『うにゃー、6時だよんっ。起きろモエ!
起きないとひたすらHな言葉を流しちゃうz』
 ぱちん、と瀬芦里姉さんの声が流れる特性目覚ましを止める。
 う〜んとその場で伸びをし、気だるさを体から搾り出して普段着に着替えた。
 寒すぎず、少し涼しい。
 私はこんな秋の朝も好きかな。
 廊下に出て雨戸をガタガタと開けると――
 「あぅ・・・凄いなこれは。」
庭中が落ち葉で埋め尽くされていた。
 そういえば昨日の夜は風が強かった。
 だからと言って庭中が枯葉で埋め尽くされるなんて・・・。
 花壇のお花達も心配だ。
 午前中に家事を終わらせて、午後になったら掃除しなくちゃな。


 お昼ごはんが終わると、休日なのでみんなは自分の部屋でまったりしているらしい。
 空也がお昼ごはんの後片付けしてくれているから、
私は早速庭のお手入れ。
 花壇を見ると、お花達が見えないぐらい枯葉に覆われていた。
 恐る恐る枯葉を払ってみると、
 「あぅ、よかった。無事だったみたいだな。みんな。」
お花達は元気にまっすぐに立ち直ってくれた。

 庭の掃除用具入れから熊手を取り出して、庭中に散らばった落ち葉をかき集める。
 落ち葉が一箇所に集まって山になり始めた頃に、
海が縁側から私に声をかけてきた。
 「巴お姉ちゃん、お庭のお掃除〜?」
 「うん、もうほとんど終わったけどな。
私が掃除する前なんか、庭一面が落ち葉で覆われてて凄かったんだぞ。」
 「ふ〜ん・・・。」
 海は空返事をしながら、落ち葉の山を見つめている。


 「その落ち葉、集めてどうするの?」
 「ゴミ袋に入れて、燃えるごみの日に出すよ。」
 「どうせ捨てちゃうならさ、焚き火してお芋焼いて食べようよ〜。」
 「焼き芋か・・・。うん、いいな。やろう、やろう。」
 「じゃあ早速、お芋買いにくーやと出かけてくるね〜。」
 「あぅ、く、空也は今お昼の後片付けをしてるんだ。
海、私が一緒に行ったら、嫌か?」
 私が言うと海は眉をひそめながら言った。
 「う〜ん・・・しょうがないか。くーやの邪魔したくないし。
 じゃあ巴お姉ちゃんで良いよ。」
 その時、縁側に面した部屋の障子戸が開いて、雛乃姉さんが出てきた。
 「二人とも、話は聞かせてもらったぞ。
我が今人力車を呼ぶから、久しぶりに三人そろって買い物などと言うのはどうだ?」
 「うわ〜。いいね〜。ありがとう雛乃お姉ちゃん。」
 「じゃあ私、軽く支度してくるよ。」
 ・・・

 「えっ、三人も乗るんですかい?」
 「なんだ?まさかできぬと言うのではあるまいな?」
 人力車のお兄さんは、雛乃姉さんの提案にちょっと困っているようだ。
 「いえ、私はお三方が同時に乗っても引っ張っていけますがね、
座席のほうが狭いもんで、二人分しか・・・。」
 「ふむぅ。なるほど、な。」
 「じゃあさ、雛乃姉さんはわっ、私の膝の上に・・・。」
 こんな事をいうと雛乃姉さんは怒るかと思ったけど、
 「いささか子供っぽいような気がしないでも無いが、仕方あるまい。」
と言って承諾してくれた。


 最初に海と私が乗り込んで、その後雛乃姉さんが私の膝の上にちょこんと座った。
 「それではやってくれ。」
 雛乃姉さんが号令をかけると、人力車の前方が持ち上がり静かに動き出した。
 「それにしても、巴の膝の上は心地良いな。」
 「そっ、そうかな?」
 「寄りかかるとちょうど胸の谷間に後頭部が挟まって、特に気持ち良いぞ。」
 「あ、あんまり頭を胸に押し付けないで・・・。雛乃姉さん。」
 「あ〜、確かに気持ちよさそう。雛乃お姉ちゃん、帰りは私と変わって〜。」
 「うむ、良いぞ。」
 「あぅ・・・。話が勝手に進んでる。」

