吹く風が段々と冷たくなり、庭の木の葉も少しだけ色づき始めた十月のある夕方、
買い物に出ていたともねえが玄関の戸の向こうからなにやら叫んでいる。
 「た、ただいまー!だ、誰か戸を開けてくれないかな!?」
 その声を聞いた俺が玄関まで迎えに行くと、
すりガラス戸の向こうに見えるともねえのシルエットが、
なにやら大きなものを抱えていた。
 何かと思って戸を開けると―――
 「なっ、ともねえ、何この馬鹿でかいかぼちゃ。」
 ともねえはでかいかぼちゃを玄関に置くと、頬を上気させて言った。
 「うん、八百屋さんで、ハロウィンが近いからって売ってたんだ。どてかぼちゃ。」
 「ハロウィン・・・?ああ、アメリカだか何処かのお祭りだね?」
 「そうだな。皆でおばけに仮装して家々を渡り歩いて、お菓子を貰うやつだな。」
 「で、かぼちゃのランタンを作るためにこれ買って来たの?」
 と俺が聞くと、ともねえはうんうんと首を縦に振った。
 「わ、私、一度やってみたかったんだよ。かぼちゃでランタン作るの。」
と言うともねえの目が少し泳いでいる。
 「・・・ともねえ、本当はかぼちゃランタンより仮装に興味があるんでしょ?」
 顔を覗き込んで言うと、ともねえの顔が一気に赤くなった。
 「そうなんでしょ!?」
 「あぅ・・・よ、よくわかったな空也。」
 ともねえがもじもじと俯くと同時に、
後ろから廊下をドタドタと走る音が聞こえてきた。
 「モエお帰りー!早く晩御飯を私のために作りなさーい!
・・・って何そのかぼちゃ?大きいねー!」 
 ねぇねぇがどてかぼちゃに興味しんしんなので
ハロウィンについて説明してあげると
 「面白そうだねー。ぜひウチでもやろうよ!ハロウィンパーティー!
ポエポエやホナミも呼んでさ!」
 ・・・


 その晩の食卓でハロウィンパーティーやる気満々のねぇねぇが、
皆にパーティー開催の同意を求めたところ、姉貴は
 「そんなの瀬芦里姉さんと巴姉さんだけでやってよね。
子供じゃあないんだし。」
 と、言っていたが、その他の皆は意外とノリノリで
三十一日はパーティーを開くことになった。
 ・・・

 ハロウィン当日。
 この日は平日なので、皆が帰ってきた夕飯時からパーティー開始と申し合わせておいた。
 俺とともねえは勿論パーティー用の料理を作るので大忙し。
 ねーたんもパーティー開催に先駆けて料理の手伝いに来てくれた。
 三人とも料理するには動きにくいので、まだ仮装はしていない。
 「ねーたんは何に仮装するの?」
 「それは後でのお楽しみ。」
 「あぅ、楽しみだなぁ。」
 メニューの半分はともねえが昨日作ったジャック・オー・ランタンから
刳り抜いたかぼちゃ料理だ。

 料理が次々と出来上がって居間のテーブルに料理を並べ始めたころには、
ねぇねぇにお姉ちゃん、姉貴が出先から帰ってきた。
 「じゃあ私は、一回帰って着替えてくるね。
姉さんもちゃんと連れてくるから。」
 と、ねーたんは着替えに帰っていった。
 「さてと、ともねえももう着替えてきたら?」
 「うん、そうするよ。あは、皆が何に仮装するのか、本当に楽しみだな。」
 「お前たちはまだ着替えておらぬのか?」
 玄関でねーたんを見送ったままともねえと話していると、
ともねえの向こうから雛乃姉さんの声が聞こえた。
 ともねえの肩越しに覗いてみると、三角頭巾を被って白装束をまとった
雛乃姉さんがちょこんと立っていた。
 口の端からは赤いすじが一本垂れている。


 「ふふふ、どうだ?我の姿が恐ろしくて声も出ないであろうよ?」
 「うわぁ、ね、姉さんかわ・・・怖いなぁ。」
 「(今絶対ともねえ、かわいいって言おうとして言い直したよな。)」
 「そうであろ?我は先に居間で待っているぞ。」
 それだけ言うと雛乃姉さんはぺたぺたと居間の方へ歩いていった。
 「ギュッギュルギュ〜(ひなのん待ってくれよ〜。)」
 鬼火のつもりなのか、全身の毛を真っ青に染められたまるがその後を付いて飛んで行った。

