暖かい風が大地を包むように流れていく。
寒気は消え、心地よい温度がほどよく眠気を誘う時季。
そう、季節はもう春である。

昼。二人の人物が人気の少ない公園のベンチに腰掛けていた。
春の曙光がもたらす暖かな日差しに身を委ね、語らいを楽しんでいる。
一人は女性。もう一人の方に身を預けるようにして寄り添っている。
一人は男性。寄り添ってくる女性にテレながらも、満更ではない様子だ。
「―――。」
女性が男性の名を呼ぶ。
「要芽」
男性が女性の名を呼ぶ。
二人はただそれだけで幸せだった。生涯続けたいと思うほどに。
・・・・・・・本当に?

「―――っ!?」
声にならない悲鳴をあげ、彼女は跳ね起きる。
呼吸がかなり乱れている。胸が苦しい。
「・・・違うわね」
一言呟き、跳ね上げたシーツを胸元にまで引き寄せる。
そう、違う。胸が苦しいのはもう一つ原因がある。
「吹っ切れたつもりだったのだけれど」
自分の過去。大学時代の恋人のこと。とても辛い過去。
はぁ、とため息を吐き、天上を見上げる。
何故か空也の顔が見えた気がした。


過去を振り返ると、自分は彼に空也を重ねていたのではないかと思う。
彼は自分を愛してくれていた。それは間違いない。
では私は?私はどうなのだろう。
彼と私の価値観は近しいものがあった。
それでいて、彼はどこかしら空也を連想させる雰囲気があった。
・・・・・考えてみれば理由はこれだけしかない。
私は、結局私は汚い女だったのではないか。
空也に抱いていた想いを、代用品で補っていただけではないのか。
どうして私は、こういう女なのか。

空也が柊へと帰ってきてから、彼女はこんなことばかり考えていた。
要芽に好意を寄せ、要芽の為になにかを成そうと一生懸命にやってきた空也。
そのことを彼女は至福に思い、同時に苦痛をも感じた。
空也と共に歩みたいと思う。
だけど空也と共に歩める資格がある女なのかとも思う。
幸せになりたい。だけどその資格がない。
それは、彼女にとって苦痛の日々だった。

そんな折、ふらりと帰ってきた柊翔が唐突に言い出す。
「空也。修行の旅に出るぞ」
空也は当然抗議した。だが翔は聞く耳持たんとばかりに
空也を強引に連れていった。
この時要芽は良い機会かもしれない、と思った。
空也と少し離れ、今の自分を見詰め直すいい機会を得られた。
いや、どうせなら一人きりになった方が良いのかもしれない。
その方が、ゆっくりと自分に向き合える。
過去の私、今の私、これからの私。
全てを受け入れ、その上で私は変わりたい。


自室の天上を見上げたまま、これまでのことを思い返していた。
そして、一つの問いに行き着く。
私はこの一年で変われたのだろうか?
「・・・・・ふっ」
鼻で笑う。自虐的とも取れる笑い。
答えもまた一つ。否、である。
明日空也が旅から帰ってくる。
どんな顔をして会えば良いのだろう―――



その後、帰国した空也と、空也を追って上京してきた犬神家が
要芽が今まで抱いていた苦悩や苦痛を容易く吹き飛ばすほどの
ドタバタした騒動を起こすのだが―――

それはまた、別のお話。


「姉、ちゃんとしようよっ!2」に続く。


(作者・FspZBvIC0氏[2005/10/28])

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