごりで八景島でなら良いって、要芽姉さんが…。」
 「かなめよ…。お前…。」
 「あら、私は妹の願いを聞き入れただけですよ。姉さん。」
 「お姉様とともねえが二人で八景島・・・。なんかぺんぎんやイルカより目立ちそうだな。」
 「何でそこでよだれ垂らすのよ!このグロイカ!」
 ・・・


 「うみゃの部屋はいつ来ても、不思議な電波のせいで頭痛がするねぇ〜。」
 人一倍感覚が鋭い瀬芦里姉さんがぶつぶつ言っている。
 夕飯を食べ終えイカと巴姉さんが片づけを終わってから、
皆で海の部屋に巴姉さんが撮った写真を見にきた。
 「ケーブルを繋いで〜、ここをこうすれば…ほら、撮った写真が出てきたよ〜。」
 海がパソコンをいじると、巴姉さんが撮った写真の一覧が画面に表示された。
 「お〜!……私がかっこよく写ってる写真はどれかにゃ?」
 「海、ぺんぎんの写ってる写真を見せてくれないかしら?」
 「これ!お前達が我の前に立っては画面が見えぬわ!」
 「私がくーやと写ってる写真最初に印刷するから、
要芽お姉ちゃんはちょっと待っててね〜。」
 「このねぇやとねーたんの写真、よく写ってるね。」
 皆が自分の写ってる写真を見てはしゃいでいる中、
アタシはあることに気が付いた。
 「ねぇ、イカ。」
 「なに?自分の写真写りが思ったより悪くてショックだったの?」
 「違うわよ!アタシはいつでも最高の被写体よ!
 …そうじゃなくて、この中に巴姉さんが写ってる写真が一枚も無いじゃない。」
 「あう?」
 皆が写真を見て楽しそうにしているのを見て幸せそうな顔をしていた巴姉さんが、
私の言った事に対して不思議そうな顔をしてディスプレイに
表示されている写真をまじまじと見ると、
 「皆が楽しそうに写真に写ってくれるから、それが嬉しくて
じ、自分が写るの、忘れちゃったみたいだな。」
とテレながら笑った。
 「…ったく、巴姉さんはほんっとうにしょうがないわね!
 海、カメラをちょっとパソコンからはずしなさいよ。」
 「え〜、面倒くさいよ〜。」
 「いいから!お姉さん命令!」
 「は〜い。」
 海がしぶしぶパソコンからカメラを取り外す。


 「姉貴、何でわざわざカメラを?」
 「アンタ本当に鈍いわね。
 カメラの持ち主の巴姉さんが写ってないのはアレだから、
皆で巴姉さんを中心に集合写真撮ろうって言うのよ。
 そ、それにホラ、いつものお礼の意味も込めて(ボソ」
 「た、高嶺。優しいんだな。」
 「ふ、フン!ほら、巴姉さんも海も空也も早く並んで!
もう姉さん達は立ち位置決めてるわよ。」
 いつの間にか立ち位置を決めていた上の三人の姉さん達が
こっちを見てフフンと得意そうな顔をしている。
 巴姉さんを中心に、皆で残りの立ち位置を決めた。
 「じゃあ、十秒後にセットするよ〜。」
 海がタイマーをセットして急いで立ち位置に戻ってくる。
 「あと5秒〜。4、3、2・・・」
 「「「チーズゥ!」」」
 カシャッ!
 ・・・

 「あれ、これこの間の写真じゃない。」
 後日巴姉さんの部屋に借りた漫画を返しに行くと、
イカが帰って来た時に撮った集合写真の隣に、この間の集合写真が飾ってあった。
 写真の中央で皆に囲まれて幸せそうな巴姉さんの笑顔がまぶしい。
 「うん、この写真は私の宝物だからな。」
 写真の中と変わらない、幸せそうな顔をして笑う巴姉さん。
 「あの時はありがとうな。高嶺。」
 「フ、フン!ア、アタシまだこの漫画の続き読んでないから、借りていくわよ!
 それから巴姉さん!」
 「何かな?」
 「感謝の気持ちが少しでもあるなら、今夜おいしい焼きそば作ってよね!」
 「あは、分かったよ。」
 どうも巴姉さんの笑顔を見てると調子狂うのよね。
 ……まぁ、悪い気はしないから、別に良いか。


(作者・SSD氏[2006/01/16])

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