 ともねえと一旦別れて、自室で仮装用の衣装に着替えることに。
 ちなみに俺はオペラ座の怪人。
 白いマスクがミステリアスな雰囲気をかもし出して、
お姉ちゃん達も俺の魅力にイチコロだろう。
 タキシードに身を包み、シルクハットを被って廊下に出ると、
髪をぼさぼさにして、血糊がべたべた着いている白衣を着た海お姉ちゃんに出会った。
 「うわぁ、くーや、かっこいいなぁ。」
 「お姉ちゃんも何だか、リアルだね。」
 「狂気のマッドサイエンティスト〜!」
 良く見ると顔に斜めに縫い傷が走っている。
 何か別なものが混じってるような・・・。
 「ちゃんとフランケンシュタインもつれてきたよ〜。」
 海お姉ちゃんが指差すほうを見ると、
 「ナメンジャ、ナイワヨ。」
 頭からでかいボルトの出ているメカタカネがとことことやってきた。
 「くーや、早く居間に行って、皆がどんなの着てるか見よ〜?」
 「そうだね。」
 
 居間に入ると、幽霊の格好をした雛乃姉さんと、
頭から矢印の角を二本と、背中から真っ黒い羽を生やし、
三つ又の槍を持った黒いスウェットの姉貴が談笑していた。
 悪魔と幽霊が談笑・・・なんととシュールな光景だろう。


 「うみとくうやも来たか。」
 「あら、イカと海も思ったよりまともな格好してるじゃないの。」
 「雛乃お姉ちゃん、リアル〜。」
 「お前もなかなかのものだぞ。うみよ。」
 「姉さんはマルを鬼火に使っているところとか、口の端から血が垂れてるのがみそだよね。」
 「ちょっと、何でアタシを無視すんのよ!」
 姉貴が俺たちの後ろで騒いでいる。
 海お姉ちゃんがそんな姉貴を横目で見ながら、
わざと姉貴に聞こえるように俺に耳打ちをしてくる。
 「ハロウィンパーティーなんか子供っぽいから反対とか言ってたのに、
本人が一番気合入ってるよね〜。ヒソヒソ」
 「姉貴はツインテールがあるから、悪魔の角は余計だよね。ヒソヒソ」
 「ぬぅぅぅ、五月蝿いわね〜。
確かに子供っぽいとは思ってたけど、実際着替えてみたら楽しいかも、って思ったわよ!」
 「最初から素直になれば良いのに〜。」
 「たかねはつんでれであるからなぁ。」
 「姉貴は意地っ張りだからね。」
 「ギュウギュウ!(はいはい、ツンデレツンデレ。)」
 「コノ、イカ。」
 「・・・何だかメカタカネにまで馬鹿にされた気分ね。」
 と、ここで急に居間の電気が消えて一瞬真っ暗になったかと思うと、
廊下から障子戸を通して青い光で居間が照らされた。
 皆がなんだろうと呆けて光の方向を見ていると、
障子の端のほうから化け猫のシルエットがするすると透写されて、
 「にゃーはぁーん♪」
と一鳴いたと思うと、障子戸が勢い良く開いた。
 バンッ!
 「やっぽー!化け猫だにゃー!・・・ねーねー、驚いた?驚いたー?」
 障子戸の向こうから現れたのは、猫耳を頭につけ、
顔にちょんちょんとひげを描いて、手足に肉球手袋&スリッパ、
豹柄のセパレーツを身に纏ったねぇねぇが立っていた。


 「別に驚きやしないわよ!」
 「ちぇーっ。タカぐらいだったら驚いてお漏らししてくれるかと思ったんだけどな。」
 「いくらアタシでもこの年になってそんなことするか!」
 「だってさ、モエ。もう照明機材片付けて良いよ。」
 ねぇねぇが自分の肩越しに廊下のほうに話しかける。
 廊下を覗くと、ジャック・オー・ランタンの上顎から上の形の帽子を被って、
緑色のマントを纏っているともねえが照明機材を片付けていた。
 「巴お姉ちゃん、面白い格好してるね〜。」
 「あぅ・・・本当はかっ、カワイイ妖精さんの衣装を買おうとしたんだけど、
一緒に衣装を見に行った瀬芦里姉さんが、コレにしろって・・・。」
 照明機材を片付け終わって部屋に入ってきたともねえが、モジモジしながら言う。
 「だってさ〜、モエ、すっごく乙女ちっくな衣装買おうとしてたんだよ?
モエはこっちのほうが似合うって。」
 「ふむぅ・・・で、あるな。」
 ともねえをじろじろ見ていた雛乃姉さんがそう言うと、
 「あぅ・・・」
 と、ともねえは残念そうだった。
 「ま、まだ帆波さんと歩笑ちゃん、それに要芽姉さんは帰ってきてないのかな?」
 「要芽姉ならさっき事務所を出たって電話があったよ。」
 「ねぇや達もまだだよ。もうそろそろ来るころだと思うけど。」
 ちょうどそんな話をしていると、玄関のほうから
 「チャオ〜☆犬神で〜すっ」
と良く通る声が聞こえる。
 「フランケンメカタカネ、迎えにゴ〜!」
 海お姉ちゃんがメカタカネの背中をぽんと叩くと、
 「ナメンジャ、ナイワヨ。」
 と言って居間をとことこと出て行った。
 メカタカネが玄関の戸を開けたらしく、ねぇやの声がさらにはっきりと居間に届く。
 「あら、高嶺ちゃんはフランケンシュタインの仮装なの?
とっても似合うわよ♪」
 「くぅぅぅ、何でアイツはいつもアタシとメカタカネを見間違うのよ!」


