プロローグ

「あの、空也。ちょっといいかな」
俺の隣で食器を磨いている巴姉が、何やら気まずそうに声をかけてくる
「? 巴姉、なに?」
一方の俺は、スポンジで食器をごしごし擦ってるところだ。
現在、AM9:00。
朝食の後片付けを巴姉としているのだが…。
「うん。ちょっとお願いがあるんだ。…これ、なんだけど」
少しだけ濡れていた手を自分のエプロンで拭きながら(なんか似合ってるぞ巴姉)、
巴姉はキッチン横に置いてあった“ソレ”を持ってくる。
どうやら誰かの弁当箱らしい。…え〜っと、てことは、だ…
「うん、分かったよ巴姉。誰に届けてくればいいの?」
「え…!?く、空也、どうしてその、分かっちゃったんだ?」
「まー、巴姉だしね〜」
海お姉ちゃんの口調を真似してみる。
「あう…わ、私だからか…」


「ほらほら巴姉、ションボリしてないで。
それで?誰に届ければいいの?」
シュンとしおれた巴姉に先を促すように訊ねる。
伏し目がちになっていた視線をおずおずと上げて(くそ、可愛いじゃないか!)
「うん。高嶺に届けてほしいんだ」
「……げ。」ツル、パリーン。
「あ!くく空也!!」
思わず食器を落としてしまった漏れガイル。よりによって姉貴ですかともえさん!


第一話「なんでアンタみたいな以下略」

は〜、巴姉さんのお弁当持ってくるの忘れちゃった。お昼は食堂か〜。でもここの食堂、あんまり美味しくないのよね。あー気が進まない。焼きソバで済ませちゃおうかな。
「たっかねー」
食堂にすべきかコンビニ焼きソバで済ますか考えている時、ちょっと離れたところから声をかけられる。
知った顔だ。とりあえず友人Aとでも呼称しておく。
「あら。どうなされたの?何か楽しそうに伺えるのだけれど」
↑これアタシね。……アタシなのよ!!
「ちょーっとね。……フフ、水臭いなー高嶺さんも!」
「……?どういう意味……」
「またまた!とぼけちゃってこのぉ!」
友人Aがバンバンと勢いよく背中を叩く。ってちょっとは手加減しなさいよ!
「あの、貴女のおっしゃりたいことがいまいち――」
「やぁ。柊さん」
アタシの言葉を遮り、一人の男がアタシと友人Aの間に割り込んでくる。
うわぁ……コイツって確か大学一のヤサ男とか言われているヤツだ。
「御久し振り。それはそうと……この前の返事、聞かせてくれると嬉しいんだけど?
俺と付き合ってくれるよね?」


……あー、そういえばそんなこともあったっけ。でもあれは、
「私の記憶が確かであれば、はっきりとお断りしたはずですが」
「それは本心じゃない。照れているだけなのさ、君は。恋愛に慣れていないみたいだから尚更、ね」
うっわ自己チュー爆発。なにナニ何なのコイツ!いや恋愛に慣れてないのは事実だけど。
「ですから、先日も言ったように私には――」
「そうそ!高嶺にはちゃーんとした彼氏がいるもんねー♪」

『え゛っ』

一瞬の沈黙のあと、何故かその場にいた殆どの人間の声がハモる(アタシ含む)
「ちょ、ちょっと!私にそういう男性は…!」
思わず友人Aに詰め寄ってしまうが、彼女はニタニタ笑いながら、
「まったまた〜。それじゃぁ、あそこで高嶺を待ってる人は誰なのかな〜」
「…?」
アタシを待ってる?全然心当たり無いんだけど。


「ああああああああんたアンタ!なんでここにいるのよ!」
俺の姿を確認するやいなやダッシュで駆け寄り、ボディに一発(もちろん周りに悟られないように)、
その後、周りがヒューヒューからかうなか姉貴は人通りの比較的少ない場所へと俺を連れてきた。
「いやなんでって、これ。弁当」
ぱちくり、と目を瞬かせた後、ありがたいような迷惑なような、複雑な表情をした。
はい、と言って弁当を渡す。姉貴はそれを素直に受け取った後、
ソッポを向いて近くにあったベンチへと腰を下ろす。
やれやれと思いながら、俺も姉貴の隣に座ろうとするが、
「こらイカ!あんた、全くもって気がきかないわね!」
「え、え?」
「アタシは今、飲料水を欲しているわ。なんか買ってきなさい。もちろんアンタの金でね」
「そんな横暴な!せめて金ぐらい…」
「うっさい!アンタはアタシの下僕で家畜で奴隷なのよ!?言われたことは即座に実行!さ、買いに行く!」
「…うぅ、世の中はなんて不公平なんだ…」