 商店街の八百屋さんに着くと、買い求める人が多いのか、
サツマイモが店頭に山積みになっていた。
 皆が食べそうな分だけ袋に詰めて、ご主人に重さを量って貰おうと袋を渡すと、 
 「巴ちゃんに、雛様!二人を同時に拝めるとは!
く〜!俺はこの日の為に八百屋をやっていた!
おまけだ!もう一袋に好きなだけ芋つめて行って良いぜ!」 
 「えっ、良いんですか?」
 「ともえよ。店のご主人が良いといっておられるのだ。
人の好意にはとことん甘えるのも礼儀と言うものであるぞ。」
 「すご〜い。さすが雛乃おねえちゃんと巴お姉ちゃん。
二人が居るだけでこの商店街では食べ物に困らないね〜。」

 結局、二袋にサツマイモいっぱい詰めて、一袋分の値段しか取られなかった。
 なんかあの八百屋さんには悪い事しちゃったな。
 また今度買い物に行って埋め合わせしよう。
 帰りの人力車、私の膝の上では海がお下げを解いて
後頭部で私の胸の感触を楽しんでいる。
 「コレ本当に気持ち良いね〜。今度くーやに私がやってあげよう。」
 「ふむ・・・おぬし等二人はそういうさーびすが提供できて良いな。
我はいまいちすりむな体系だからなぁ。」
 「あぅ、別に提供してるわけじゃあないんだけどな・・・。」


 「「「ただいまー!」」」
 玄関を空けると空也が出迎えてくれた。
 「あれ、三人でどこか行ってたの?」
 「ご、ごめんな空也。後片付け任せちゃって。」
 「ん、いやそれは別に良いんだけどさ、何その袋?サツマイモ?」
 「そうだよ〜。これからお姉ちゃんと一緒に、
巴お姉ちゃんが集めた枯葉で焼き芋作ろうね〜。」
 「と、言うわけだ。くうや、支度をするがいいぞ。」
 「わかった。」
 「わ、私も手伝うよ。」
 空也と一緒にバケツに水を用意したり、
庭に座れるように椅子やテーブルを出しているうちに、
雛乃姉さんと海から話を聞きつけたのか、要芽姉さんに瀬芦里姉さん、
高嶺も庭に出てきた。
 「おい、イカ!まだ準備終わらないの?
 相変わらずトロイわねー。」
 「姉貴もそんなグダグダ言ってる暇があったら、手伝ってよ。
 台所にお酒の一升瓶があるから、持ってきて。」
 「アタシがそんなことすると思う?」
 「ツインテールは協調性に欠けるっていう性質があるから、
高嶺お姉ちゃんに手伝いを頼むのは無理なんじゃないかな〜?」
 お盆にお猪口やらを乗せて持ってきた海が口を挟む。
 「タカは無い無いづくしだね。まず威厳が無い、色気が無い、協調性が無い・・・」
 と、言う瀬芦里姉さんは早くも要芽姉さんと缶ビールを飲み始めている。
 「アンタだって何もしてないじゃない!」
 「私はモエが酔いつぶれたときに部屋まで運ぶ役。」
 「私はその後巴の看病をする役ね。」
 要芽姉さんが言いながら流し目で私を見て、にやりと笑う。
 今夜は私、飲まされるのかな・・・。
 でも酔いつぶれたら要芽姉さんに何かされそうで怖い。


 準備ができた頃には、日がかなり傾き、細長い雲が赤く染まっていた。
 空也が枯葉の中にアルミホイルで包んだサツマイモを入れて、火をつける。
 皆が焚き火の周りに集まり、手をかざす。
 「あは、あったかいな。」
 「今日はそんなに寒くは無いけれど、こう言うのもたまには良いもですね。」
 「うむ。風流よな。」
 「くーや、お姉ちゃんの隣においで〜。」
 「ちょっと海!押さないでよ!」
 「芋マダー?」
 「ねぇねぇ、今火をつけたばっかりだから、まだ食べれないよ。」
 皆が思い思いの会話をしている。
 何だか皆でこんなに小さな輪を作って話をするのは久しぶりだな。
 いつもの食卓も良いけど、こっちのほうが皆に近くて良い。
 「なーんだ、ツマンナイノ。じゃあさ、早速だけどお酒飲もうか?
 やっぱり缶ビールじゃ酔えないよねー。」
 瀬芦里姉さんが珍しく人数分のお猪口に日本酒をついで、皆に回した。
 「乾杯しよっか!?」
 「なっ、何に?」
 「くーやに乾杯しよ〜。」
 「俺に?」
 「くうやに、か。」
 「何だかそれも変な話ね。」
 「イカになんか乾杯したら、せっかくのお酒g」
 「くーやに、かんぱ〜い!」
 高嶺が何か言っていたが、海がそれを遮って乾杯の音頭を取った。
 皆もそれに続く。
 「「「かんぱーい!」」」
 「ぬぅぅぅ・・・カンパイ。」


