「ふわぁ〜〜ぁ。」
まだ眠いな。
外を見るとまだ空の半分が薄暗い。
いくらなんでもこんな時間にともねえも起きて無いだろう。
今日は先に朝食の準備をして驚かしてあげよう。
顔を洗ってから台所に向かうと、何らやおいしそうな匂いがする。
台所を覗いてみると・・・
「とっ、ともねえ!」
「あは、おはよう、空也。」
もう何品か作り終えてるようだ。
さすがともねえ。
「もう、朝食の準備終わったの?」
「あぅ・・・こっ、これは違うんだ。」
「違うって・・・あ、そうか。」
そういえば一週間ぐらい前に今日は出かけるって言ってたな。
「ねーたんと出かけるんだったっけ?」
「そう。歩笑ちゃんとお出かけするんだ。これは・・・そのお弁当。」
ともねえは顔を赤らめながらも嬉しそうだ。
作り終えたらしいおかずも輝かんばかりの気合の入れようだ。
よっぽど楽しみにしていたんだな。
「でっ、でもちゃんとみんなの分の朝ごはんも作るよ。それにまだ早いし、くっ、空也は寝てていいよ。」
「じゃあ今日の家事は全部俺がやっておくから、朝食はお願いするね。」
「あぅ・・・。そっ、そういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・」
「分かってるよ。ともねえはいつも頑張りすぎなんだから、今日ぐらいは一日のんびりしておいで。」
するとともねえは一瞬表情を暗くすると
「でも、夜までには帰ってくるよ。」
最近になってまたクロウが出てき始めた。
とは言っても、ともねえが指輪を見つけた最初の夏ほどの数は出ていない。
一旦はクロウの出現が落ち着いたものの、ねぇやとねーたんが隣に越してきた年の秋口から、月に二、三匹のペースで出てき始めた。
つい二週間前にも出たばっかりだった。
その時は駆け付けたら透子さんがすでにやっつけていたが、やはりともねえは緊張を解いていない。


「ご飯が出来たら呼ぶから。」
「じゃあお言葉に甘えて・・・」
寝ましょうかね。
台所を出て部屋に戻ろうとすると、廊下の角から台所を覗く影が一つ。
ねーたんにしては覗き方が素人だ。
それにいくら仲がいいとは言っても、一応は他人の家にこんな朝早くに黙って家に入ってこないだろう。
俺が台所から出てくるのに気が付いたのか、覗いてた人影がツインテールを揺らして居間へ消えた。
人影を追って居間へ行くと・・・
「Zzzzz・・・」
二月の糞寒い早朝に居間で布団もかけないで畳に突っ伏している姉貴発見。
「姉貴、いくらなんでも無理があるよ。」
「Zzzzz・・・」
「俺は頭はよくは無いけど、そんな狸寝入りに騙されるほどじゃないよ。」
「くぅ・・・ばれてたのね。」
姉貴は鼻の頭を手で押さえながら起き上がった。
大方、居間に滑り込んで狸寝入りを決める時に、畳に鼻でも擦ったんだろう。
「何で台所を覗いてたの?」
「うるさいわねー。アンタには関係ないでしょ。」
「確かにそうだね。俺には関係ないか。じゃ俺は寝るよ。」
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
素っ気無くされたのが気に障ったのか、居間を出ようとする俺の腕をとり、引止めた。
「なんだよ姉貴。俺はもう眠いんだから離してよ。それともなんで覗いてたのか話してくれるの?」
「うぅ・・・。しょうがないわね。こんな朝早くから私と話が出来るんだからありがたく思いなさいよ!」
姉貴は遊びべたのともねえが、越してきて半年とはいえまだ土地に不慣れなねーたんと出かけるのが心配で仕方が無いという。
「・・・だから私が陰ながら見守ってあげようかと思って。けなげでしょ〜?」
「要するに、ともねえとねーたんに嫉妬してるんでしょ?」
「なっ!そんなわけ無いでしょ!せっかくアタシが話し相手になってあげてるんだから(ゲシゲシ、素直に(グリグリ、感動していればいいのよ!」
「や、やめてくれよぅ。」
その後俺は五分ぐらい蹴られ続けた。
しかし弁当の中身をチェックするだけの為に普段朝弱い姉貴が早起きしたのか。
嫉妬の力っていうのはすごいもんだな。
でもそう考えると姉貴がちょっとかわいく思える。