 メカタカネがねぇやとねーたんを連れて居間まで戻ってきた。
 「はぁい!皆さんチャオ☆」
 「・・・こんばんわ。」
 「うわぁ・・・歩笑ちゃん、カワイイなぁ。」
 「巴さんも、かわいいよ。」
 ねーたんは三角帽子に渦を巻いた杖、黒いマントに黒縁眼鏡と、
一目見て魔法使いと言う格好をしていたので分かったが、
ねぇやは角と羽を生やして、黒い手袋と黒のハイソックス、
肩を出して胸を強調するデザインの黒の光沢のあるタイトなワンピースに身を包んでいる。
 「ねぇや、それは?」
 「やあね、空也ちゃんったら照れちゃって。
夢魔に決まってるじゃない。サキュバスよ。
夢の中で空也ちゃんを食べちゃうのよん☆」
 ねぇやが腕で胸を寄せてパチッとウィンクした。
 あのデザインは・・・まずい。
 思わず胸に目が行ってしまう。
 ねぇやの胸から視線がはずせない。
 「あら、それぐらいで 私 達 柊 の 弟 を誘惑できると思って?」
 ねぇやとねーたんの後ろの廊下から、いつの間に帰ってきたのか
要芽姉様が普段着でねぇやをにらんでいた。
 「あらあら、要芽ちゃんノリ悪いー!
自分だけ普段着で参加なんて、根暗は嫌ねー。」
 「フッ、私はたった今帰ってきた所・・・よっ!」
 台詞を言い終わるか言い終わらないかという時に、
姉様がその場でくるっと一回転して―――
 「私はこういう仮装よ。」
 と、次の瞬間には口の端から牙を出して、タキシードにマントを羽織った
吸血鬼姉様が立っていた。
 赤黒い口紅が透き通るような肌の白さを際立たせている。


 「さっすが要芽姉だね・・・。」
 「要芽お姉ちゃんキレ〜。」
 「あぅ・・・綺麗だな・・・。」
 「さすが姉様ね。」
 俺が姉様に見とれて口をあんぐりしていると、姉様は俺に近寄ってきた。
 「私のほうが魅力的よね・・・怪人さん。」
 と俺のマスクを取ったと思うと、顔を近づけてきた。
 あまりの美しさと緊張で目をつぶると、
姉様の顔が俺の唇を避けて首筋に長めのキスをしたのを感じた。
 顔が一瞬で真っ赤になるのが分かる。
 「フフフ・・・。」
 離れ際に姉様が俺の目を見ながら頬を撫でると、その美しさに俺はぞくりとした。
 「どうかしら?弟は私に釘付けのようだけど?」
 「要芽ちゃんもなかなかやるわね・・・。
でも要芽ちゃんにこれほどのボリュームは無いわね。えいっ☆」
 ねぇやがまたボリュームのある胸をぷりんと揺らす。
 ・・・アレを見るなと言うのは鉄でできた乙女に勝てって言うぐらい無理ですよ。
 「ちっ・・・まあ、私は余計な肉が少ない分、スレンダーだから。」
 「ムッ、コレは余計なお肉じゃないですー!それにこの日のためにちょっと痩せたんだから。」
 「ち ょ っ と ?ちょっとじゃ足りないんじゃないかしら?フフフ・・・」
 「あっちゃー、また始まっちゃったね。要芽姉とホナミの喧嘩。」
 「まぁ、コレも一種の風物詩って所じゃないかしら。」
 「私もくーやにチューする〜♪(チュッチュッ」
 「歩笑ちゃん、コレ自分で作ったの?」
 「うん。巴さんに見せたくて、がんばったんだよ。」
 一部の喧嘩に関心の無い人をよそに、
喧嘩をじっと見つめていた雛乃姉さんがスッと一歩前に出た。
 「二人とも、今すぐにやめぬと今夜は我が枕元に立つぞ?」
 それを聞いた二人は
 「すみません・・・姉さん。」
 「ゴメンナサイね。雛乃ちゃん。」
 と同時にしおれてしまった。