 「も、もうそろそろお芋、良いんじゃないかな?」
 乾杯をして少しした頃に、空也に提案してみる。
 要芽姉さんと瀬芦里姉さんと海はもうすでに一升瓶を一本開けていた。
 「そうだね。取り出してみようか。」
 空也が枯葉の山の中からホイルに包まれた芋を棒で突っつきだして拾い上げる。
 「火傷しない様にな。」
 「大丈夫だよ。」
 空也がホイルを開けようとして――
 「熱っつ!」
 熱いところを触ったらしく、芋を地面に落としてしまった。
 「空也!大丈夫か?」
 「ちょっとイカ!何芋落としてるのよ!」
 「うん、大丈夫。ちょっと水で冷やしてくるね。」
 と空也は家の中に入っていってしまった。
 心配なのであとについて家に入る。
 その時に海が高嶺を背負い投げしていたような光景が目の端に映ったけど、
多分見間違いだろう。

 台所の流しで空也が水道からの水で火傷した手を冷やしていた。
 「空也、本当に大丈夫なのか?」
 「うん、大丈夫だって。」
 「そうか?ほら、お姉ちゃんに見せてみるんだ。」
 空也の手を取って火傷の程度を見てみる。
 うん、コレなら少し冷やせば大丈夫そうだな。
 「コレなら大丈夫だよ。」
 ふと空也を見ると、顔を真っ赤にしている。
 あ、そうか、私が空也の手を取ってるから・・・。
 そう思うと自分の顔まで赤くなってくるのが判る。
 「あ、ありがとう。ともねえ。心配してくれて。もう戻ろっか。」
 「そっ、そうだね。」
 二人で俯きながら庭に戻った。


 庭に戻ると、皆が芋を持ってすでに食べ始めていた。
 「あっ、くーや、火傷大丈夫?」
 「うん、大丈夫だよ、海お姉ちゃん。」
 「くーやより芋の事心配したツインテールは、
お姉ちゃんが退治して置いたからね〜。」
 そういう海の顔がちょっと赤く染まっている。
 酔ってるのかな?
 海の足元には、高嶺がうつぶせに倒れているのが見える。
 「ほら、ともねえも。」
 空也が私にお芋を一つ取ってくれる。
 「空也、ホイルはそのままで良いから、四つほど私にくれないかな?」
 「何?モエ四つも焼き芋食べるの!?」
 向こうのほうで要芽姉さんと話していた瀬芦里姉さんが大声で聞いてきた。
 「ちっ、違うよ。ここ庭だから外に聞こえちゃう・・・。
 そうじゃないんだ。歩笑ちゃんと帆波さんにも、おすそ分け。」
 私がそういい終わるか言い終わらないかぐらいに、
地面に倒れていた高嶺がバッと起き上がった。
 「アタシも着いていくわ。」
 高嶺の顔も赤くなって、酔っているみたい。
 高嶺はこんなに短時間で量飲まないし、気絶してるうちに飲まされたのかな?
 「私一人でも、大丈夫だよ。」
 「アタシが付いて行くって言ってんだから、黙って連れて行けば良いの!」
 「あぅ、わかったよ。」
 空也からお芋を四つ受け取って、隣の犬神家へ。