二度寝して目が覚めると、今度は居間からいい匂いがしてきた。
居間へ行くと俺以外の全員がそろっていた。
姉貴はあれからずっと起きていたのか、早くも疲れたような表情をしている。
「「いただきまーす」」
みんなが食べ始めたのを見ると、ともねえは早速傍らにおいてあったリュックを背負って立ち上がった。
「巴よ、もう出かけるのか?」
「うん。今日はぽ、歩笑ちゃんと出かける日だから。もう朝食は先に失礼したよ。」
「おお!そうであったな。よし、我が許す。家事はすべて空也に任せて、楽しんでくるがよい。」
「うん!」
あれ?さりげなくひどいこと言ってなかったかな?
ともねえは元気のいい返事をして今から出て行った。
「・・・ご馳走様。」
「あれ?姉貴、もう終わったの?まだ全然食べて無いじゃない?」
「うん・・・食欲が無いのよ。」
「高嶺よ、大丈夫か?」
「大丈夫よ、雛姉さん。」
「にゃ!じゃあもったいないから私がタカの分までもらっちゃうよ!」
「ダイエットなんかしても、胸は大きくはならないよ〜(・ε・)」
「っ!うるさいわねぇ。あんたらも少しは心配したらどうなの?とにかく、私は部屋に戻るわ。」
そう言うと姉貴も居間を出て行った。
「へーんなの。タカらしくないね。」
「高嶺も寂しいんでしょ?巴が歩笑ちゃんに取られたような気がしてるのよ。」
くいっ、くいっ。
ん?誰かが俺の服を引っ張っている。
振り向くと・・・
「イカ!行くわよ。」
姉貴がいた。
障子戸の隙間からみんなには見えないように俺に話しかけている。
「行ってらっしゃい。」
自然と小声になってしまう。


「ハァ?何言ってるの?アンタも行くのよ!」
「えっ?でも俺、まだ食ってるし・・・」
「いいから早く自然に居間を出なさい!海にばれたら後でアンタをメッタメタにしてやるから!」
「わっ、分かったよ。」
みんなのほうに向き直り・・・
「あっ、そうだ!俺、今日出かけなくちゃいけないんだ!」
「何を言っているの空也?今日はあなたが家事をしなくちゃいけないのよ。」
「あ〜、やっぱりだめだよねぇ・・・」
後ろから殺すと姉貴がささやいている。
「姉様!ごめんなさい!俺、やっぱり出かけなきゃ!」
「空也。おぬし、要芽の言うことが聞けぬというのか?」
「でも姉さん、前に姉様が作ったご飯、おいしかったって言ってたじゃない。また食べれるチャンスだよ。」
「うぬぬぬ、確かに、それは魅力的よな・・・。要芽、家事は皆で分担するから、料理はおぬしが作れ。」
「姉さん・・・私、今日は久しぶりの休みなんですが・・・」
「ええい、我がこう言っておるのだ!空也にもたまには休みが必要であろ?それより何より、我は要芽の手料理が食べたいのだ。」
「強引なんですね・・・姉さん。」
とか何とか言いながら、姉様はどこか嬉しそうだ。
なにやら話が纏まったらしいので、俺は反論されないうちに急いで廊下に出た。
「フフン、イカ!アンタなかなか機転が利くじゃない。」
「ああでも言わないと、開放してもらえそうに無いからね。」
「じゃ、早速行くわよ。巴姉さんなら、たった今歩笑を誘って駅のほうに行った所よ。」
「いや、俺にもそれなりに準備というものが・・・」
「そんなもの、しなくていいでしょ?財布もって無いなら交通費だけは貸してあげるわ。」
「おごってくれないのか・・・。」
「ハァ?あたりまでしょ?私といっしょに尾行できるんだから、それだけでそこらへんの男なら涙を流すわよ。早くしないと見失っちゃうわよ!」
姉貴は俺の手を引っ張って、家の外へ出た。