 その後は適当に料理をぱくつきながら談笑。
 ジャック・オー・ランタンの帽子を被ったともねえが
かぼちゃ料理を食べているのが少し面白い。
 「なんか、こうやって仮装していると、い、いつもと違う自分になった気がするな。」
 と、こんなことを言うともねえの台詞を姉様が聞き逃すわけが無い。
 「あら、じゃあいつもと違う巴は私達をどう楽しませてくれるのかしら?」
 「あぅ・・・」
 もじもじとしながら、なぜか立ち上がるともねえ。
 「じゃ、じゃあ・・・」
 皆を一瞥してから
 「お、おばけだぞ〜・・・悪い子は食べちゃう、ぞ〜!」
 ・・・上目遣いでそんな事言われたって、こっちが恥ずかしくなる。
 ふと姉貴とねーたんのほうを見ると、ポーっと頬を赤らめてともねえを見ていた。
 二人が何を想像しているのかを想像して、空太郎が元気になってしまった。
 「さてと〜、そろそろハロウィン度胸試しやろっか〜。」
 海お姉ちゃんがそう言って急に立ち上がって、居間を出て行った。
 「あら、何か海が用意しているのかしら?」
 「ふむ、度胸試しとは、また我の株が上がってしまうな。」
 あれこれと言い合っているうちに、海お姉ちゃんがお盆に何か乗せて居間に帰ってきた。
 「はい〜、じゃあみんな、コレを一皿筒とって〜。」
 小皿に乗っているのは、
 「饅頭?」
 「そう。一つだけ激すっぱい饅頭が入ってる、ロシアン饅頭〜。」
 「ちょっとうみゃ!コレまさか、全部うみゃが作ったやつじゃないでしょうね!?
前にロシアンシュークリームでひどい目にあったからにゃ〜。」
 どうやらねぇねぇにはトラウマがあるらしい。
 「買って来た饅頭だよ〜。私も流石に、まだ皆に食べさせることのできる腕じゃないって、
最近残念だけど自覚してるよ〜。その事実を思い出して、しぼむ〜。」
 皆に小皿を分けながらしぼむ海お姉ちゃん。
 「そ、そういうことなら大丈夫そうだな。」
 ともねえがほっとした表情で何気なく酷いことを言っている。


 「じゃあみんな饅頭取ったね〜?」
 「ぬぅぅ、なんかアタシのが外れなんじゃないかと思ってしまうわね。」
 「ふふふ、たかねはまだまだ肝が小さいな。我のようにどっしりと構えておれ。」
 「うぅ・・・激辛だったら、はずれでもよかったのに・・・。」
 「歩笑ちゃんも気が小さいのね☆
外れを引いたら新しいお話のネタにすれば良いじゃない。」
 「すっぱいのをネタにお話を書くって・・・。」
 「じゃ〜、行くよ〜。せ〜の!」
 パクッと全員が饅頭を口に含んだ。
 もぐもぐ・・・ごっくん。
 「ふむぅ・・・なかなかに美味だなこの饅頭は。」
 「本当、美味しいですね。」
 「うまうま、ねーうみゃ、どこで買って来たの?」
 「あら、こんなのを見つけてくるなんて、海、やるわね。」
 「さすが海お姉ちゃん、女子校生はいろいろ知ってるね。」
 「コレはね〜、駅前の和菓子屋さんで買ったの。評判良いんだよ〜。」
 「あら、じゃあ私も今度かってこようかしら♪」
 「やった。外れじゃない。(ぶい」
 と皆が絶賛している中、ともねえが目をぎゅっとつぶって何も答えない。
 「巴お姉ちゃん、外れだね〜。」
 「あぅ・・・ふ、ふっはい(す、すっぱい)」
 いまだ飲み込めないらしいともねえがふがふが何かを言っている。
 「さすが巴姉さんね。そういうのが良く似合ってるわ。
ところで海、コレ本当に駅前のあそこのお店?」
 「実はね〜、あそこは評判良いんだけど、それだけじゃアレかな〜って思ったから―――」
 海お姉ちゃんがそこまで言ったところで、俺の心臓がドクンと太鼓を打つように脈打った。
 「―――買って来た饅頭に多少手を加えておいたんだ〜。ちょっとなら大丈夫k・・・」
 同時に稲妻が俺の脳天を突き抜け、五感が急激に失われていく。
 かすんでいく視界の中で、次々と倒れていくお姉ちゃん達。
 饅頭を吐き出したらしいともねえが何か叫んでいたが、
 「よし、今なら行けそうな気がする!」
俺は元気に足取り軽く、目の前に下りてきた光へと続く階段を上り始めた・・・


(作者・SSD氏[2005/11/05])

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