うららかな春の日差しを浴びて、縁側でぼーっとする。
ともねえが大学の春休みで家にいて
家事を手伝ってくれるせいもあって
昼飯の後かたづけが終わると割とヒマだ。
姉様は仕事。
雛乃姉さんもねぇねぇも姉貴もお姉ちゃんも、皆出かけてる。
残っていたともねえは買い物に行ってしまって
家には俺一人。
マルすらいやしねえ。退屈なことこのうえない。
沖縄だったらこういうとき団長やイエヤスでも誘って遊びに・・・
っと、沖縄で思い出した。
隣に遊びに行こう。
ねえやかねーたんか、どっちかでもいてくれればいいんだけど。


「こんちゃー。空也でーす」
鍵は・・・かかっていない。誰か家にいるのだろう。
我が家のごとく入り込む。
まずはねーたんの部屋。
ねーたんは割とインドア派だから家にいる可能性高し。
ただし、執筆中だと邪魔はできない。
部屋の前で立ち止まり、ノックを・・・
「・・・エロイムエッサイムエロイムエッサイム我は求め訴えたり・・・」
中から、何やら声がします。ねーたんの声です。
「・・・大いなる魔界の公爵たる汝×××よ、我が呼びかけに・・・」
呪文です。黒魔術です。ねーたん、とうとう魔道に堕ちましたか。
鍵穴から中を覗き込む。
暗い。
暗い部屋の中央で、ろうそくの明かりの下
ねーたんは水晶玉に手をかざして
何事かまだつぶやいている・・・
「・・・我、柊 巴の愛を望むものなり。古の盟約により我に与えよ・・・」
・・・おいおい。
聞かなかったことにして引き返す。
ちなみに、×××の部分は、とても人間の発声器官で出せる発音ではなかったので省略。
間違って正しく発音して何か出て来ちゃったら困るし・・・


次、ねえやの部屋。遊びに出ているかもしれないが・・・
軽くノックをして呼びかける。
「ねえやー?空也だけどー」
「・・・えっ?」
バタバタバタ・・・あわただしく物音がする。
またどうせ部屋が散らかし放題で、慌てて片づけてるんだろう。今さら遅いって。
「入るよー」
ガチャリと遠慮なくドアを開ける。
「ちょ、ま、待っ・・・!」
案の定、散らかった部屋に、叫びかけたねえやの抗議の声が響く。
部屋の真ん中に肩を並べて座っている・・・二人の女性。
一人は、ねえや。もう一人は・・・ねぇねぇ。
二人とも・・・裸・・・・・・
「・・・失礼しましたぁっ!!」
バンッ!!
あわてて飛び出し、後ろ手にドアを閉める。
・・・そうなの!?なんか最近仲がいいなとは思ってたけど・・・
そんな仲だったのぉ!?


「おーい、くーやー」「空也ちゃーん?」
ねぇねぇが呼んでいる。ねえやが呼んでいる。
やけに優しげで、それでいてどこか陰にこもった声で。
「言いません言いません誰にも言いませんから!!」
「いいから入っといでよー」
「いやホント誰にも何も・・・」
たじろぐ俺の前でバン!とドアが開き
素っ裸のままのねぇねぇが薄笑いを浮かべながら現れた。
「い・い・か・ら・入・れっ!」
「いっ・・・っきゃやあああぁぁぁぁっっ!?」
ねーたんに黒魔術の贄にされるのと
ねえや・ねぇねぇコンビに蹂躙されるのと
どちらが生き残れる可能性が高かっただろうか。
ズルズルと部屋に引きずり込まれながら、俺はふとそんなことを考えていた。

部屋の真ん中に放り出され
震えながら生まれたばかりの子羊のように怯える俺の前に
ねえやがちょっと照れたような顔で立つ。
でも全裸。
「あのね、別に・・・その、変なことしてたわけじゃないのよ?」
「そうそう。ちょっと二人で計画してることがあってさ」
と、ねぇねぇ。でもやっぱり全裸。
・・・どうなるの、俺。絞りとり殺される予感。


「けけけけけけ計画てななななな何さ?」
「いやー、ちょっとね・・・アタシらセクシーアイドルユニットとして売り出そうかと思ってさ」
「・・・は?」
「で、まあお互い体見せっこして、魅力を確認してたってわけよ」
・・・はぁ。
想像したような禁断の世界はただの幻想だった。
・・・幻想じゃなかったら命取られてたかもしれないが。
しかしまた・・・こういう妙なこと考えつくのはねぇねぇだな。
ねえやも割とノリで動く人だし。
「ね、どう空也ちゃん?あたしたちなら、イケテるでしょー?」
そういうと、二人揃ってちょっとHっぽいポーズとかとったりする。
うーむ・・・見慣れた二人の体だけど
改めてこうして見せつけられると、確かにすごい迫力だ。
しかも、単純に当社比2倍。
そこらの青少年を悩殺するのなぞわけもないだろう。
だが・・・ちょっと問題もある。
「セクシーは問題ないけど、アイドルっていうには年齢的に問だあだだだだだ!?」
「何か・・・」「・・・言った?」
Wアイアンクロー。
破壊力も、当社比2倍だった。