数メートル先を、ともねえとねーたんが仲良く並んで歩いている。
それを電柱の影から見つめる俺と姉貴。


「うわぁ、楽しそうだね。ともねえ、笑ってるよ。」
「うぅ。確かに楽しそうね。」
「あっ、ねーたんがともねえの手を取ったよ!ともねえの顔が真っ赤に!」
「むっかつくわね〜!覚えてなさいよ!巴姉さんも、歩笑も!」
うわっ、姉貴、すげぇ顔になってる、とは口が裂けても言えない。
話題を変えないと、姉貴の怒気にやられてしまう。
「とっ、ところでさ、何で俺までついて来なくちゃいけなかったの?」
「普段から利用価値の無いアンタでも、何かの役に立つかもしれないでしょ?例えば、張り込み中のパシリ、とか。」
聞かなきゃよかった。
その後ともねえとねーたんは電車に乗り、横浜まで出た。
もちろん、俺と姉貴もくっついてきた。
横浜で二人は何をするわけでもなく、観光地をめぐっったり、買い物をしたりしている。。
ともねえがねーたんに名所を詳しく教えているのだろうか?
しばらくすると、二人は公園のベンチに陣取った。
俺と姉貴は後ろの茂みに潜む。
「ここなら二人が何話しているか聞こえるわね。」
「盗み聞きするの?俺、なんかそういうの嫌だなぁ。」
「うるさいわね!このイカ!ここまでつけて来たんだから、アンタも同罪よ。」
「そんな・・・。」
「しっ、何か話してるわよ。」
耳を澄ます。
「え?巴さんもお弁当作ってきたの?」
「う、うん。ぽ、歩笑ちゃんの為に、は、早起きしたんだ。」
緊張してるのか、いつもより余計にどもってるともねえ。
「・・・うれしい。私も巴さんの為に、お弁当作ってきたんだよ。」
「あぅ・・・、う、嬉しいよ。あ、ありがとう。」
「お互いがお互いの為にお弁当作ってきたんだね。」
「う、うん。」
「私たち、やっぱり良いお友達。」
「・・・」
ともねえが『友達』という言葉に昇天している。


「何!?巴姉さんったらあの表情!私と巴姉さんなんか、姉妹だもんね!」
「そ、そうだね。」
姉貴のツインテールが怒りで天を突く形になっている。
すげぇなこのツインンテール。
自在に動かせるのか?
「わぁ!巴さんのお弁当、おいしい!」
「そ、そうかな?うまく出来てるかな?」
「うん、おいしいよ。・・・もうちょっと辛くてもいいとおもうけどね。」
「あぅ・・・。ご、ごめんね。」
「ううん。いいの。辛さ抜きでなら、120点。もちろん、100点満点でね。」
ねーたんは辛党だからな。
たいていの人の料理はね−たんには甘すぎる。
「今度はともねえがねーたんの料理に手をつけるよ。」
「歩笑の料理は辛すぎるから、巴姉さん、悲鳴でも上げそうよね。それで愛想尽かされちゃったりして。」
愛想を尽かしはしないだろうが、それ以外のところは否定できない。
俺やねぇやはねーたんの辛口の料理に慣れているが、ともねえは別だ。
ペンションでねーたんが料理を作っていたころは、マスター若葉は七味やカレーパウダーなどの香辛料は金庫に入れて鍵をかけていたぐらいだ。
ねーたんの料理は気合が入れば入るほど辛味が増す。
ともねえは耐えられるのか?
ともねえが箸をのばす。
「どう?巴さん?」
「お、おいしい!」
ん?どういうことだ?
普通なら辛いって言う反応が先に来るはずなのに?
「ちょっとイカ!どうなってるのよ?何で巴姉さんは平気なの?」
「いや、わかんないよ。しっ!何か言ってるよ。」
ねーたんがともねえの顔を覗き込むように話している。
「辛く無いでしょ?」
「うん。で、でも、どうして?ぽ、歩笑ちゃんの料理は辛くて私には無理だって、くっ、空也が言ってたけど。」
「巴さんの為に、私、がんばって香辛料ちょっとしか使わなかったんだよ。」


「歩笑ちゃん・・・。」
「巴さん・・・。」
なんか目を潤ませて見詰め合ってますよ。
「くぅぅ。やるわね歩笑。」
「でもさ、俺一つ気になるんだけど。」
「何よイカ。」
「ねーたん、いま『ちょっとしか』って言ったよね。」
「言ったわね。」
って言うことは・・・
「あっ、みてみて。ともねえの額から汗が出てきたよ。」
「あれは後から辛味が来るタイプね。フフン、やっぱり歩笑は巴姉さんのことが分かてないんだわ。」
ともねえの顔がずんずん赤くなっていく。
「あぅ・・・。今になって、かっ、辛い。」
「巴さん、はい、これ。」
ねーたんが魔法瓶を取り出して何かを注いでともねえに差し出した。
それを一気に飲み干すともねえ。
「あまい・・・。かっ、辛味が引いていくよ。」
「巴さんなら私が香辛料使うの抑えても、絶対辛いって言うかと思ってたから。くす、巴さんの事は、全部分かるんだよ。」
「ぽっ、歩笑ちゃぁん。」
うわぁ、顔が近けぇ。
ふと隣の姉貴を見ると・・・
「ったく!むかつくわねぇ!歩笑、ぜっっっっっったい許さない!」
周りの空気が黒くゆがんでる。
逆らわないようにしようと改めて思った。