「ふん…巴姉さんの弁当を届けに来たのは評価に値するけど」
せめて人目につかないように来なさいよね。ったく。
あーもう。暫らくアタシが色々話しのネタにされるような予感が…
「へ、え…。彼が、君の好みのタイプなんだ」
うわさっきのキザ男!
「私とあの子はそういう関係ではありません」
きっぱりと言う。あくまで冷静に、ムキにならずに。これが一番効果的だ。と自分では思う。
「……本当に?」
「くどいです。そういう関係にはなることはありえません」
「そう、そうだよね!いやっはは、そうだよ考えれば当たり前のことだった。
君みたいな可愛い娘とあんな男とでは釣り合いが取れていない!」
「……。は?」
つりあいが、とれない……?
なんだろう。そこはかとなくムカツク…ていうか、はらわたが煮え繰り返ってくるっていうか…
「いや、いやいや何も言わなくても分かるよ僕は。
あんな見た目がチャラチャラしている格好だけの男、君に合うはずがないものな。
どうせあれなんだろう?無理矢理付きまとっているストーカー野郎なんだろう?
そうだいい機会だ、僕が君をあの男から守ってあげるよ。
ああいう輩には、世間の厳しさってやつを教えてやらなきゃ――」
………。
ぷちぷちブチ!!


「うう、遅くなってしまった」
「あははゴメンね、まさか弟君だとは思わなかったからさ」
隣には姉貴の友人が並んで歩いている。手には昼食らしきものが。
彼女は姉貴と一緒に食べるみたいだ。
あの後、ジュースを買いに行った俺は姉貴の友人に捕まって今まで
根掘り葉掘り色々聞かれてしまった。
いつから付き合いだしたのか、どれくらいの付き合いなのか、
ABCどこまで済ませたのかetc。
どうやら俺と姉貴をカップルだという勘違いをしていたらしい。
……ああだから姉貴は怒ってたのか。納得納得。
「まぁあれです。誤解が解けただけでもよかったです」
「あたしってほら、早とちりなとこがあるのよね。
君のお姉さんにも直すようにって言われているんだけどさ」
「あっはは、早とちりなんですか。たしかにそうかも」
「あ、ひどーい」
「冗談ですよ。お返しです。
………ん?」
なんか怒鳴り声が聞こえるな。
……姉貴??
「ん?どったの弟君?」
「ちょっとごめんなさい。ここで待っててもらえます?」
「んーいいけど。何の用事?」
「いえ、すぐ済みます。
それじゃ、ちょっと行ってきます。待ってて下さいね」


「―――だいたいなんで人間として下等で下劣で下品で愚者なアンタごとき
がアタシに話し掛けて良い訳妄想見るのも大概にしときなさいよねアンタご
とき男が女口説くこと自体冗談通り越して犯罪よ絶対ウラン水爆砒素原爆通
り越す大量殺戮兵器よねそもそもアンタが生きてること自体図々しいのよね
………ハァ!?アンタのことに決まってるだろうが!!いーいよぉぉく聞き
なさい!存在が犯罪といったらアンタ!ダサイと言ったらアンタ!ノロいト
ロいキショいサムいトッポいショッパいスッパいと言ったらアンタ!この綺
麗な学校を汚しているのはアンタ!この清浄さ溢れる学校を臭くしているの
はアンタ!これだけスッキリクッキリハッキリバッチリ言っときゃいくらの
馬鹿でも理解できるでしょ!?アンタはカス!アンタはクズ!アンタはドブ
ネズミ!アンタは―――」


「あー、やっぱりキレてら」
素の姉貴に戻ってるし。
「えーーーーーーっと」
姉貴に土下座で(しかも半泣きで)謝っている男に軽く黙礼を捧げる。
(頑張ってくれ。君の魂は我が英霊として生き続ける。
――可能性が無きにしもあらず)


そうして俺はその場から退散した。下手に近づこうものなら俺も巻き込まれてしまう。
そいつはごめんだぜイボンヌ。


それにしても。

「なんで姉貴、あんなにキレてたんだろ」


糸冬!!


(作者・名無しさん[2005/04/17])

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