寒い季節につきものと言えば、コタツ、みかん、ナベ料理、暖房。
そして…
「ぶえっくしょん!うう〜…」
「まったく、バカは風邪ひかないって言うけど、当てはまらないものねぇ」
「うるさいな…ぶえっくしょん!」
「ちょっと!こっち向かないでよ!」
何と言っても風邪だ。
そう、不覚にも俺は風邪をひいてしまった。
いつもヘソだしで寝ているねぇねぇはひいてないのに、俺だけひいてるとはどういうことだ。
…まぁいつも何も着ずに素っ裸で毎日寝ていた俺も俺だけど。
とにかく、今の俺はクソ暑くした部屋でやたら分厚い布団をかぶっているわけだ。
汗が出れば出るほど、治るのも早い。
ここは安静にしておくべきだろう。
しばらくして、ともねえが出来上がったばかりのお粥を持ってきてくれた。
「はい、空也。お粥だよ。」
「おうおう、いつもすまんねぇ…」
「あぅ?」
「何お決まりのセリフしゃべってんのよ」

一方、海の部屋では…
「あぁ〜…かわいそうなくーや…お姉ちゃん、当社比の2割り増しでしぼむよ〜。
 待っててね、くーや。
 お姉ちゃんが風邪に効く薬の調合を調べてあげるからね。
 お姉ちゃん、くーやのためなら例え火の中水の中だよ〜」


俺の体力もあんまりアテにならないもんだ。
もうこれで2日は寝込んでいるというのに、なかなか熱は下がってくれない。
そんなに熱は高くなかったんだけどなぁ。
すぐ治ると思ってたのに、結構ネチっこい風邪だ。
しかし、それにしても気がかりなことがある。
あの海お姉ちゃんが俺の看病をしていないことだ。
俺が寝込んでから、お姉ちゃんの姿を一度も見ていない。
どうしてだろうと考えていると、突然お姉ちゃんが部屋に駆け込んできた。
「どうしたの、お姉ちゃん」
「くーや、まだ治んないの〜?」
「うん、心配させちゃってごめんね」
「いいんだよ〜。
 それよりもね、お姉ちゃんが今からすっごく良く効く薬を持ってきてあげるからね」
「ホント!?」
「うん、楽しみに待っててよ〜」
そう言うと、お姉ちゃんは部屋を出て行った。
やっぱり頼りになるのはお姉ちゃんだよな。
しかし、外からお姉ちゃんとともねぇの声が聞こえてきた瞬間に血の気が失せていく。
「あ、巴お姉ちゃん。台所使わせて〜」
「え!?そ、それは…あの…」
「よろしくぅ〜」
…ヤバイ。
何だかわからんがヤバイ。
最悪、命の灯火が消えることになるかもしれない…。
遺書の用意をしたほうがいいかな…?


海が台所に立つと、何が起こるかわからない。
せめて私が傍にいて、しっかり見張っておかないと…
様子を見て不審に思った高嶺もやってきて、二人で海の様子を監視するようにした。
「ねぇ海、何を作るつもりなの?まさか料理を…」
「えっとね、くーやの風邪を治す薬を作るの〜」
「そ、そんなことできるの?その…危なくないか?」
「大丈夫だよ〜。任せといて〜」
私たちのことなんてもはや気にも留めていないだろう。
空也絡みなら、海は周りのことが全く見えていない。
ハッキリ言って、ものすごく心配だ。海も空也も。
そんなことを他所に、意味不明な鼻歌を歌いながら海はナベを火にかけていた。
「ねぇ巴姉さん、どうすんのよアレ」
「どうしよう…」
海はメモを取り出し、そしてさらに様々な材料を出してきた。一体何ができるのか想像もできない。
海の料理以上に不吉な予感がしてきたけど、私たちにはどうすることもできなかった。
なんとなく海から『止めたら殺す』みたいな気配が漂っていたんだ。
「えーと次は…ワカメだね。そしてビールと甘納豆を入れた後…野菊…
 干し芋、しらたき、ぶり、マーガリン…
 そして、もけ…はっ!」
「ど、どうしたんだ?」
「あーゴホン!ゲフン!えーっと…」
「…?」
「草」
「「何の草だそれーー!!?」」
「よーし、これでほぼ完成だね〜。しばらく煮込んで後は仕上げだよ〜」
ナベの中身は、もはやこの世のものとは思えないものができていた。
私と高嶺は顔を見合わせ、これから後に起こることに恐怖していた。
「まさか…飲み薬じゃないわよね…?」
「いや、塗り薬でもどうだろう…そ、それに『もけ…』って…」
「何なのかしら…」