その後は二人はどこに行くでもなく、ずいぶん長いことベンチで次回作のことや柊家で起こった事件などについて話し込んでいた。
確かに今日は二月にしては結構あったかい。
しかしいくら暖かくても日が傾いてきて流石に寒くなってきた。
冬は日が沈むのは早い。
気が付くとあたりはとっぷり日が暮れていた。


「くしゅん!ったく、いつまでここで話すつもりかしら、あの二人。」
「確かに、あれは周りが見えてないよね。」
いつの間にか二人の話題は好みのタイプになっていた。
その話の中で名前は出ないものの、タイプが俺であることを臭わす好みの特徴が上がっていくのがうれしかった。
その間姉貴は「調子に乗るんじゃないわよ、このイカ!」と三十秒おきぐらいに言っていた。
「・・・でもね巴さん。」
「何?歩笑ちゃん?」
「私、今言ったほかに、他にも好みのタイプがあるんだよ。これに関しては、例を挙げられるよ。」
「どっ、どんな人?」
「・・・巴さんみたいな人。」
さっ、流石ねーたん!俺には言えないことを平然と言ってのけるっ!そこにシビレ(ry
でも、これっていいのか?
八人の姉の内、二人がレズ・・・たまらねぇ。
いや、姉様もレズっ気あるから三人か?
ともねえはあまりにびっくりしたのか、固まったまま動かず、しかし顔はトマトみたいに真っ赤だ。
「なっ、何言ってるのよあの女!巴姉さんはねぇ!私の姉さんなのよ!もう見てらんない!」
「ちょ、ちょっと!姉貴!出て行っちゃダメだって。」
「うるさい!離しなさいよこのイカ!」
姉貴を必死で抑える。
しかし、当の二人はお互いを見つめあったまま動こうとしない。
「あっ、ねーたんが・・・」
目をつぶってともねえに顔を近づける。
「歩笑・・・ちゃん。」
とともねえの口がささやくように動いた。
これはズキュゥゥゥンか?
二人の顔がどんどん近づく。
その時
キンキンキンキンキン!


「モガモガ・・・ぷはぁ!イカ!よくも邪魔・・・ってどうしたの?」
今のは、クロウ!?
ともねえのほうを見ると、ともねえにももちろん聞こえたらしく、顔を上げていた。
「巴さん・・・?」
「ごっ、ごめん歩笑ちゃん、私行かなきゃ!」
立ち上がるともねえの手をねーたんが取る。
「どうしたの?巴さん?」
ともねえは一瞬困ったような顔をして
「ごっ、ごめんね。私、行かなきゃダメなんだ。」
ねーたんをぎゅっと抱きしめると、駆けて行った。
「あっ」
寂しそうにともねえを見送るねーたん。
「フ、フフン。巴姉さんも、流石にあそこまでは・・・ってイカ!アンタまでどこ行くのよ!」
「悪い!俺も行かなきゃ!」
クロウの出現場所は結構近い。
俺もともねえを追って茂みを飛び出した。

「ったく!何なのよ・・・イカも巴姉さんも。」
歩笑を見ると、うつむき加減にベンチから立ち上がった。
「フフン、いい気味!調子に乗るからそういうことに・・・」
歩笑の肩が震えている。
・・・ったく、しょうがないわね。
がさがさと茂みから出て、歩笑の前に立った。
「高嶺さん・・・。」
「どうしたのよ。アンタらしくない。ほら元気出して。帰るわよ。」
歩笑の手を取る。
「うん。ありがとう。でも、いっしょにすごしたかったらもっと早く出て来れば良かったのに。」
「なっ、アンタ、私がつけてたこと気づいてたの!?」
「くす、あんな下手な尾行、ばればれだよ。」
「くうぅ、むかつくわね。でも、やっと笑ったわね。アタシに感謝なさい。」
「ありがとう、と言っておく。」
アタシと歩笑は手を取って駅のほうへ歩いた。