「ギブ!何も言ってません!ギブギブ!」
必死に二人の腕をタップするが、食い込んだ指は頭から離れない。
頭蓋骨がミシミシと悲鳴を上げる。
ヤベエ、意識が・・・!
「アイドルでも、問題ないわよねー?」「まだ二人とも若いもんね?」
「アイドル、全然オッケー!だからギブ!」
すっと手が離れていく。どうやら顔の形が変わる前に助かったようだ。
「最初から、そう言えばいいのに」「素直じゃないわよね、空也ちゃんって」
しかしアレだ。
裸の美女二人にアイアンクロー決められてギブギブ言ってる俺って
絵面としちゃすげー情けねえよな・・・

「まあ、セクシーアイドルユニットとして売り出すつもりなのはよくわかりました」
「くーやも、いろいろ協力してよね」
「やっぱり、男の子の視点でアドバイスとか欲しいもんね」
「よくわかりましたし協力も惜しみませんが、とりあえず何か着てください」
「あら」「おっと」
しかし、この二人で組むとなんていうか
技の1号(ねえや)、力の2号(ねぇねぇ)みたいな感じだな。
「で、二人でどんなことメインにするの?歌?」
コントかと思ったがそれは言わないでおく。
「あ、二人じゃないんだよ」
「・・・へ?」


「一応、三人でユニット組もうと思って」
・・・三人。後、一人・・・って・・・
「はっ!?まさか・・・要芽姉様を!?」
ちょっとボケてみたり。
「いやー、要芽姉には断られちゃってさぁ」
「冷たいわよね、要芽ちゃんって」
誘ったんかい。
どう考えたって、要芽姉様がエロいステージ衣装着て
愛想を振りまきながら歌ったり踊ったりするわけがない。
想像するとちょっと楽しいが。


「でも大丈夫!もえを入れるからね」
「巴ちゃんなら、あたしたちのユニットに充分加えられるわよね」
まあ・・・あと出るとこ出てて引っ込むとこ引っ込んでるのは
ともねえか海お姉ちゃんになるわけだが
「ともねえはもうこの話聞いてるの?」
「うんにゃ、まだ。ま、もえの意志は関係ないし」
ひどい話だ。
嫌がるともねえに無理矢理派手で恥ずかし目な衣装を着せ
衆人環視のステージに立たせる。
半べそをかきながら歌い踊るともねえ・・・
いいな、それ。
・・・ハッ、つい本音が。
いかん、ここは俺がともねえをかばってあげなければ。


「ともねえは無理じゃないかなぁ・・・恥ずかしがりだし」
「えー?もうもえの分の衣装も作ってるのにー」
「衣装?」
「歩笑ちゃんに、巴ちゃんの分、って言ったら真剣になって作ってくれてるの」
・・・ねーたんも何考えてるんだか。
と、まさにそのとき
ドアをあけ、顔を少し赤らめたねーたんが部屋に入ってくる。
「姉さん、瀬芦理さん・・・巴さんの衣装、できたよ」
手には・・・・何か服らしいものを持っている。
ねえやがそれを受け取ると、広げたりひっくり返したりして吟味している。
・・・なんか・・・ビニールとか使ってるな。
「お疲れさまー。ふんふん、なかなかいい出来。さすが歩笑ちゃんねっ♪」
「あの・・・ちょっと見せてもらってもいい?」
「いいわよー。はい」
手に取ってみる。
ふむふむ・・・
伸縮性の高い布地が使われてるな。レオタードみたいな感じか。
これだと、ぴったりフィットでボディラインがくっきりだろう。
しかも、布地の部分はあまり多くない。
かなりの部分に、半透明だったり完全に透明なビニールが使われてる・・・
「ねーたん」
「なに、くーくん?」
「これ、大事なところ全然隠れないですよ?」
ていうか、穴があいてます。大事なところに。
「そこは、オプション」


「いや、ここがオプションはまずいでしょ」
「そうかな・・・でも、これを着た巴さん、すごく素敵だと思う」
ねーたんはなかなかわかってくれない。
ハッキリ言うしかないか。
「素敵っていうか激しくエロいけど、これで外に出たら逮捕されちゃうよ!」
「くーやは細かいとこ気にしすぎだにゃー」
「細かくないよ!大事なことですよ!?」
「だから、外に出るときだけオプションをつける」
考え方が逆なような気がする。
「ちなみに、これがオプションパーツ。これで外出もOK。ぶい」
・・・ビニールじゃん。透けてるじゃん。ダメじゃん。
ふと、裏地に縫い込まれた刺繍に気づく。
・・・なんか見たこともない文字(?)が。
「ねーたん、これは?」
「う・・・それは、おまじないの一種」
何故か視線をそらす。
「・・・おまじない、って、どんな?」
「秘密」
・・・さっきの、黒魔術か。
ともねえ、いろいろ絶体絶命。