風邪とは違う寒さに耐えながら、俺は一応お姉ちゃんを待った。
本当なら今すぐ逃げ出したい気分だが、お姉ちゃんの好意を無視することもできない。
お姉ちゃんっ子の宿命だろうか。そして、運命の時は来た…
「くーや、お待たせ〜」
戸を開けて中に入ってきたお姉ちゃんは、四角の容器に入った、よくわからない薬のようなものを持ってきた。
多分粉薬だと思うけど、見たこともない色をしていて、結局のところわからない。
何故か真ん中には、お姉ちゃんが髪を下ろした写真が爪楊枝に貼り付けられて刺さっている。
「この写真は何?」
「うーん、気分だよ〜。さぁ、どうぞ召し上がれ〜」
布団の傍のテーブルの上に薬を置いたお姉ちゃんは座り込むと、キラキラとした汚れの無い瞳で俺を見つめた。
早く飲んで元気になってほしい、と本当に願っているんだろう。
しかし、俺のほうとしてはいくらなんでもこればっかりは、という気分だ。
「どうしたの〜?飲まないの〜?」
「いや、その…」
とりあえず俺は容器を手にとって匂いを嗅いでみた。
無論、匂いぐらいでいい薬か悪い薬かなんて区別することはできないけど…
(こいつはくせぇーッ!ゲロ以下の匂いがプンプンするぜーッ!)
ダメだ…こればっかりはどうやってもダメだ…本能が危険を察知している。
しかし、ここに天使のような悪魔がここにいたことを俺は忘れてしまっていた。
「も〜、ちゃんとお薬を飲まない子はメッだよ〜。お姉ちゃんが飲ませてあげる〜」
「じ、自分で飲めるって!大丈夫だって!」
「じゃぁ、早く飲んでよ〜」
「うぅ…」
どうしても勇気の一歩を踏み出すことが、俺にはできなかった。するとお姉ちゃんは見かねたのか…
「やっぱり飲ませるよ〜」
「えっと、その…」
「おとなしくしてね〜」
お姉ちゃんが近づいてきたかと思うと、
いきなり俺は突然全身に電気が走ったかのような痺れに襲われ、そのまま意識を失ってしまった。
「ちょっと荒っぽいけどごめんね〜。さぁ、お薬飲みましょうね〜」


「ダ、ダメですよ要芽姉様…ちがいますよ…
 それはプーさんじゃなくてピータン…似てるけどちがうんですよ…
 ピータンじゃスクデットは狙えませんよ…ムリ…ムリなんですって…」
空也、何だかうなされてるな。ち、ちょっと覗き込んで…
「ムリだってばぁっ!」
ガン!!
「あいたたた…」
空也がガバッと起きた瞬間、私と空也の頭がぶつかってしまったんだ。
ズキズキして、すごく痛い…空也って結構石頭なんだな。
「アレ?ともねえおはよう」
「お、おはよう…ずいぶんうなされてたけど、何の夢を見てたの?」
そう聞くと空也は顔を真っ赤にして、
「そ、そんなの言えないよ…ナイショナイショ」
と答えた。
今のってそんなに恥ずかしい内容の夢だったのかなぁ…いや、それよりも。
「あ、あの…体は大丈夫か?」
「お?そういえば…ダルさも寒気もないし、結構快調みたいだ」
「そう?それじゃあの薬、本当に効いたんだね。
 とても効くようには思えなかったけど…」
「まったくだよ。とにかくお姉ちゃんに感謝だな」
「大丈夫そうだし、晩御飯作ったから食べよう。起きれる?」
「うん」
今思う。なんでこの時気づいてやれなかったんだろうって。
私が気づいていれば、空也は…か、要芽姉さん達に…


ああ、やっとまともな食事ができるよ。毎日うどんとお粥だけじゃなぁ…
いくらともねえの愛情料理だからって、これじゃお腹が減りっぱなしだ。
「おお、ようやく完治したか」
「よかったね〜」
「うん、お姉ちゃんの作ってくれた薬が効いたみたいだよ」
「(本当かしら…)とりあえずイカ、お茶」
「はいはい」
ポットを取ろうとみんなに背を向けた瞬間、騒がしい食卓は一瞬にして静寂に包まれた。
「みんなどうしたの?急に黙り込んじゃって…」
「空也、そのお尻についてるのは何かしら?」
「イカ、それって何の冗談なの?」
「は?」
姉貴も要芽姉様も、一体何のこと言ってるんだ?
「む〜…にゃっ」
「あうんっ」
急にねぇねぇにお尻を触られる俺。でも、なんだか違う感触が…
「あ〜!くーや、ごめ〜ん!こんな副作用あるなんて知らなかったよ〜!」
「なんだよ、お尻がどうかした…!」
そう言って俺は自分のお尻を触ってみた。
すると、何か別なモノがついてるじゃないか。
なんかフサフサしてて、これは言うなれば…
「なんでシッポが生えてるんだー!」
「お、ビックリしたから毛が爆発したよ。よくできてるねー」
「そうじゃないだろ!ちょっとお姉ちゃん!」
「うう〜…ごめんね〜。すぐに治療法を見つけてあげるからね〜」
かんべんしてくれよ、もう…