ともねえの後を追うと、人気のない倉庫街にでた。
女の人がクロウに襲われているところへ、ともねえと俺が躍り出た。
「逃げてください!」
「えっ?えっ?」
「ほら、逃げないと俺があなたを襲っちゃいますよ!」
「ひ〜ぇ〜・・」
逃げんの早っえぇ〜。
「誰にも言うなよ〜っと。」
「空也!来てたのか!?」
「ちょっとね。」
狩を邪魔されたクロウが俺たちに駆け寄ってくる。
ともねえはポーズをとり、
「纏身!」
まばゆい光にともねえが包まれて、まともに見ることが出来ない。
視界が開けると
「クェェェェ・・・」
クロウが吹っ飛んでいた。
光りを目くらましとして使って、早速一発入れたのだろう。
「はっ、やっ!たぁ!」
吹っ飛んだクロウの着地点に先回りしたともねえが、すかさず連撃をいれる。
連撃を受けたが、クロウがふらふらと立ち上がろうとする。
しかし、その瞬間を待ってましたとばかりにともねえが
「ハアァァァア・・・」
力をためると、こぶしが光り、
「でやあぁぁぁぁぁあああ!」
メメタァ!
立ち上がったクロウのどてっぱらにあたり、再び吹っ飛び・・・
ドガァァァン!
あれ?俺の出番がありませんでしたよ?
纏身を解除したともねえに近づくと、小刻みに肩が震えている。



「ぐすっ、ぐすっ。」
「どうしたのともねえ?クロウに邪魔されたのが悲しかったの?」
「ちっ、違うんだ。ぐすっ。今のクロウとたっ、戦ってる時、ぐすっ、クロウの事、憎んでたっ。」
「クロウは人を殺すんだから、当たり前じゃない。」
ともねえはその場に座り込み
「違うんだ!邪魔されたせいもあるけど、い、いつもの『声』に、の、のせられちゃったんだ。」
「ともねえ・・・」
「こっ、怖くなったんだ・・・。こ、今回ほど、自分が変わったっていうのを、じ、実感したことは、ぐすっ、ないよ。」
「大丈夫だよ、ともねえは強いじゃない。ともねえは変わらないよ。」
ともねえを抱きしめてあげる。
「うえぇぇぇぇぇぇ・・・。」
「もう、今日は帰ろう。明日は一日休んでいいから。」
ともねえが落ち着くまで待ってから、俺たちは家に帰った。

家の前に着くと、ともねえが犬神家のほうを見ている。
「ねーたんに謝るの?」
「・・・うん。」
ともねえがチャイムに手を伸ばすと、後ろから
「何をしに行ったのかは知らないけど、歩笑には、ちゃんとフォロー入れておいたわよ。フン、巴姉さんは私がいないと何もできないんだから。」
「たっ、高嶺!」
「歩笑、落ち込んでたけど、怒ってはいなかったわよ。でも、明日になったら顔を出しておくといいわね。」
「あ、ありがとう・・・。」
「それに何?あのデート?ポエムチャーン、ポエムチャーンって。ぬいぐるみまで買って、馬鹿みたい。」
「あぅ・・・。こ、このぬいぐるみは・・・。」
ともねえはねーたんとの買い物の際、ぬいぐるみを買っていたのだ。
「記念なんでしょ?ポエムチャンとのデートの記念!」
「ちっ、違うよ。これは、高嶺へのたっ、誕生日プレゼント・・・。」
「えっ?」
そういえば三日後は姉貴の誕生日だ。
俺はバレンタインに気を取られて、すっかり忘れてたとは口が裂けてもいえない。


「ぽっ、歩笑ちゃんに選ぶの、てっ、手伝ってもらってたんだ。今日のお出かけは・・・」
「わっ、私のため?」
ともねえはコクリとうなずくと、ぎゅっと姉貴を抱きしめた。
「ちょっ、ちょっと!離してよ、恥ずかしいじゃない。」
そういう姉貴の声には力がこもってない。
ともねえもこれでなかなかプレイボーイ(?)だな。
「イカ!ニヤニヤ見てるんじゃないわよ!」
「へーいへい。じゃ、俺は先に家に入ってるから、雰囲気を楽しんでおいでよ、姉貴。」
何だかんだ言って、すべて丸く収まったじゃん。
後は、ともねえの纏身に関する問題だけだな。
クロウの目的も、指輪が作られた理由も未だ分からない。
玄関を開けて家に入ると・・・
「ふ、ふにゃ〜・・・」
ねぇねぇが死んでいた。
「どっ、どうしたのねぇねぇ!」
「う、うみゃが、うみゃがぁ〜。」
まさか!海お姉ちゃんが、ご飯を作ったのか!?
姉様もいるのに、そんなはずはっ!
「く〜や〜!」
お姉ちゃんが廊下の奥から走ってきた。
「これは、どっ、どういうこと?海おねえちゃん!?」
「要芽お姉ちゃんの料理に私が作った一品をまぎれさせたら、みんながぁ!」
「みんな、食べちゃったの?」
お姉ちゃんの首が縦に動いた。
なんということだ。
雛乃姉さんが一番心配だ。
早く介抱しなくては、手遅れになってしまうかもしれない。
これは今夜は眠れそうに無いな・・・。

(作者・SSD氏[2005/04/11])

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