ピンポーン
絶好のタイミングで犬神家に呼び鈴が鳴り響く。
部屋の外、インターフォンから、おどおどとした口調で声がする。
「あ、あの、こんにちは・・・と、隣の巴、です・・・空也、お邪魔してますか?」


しまった。
家を出るとき「お隣に遊びに行きます。よかったら、ともねえもおいでよ。空也(はぁと)」
と、置き手紙を残してきたんだった・・・
廊下に飛び出し、インターフォンに飛びつく。
「ともねえ!来ちゃダもがもむもんむぅ!」
伝えたい言葉は、背後から襲いかかってきたねぇねぇに遮られた。
「巴ちゃーん、遠慮しないで入って入ってー」
「あ、帆波さん・・・」
「空也ちゃんも、瀬芦理ちゃんも、歩笑ちゃんもいるわよー」
「じゃ、お邪魔します・・・」
ああ、ダメだよともねえ。
ここに来たら、きっとあのHな服を着せられちゃうよ。
あんな服を着たともねえを見たら・・・俺・・・
辛抱たまりませんよ?
・・・いや、そうじゃなくて。
「ん?抵抗がなくなったねくーや?」
「いや、そんなことはありませんじょ?」
パッ、とねぇねぇが手を離し、俺は自由の身に。
「・・・とめる?」
「う・・・」
「・・・とめないの?」
「うう・・・」
三人が俺を見て、ニヤリと笑い
そして・・・俺は共犯者になった。
いいじゃん!
ぶっちゃけ、俺だってホントは見たいんだよ!


「お邪魔します・・・あは、皆で何してたのかな」
無邪気に笑うともねえ。
「実はね、ぽえぽえが、もえのために服を作ったらしいんだよ」
「今それを見てたところなのよー」
「え・・・私のために・・・歩笑ちゃんが?」
「うん。がんばった」
「そ、そうなんだ・・・ありがとう、歩笑ちゃん」
嬉しそうに微笑むともねえ。
あー、もう罪悪感いっぱい。
そしてそれ以上に期待感いっぱい。
「それで・・・これがそうなのかな?」
ともねえが俺の手の中に目を留める。
「うん・・・今、くーくんに感想を聞いていたところ」
「あは、そうなんだ・・・ど、どうかな、空也・・・わたしで、似合うかな・・・?」
なんと答えるべきか。
俺としては是非着ているところを見たいが
自分からコレを着てくれるとは思えない。
無理矢理着せたら泣き出しちゃいそうですらある。
「あー・・・えー・・・ともねえ、自分で見て」
「?うん・・・じゃ、ちょっと貸して」
コスチュームを受け取ったともねえを、俺たち三人は興味津々で見つめる。
最初は、嬉しそうに
やがて、苦笑いが混じり
そして、真っ赤になって
ともねえはうつむいて、コスチュームをねーたんにそっと差し出した。


「ご、ごめん、歩笑ちゃん・・・こ、これは・・・・着られないよ」
まあ、そうだろうなぁ・・・
しかし、ねーたんは諦めない。
「どうしても・・・着てもらえない?」
目をうるうるさせてともねえを見つめている。
「あう・・・だ、だって・・・恥ずかしいよ」
「人に見られるのが恥ずかしい?」
「うん・・・」
「だったら・・・私だけにでも、見せて欲しい」
「えっ・・・」
「・・・ダメ?」
見つめ合う二人。いいのか、これ。
やがて、ともねえがまだ赤い顔で少し微笑んだ。
「ぽ・・・歩笑ちゃんにだけ、なら・・・いいよ」
おいおい。
「じゃ・・・私の部屋に行こう」
「・・・うん」
嬉しそうなねーたんに手を引かれて
まんざらでもない顔でともねえが部屋を出ていく。

部屋を出ていくとき
ねーたんが表情に出さずに
だけど、間違いなく笑っていた。

残された俺たちはただボーゼンとしていましたとさ。


その後。
ともねえは犬神家に、というか
ねーたんのところに入り浸りになっている。
二人で何をしているのかは、まだ怖くて聞けない。
ねえやとねぇねぇは、ともねえを仲間にするのは諦めたようだ。
が、セクシーアイドルユニットそのものはまだ諦めていないらしい。
「あら、空也くん。久しぶり」
「あ、透子さん。ちわっす」
「・・・ちょっと聞きたいんだけど・・・いいかしら?」
「なんすか?」
「あなたのお姉さんに、芸能界に興味ないかって言われてるんだけど・・・」
「・・・おっと、急用を思いだしちゃった。じゃ、これで!」
「あ、ちょっと!」
無理だ。そりゃ透子さんはセクシーだし、女教師ってちょっとそそるけど
アイドルは無理だと思う。いろいろな面で。
「この際、空也ちゃんを加入させるってどう?」
「おっ、女装くーやもいいかもね?」
やめて。頼むから変なこと考えるのやめて。
「女装した空也ちゃんと・・・3Pとか・・・燃えそうよね・・」
・・・女装、いいかも。


(作者・◆Rion/soCys氏[2005/04/08])

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