突然生えてしまったシッポに、みんな興味深々だ。
「あは、でも可愛いな」
「そうかしら」
お姉ちゃんは夕飯を済ませるとすぐに部屋で調べ物を始めだした。
きっとこの異常な状態の治療法を探しているんだろうが…
そんなことよりも、今の俺はみんなにオモチャにされるばかり。
「あぅ…リ、リボンつけようかな…」
「ふむぅ、それにしてもふさふさして気持ちが良いなぁ」
「ねー、満月見たからって大猿にならないよね?」
「そんなわけないじゃない」
「本当に可愛いわ…」
首輪とかつけられそうになるし、もう散々だよ…
「あ、あのさー、俺のこの状態を誰も心配してくれないの?」
「いいじゃないそのままで。そのほうが可愛いわよ、空也」
要芽姉様にそう言われると、このままでもいいかなーとか思ってしまうな。
でも長い目で見ると、やっぱりこれはイカンでしょ。
「それじゃクーヤ、一緒にお風呂入ろう!」
「えーっ!?いや、でもそれは…」
「だってどうなって生えてるか気になるんだもーん。モエだってそうだよね?」
「え?えっと、その…うん…」
「ちょっと、ともねえ!」
「いっそのこと、ここでイカを素っ裸にしたら?それならみんな見れるわよ」
「お、タカのナイスアイデア。よーし、むいちゃえむいちゃえー!」
「うわーん!やめてくれー!」


あーあ、嫌な予感がしてたんだよなー…ねぇやがいなかったのはせめてもの救いか。
俺もいいかげんに理解しろよな。お姉ちゃんが作るものは何かとアヤシイって…
今日はもう寝よう。
「やっほー、クーヤ。調子はどう?」
しかし、突然の訪問者が俺の眠りを見事に妨げてくれる。わざとやってるようにしか思えない。
「なんだ、またねぇねぇか…どうしたの?」
「うん、実はねー…当て身」
「はうっ」

「うーん…はっ!ここは…姉様の部屋?」
「フフ…そうよ、空也。お目覚めのようね」
薄暗い部屋には下着だけの要芽姉様、ボンテージを身に着けた姉貴、そして全裸のねぇねぇがいた。
「あ、あのー…今日は俺、とっとと寝て明日に備えたいんですけど…」
「それなら別にいいわよ。巴姉さんはアンタのこと心配して、明日はいつも以上に早起きするって」
「そんなことよりも、まさかそんな可愛いシッポがはえるなんて…海に感謝しないとね。
 もう可愛すぎてたまらないわよ、空也…」
そう言って蛇のように舌なめずりする要芽姉様。
や、やばい…十中八九、搾り取られてしまう…犯される…!
「お、お姉ちゃ…!ムガムガ!」
「おーっと、うみゃに知られたらマズイからね。我慢してよ。
 アタシ、ちょっと罪悪感はあるんだけどねー。でも、たまにはいいかなって」
や、やめて…
「ホラ、うれしいんでしょ?私たちに犯されるのが…」
た、助かりたい…
「このイカ、なんでシッポ振らないのかしら?ここは振るところでしょ?」
えぎ〜!
「そんな脅えた顔しないでさー、楽しまなくちゃ。そーでしょ?クーヤ」
やめてとめてやめてとめてやめてぇ!
「「「いただきまーす!」」」
とめった!


次の日、俺はカラカラの状態でともねえに発見された。
なんかもうトラウマの一つや二つできてもおかしくない。
「く、空也…とりあえずお風呂ですっきりしたらどうだ?」
肩を貸してもらって、なんとか風呂場まで到着した俺は、全身から水分を吸収してやっと立ち直った。
服を着た後、居間で朝食をとることに。
風邪が治ったにもかかわらず、俺の身を心配してか急遽ともねえがお粥を作ってくれた。
なんせあの状態で発見されたんだもんなぁ…
もう何をされたかなんて覚えてない…いや『思い出したくない』が正しいか?
それにしても、何だかともねえが嬉しそうな顔をしてるなぁ…
「あ、あのね、空也。その…これ、作ってみたんだけど…」
そう言って差し出したのは…
「ネコ耳?」
「そ、その…つけて…くれないかなぁ」
いや、そう言われても…どっちかって言うとシッポは犬だしなぁ。
待て待て、そうじゃないだろうが柊空也よ。
つっこむところはそこじゃないって。
「あ、あははは…ご、ごめんね…やっぱりつけてくれないよね」
俺が答えを出すのが遅いのか、ともねえは出したネコ耳を引っ込めようとした。
なんだかすごくがっかりしてるぞ。
うーん、どうしようか…せっかくともねえが作ってくれたんだしなぁ。
「いいよ、つけてあげるよ」
「え?でも…」
「だって、ともねえがわざわざ作ってくれたんだから。それぐらいなんてことないよ」
そう言って、俺はともねえからネコ耳をとりあげると、自分の頭に装着してみた。
「ど、どう?」
「あは、似合ってるよ」
ああ…やっと心が落ち着いたよ…
「そ、それじゃ次はこれを…」
「ちょっと待った。もうさすがにやらないよ」
「あぅ…」