 玄関の呼び鈴を鳴らすと、中から帆波さんが出てきた。
 「あら、巴ちゃんに高嶺ちゃん。二人そろってくるなんて珍しいわねっ。
待ってて、今歩笑ちゃん呼ぶから。」
 「あっ、あの、今日は焼き芋のおすそ分けに来ただけなんで、
歩笑ちゃん忙しそうだったら、よっ、呼ばなくても大丈夫ですよ。」
 私がそう言うと、家の中に戻りかけた帆波さんが振り返って言う。
 「歩笑ちゃん、明日締め切りらしいのよ。
 で、今もキリキリ舞いで私の朝ごはんとお昼も作ってくれなかったの。
 でも、巴ちゃんの顔見たら歩笑ちゃん、ちょっと息抜きになると思うから、
顔だけでも見せてあげてね☆」
 「は、はい。」
 帆波さんが歩笑ちゃんを二階に呼びに行った後、高嶺が私の腕を絡め取って、
何か小声でぶつぶつ言っている。
 「何よ。歩笑ちゃん歩笑ちゃんって・・・」
 やっぱり高嶺、酔ってるんだな。
 いつもの高嶺なら、こんなに私に甘えてくれないもんな。
 間もなくふらふらといつもより青白い顔をした歩笑ちゃんが、二階から降りてきた。
 「巴さん・・・。それに高嶺さんも。」
 高嶺が私の腕を強く抱きしめる。
 「歩笑ちゃん、明日締め切りなんだってね。はいこれ。おすそ分け。」
 「ありがとう、巴さん。疲れている脳には、甘いものが良い。
 ところでごめんね、巴さん、高嶺さん。お構いできなくて。」
 「大丈夫だよ。締め切りを乗り切ったらまた遊ぼうね。」
 「うん、また今度遊びに来てね。勿論高嶺さんも。」
 ここで俯いていた高嶺がハッと顔を上げて言う。
 「ふっ、フン!ヒマで死にそうだったら、遊びに来てやるわよ。」
 そんなことを言いながら、高嶺は嬉しそうだ。
 「あぅ・・・ごめんね歩笑ちゃん。高嶺、今ちょっと酔ってるみたいなんだ。」
 「気にしてないから大丈夫だよ。じゃ、私戻らなくっちゃ。またね。」
 「うん。お仕事、がんばってね。」
 この頃には私の腕に抱きついてる高嶺はもう半分寝ていしまっていた。


 家の庭に戻ると、今度は空也が酔いつぶれて
海の肩を借りて部屋に戻るところだった。
 そのまま高嶺を部屋まで連れて行ってベットに寝かせる。
 庭に戻ると日はとっぷりと暮れ、姉さん達が残ってお酒を飲んでいた。
 「モエ、ご苦労様。」
 「空也も酔いつぶれてしまった事だし、次は巴かしらね。」
 要芽姉さんが私を見ながらクスクス笑っている。
 「かなめよ、ともえをあまり酔わすではないぞ。
 ともえまで酔い潰れてしまったら、お前達二人が片づけをするのだぞ、良いな?」
 「・・・わかりました。姉さん。」 
 雛乃姉さんのおかげで、何とか飲まなく済みそうだ。
 火が消えかかった焚き火を、棒で芋を探して突っつくが、焼き芋が見つからない。
 「あぅ・・・もうお芋全部食べちゃったの?まだ私食べてない・・・。」
 「心配するでない、ともえよ。
 お前の分の芋は我の監視の下、ちゃんと取っておいてあるぞ。」
 雛乃姉さんが私にホイルに包まれた芋を二つ渡してくれた。
 芋を割ってみると、ホクホクと湯気が出た。
 「放って置くとせろりが食べてしまいそうだったのでな。」
 「ひなのんにガードされてる芋なら、盗んで食べるわけには行かないからねー。」
 「ホラ巴。お姉さん達に妹がおいしそうに焼き芋を頬張る姿を見せて御覧なさいな。
 せっかくあなたのお姉さんが三人そろっているのだし。」
 「今は妹達もくうやもおらぬからな。存分に我等に甘えるが良いぞ。ともえ。」
 「うん!」
 パクリと焼き芋を頬張ると、柔らかな甘さが口の中に広がった。
 「モエ、美味しい?」
 「うん、おっ、美味しいよ。」
 「妹の幸せそうな顔を見ながら飲むお酒も、美味しいですね。」
 「そうであるなぁ。」
 姉さんたちがにっこりと私を見てくれる。
 「ところでさ、モエ。晩御飯まだ?」
 「えっ、まだ食べるの?」
 夜はまだまだ始まったばかりだ。


(作者・SSD氏[2005/11/22])

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