どうやら昨日俺を酷い目にあわせてくれた3人は外出してるらしい。
雛乃姉さんは海お姉ちゃんと一緒にお出かけ、家にはともねえと俺だけか…
こんなカッコじゃ外にも行けないしなぁ。
シッポが生えてるんですよ?
テレビ局に通報されたりするじゃないですか。
あーあ、掃除も洗濯もしたからちょっと一眠り…
「空也ちゃん、あなたの帆波お姉ちゃんが遊びに来たわよっ☆」
「ゲーッ!」
「あら、何よ空也ちゃんったら。いきなり『ゲーッ!』は失礼じゃない?」
「ご、ごめん…って何でねぇやがいるのさ」
「挨拶はしたわよっ。巴ちゃんにおはようって☆」
「いや、そうじゃなくて…もういいよ。仕事はどうしたの?」
「今日はオフよっ。ぽえむちゃんは巴ちゃんと遊んでるしー、ヒマだから空也ちゃんと遊ぼうと思ったの」
「俺はちょっと体調が…」
丁寧に断ろうかと思ったが、どうやらねぇやの興味はシッポに移ってしまったらしい。
ものすごく目がキラキラしている。
「空也ちゃん、何コレ?」
「ええっと…かくかくしかじかということで」
「ふーん。いやん、フサフサしてて気持ちいいー」
「ちょっと、あんまり触らないで…」
「こうすると空也ちゃんは気持ちいいのかな?」
「あうんっ」
「なるほどなるほど。じゃあ、ここをなでなですると…」
「うぅ…ねぇや、やめてよ…」
「アン、もう今の空也ちゃんが可愛くてたまらない…ちょっといじめたくなっちゃった…」
このパターンってやっぱり…アレですか?
「やーめーてー!ハァハァしないでー!」
「じっとしてなさいよ、空也ちゃん。すぐによくなりまちゅからねー。
 ぽえむちゃんも混ぜてあげたいけどー、今はワタシだけのも・の・よ☆」
「おぁぎゃぁぁぁぁあぁぁぁ…」


…あ、もう夕方か。すごく全身が気だるいよ。
ちょっとノドが渇いたな…
「お湯がうまいねぇ〜…」
「なんだ、くうや。ずいぶんと老けこんでおるではないか」
「あ、おかえり。お姉ちゃんも」
「くーや、治療法が見つかったよ〜」
「本当!?頼むから早く治してー!もうあんな思いするのはイヤだー!」
「よしよし、またツインにいじめられたんだね〜」
ちょっと勘違いしてるけど、まぁ今はよし。
「じゃ、これを飲んで〜」
そう言ってお姉ちゃんが出したのは、単なる抹茶…のようなもの。
「これを作ったのって…お姉ちゃん?」
「ううん、雛乃お姉ちゃんがやってくれたんだよ〜」
「うむ、安心して飲むがよいぞ」
ズズッと飲んでみる。変な味も何もしない、ちょっと渋い普通の抹茶のような味だ。
すると、どうしたことだろうか。急に体が軽くなったような感覚になり、試しにお尻を触ってみると…
「ない!なくなってる!」
「うむ、そうであろう。実はそれはあるところで採れる薬草を混ぜ込んだものだ。
 これは奇病に大変効果のある代物でな、海に心当たりはないかといわれ、一緒に採ってきたのだ」
「そうだったんですか」
「礼なら海に言うがよい。これを調べるのに昨夜は徹夜したと聞く。
 それほどお前のために必死だったのだ。申し訳ないと思ったのであろうな」
「お、お姉ちゃん…俺のために…」
「私はくーやのためだったらなんだってしてあげるよ〜」
「お姉ちゃーん!」
「くーやぁ!」
ガシッ!

かくして、俺の受難の日々は終わりを告げた。
もう俺はお姉ちゃんが作ってくれたものは口に入れることはないだろう。


(作者・シンイチ氏[2005/12/06])

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